未知なる大型選手
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
五輪日本代表はドイツに遠征へやってきて、親善試合2戦を予定している。
1戦目はデンマーク、2戦目は地元ドイツと戦う。
いずれも欧州の中で手強いとされる国で、特に体格やフィジカルにおいては日本を確実に上回る2チームだ。
アジアにもボディコンタクトの激しい国が増えているので、フィジカルが弱いとされている日本にとって、慣れる為の良い相手と言えるだろう。
「デンマークって、どんなチームなの〜?」
ドイツの空の下でセットプレーの練習中、弥一は左CKを右足で蹴りながら側にいる光明へ問いかける。
会話をする中で弥一のキックは高く舞うも、GKから逃げるような球となって龍尾に飛び出しをさせない。
「スタイルとしてはドイツに近いかもしれないかな。体格が良くて基礎を重視させたり、後は守備が強めなイメージが強い」
日本の選手達が空中戦で競り合ってる間、弥一は結果を見届けないまま光明と向き合い、話を聞いていた。
ドイツに関しては現地で暮らしている大門、明の2人から大体聞いて把握済みだが、デンマークについては情報があまり無い。
「確か昔は世界的な物凄いGKが活躍してたっけか〜」
「そういうのは知ってるのか」
「僕の中だとデンマークのイメージそれだからー」
弥一が聞いているイメージは昔の話で、今もそうなのかまでは分かっていない。
「GKに関しては2つの国、どっちもレベル高いと思うだろうけどな。特にドイツだと子供の取り合いが起こるぐらい人気って聞くし」
「それ日本じゃ起こらないよねー。DFもそうだし、前の方と同じぐらい人気出てほしいけどなぁ〜」
次のボールをセットする弥一を見ながら光明は話を続ける。
自分と話しながらも器用に、それも正確にキック出来る弥一によく出来るなと思いながらも。
「そうだ、一つ思い出した……確か今シーズンからブランコス・マドリーの控えGKとして、デンマークの若手GKが加入してたな。まだ20ぐらいでワンチャン、そいつ今回参加してくるかも」
「ビッグクラブにスカウトされたGKかぁ。それ強そうだねー」
ブランコス・マドリーはスペイン最大のクラブの一つで、銀河系軍団、白い巨人と様々な異名を持つ。
現在スペインのバレシアに在籍しているので、同じスペインクラブチームの情報が光明の耳に入りやすい。
そのGKがビッグクラブに入ったのも頭の片隅に入っていて、それを今引っ張り出してきた所だ。
とりあえず話していて思ったのは、両チームとも守護神のレベルが高そうという事だった。
「勿論、攻撃もトップリーグにいる程の力を持つけど、埋もれてて目立ってない選手が、アピールの為ギラついて厄介かもしれない。スタープレーヤーに嫉妬してラフプレーとか」
「それ怖いな〜。大事なオリンピック前に怪我とか絶対嫌だよ〜」
「誰だって嫌だろ」
五輪の代表で選ばれる事は大事だが、それ以上に重要なのは怪我をしない事。
プロとして弥一も光明も、本番の大会前に怪我をするのは一番駄目だと考える。
大きな大会を前に怪我でもして、出られなければ今までやってきた事は水の泡。
特に五輪のような年齢が関係する大会となれば、2度と出られないかもしれない。
「けど弥一、怪我した事無いって聞いてるけど本当か?」
「本当だよー。トレーナーさんのマッサージのお世話とか1回もなった事ないしー」
今度は反対側からのCKとなり、弥一は右足でボールを蹴る。
これも正確そのものでカーブの切れ味が鋭かった。
神明寺弥一という人間は余程の幸運に恵まれてるのか、怪我を経験した事が無い。
聞いた時、光明は弥一を動物じゃないのかと疑う程だ。
東京アウラ、ミランでプロとして本格的に活動したにも関わらず、あの激しい試合を経験しても怪我無しは強運にも程がある。
「あ、でも別の大怪我をした事はあるけどー」
「大怪我?それ一大事じゃないのか」
弥一から大怪我をした経験はあると聞き、只事じゃないと思って光明は興味深そうに耳を傾けた。
