巧妙な嘘に笑う者
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「ヤイチ、カウンターシュートかと思ったら不発で、パスみたいになったけど狙ったのかい?」
「狙ったつもりだったんだけどねぇ。本調子じゃないせいか、変なボールになっちゃったんだ。あれで1点のつもりが悔しい結果だよ〜!」
日本のバスへ向かう途中の通路で、ドイツの記者による取材を弥一は受けていた。
ドイツでも代名詞となるカウンターシュートは知れ渡り、それらしきプレーをデンマーク戦で見せた事で、記者は狙いについて問う。
「(まぁ、全部ウソだけど)」
体調が万全ではなく、中途半端なキックになってしまったと自分の不調をアピールするかのように語っていた。
本当は狙って光明の頭を狙い、ダイレクトで出した事は言わずに弥一の心の中へ事実を隠す。
「(言われてみれば、最近あれでのゴールは無いよな)」
「(イタリアとの決勝戦で見たっきりになってしまったから、カウンターシュートに関してはスランプになったか?)」
本当であるかのように話す彼の姿は、皆が不調なんだと信じている。
それが弥一の芝居であると気づかないまま──。
「相手GKが素晴らしかったとはいえ、ああいうシーンは決めなければならない」
専用の練習グラウンドに日本代表の選手達が集まると、今日の練習が開始される前に康友から皆へ、デンマーク戦について話す。
「日本の方が技術は上で、勝ってもおかしくない相手だった。得点出来る時はしておかないと、オリンピックの本戦どころかアジア予選の戦いも厳しいものとなる」
康友の言葉だけが聞こえ、他の者達は何も言わずに監督の話を聞く。
「(確かにあの時、大事にトラップではなく強引にでも左足のボレーで狙う方が良かったか……)」
「(もっと上がるべきやったかもなぁ……相手のカウンターに警戒強くし過ぎやった……)」
弥一には照皇、想真といった選手達の心の声が聞こえ、もっと攻撃でやれただろうというのが多い。
「(次はぜってぇ決めて勝ってやる……!!)」
その中でも1番大きな声がしたのは、普段から声量のある勝也で、勝利が出来ずに引き分けで終わった試合を誰よりも悔やんでいる。
親善試合だろうが勝つと、熱く煮え滾る兄貴分の心を弥一は聞いていた。
「次のドイツ戦は得点が必要だ。攻撃陣を中心に練習を行う」
「「はい!」」
選手達は練習へ入り、2戦目に向けて動き出す。
「ドイツといえばスレイダーだけど、流石にオーバーエイジがまだ無いからいないみたいだねー」
軽めの練習で調整の弥一は、大門に軽くボールを蹴ってキャッチの練習を手伝う。
そこで会話を交わす事は立見時代からやっていて、慣れたものだ。
「英雄の存在は大きいけど、他の若手選手達でも凄いのが居る。デンマークと同じぐらい全体的にフィジカルが強いからね」
「やっぱ皆強いんだなぁ。グレンとか向こうの当たりが相当堪えたみたいで「あまりドイツの連中とはやりたくない」って愚痴こぼしてたよー」
現在ドイツでプレーする大門だけでなく、ミランで様々な国の選手達と戦う事の多い弥一も、向こうのフィジカルが優れてる事は把握していた。
「今度のドイツはサイドが厄介だと思う。左SHのソニーザ、左SDFのクレイラと、両サイドにスピードだけじゃなくパワーも兼ね備えた選手達だ」
「あー、確か明の友達だっけかぁ。留学時代に仲良くなったって」
明からもドイツの事は聞いていて、留学時代の頃も知っている。
その中で2人の友人、ソニーザとクレイラが次に戦うU-23ドイツの要になるだろう。
「勿論DF、GKも強くて守備は相当堅い。高さもあるし、攻守でハイボールにまた苦しめられる可能性は高いと思う」
「ドイツは足元の技術も凄いから、デンマークより上手く混ぜて攻めに来そうだよー。全ポジションに隙が無いし、まいったなぁ〜」
困ったように笑う弥一だが、大門は知っている。
どんな強い相手でも失点する気が全く無くて、常に完封を狙っている事を。
それは親善試合だろうが関係無い。
