13.ギルドの残滓と裏切り者の刻印
1. ヴァルナの地下、再び
ライエルたちは魔導鉱山の崩壊を聖刻会の自爆に見せかけるため、目立たないようにヴァルナへと戻った。リディは負傷しながらも、命がけで得た情報(製造工場の場所)が無駄にならなかったことに安堵していた。
しかし、彼らの心には、ギルドを襲撃させた裏切り者への疑念が残っていた。
「リディ、君を嵌めた裏切り者は、誰なんだ?」ゼノンが焦燥感から尋ねる。
リディは顔を曇らせた。「分からない。私は信頼できる者にしか、聖刻会との接触を話していなかった。ただ、裏切り者は私と同じように『影の舌』の内部構造を知っていたはずだ」
ライエルは、ギルドを襲撃した際の痕跡から、裏切り者の手掛かりを探すことを提案した。彼は、リディを安全な場所に隠し、セレフィアとゼノンと共に、再び『影の舌』の地下へと潜入した。
地下の倉庫は、激しい戦闘の痕跡と、ヴィオラが刻んだ「収奪のルーン」の残滓が残る、荒廃した状態だった。
「ヴィオラの収奪ルーンは、僕らを誘い出すための罠だった。だが、この罠を仕掛けるには、事前にギルド内部の魔力経路を知っておく必要があった」ライエルは冷静に分析した。
2. 裏切り者のルーン痕跡
ライエルは、ギルドの壁や床に目を凝らした。彼の古代文字を詠う力は、通常の魔導師が見過ごす、微細な魔力の痕跡を読み取ることができた。
「ここだ…!」
ライエルは、ギルドの最深部の通路の隅で、かすかに残るルーンの痕跡を発見した。それは、聖刻会のものとも、ライエルの一族のものとも違う、「独自の改竄」が加えられたルーンだった。
「これは、『通信と監視』の複合ルーン。だが、その結界の一部が、ギルドの給水管の魔力経路と不自然に繋がっている…」
セレフィアが驚きに声を上げた。「給水管!?そんなところにルーンを刻むなんて、普通の術師は考えないわ!」
ライエルは頷いた。「そうだ。だが、この改竄を施した人物は、ギルドの地下の構造、特に魔導炉と給水システムがどこで交差するかを熟知していた。そして、このルーンの改竄は、素早く、痕跡を残さないためのものだ」
ライエルは、痕跡から詠唱されたルーンの法則的な特徴(癖)を読み解いた。そのルーンは、「情報の偽装」と「物質の変性」を得意とする、非常に珍しいルーンの系統だった。
3. 裏切り者の正体:情報屋のマスター
ライエルは、急いでリディの隠れ場所に戻り、解析したルーンの情報を彼女に伝えた。
「リディ。このルーンの系統は、情報の偽装と物質の変性を得意とする。そして、ギルドの給水経路に精通していた人物。心当たりはないか?」
リディの顔が、恐怖に青ざめた。
「そんなルーンを使えるのは…そして、ギルドの給水経路を知っているのは、ただ一人よ…」
リディが口にしたのは、ギルドの創設者であり、情報ギルドのマスターとして裏社会に君臨していた人物の名前だった。
「マスター・グラント。彼が、裏切り者だ」
グラントは、裏社会の権威であり、誰もが尊敬していた人物。しかし、彼はその情報を操作する力を利用し、聖刻会に協力することで、古代文字の取引を行い、己の勢力拡大を図っていたのだ。
「グラントは、私たちに聖刻会の情報を与えるフリをして、ライエル君、あなたをヴァルナに留めるための囮として利用したのよ。そして、あなたから得た複合ルーンの情報を、聖刻会に売った!」
リディは、グラントが「王都の貧民街にある廃教会」で、聖刻会との秘密の取引を定期的に行っているという、最後の情報をライエルに託した。
4. 王都へ:新たなターゲット
裏切り者の正体と、その取引場所が判明した今、ライエルたちの目標は明確になった。
「聖刻会は、王都で『天穹の瞳』を起動させ、同時にグラントから古代文字の情報を得ようとしている。二つの脅威を、同時に阻止しなければならない」ライエルは拳を握りしめた。
ゼノンが剣を叩きつける。「裏切り者を叩く。奴らが古代文字を悪用するのを、絶対に阻止する!」
セレフィアは不安を押し殺し、決意の表情を見せた。「王都は、私の故郷よ。貴族街もあれば、貧民街もある。私たちなら、王都の地下深くに入り込めるはずだわ」
ライエルは、リディをヴァルナの信頼できる仲間に預け、再び旅路につく準備を始めた。リディが命がけで得た情報と、ライエルが新たに習得した複合ルーンの力。彼らは、王都で聖刻会の核心、そして裏切り者グラントとの対決に挑む。
そして、王都に向かう彼らの心には、魔導鉱山の崩壊で聖刻会の手に落ちた可能性が高い「王国の要人」のことが重くのしかかっていた。




