止まらない嵐
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「何で弥一先輩が帰ってきて会う時に言ってくれないんですかー!」
「兄貴分だからって独り占め良くないと思いますー!」
東京アウラの練習グラウンドで勝也を待っていたのは、氷神兄弟による詰め寄りからマシンガンのように飛び出す文句の嵐だった。
「いや、独り占めしてたつもりねぇし……」
そんなつもりは無いと否定する勝也だが、彼ら兄弟の文句が収まる気配はない。
「貴重な一時帰国だったのに、またイタリア行っちゃいましたしー!」
「ああ〜、弥一先輩が戻ってくるの次は何時〜?こっちからイタリア行こうかなぁ!?」
「行く暇無いだろ、プロで忙しいのに」
横から太一が口を挟むように、弥一程ではないが氷神兄弟も東京アウラに所属するプロとして忙しい身だ。
彼らからイタリアに行くのは、休暇やクラブの遠征でもない限り不可能に近いだろう。
「ハッハァ!ヤイチがチャンピオンズリーグであれだけ奮闘してるんだ!なら、俺達の方も東京アウラで負けじと活躍してやろうじゃないか!」
そこへマグネスも加わり、陽気に場を締めた後にチームの練習は開始される。
「ぷっはぁ〜、終わった〜」
チーム全体のトレーニング終了後、ベンチで詩音と玲音は揃って疲れ果てていた。
「大丈夫?相当疲れてそうだけど……」
タオルで汗を拭きながら、通りかかった影山が双子を心配する。
「大丈夫ですよ〜。とりあえず、この時間を利用して──」
「弥一先輩の試合チェックが特効薬になりますから♪」
氷神兄弟は揃ってスマホで、弥一の所属するミランの試合をチェック。
彼らの最新試合が流れていく──。
「キーパーミドルー!」
「!」
バシィンッ
フィールドに少年みたいな高い声が響き、その声を聞いた後に加速のついたボールが飛んでくる。
こんなものはイタリア代表のGKとして、山程受けてきたコルドにとっては慣れた球。
低めで迫るシュートに身を低くしながら正面でキャッチ。
『FCドラゴンのエース、バルザッドの豪快なミドル!それをミランのベテランGKコルドがセーブ!長年カテナチオの門番を務めた守護神として、若造にゴールは簡単に渡さない!』
チャンピオンズリーグの試合でポルトガルの名門、FCドラゴンとの試合をホームで迎えたミラン。
サポーターがほぼミラン一色に染まり、相手チームに多大なプレッシャーを与えていく。
「良いよコルドー!いっそ代表復帰しちゃいなよー♪」
「(お前の声で備えられたおかげだろ!)」
ボールを前線へパントキックで送った後、弥一から称賛されるもコルドは今のセーブは彼のおかげと思っていた。
GKより早くシュートすると気づき、来ると教えてくれなければ安定してのキャッチは無理だったかもしれない。
注目されない所で弥一の声がミランを支えている。
「良いね、ヤイチが居たら安心して見てられるな!」
「何処よりも頼もしいカテナチオで素晴らしい!どのイタリアクラブよりも鉄壁だ!」
「そうそう、我らがミランは難攻不落さ!」
「「ミランは何者にも破られないカテナチオ〜♪小さなニンジャの番人は全てお見通し〜♪今日もクリーンシートが待ってるぜ〜♪」」
ミランの守備を称えるチャントが始まり、スタジアムはホームの選手達を後押しする力となっていく。
そして守備を弥一が支えているなら、攻撃を支える絶対的な存在もいる。
イタリアの至宝にして異次元の魔術師、サルバトーレ・ディーンがボールを持てばスタジアムはそれだけで大歓声が沸き起こった。
『コルドのキックからアドルフ、グレンメルと繋がってボールがディーンに渡る!敵にとっては災厄だろうが我らにとっては英雄!異次元の魔術師が今宵も魅せてくれるか!?いや、魅せてくれ!』
ドリブルを行うディーンに対して、屈強なFCドラゴンのDFがフィジカルを活かし、やや小柄な相手に競り合いへ持ち込もうとする。
「!?」
DFの顔は一瞬にして、驚愕へと染まってしまう。
ディーンは相手の想像を超えるスピードとテクニックを持って、触れる事すら許さず突破していった。
