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第5話 隠れ里との交渉②



 ほどなくして、森の中に頑丈な石垣が現れた。見上げるほどの高さがあり、ぐるりと里を囲んでいる。石垣の中に埋め込まれた分厚い鉄門扉があり、見張り番が立っていた。見張りの者たちも、それぞれ絵柄の異なった木の面を着けている。


 物々しい雰囲気の里である。


 先導の男が指示を出すと、重々しい音を立てて鉄門扉が開いた。通り過ぎようとする蒼月たち一行をじろりと目で追ってくる。全員が通ると、すぐさま門はガシャンと大きな音を立てて閉められた。


「ひえっ」


 ごく小さい声で悠遊が情けない悲鳴を上げている。内心では緊張感が高まっていた蒼月だが、悠遊の声でフッと肩の力が抜けた。


 行きついた先は、里の最奥に建つ石造りの館だった。中に入ると、里の長が植物で編んだ敷物の上にどっしりと座っていた。里長の顔には面はない。堀の深い顔立ちに、色黒の肌、髪は燃えるように赤く肩までなびくほどの長さ。蒼月の二倍はあろうかという肩幅に、がっちりとした筋肉が付いている。里長というよりは、どこかの軍隊の将といった風情である。


「お初にお目にかかります。尚書省兵部の副官、蒼月でございます」


 蒼月は丁寧に名乗りを上げたが、里長は名乗りもせず蒼月を見下した。


「この頃の兵部は女人に副官をさせているのか?この里もずいぶんとなめられたものだなぁ?見ての通りこの里は武を持って尊しとしている。女は引っ込んでおれ!」


 野太い声で拒絶されても、蒼月は恐れもせず、しれっと言い返した。


「これは異なことを申される。この蒼月は女人にはございませぬが、たとえ女人だとしても、それが里をなめていることにはなりますまい。女には女の闘いがございましょう。この里でも、女人がたたらを踏んでいると聞き及んでおりましたが…。その方々にもひっこんでおれと仰いますか」


 すると、部屋の外から「そうだよ!女を馬鹿にすんな!」とやじる女性の声が飛んできた。里長はギクッと首をすくめて、声の方を見た。


「あ、いや、里の女衆は別だ!蒼月と言ったか。ふむ…女人のような面をして、豪気なものだ。よかろう、話を聞こう」


 蒼月はスッと頭を下げた。


「ありがとうございます。この頃、隣国の動きがどうにも怪しいのです」

「確かにきなくせぇな。ここのところ東雲国内での勢力争いが激化し、外に攻め込む余力などなかったのだが、どうやら鉄鉱山を手中に収め覇者となろうと企んでいる者がいるようだ」

「ご存知とあらば話は早い」


 蒼月が視線をやると、悠遊が里長の前に荷を置いた。


「こちらは手付として、金貨一万枚です。刀、槍をそれぞれ千、鏃を二千、用意していただきたい。成功報酬として金貨3万枚、その他に契約が整えば、塩、香辛料を十袋、酒を十樽すぐさま搬入する準備が整っております」

「ほう?ずいぶんと大盤振る舞いだな」


 里側の期待は上回ることができたようで、ひとまず感触は良い。


「よかろう。ただし、条件がある。その条件を達成しなければ、取引には応じない」

「条件とは何でしょう」


 里長はニヤリと笑って蒼月を見た。


「俺の指定する者とお主が一騎打ちを行い、みごとその者に勝利できたら取引に応じようじゃないか」

「一騎打ちとは、武器を用いた決闘ということで間違いありませんか」

「そうだ。武器は得意な得物を使うがよい」


 すでに勝負が付いて勝ち誇ったような顔をしている里長に、蒼月は無表情のまま淡々と頷いた。


「よいでしょう。私が一騎打ちに勝った暁には、先ほどの内容で取引をお願いします」

「決まったな。おい、聞いていたか?勝負の用意をしろ!」


 中庭で銅鑼が大きく叩かれると、里の者たちがたくさん集まって来た。蒼月たち一行は、人の多さに目を丸くした。武装した屈強な男たちに交じって、たすき掛けにした女たちも見受けられる。女たちは皆たくましく笑い、生き生きとしており、王都の女たちとは様子が違って見えた。

 蒼月の相手は、ライと呼ばれる小柄な男で、里の外で矢を射かけて来た男だった。顔には例の面が着けられている。目の形にくり抜かれた穴から、ギラギラとした茶色い瞳が蒼月を見ている。

 平然と刀を構える蒼月に、ライは苛ついた。


(澄ました顔をしやがって!)


 実のところライは里の中でも有数の腕利きである。小柄故に馬鹿にされがちだが、馬鹿にした者たちには必ず痛い目を見せることを徹底してきた負けず嫌いの男であった。


「死にたくなければ、今のうちに降参しろ!」

「引くわけにはいかない」


 蒼月が淡々と返すと、ライは舌打ちをして、手に持った小槍をブンと振り回した。


「ならば死ね!」



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