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Episode.03

「えっと、丁寧にありがとうございます。帆伽咲凪ほとぎさなです」


律儀に一度席を立ち礼をする女の子は対面の席に座るよう私たちを促した。

「私もお借りしているだけのお部屋ですけれど」

「ありがとうございます」

席に座ると私は覚紅に帆伽咲凪の相手を任せて、ハルさんから受け取ったデータをI端末アイたんまつで開いた。

「初めまして、あたしは調覚紅しらべさくです。早速ですが、お話を伺ってもよろしいですか?」


帆伽咲凪 ほとぎ さな

・享年は23と思われる。

・××医学部付属病院の研修医であった。


「ごめんなさい、本当にここ最近の記憶が無くて」

「それは隣のメイさんが何とかしてくれるので覚えてる範囲でいいんです」


帆伽咲凪の情報を流し読みしながら、二人の会話に耳を傾ける。帆伽さんが研修医であるというのは縁物よすがものから得た情報らしい。白衣がその縁物よすがものである。また忘れてしまわないように白衣を手放さないという記載がある。


「貴方が覚えている最後の記憶はなんですか?」

「えぇっと、大学の友人と食事に行ったときです。どこに就職したとか、どこで研修してるとか、そんな話をしたと思います」


帆伽さんの最後の記憶は死んだ日からぴったり半年前らしく、欠如している記憶は半年分。現れる縁物はだいたい9つ。既に一つ発見されているので残りは8つ。


「職場になにか問題はあり_」

「まだ、ちょーっと早い話題かな。にゃんちゃん」

サッと青ざめる帆伽咲凪が見えると覚紅を後ろからぎゅっと抱きしめて手で口を塞いでやる。覚紅は不満そうにこちらを睨んでいた。

「これは僕からの質問ね。帆伽さんは死因を思い出したいと思ってる?」

無視して会話を始めれば、さらに眼光は鋭くなりその目が文句を語っている。青ざめたまま、困惑したように狼狽える帆伽さんはそれさえ気を配る余裕はないらしく、ただ一言

「わか、りません」

と吃りながら答えた。




「はい、お疲れさま」

休憩室で肩を落とす覚紅にカフェラテを差し出せば、おずおずと手に取った。しょんぼりする覚紅にまだまだ子どもだな、と思う。もちろんこれから成長する予定もないのだが。

「考えてみればデリカシー無かったです」

「まぁ、死因聞いてる時点でデリカシーも何も無いけどね」

この仕事にデリカシーを求めたら終わりだ。ズケズケと質問して、本人さえ分からない本人の情報を詳らかにする。どこが地雷源かなんて本人含めて誰も分からない暗闇を歩む。

勿論、最低限のラインは守るべきだが、その線の縁で、線を超えないように、線の向こうにあるものを掻き集める仕事なのだから。

「でも、「踏み越えてしまわないように善処しなければならない、んですよね」

過去に苦手な食べ物を聞いた途端に半狂乱になったという事例も存在する。何が地雷源かなんて本当に分からないものだ。見ず知らずの他人に自分の話を隅から隅まで話すならばやはりそのリスクは付き纏う。

「すみません、力不足で」

「大丈夫、できるところからやっていこう?覚紅は探しものは得意でしょ?」

縁物えにしもの

失われた記憶の結晶その人に関わりの深い物の形をしている。その人の私物であるとは限らない。

「さぁて、気を取り直して探し物をしてらっしゃい」

メイさんも来てくださいよ」

いつもよりしおらしい覚紅の目線は、働けというわけではなく不安だと訴えていた。

「…まあ、たまには働くか」

まだ16の不安に潰されそうな子どもを放り出すほど性根は腐っていない。この子は輪廻を巡るまで庇護対象なのだから。私がこの街の外れにある川のほとりで覚紅を拾ったときからずっと。

「じゃあ、とりあえず孔雀草病院に行ってみようか」

I端末を開けばダウンロードされた帆伽咲凪の情報。病院関係者と言うならば失せ物はその付近だろうと当たりをつけて。

帆伽咲凪には制限が設けられてはいるが連絡は取ることができるW端末フーたんまつを渡した。私のI端末に連絡できるよう設定しておいたので何かあれば連絡をくれるだろう。


「結局あの病院利用者ってなんなんですか?」

「それこそ死後記憶欠乏症に罹った人がカウンセリングに来るよ。あとは消滅間際の死人しびとが生前のように寝ていたりもする」

「私には縁遠いです」

「にゃんちゃんがお世話になるのは警察ね」

「そっちもよくわかってないんですよね」

「また今度ね」

何処にあるかも分からない縁物えにしものを探す為に移動は徒歩だ。なるべく歩きたくは無いのだけれど、お仕事はお仕事なので辺りを見渡しながら足を動かす。人々が私を変人扱いしているのは知っているし、その結果視線を集めるのも分かっている。が、今の覚紅には重く受け止めてしまうものであることに変わりない。せめて今日だけでも放っておいて欲しいのだ。

縁日通りを進みながら、めぼしいものを探す。覚紅は道行く犬猫に聞いている。さながらアニメの中のお姫様だ。

「こういうのは猫の直感を信じるのが、いちばんなんです」

「何度も聞いてるよ、だから君は探偵見習いなんだ」



調 覚紅

享年16。死因は___。現在、探偵見習いとして_の元で働いている。_______。

動物に懐かれやすいという体質を生前から持っており、リコリスに来てから動物と意思疎通が可能となった。

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