「ああ、そうだ……彼らだけじゃなく、もう1人厄介なのがいるんだ」
「ん? 誰〜?」
「まだ世界的にそこまで名前は広まっていないけど──」
大門は両サイドの他に後1人、要注意の選手がいると弥一へ伝えていた。
「うおおっ!」
「でぇっ!」
ゴール前に高いボールが蹴られ、照皇と番が空中戦で激突。
質実剛健なドイツのサッカーに対抗する為、本気でぶつかり合う。
セカンドとなった球へ狼騎が迫るも、影山のクリアで蹴り出された。
「セカンドへの寄せが影山良いですね」
「彼はリーグで1、2を争う程に拾っていたからな」
康友やコーチ達は、影山のセカンドに対する反応や対応を高評価。
派手さは無いが攻守において拾えるのは、チームにおいて欠かせない。
「酒井も高い身体能力を持っている。ドイツ戦はセカンドの争いが鍵を握りそうだな……」
デンマーク戦でも何度かボールが流れて転がったりと、次も近い展開になりそうであろう場面を想定し、康友はセカンドに強い選手を多く先発させようか悩む。
「もっかいー!」
勝也の大きな声がフィールドに響き渡り、攻撃へ力を注ぐ。
「(ドイツはデンマークと同じく高さがあって、競り合いも強い。もっと照皇や酒井、光明辺りのFWを活かさねぇと)」
口では叫んで仲間を盛り上げる一方、頭では得点をどうやって取るのか思考を巡らせていた。
親善試合でも2戦連続で無得点、勝利無しは避けたい。
「せぇっ!」
辰羅川の蹴ったクロスに勝也が頭から飛び込み、ボールをゴール左下へ叩きつける。
「っ!」
龍尾の右腕がボールに伸びて、勝也のダイビングヘッドを弾き出す。
「惜しいねぇ〜。今のもう少しだったよー」
ボールがラインを割ったタイミングで明るく陽気な声がすると、大門から離れて弥一が攻撃陣の様子を見に来ていた。
「これCKでしょ? これ僕が蹴るね〜♪」
1本蹴るぐらいなら問題無いだろうと、弥一は左コーナーに向かって歩く。
「此処は俺の仕事だ。チビ君」
そこには先客が来ていて、鳥羽がキッカーの位置へ既に着いていた。
「鳥羽さん、えらく自信がありそうじゃないー?」
「そりゃあな。立見と真島の試合から密かに、ずっと磨き上げて来たんだからよ」
以前は自慢のFKも弥一に劣ってる事が分かってしまう。
敗北を喫してから、鳥羽は遊び人を気取りながらも密かに努力し続けてきた。
それが今、国内のリーグで結果を出して、今の五輪代表にまで選ばれる。
「まさに……えーと、続けるは力なり、でしたっけ〜?」
「……流石に継続ぐらいは知っとこうぜチビ君。サッカーに頭使い過ぎたか?」
ミランで活躍中の弥一だが、勉強が苦手な所は変わらず。
色々と能力を削ってサッカーに全振りしてるんじゃないかと、弥一の頭が鳥羽は少し心配になってきた。
アメリカ、ロサンゼルスの街を走る1台の黒い高級車。
リラックス出来る空間が作られ、座り心地の良さを保証された後部座席に座るコメットが、それに浸る事なくスマホでサッカーの試合をチェックしている。
画面に映るのは日本とデンマークの試合で、弥一が例のカウンターを放つ所だ。
「こういう事もしてくるか……」
コメットは弥一の部分だけを何度も見直し続け、一言呟く。
最後に弥一と記者の会話が映り、あのカウンターは調子が悪くて外れたんだと話し、それを聞いたコメットの口元に笑みが浮かぶ。
「騙される訳ないだろう?」
スマホ越しでは心を読む事は出来ないが、彼のプレーを徹底して見てきたので分かる。
調子が悪いなんて嘘で、全部狙ってやったんだと。
コメットは同じサイキッカーの情報を根こそぎ調べていた。
弥一「これが強豪国だったら、親善試合の結果次第でファンから叩かれてただろうねー」
勝也「日本とイングランドの試合もそうみたいだったからなぁ」
光明「親善試合でなら、まだ優しい方だと思うけどな。大きな大会の試合でそうなると……悲惨な事になりそうだから、あまり考えたくはない」
大門「海外のを知ると、日本は大人しいって見えちゃうな……」
弥一「自分達を守る為にも負けられないよねー」




