守護神の求める物
「相手、思ったより引き気味で来てるよー!」
後方から弥一はデンマークの動きを見ると、自軍ゴール前へ固まる赤い軍団が嫌でも目に入る。
全体的に高さがあって、普通にハイボールを送れば弾き返されるか、最も高いラースに取られて終わる可能性が高い。
「(高いボールは向こうにボールをやっちまうも同じか……!)」
前へポジションをとる勝也から見れば赤く高い壁が立ち塞がり、そこから強いプレッシャーが放たれる。
「(これくらいが世界のDFは当たり前で、五輪を目指すなら越えていけという訳だ……)」
「(デカブツ共が……!)」
2トップを組む照皇、狼騎の2人も低くはないが、相手との空中戦は苦しいものとなってくるはずだ。
代表のFWを目指すなら赤いデンマークの壁に加え、その後ろに控える守護神ラースを打ち破らなければならない。
「此処攻め時やでー!」
左のタッチラインに立って両手でボールを持つ想真。
声を掛けながらスローインは月城へ。
『日本ボールでデンマーク陣内に月城、踏み込んで行くも得意のスピードが中々出せない!』
『相手は日本を相当研究してきたんでしょうね。月城が走る得意なコースを上手く押さえてますよ』
デンマークはDFのマイセンを中心に、強固な守備ブロックを敷いて日本選手を簡単には近づけさせず。
ペナルティエリア内への侵入が厳しく、日本はシュートに持っていけない。
「(圧が強ぇっての……!)」
ボディコンタクトに関して、体格的に劣る月城では弾き飛ばされて終わるだろう。
中途半端に取られたくないと、バックパスで影山へ託す。
ガッ
「いっ!?」
グラントに骨を軋ませる勢いで肩から衝突され、影山の顔は痛みで歪む。
これが足元のボールを失う切っ掛けとなってしまい、零れ球となる。
「早くセカンド追えー!」
龍尾から素早く拾えとコーチングが出るも、ボールを拾ったのはゴート。
カウンターのピンチが迫って来た。
「番、9寄せてー!」
弥一は近くにいた番へ、ゴートをそのまま追うように指示を出す。
番が来た事で中央が空いたと判断したゴートは、右足で中央へ折り返し。
「いただきー♪」
これがパスをカットする為の罠で、弥一はグルセンに出されたボールをインターセプト。
『またしても神明寺のカットー!』
『デンマークのカウンターで守備が乱れていましたが、決定的チャンスの手前で神明寺の読みが冴え渡りましたね』
「(ミランだけじゃなく前のU-20ワールドカップも見てたけど、流石の読みと動きだな)」
ラースは弥一のプレーを見て、流石だと感心する。
その名はデンマークにも届いており、弥一が相手チームに居る時は皆どうやって点を取ろうか、各チームの監督が頭を悩ませると噂に聞く。
今もボールを奪われ、チャンスが潰されたりと日本ゴール前に強大な壁として立つ。
「(何よりヤイチ・シンメイジといえば……!)」
小さな体で様々な事が出来る弥一。
その中で特に彼の代名詞である物が目に浮かび、それが見たいとラースは強く望む。
「少しコンディションの差が出てるかもしれないかな」
日本ベンチから全体を観察するように見る光明は、日本が不利だと読む。
「確かにデンマークの守りが堅いとはいえ、日本の方が動きは重くなってきたかもな」
それに合わせて口を開くのは今回、初招集となる鳥羽。
少し歳の離れた2人が前を見たまま会話を交わす。
「ああいう相手こそFKのチャンスが欲しい所だよな。決められる自信あるだろ?」
「そのチャンス来て俺が交代で出場出来たら決めてやるよ」
持ち前の武器はプロ入りして磨きをかけ続けてきた。
今なら弥一にも負けないキックを蹴れる自信を持ち、光明の言葉にも鳥羽は強気に返す。
ただ、今の所セットプレーのチャンスは巡ってきていないが。
「辰ー! 右来てるぞ!!」
攻めあぐねる日本に、デンマークはサイド攻撃を仕掛ける。
エルベアの迫りくる姿が見えた勝也は、持ち前の大声で叫ぶ。
相手が大きな体で左右にフェイントで振っていくも、辰羅川は冷静に相手の動きやボールを見る。
『辰羅川、エルベアにサイド突破をさせない!』
『良いですね。落ち着いてますよ』
「ち……!」
エルベアはサイド突破が難しいと見て、すかさずクルッと回れば辰羅川に背を向ける。
後ろへボールを返し、レザにパスが渡ってから右足で前へ思いっきり蹴り上げた。
