獣が解き放たれる時
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『前半は目立ったチャンスを作る事の出来なかった両者、この残り90分で本大会進出チームが決まるのか!?』
『両チームの交代は特に無さそうですね。日本としてはウズベキスタンの大きなDFをどう超えるのか、まさに世界への挑戦を阻む最後の番人ですよ』
多くの歓声に出迎えられながら両チームの選手が姿を見せる。
「さっき言ったチビの言葉、どういう意味だ?」
「こっちが18番へのマークに集中している事を見抜いてきたのか?」
ウズベキスタンの選手達は先程、弥一から言われた言葉が頭の中で引っかかり、どういう意味なんだと考える者が続出。
「無視しろ」
そこにシャッドがチームメイト達に声を掛けた。
「ヤイチ・シンメイジは小細工が得意な選手と聞いてる。あいつの言った事は、ただのハッタリだ」
「ハッタリ?じゃあ11番に気をつけた方が良いとか言ったのは、俺達を惑わせる為って事か」
「おそらく調子の悪い奴を囮に使い、実は要注意と思わせて18番のマークを緩めさせる狙いだ。向こうの誘いには乗らず予定通り18番を徹底的に抑える」
弥一の言葉は信じるなと、シャッドからの言葉に皆が頷く。
自分達のやる事は崩さずに狼騎を徹底マーク、その方針を変える事は無かった。
「(つまらん小細工を仕掛けて来やがって、あのディーンが認めた天才と聞いたから実際どの程度かと思えば──ガッカリだな)」
イタリアで聞いた話と違い、見え見えの小細工に頼る弥一に対してシャッドは失望する。
この程度なら自分の相手じゃないと──。
ピィ────
日本とウズベキスタンの本大会出場が懸かった後半戦、青いユニフォームを纏う大男達が攻勢に出る。
「うわっ!?」
右サイドから攻め上がるポポフに、冬夜は体格差で吹き飛ばされてしまう。
そこから矢のようなパスが出れば速くもラドチェンへ通ると、中距離から左足のシュートをいきなり放ってみせた。
力強いシュートが日本ゴールに襲いかかるも、龍尾が正面で受け止めてキャッチ。
威力のあるボールだったがコース自体は難しくないので、龍尾からすれば取りやすい位置だ。
『ラドチェンのミドルシュートを工藤がキャッチ!やや距離があったものの、これは怖いシュートだ!』
『パワーあるから力強いシュートを蹴って来ましたね。これは中距離や長距離といえど油断出来ないですよ』
「リュウさんナイスセーブー♪」
「フン、強ぇシュートだけど問題無ぇよ。こんなもん何本でも何十本でも止めてやらぁ」
「何十本はDFとしては撃たせたくないかな〜」
弥一と軽口を叩き合いながらも龍尾はスローイング。
パントキックで高く上げても空中戦で負ける確率が高いので、確実に繋げようと選択していた。
『工藤から天宮、神山と繋いで日本が中央からゴールへと迫る!』
『中央の堅いチームにはサイドから崩すのが定石ですが、あえての正面突破ですかね』
猛然と迫る巨漢達の突進をショートパスで掻い潜り、勝也達はパワーで有利な相手にスピードと技で対抗。
技術に関して言えば日本の方が上回っている。
「10番を潰せ!」
日本の中盤を見て厄介なのは勝也だと判断すると、シャッドは中盤の選手達に勝也のマークを強めるように指示。
「うぐっ!?」
死角となる左からショルダーチャージで強く当たられ、勝也の左肩に強い衝撃が走った。
体格ある選手が力強く当たって来れば、その衝撃は凄まじい。
「(デカいから何だってんだ!!)」
「!」
鬼気迫るような形相で勝也は強烈な当たりに踏み止まり、強引に突き進む。
気持ちを前面に押し出してのプレーに、勝也を見ていた照皇は驚く。
「(技術とかじゃない。かなり必死に──絶対突破する、という気持ちが伝わって来る……!)」
プレーの中で照皇が勝也に対して、そう思っている間も試合は続き、勝也はゴール前の狼騎へ右足でパスを出した。
