10.複合ルーンの限界とリディの秘密情報
1. 絶望的な状況
ライエルたちは、聖刻会の女性魔導師、ヴィオラと名乗る者と対峙していた。彼女が足元に刻んだ複合ルーンによって、倉庫全体の魔力がヴィオラに集中し、ライエルたちの魔力は吸い尽くされようとしていた。リディは既に意識を失い、人質同然だ。
「無駄よ、古代文字の詠唱者。この『収奪の複合ルーン』の前では、あなたたちの力は私の養分となる!」ヴィオラは冷酷に言い放つ。
ゼノンは自らの体力が奪われていくのを感じながらも、ヴィオラに向かって突進した。「騎士道は、魔力に屈しねぇ!」
しかし、ヴィオラが軽く手を振ると、倉庫の壁に刻まれたルーンが反応し、ゼノンの動きを鈍らせる。その隙に、聖刻騎士団がゼノンを取り囲んだ。
セレフィアも魔力を絞り出し、光魔法でライエルを守るのが精一杯だ。「ライエル君、早くこのルーンをどうにかして!」
ライエルは苦痛に顔を歪ませた。「くそっ…収奪のルーンは、僕の詠唱を邪魔している!このままでは、僕の魂の詠唱すら、ヴィオラに奪われる!」
2. ライエルの決断:「解放の複合ルーン」
ライエルは、絶望的な状況下で、サガとの修行を思い出していた。複合ルーンは、複数の法則を組み合わせることで、新たな法則を生み出す。収奪のルーンが「奪う」法則なら、それを打ち消す「解放」の法則を詠えばいい。
ライエルは、体内でわずかに残る魔力を、すべて自身の右手に集中させた。
「セレフィア!ゼノン!僕が詠唱するルーンに、残りの魔力をすべて注ぎ込んでくれ!これは、賭けだ!」
ライエルは、自らに刻まれた裏切りのルーンの痛みを利用し、その逆の法則を複合させた新たなルーンを、心の中で組み上げる。それは、「収奪」と「守護」を組み合わせた、「解放の複合ルーン」だった。
「Liber e'l Anima. Vitas e'l Contra!」
(魂を解放せよ。生命よ、反抗せよ!)
ライエルの右手が、床の収奪ルーンの核に触れる。詠唱と共に、青白い光が倉庫全体に拡散した。その光は、ヴィオラに集中していた魔力を一瞬で中和し、ライエルたちの魔力経路を解放した。
「馬鹿な!私の複合ルーンが打ち消された!?」ヴィオラは驚愕し、たたらを踏む。
3. 激闘とリディの救出
魔力の鎖から解放されたゼノンは、怒りの闘気を爆発させた。「これで終わりだ、聖刻会のクズ!」
ゼノンは残る聖刻騎士たちを瞬時に打ち払い、セレフィアは魔力回復した光魔法でヴィオラを援護する。
ライエルは、魔力を解放したばかりで消耗していたが、ヴィオラが再び複合ルーンを詠唱するのを阻止するため、床に「詠唱妨害のルーン」を刻み込んだ。
ヴィオラはライエルに狙いを定め、強力な魔導を放つ。しかし、ライエルの詠唱妨害ルーンが起動し、ヴィオラの魔法は不完全なまま霧散した。
「くそっ、この小賢しい!だが、この女は渡さない!」ヴィオラは意識を失ったリディを掴んだ。
「させない!」セレフィアが光の剣を作り出し、リディとヴィオラを引き離す。
その隙に、ライエルはリディに駆け寄り、彼女に刻まれた裏切りのルーンを浄化する古代文字を速やかに詠唱した。リディの顔から、黒い紋様が消え、彼女はうっすらと目を開けた。
「ライエル…君は…」
ヴィオラは、状況の不利を悟り、撤退を決意した。彼女は地面に転移のルーンを刻み、聖刻騎士団の残党と共にその場から消えた。しかし、彼女は「天穹の瞳の鍵」を奪うという任務は達成していた。
4. リディの核心情報
ヴィオラの撤退後、ライエルはリディを抱き起こした。
「ありがとう、ライエル…本当に、助けてくれるとは…」リディは泣きそうな顔で、ライエルに感謝した。
「君の命がけの警告のおかげで助かった。聖刻会が次に狙う『裏切りのルーンの製造工場』の場所を教えてくれ。そして、『鍵』はどこへ運ばれた?」
リディは痛みに耐えながら、重要な情報を口にした。
「鍵は、聖刻会の王都にある秘密支部へ運ばれた。彼らは王都で『天穹の瞳』を起動させ、全大陸の監視を始めるつもりよ…そして、『裏切りのルーン』の製造工場は、このヴァルナから東へ三日、古代の魔導鉱山にある」
リディは、さらに核心的な情報を提供した。
「製造工場には、聖刻会の『幹部』の一人が直接指揮を執っている。その幹部は、かつて学院でルーンの権威と呼ばれていた人物だ。そして、私はその幹部から、ある『依頼』を受けていた…」
リディは、彼女自身が聖刻会の陰謀と深く関わっていた、衝撃的な事実をライエルたちに告げた。彼女が知るその秘密こそが、聖刻会の次の行動を予測し、阻止するための決定的な鍵となる。




