22.師の裏切りと境界防御ルーン
1. 師の痕跡とルーンの起源
エルフの隠れ里シルヴァニアに滞在中、ゼノンの治療は順調に進んでいたが、ライエルは里の長老から告げられた師の裏切りという事実に、心を乱されていた。彼の師は、学院でライエルに古代文字を教え、彼の一族の知識を継承させた、最も信頼する人物だった。
ライエルは、長老の許可を得て、エルフ族が代々守ってきた「古代書庫」に籠もった。書庫には、エルフ族が自然との調和の中で編み出した『世界の境界ルーン』に関する膨大な資料が収められていた。
「世界の境界ルーンは、人間界と、その外にある『異界』との境界を維持するための、世界の基盤となるルーンだ」ライエルは資料を読み進める。聖刻会がこれを破壊すれば、異界の存在が人間界に流入し、世界は混沌に陥る。
ライエルは、資料の中に、彼自身の師のルーンの痕跡を見つけた。それは、世界の境界ルーンの『不安定化』と『改竄の準備』に関する、複雑な注釈だった。
「やはり、師は聖刻会に協力していた…だが、なぜ?」ライエルは、師の詠唱の癖や法則から、彼の意図を読み取ろうとした。師のルーンは、『人類の進化』という、一見高尚な目的のために境界を改竄しようとしていることを示唆していた。
その時、書庫にフィリアが飛び込んできた。「ライエル!大変だ!結界が破られた!聖刻会が、総力をもって里を襲撃してきた!」
長老の予測通り、聖刻会は里が持つ「境界ルーン」の知識を奪うため、総攻撃を開始したのだ。
2. 総攻撃と防衛ラインの崩壊
里を囲むエルフ族の結界は、聖刻会の複数の幹部が連携した複合ルーンによって、あっけなく破壊された。里には、アトラス幹部が転移させられたヴァルナから、さらに多くの聖刻騎士団と、見たことのない強力な魔導師たちが押し寄せてきた。
「セレフィア!ノア!ゼノンを頼む!僕が前に出る!」ライエルは書庫から飛び出した。
里の戦士たちは、弓と自然魔法で勇敢に抵抗するが、聖刻騎士団が持つ「魔力吸収の鎧」と、魔導師たちが放つ強力なルーンの前に、防衛ラインは次々と崩壊していく。
「里の木々が、燃やされている!自然のルーンが、彼らに打ち消されているわ!」セレフィアが光魔法を放ちながら叫ぶ。
ライエルは、里の壊滅的な状況を目の当たりにし、時間が無いことを悟った。彼は、エルフ族が最も重要視する、世界の境界ルーンが保管されている場所へ、聖刻会が直行しているのを見た。
「あの場所を死守しなければならない。境界ルーンが奪われれば、世界が終わる!」
3. 即席の境界防御ルーン
ライエルは、聖刻騎士団の波状攻撃を躱しながら、里の中心にある境界ルーン保管庫の周囲の地面に、急いで複合ルーンを刻み始めた。
彼は、書庫で得た『世界の境界ルーン』の原理と、サガから学んだ『多重防御ルーン』、そしてエルフ族と共に編み出した『自然の奔流のルーン』を組み合わせた、即席の複合防御ルーンを編み出すことを試みた。
「境界ルーンの法則を反転させ、『この空間の外への侵入を許さない』という、絶対的な防御を構築する!」
ライエルの詠唱は、極めて難解で、一歩間違えれば、里全体が異界に引き込まれるほどの危険を伴った。
「Mundi e'l Siel. Vitae e'l Contra!」
(世界よ、秘密となれ。生命よ、反抗せよ!)
ライエルの全身から、緑と青の光が溢れ出し、保管庫を中心に、里全体を覆い始める。それは、自然の魔力と古代文字の知識が融合した、強固な「境界防御ルーン」だった。
聖刻騎士団の先頭集団が、その防御ルーンに触れた瞬間、彼らの魔力と動きが急激に減衰し、まるで別の次元に阻まれているかのように、一歩も前に進めなくなった。
4. 師への決意とノアの能力
聖刻会の総攻撃を一時的に食い止めたライエルは、保管庫の結界の安全を確認し、意識を里の状況に戻した。ゼノンは治療室で安否が不明のまま。セレフィアとノアは、負傷したエルフの戦士たちの手当てに追われていた。
ノアは、混乱する里の中で、グラントから教わった「簡易変性ルーン」を使い、聖刻騎士団の誤情報を流すことで、彼らの連携を乱すという、裏社会のスキルを存分に発揮していた。グラント自身もまた、贖罪のため、里の防御に協力していた。
ライエルは、防御ルーンを維持しつつ、エルフ族の長老とフィリアに深々と頭を下げた。
「この里を守り抜きます。そして、僕の師が関わっているという、世界の境界を改竄する計画を、必ず阻止します!」
ライエルは、師への信頼と決別という、個人的な感情を乗り越え、ルーンの継承者として、世界の危機に立ち向かう決意を固めた。
聖刻会は、境界防御ルーンを破るため、新たな強力な幹部を投入してくることは確実だった。ライエルにとって、このエルフの里での戦いは、ルーンの起源と師の真意を知るための、最後の試練となる。