『レザからグルセンへ、これは高いロングパスだ!』
全体的に長身選手が多いデンマーク。
持ち前の高さを生かす為、弥一がいるであろう中央へ上がった球が落ちていく。
そこにグルセンが落下地点にやってきて、再び得意のポストプレーでチャンスを広げに跳躍。
ドンッ
「っ!?」
飛んだ球に意識が向いたせいで、グルセンは死角から迫る弥一のショルダーチャージに気づかなかった。
その小柄な体からは想像のつかない重さが感じられ、グルセンの目が見開く。
『グルセン、飛べずに神明寺がボールを取った!』
「(そろそろ前半の時間は無いよね)」
ロングパスへ対応する前、弥一は時計を確認していた。
あまりプレーが止まってはいなかったので、アディショナルタイムは長く取らないだろう。
この時、弥一は判断した。
攻めるなら今だろうと。
「うおおっ!」
グルセンがボールを持つ弥一へ、先程のお返しとばかりに大きな体を生かし、左肩を突き出すショルダーチャージを仕掛ける。
ヒュンッ
弥一は相手の背後から来た突進を左のサイドステップで躱し、更に前から迫って来たフレアセンを右回りの華麗なターンで躱す。
「「おおおおっ!」」
ドイツのサポーター達からは、弥一のテクニックに驚きの声を上げていた。
「(上手くて速い! あれがシンメイジのプレー……!」
ラースの位置からも、弥一のドリブルによる2人抜きは見える。
『神明寺ドリブルでボールを運び、これは日本の久々となるチャンスか!?』
中央からデンマークゴールに向かう弥一の目は、ゴール前の勝也を捉えた。
「(良い位置に居るね! 流石!)」
勝也のポジショニングを心で称賛しながら、右足を振り抜く。
前にはゴートやレザが来ているが、弥一は構わず右足を振り抜いてパスを送る。
赤い軍団の僅かな隙間を突いたスルーパス。
勝也はゴール前に出された弥一からのボールに走り込む。
『神明寺からゴール前! 神山に通った!』
「(おっし!!)」
相変わらず絶妙なパスを出してくれる弟分に感謝すると、勝也は左足でワントラップから、混戦のボックス内で右足のシュート。
デンマークのゴール右に飛び、赤い壁をボールがすり抜けてネットに向かう。
バシィンッ
ゴール前から狙われたシュートに、ラースは両手でボールをキャッチする。
混戦にも関わらず、素早い反応から長いリーチと大きな掌が捉えた。
『混戦のシュートにもラースがセーブ! やはりビッグクラブにスカウトされた実力は伊達ではない!』
「おいおい……今こっち良い感じでシュート行けたのに、取っちまうのかよあれ」
「相手GK相当やるの確定したねー」
勝也としては手応えのあるボールだったはずなのに、ラースが完璧に防いで驚かされてしまう。
兄貴分の隣へ駆け寄る弥一は強いなぁ、と相手GKを見ていた。
やがて前半が終了し、日本とデンマークの試合はスコアレスのまま後半戦へ折り返す。
「やっぱ上手いな」
ロッカールームに戻る小柄なDFへ声を掛けるのは、好セーブを連発したラース。
声が聞こえてから弥一は振り返る。
「そっちもやるねぇ。数年前デンマーク出て来たら怖い存在だったかも〜」
U-20で会わなくて良かったと、本気なのかリップサービスなのか分からないまま、笑顔で本人へ強い事を伝えた。
「俺が怪我してなかったら会えてたかもしれないけど、でも今会えてるから良いさ。後半戦楽しみにしてるよ」
友好的に会話を交わしながらも、ラースが望む物を弥一は心を読んで見抜く。
「(カウンターシュート蹴ってほしいって、そんなGK初めて見るよ)」
弥一の強力な武器として知れ渡り、強く警戒されてる時にラースだけは止めてみたいとなって、その武器が来る事を心待ちにしている。
何処までも真っ向勝負がしたい彼なんだなぁ、と改めて思いながらロッカールームに引き返す。
弥一「ううん、なんというか主人公気質みたいなタイプのGKは……何処かゴロちゃんを思わせるなぁ〜」
五郎「僕が物凄くパワーアップしたら彼みたいになるんでしょうか」
弥一「そんな自分から劣化版にならなくていいって〜。というか久々に見る気がするね〜」
五郎「こっちだと、お二人の先輩GKいるので僕の出番少ないですね……もっと五輪編も出たいです」
弥一「最後リアルな望みを言ったねー」




