11.幹部の依頼と魔導鉱山の罠
1. リディが受けた秘密の依頼
ライエルたちは、聖刻会の追跡を避け、ヴァルナ郊外の廃墟に身を隠していた。意識を取り戻したリディは、憔悴しながらも、聖刻会の幹部から受けていた「秘密の依頼」について話し始めた。
「彼らは、私に『魔導鉱山の最深部にある、古の採掘路の封印を解除しろ』と依頼してきたの。表向きは珍しい鉱石の採掘のためだと」
ライエルは即座にルーンの法則から意図を読み取った。
「その採掘路は、ただの通路ではない。『裏切りのルーン』の製造には、高純度の魔力を安定供給できる場所が必要だ。その古の採掘路こそが、製造工場の核になっている。そして、その封印は、おそらく古代文字で施された防御ルーンだ」
聖刻会は、ライエルの一族の知識を持たないため、裏社会の情報屋であるリディに、ルーンの知識を持つ者にしか破れない封印を解除させようとしたのだ。
「リディ、君はその封印を解除しなかったんだな?」セレフィアが尋ねた。
「ええ。あまりにも複雑な封印で、解読に時間がかかっていたから。それが、彼らが私を裏切り者と疑い、罠にかけた原因よ」リディは悔しそうに言った。
ライエルはリディの知恵と、未だ破られていない封印を利用することを決めた。
「聖刻会の幹部は、その封印を破る前に僕らを排除しようとした。だが、その封印こそが、僕らが製造工場を叩くための唯一の入口になる」
2. 魔導鉱山への潜入
魔導鉱山は、ヴァルナから東へ向かう山岳地帯に位置していた。鉱山全体が強力な魔力を発しており、通常の魔導師では近づくことすら難しい場所だ。
三人はリディから得た情報を元に、鉱山の警備が手薄な裏ルートから潜入を試みた。警備にあたっているのは、聖刻騎士団ではなく、魔力を帯びたゴーレムだった。
「ゴーレムの動力源は、『定常運転のルーン』だ。複合ルーンで一時的にその出力を落とせるが、長時間持つわけじゃない」ライエルがゴーレムを避けながら指示を出す。
ゼノンはゴーレムの動きが鈍った隙を突き、ゴーレムの核となっているルーンの刻印を、騎士剣で正確に破壊する。セレフィアは光魔法で周囲を撹乱し、ライエルがルーンを刻む時間を稼いだ。
やがて彼らは、リディが解除を依頼されていた、古の採掘路の入口に辿り着いた。そこは、岩壁にびっしりと古代文字が刻まれた、強固な封印で守られていた。
3. ライエルと封印ルーンの対話
「これが、奴らが破れなかった封印…」ライエルは手を封印のルーンに当てた。
それは、『多重防御』と『時間凍結』を組み合わせた複合ルーンだった。この二つのルーンを同時に解除しなければ、封印を破った瞬間に、外部から侵入者を押しつぶす逆位相の防御ルーンが起動する。
「リディ、この封印を破るための資料は?」
「私が持っていたのは、防御ルーンを解除する偽の情報。奴らは、私を巻き込んで、この封印を力尽くで破るつもりだったのよ」
ライエルは、冷静にルーンを解析し始めた。多重防御ルーンの位相を崩しつつ、時間凍結ルーンの解除を一瞬だけ遅らせるという、非常に繊細な操作が必要だった。
「僕が複合ルーンで、『位相逆転のルーン』を詠唱する。これで防御ルーンの位相を崩し、その瞬間にゼノン、君が剣で時間凍結のルーンを刻み込め!僕の詠唱は、一瞬だけしか持たない!」
「分かった!絶対に成功させる!」ゼノンは剣を握りしめ、ライエルの詠唱のタイミングを待つ。
ライエルは、複合ルーンを詠唱した。
「Verso e'l Chaos! Noa e'l Siel.」
(位相よ、混沌へ!秘密の扉よ)
青い光が岩壁を包み、多重防御ルーンが崩壊する。その隙を見逃さず、ゼノンは騎士剣を高速で振るい、正確に時間凍結のルーンを破壊した。
封印は静かに解除され、採掘路の入口が開かれた。
4. 裏切りのルーン製造工場
採掘路の奥深くは、溶岩の熱と、巨大な魔導炉の轟音に満ちていた。そこが、聖刻会が作り上げた「裏切りのルーン」の製造工場だった。
部屋の中央では、巨大な魔導炉が稼働し、その周辺には、リディの顔に刻まれていたものと同じ裏切りのルーンの刻印が施された金属製の首輪が大量に製造されていた。
そして、製造炉の傍らには、一人の老年の魔導師が立っていた。彼は、かつて学院でルーンの研究者として名を馳せた人物であり、聖刻会の幹部の一人、アルディス教授だった。
「やはり、君たちが来たか、ライエル・アークレイ。そして、リディ。私の計画を邪魔した罰は、重いぞ」アルディス教授は、ライエルたちが目指していた山間の村を背景にした幻影を空中に映し出した。
「君たちがここにいる間に、あの村は、この裏切りの首輪をつけた聖刻騎士たちによって制圧される。そして、君たちが守ろうとした王国の要人も、私の手に落ちる。君たちの努力は、すべて裏切られるのだ」
アルディス教授は、ライエルたちを嘲笑った。ライエルたちは、製造工場を破壊するか、それとも村へ引き返すか、究極の選択を迫られることとなった。