「東京アウラにいた時、シュートスナイパーの2人と番組でトークしててさぁ。これ言ったらウケるかなぁって思ったヤツで滅茶苦茶スベって大怪我だった〜」
「ぶっ!?」
違う意味の大怪我を弥一から聞かされ、光明は堪えきれずに吹き出してしまう。
「お前それ、そっちの大怪我かよ……はは……!」
「あ、今のでウケた?これはエピソードトークで行けそうだねー♪」
失敗談を聞いた光明が笑ったのを見れば、次に番組で呼ばれた時のトークで使えそうと、弥一は満面の笑みを浮かべた。
「おーい弥一!次早く来いよー!」
「いくら焦らしでも遅過ぎるだろー!それカード貰うぞー!」
次のキックを待つゴール前の勝也、番といった日本選手達が弥一へ向かって叫ぶ。
「あ、ごめーん! もう一本、今行くからねー!」
光明との話で夢中になったせいか、キックの方を忘れてしまう。
再び弥一の蹴った球がドイツの空を舞った。
「ヤイチー!試合頑張ってー!」
「勿論ドイツを応援するけど、お前も好きだから応援するぞ!」
「あはは〜、ありがとう〜♪」
欧州では弥一の名は広まって有名となっており、ドイツの地も例外ではない。
ビッグクラブのミランで活躍していて、ドイツにも遠征で来てるおかげだろう。
弥一は片っ端からサインや握手に笑顔で応じ、日本選手の中で随一の人気っぷりを見せている。
ちなみに通訳無しのドイツ語で対応だ。
「あいつ、めっちゃ人気やなぁ」
「東京の時もそうだったけど、ファンに好かれやすいよな。見た目あんなチビっていうのが効いてんのか……?」
彼のファンサービスを遠くから想真と月城の2人が眺める。
久々に弥一と出会い、人気の高さを目の当たりにしていた。
「噂通り、サービス精神旺盛だな。日本のヤイチ・シンメイジは」
弥一の周囲にいるファンの中でドイツ語ではない英語を話し、一際大きな男が姿を見せる。
短髪の茶髪で今この場に居る誰よりも背が高い。
おそらく2mぐらいはあって、弥一にはリカルド並に大きいと思えた。
「えっと、どちら様で〜?」
目の前の大男が誰なのか、弥一は心当たりが無くて首を傾げる。
「やっぱりビッグクラブに居るとはいえ、控えで試合に出てないから俺の名前そこまで広まってないかぁ……」
自分の名前が弥一にまで知られていないとなって、大男は肩を落として溜息をつく。
「ラース・マッハ。覚えといてくれよ?今に有名になってあんたみたいに名を広めるからさ!」
その男は人懐っこい笑みを浮かべ、自分の名前を述べていた。
「ラース……?」
「俺は日本戦、ドイツ戦と2試合ともデンマークのゴールマウスを守るんで!完封するからよろしくなー」
ラースと名乗る大男は言いたい事を言い終えて満足したのか、手を振りながら立ち去っていった。
「おい弥一、なんだ今のデッカい奴は?」
そこに勝也が弥一の元へ駆けつけてくる。
見知らぬ大男が弟分に絡んできたのかと思い、心配になったようだ。
「あ〜、完封予告してきたライバルチームのGKかなぁ」
弥一も急に来られたので、男に関してどう説明すればいいのか言葉に悩む。
心で読む限り裏も無く、純粋に自分へ挨拶したかったというのが分かる。
ラースがデンマークのGKとして、どれほどの実力者なのかは未知数。
ただ、嘘がつけない真っ向勝負なタイプだと弥一の中で彼へのイメージは大きかった。
「(完封ならこっちもしっかりやらせてもらうけどね)」
向こうが完封を狙っているように、弥一も同じく0に抑える事は常に狙う。
デンマークだけでなくドイツ、そしてアジア予選やオリンピック本戦での完封も。
弥一「英語が通じて良かった〜、デンマーク語は僕ちょっと自信無かったからなぁ〜」
勝也「デンマーク語……また難しそうだな」
弥一「ちなみにデンマークの英語力は世界トップクラスと言われ、30年で劇的な急成長を遂げて、アメリカ人も驚かせたと言われてまーす♪」
勝也「マジかよ。デンマーク凄ぇ……!」
弥一「サッカーじゃなく、そっちに驚愕しちゃってるね勝兄貴ー」