「おおおお!?」
ミランサポーターからも驚きの声が上がり、何度も見ているはずなのに何度も彼には驚かされる。
それが世界最高峰のプレーヤーと言われる、サルバトーレ・ディーンだ。
『今宵も止まらない!彼の魔法が阻止される事なく、ゴール前へ左から侵入だー!』
左サイドから突き進んでいたディーンが、中央へ鋭く切り込む。
カットインと呼ばれる動きは神業な彼がやれば、一種の必殺技と化していく。
「(調子に乗んなガキめ!)」
20ぐらいの若造に好き勝手させてたまるかと、CDFが猛然と迫ってきた。
その動きはディーンの目が捉え、次には相手の頭上をふわりとボールが浮かんで超える。
FCドラゴンのエリア内には何時の間にかSDFのトルクが入ってきて、彼の姿を密集してる中でもディーンは見失わない。
吸い寄せられるようにトルクの胸へ来て、そのままトラップで落とせば右足を迷いなく振り抜いた。
「ぐおぉぉ!!」
近距離で速いシュートにも関わらず、GKは反応から飛びつくまでの動作が速い。
それがトルクのシュートを右腕で弾く、スーパーセーブが生まれる。
ただ、GKが喝采を浴びる前に彼は既に動き出していた。
密集地帯で転がる球に、誰よりも早く追いついたディーンが右足でボールを飛ばす。
敵と味方の足元を通過していき、正確無比なシュートと化した球はゴール左下隅に突き刺さる。
「「ウォォォォ────!!」」
その瞬間、ミランのサポーターは発狂するように叫び倒す。
これが地鳴りを思わせ、スタジアム全体が喜びで揺れ動く。
『ミラン先制ゴール!!やはり決めてくれた我らがディーン!!極上のベルベットパスでチャンスを作れば、その零れ球を自ら蹴り込んで混戦でも問題なし!異次元の魔術師が魔法を見せつけたぞー!!』
「「ディーン流石ー♪」」
トルク、サルクの双子が揃ってディーンに抱きつき、彼を称えていた。
「見せつけてくれるねー!ディーン!!」
そこに弥一もDFラインから声を掛けると、魔術師が振り返って右手の人差し指で弥一を指した。
次はお前が見せつける番だと、心を読むまでもなく長い付き合いの弥一には伝わる。
「(たった1点ぐらい!)」
FCドラゴンのエース、バルザッドは点を取り返そうと中央から単独のドリブルを仕掛けていた。
これぐらいのビハインドはすぐに取り返せると、強気の攻めを見せる。
だが、彼はそういった攻めを一切通さない。
「(気づいてないね。失った1点がとてつもなく重いって事に!)」
そのたった1点が彼にとって勝負を決する物で、弥一は今宵の獲物へ迫る。
数字上の速さは目立つ程ではないはずなのに、守備をする時は信じられない速さ。
それは飽くなき無失点への拘りが彼をそうさせていた。
ギュンッ
「っ!?(光……!?)」
バルザッドからすれば、まるで光が一瞬で通ったかのようで反応が全く出来ないまま、ボールを取られる。
「もっともっと声出してよー!イタリアの熱はそんなもんじゃないよねぇ!?」
「「オォォォ────!!」」
パスを出した後に弥一は観客の方へ向いて、もっと上げろと煽っていく。
これが会場のボルテージをさらに上げ、完全に試合をミランペースに持っていった。
彼らを止められる者はこのグループではおらず、今のミランはまさに嵐を巻き起こすチーム。
テンペスタと恐れられる……。
ミラン5ー0FCドラゴン
ディーン2
アドルフ2
グレンメル1
マン・オブ・ザ・マッチ
アドルフ・ネスツ
トルク「何で僕達じゃなくお前に応えんだよー!?」
サルク「ディーンに何か催眠術やったかー!?」
弥一「それで僕に突っかかられても困るってー(超能力使えても催眠は無理だから〜)」
アドルフ「俺達も恐れられる存在になってきたもんだ」
グレンメル「弱点あるとするなら、アドルフがユニフォーム脱いでカード貰っちまうぐらいか」
アドルフ「今日は脱いでねぇだろ!?」
ディーン「ユニフォームに手をやっていたように見えたが」
弥一「1枚貰ってるから、それで試合停止は芽キャベツだよ〜」




