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古代文字(ルーン)を詠う者  作者: 綾瀬蒼


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23.王族の血と古代の呪い

1. ゼノンの覚醒と刻印の正体


ライエルが展開した「境界防御ルーン」が里を包み込み、聖刻会の侵攻が一時的に膠着状態に陥った頃、治療室で眠り続けていたゼノンがついに目を開けた。駆け寄るセレフィアとノアの顔を見て、彼は弱々しく笑みを浮かべた。

「……随分と、長く寝ちまったみたいだな」

しかし、その声はかすれ、彼の胸元からは不気味な紫色の紋様が脈打つように浮き上がっていた。治療に当たっていたエルフの長老は、沈痛な面持ちで首を振った。

「目覚めたのは奇跡だが、問題はこれからだ。若き騎士の身体には、単なる負傷ではない『古代の呪いのルーン』が刻まれている。恐らく、王城での戦いの際、公爵かヴィオラの最後の一撃に仕込まれていたのだろう」

ライエルが駆けつけ、その紋様を解析した。それは『魂の腐食ルーン』。術者の生命力を糧に増殖し、最終的には精神を乗っ取って「生ける屍」と化す、禁忌中の禁忌だった。

「この呪いは、エルフの自然魔力だけでは中和できない。古代の盟約によれば、これを解くには『王族の清浄な血』を触媒とした中和詠唱が必要だ」と長老は告げる。

「王族の血……? ここにそんなものはないわ」セレフィアが絶望に暮れる。しかし、長老の視線は真っ直ぐに彼女へと向けられていた。


2. ヴァルハイト公爵家の秘密


長老は、シルヴァニアの書庫に眠る古い系譜図を指し示した。

「ヴァルハイト家は、単なる有力貴族ではない。数百年前、王室の血筋が途絶えかけた際、密かに分家として分かれた正統な王位継承権を持つ血筋だ。セレフィア、公爵がお前をあれほどまでに厳格に育て、政略結婚に固執したのは、その血に宿る『王族の力』を政治的に利用するためだったのだ」

セレフィアは衝撃に身を震わせた。自分が忌み嫌っていた父の執着、そして自分自身の血に、世界を揺るがすような呪縛が刻まれていたのだ。

「私の血が、ゼノンを救える……?」

「それだけではない」長老は言葉を継いだ。「聖刻会がこの里を攻めあぐねているのは、お前という『鍵』が里の内部にいるからだ。彼らは、お前の血を使って境界ルーンを『内側から』崩壊させようとしている」

その言葉を裏付けるように、里の外縁部で巨大な爆発音が響いた。ヴィオラが、拡声のルーンを使って里全体に冷酷な声を響かせる。

「セレフィア・ヴァルハイト! お前の父、公爵が最後に残した『遺言』を知りたくはないか? 逃げ隠れするのはやめなさい。お前が来れば、この里の者たちの命は助けてあげるわ」


3. 王族の血による契約詠唱


「行かせない」ライエルがセレフィアの肩を掴んだ。「君を聖刻会に渡せば、世界の境界は終わる。ゼノンの呪いも、僕が別の方法を見つける」

「いいえ、ライエル君。今、ゼノンを救えるのは私だけなの。そして、父が何をしようとしていたのか、私自身の血で決着をつけなさいと言っている気がする」

セレフィアは自らの指先を短剣で傷つけ、鮮血をゼノンの胸元の紋様に垂らした。ライエルはその血を触媒に、即座に『王族の血による浄化の複合ルーン』を構築する。

「Regalis e'l Purus. Vitas e'l Libera!」

(王族の清浄なる血よ、生命を解放せよ!)

血が紋様に触れた瞬間、まばゆい光が走り、ゼノンの身体を蝕んでいた紫色の呪いが霧散していった。ゼノンの呼吸が劇的に安定し、顔に赤みが戻る。

「……恩に着るぜ、お嬢様」ゼノンは震える手でセレフィアの手を握り返した。

しかし、この浄化の詠唱は、セレフィアの持つ魔力を一時的に極限まで活性化させ、その強力な「王族の波動」を里の外にいるヴィオラたちに察知させてしまった。

「見つけたわ。やはりそこにいたのね、鍵の乙女」ヴィオラの嘲笑が近づいてくる。


4. 境界防御の決壊


聖刻会側は、セレフィアの血の波動に同調させた『共鳴破壊のルーン』を放った。ライエルが必死に維持していた境界防御ルーンが、内側からの波動に干渉され、ガラスが割れるような音を立てて崩壊していく。

「防御壁が……! 突破される!」ノアが叫び、短剣を構える。

里の広場には、空間を切り裂くようにヴィオラと、十数名の聖刻騎士団が転移してきた。ヴィオラの瞳は、血を流したまま立ち尽くすセレフィアを捉えて離さない。

「さあ、お父様の悲願を叶える時よ。お前の血で、この世界の古い壁を壊し、新世界を創るのよ」

ライエルは、目覚めたばかりのゼノン、そしてノアと共に、セレフィアの前に立ちふさがった。

「新世界なんて、誰も望んでいない。師匠の裏切りも、公爵の野望も、僕がここで全て上書きしてやる!」

ライエルは、自らの血と、エルフの自然魔力、そしてセレフィアの王族の魔力が混ざり合った、かつてない変異したルーンの輝きを感じていた。それは、破滅への序曲か、それとも希望の光か。

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