「ぐおおっ!」
「うおっ!」
狼騎がボールに迫ると同時にシャッドも動き出して、どちらも懸命に追いかければ雄叫びと共に激突。
シュートにクリア、それを互いに狙えば球は高く上がり、GKのヤッコフがボールを抑える。
『ああ惜しい!酒井がパスに迫るもシャッドに阻まれ、GKが抑えて日本の攻撃が断ち切られてしまう!』
『シャッドの対応が一番厄介ですね。最後の所で彼に潰される事が多いですから』
「てぇぇっ!」
再び中盤での攻防となれば、勝也がボールを持つ相手へ積極的に奪おうと迫っていた。
「っ!?」
気迫に押されてか、ボールをキープするカラーゼは体格で劣る勝也に寄せられ、パスを出し難い状況に追い込まれる。
「(もう少し!此処で取れば!!)」
敵陣で奪えば大きなチャンスに繋がる可能性、それを狙って勝也は足を止める事なく奪いに行く。
「後ろだ!戻せ!」
そこにシャッドの指示が飛ぶと、カラーゼはヒールパスで後ろに戻す。
ただ、それでも勝也は止まらずボールを受けるシャッドへ向かう。
「(しつこい野郎だ!!)」
忌々しそうに一瞬だけ勝也を見れば、詰められる前に前線を狙って右足で大きく蹴り出した。
勝也の寄せがシャッドのコントロールを狂わせたのか、ボールは右のタッチラインを割って日本ボールとなる。
『勝也君が良いプレスをしつこく仕掛けましたね。今のは相手にとって相当嫌だったと思いますよ』
「(勝也さんだけでなく皆が必至になっている……これが執念……!)」
照皇は勝也だけでなく先程の狼騎、シャッドも気持ちを前面に押し出しての攻防、それが繰り広げられていた事を思い出す。
執念深さ、なにがなんでも自分がやってやろうという気持ち。
自分としても冷静に考えながらも一生懸命、勝利に向けて全力を出していたつもりだ。
しかし世界を目指して戦う彼らは、全力以上の力を出して必死にプレーをしている。
──貪欲に執念深く、まるで獲物を狩ろうとする獣のように。
「……よし……!」
照皇は俯いていた顔を上げると、ウズベキスタンのゴールを真っ直ぐ見据えていた。
絶対に取ってやるという強い眼差しで。
『ウズベキスタンのパスが通り、トドチェフからエースのラドチェンへ!日本あぶな──』
相手の指令塔からエースへ渡った瞬間だった。
弥一が瞬く間に詰めてラドチェンから電光石火のボール奪取。
あまりの速さに相手を驚愕させながらも、弥一は前を見据える。
「(見えたっ!)」
今度はハッキリ分かる光の道標、相手からボールを奪った直後で寄せられていない今、このチャンスは逃さない。
弥一の右足からボールが放たれると、ウズベキスタンの大柄な選手達の僅かな隙間をパスが通過していく。
得意とするレーザービームが一気に相手ゴール前へ運ばれる。
「(通すかぁ!!)」
シャッド1人だけが弥一のパスに反応していた。
これを叩き落とさんと迫った時、その間に割って入る者が現れる。
不調と侮っていた照皇だ。
照皇は弥一からのパスを受けると共に反転すれば、シャッドより前に出て進む。
「(このっ!調子の悪いお前如きに負けるか!)」
自身も反転すると照皇の右に並び、シャッドの太く長い左腕が伸ばされる。
照皇を自由にやらせない狙いだ。
「ぐ……オォォォ!!」
「うおっ!?」
相手の腕に阻まれながらも照皇は雄叫びと共に突き進む。
予想以上の力でシャッドの左腕が弾かれると、この瞬間フリーとなって絶好のシュートチャンス。
その隙を逃さず照皇の右足は素早く振り抜かれ、飛ばされた球にGKヤッコフが飛びつくも彼の両腕は届かない。
照皇のシュートがゴール左上隅に突き刺さり、ゴールネットは大きく揺らされる。
「うお────!!」
興奮の坩堝と化したスタジアムで照皇は天に向かって叫ぶ。
彼の中の獣が大きく解き放たれた瞬間だった。
月城「あの人も、やっぱ人間だったなぁ。前は機械かよってぐらい冷めた感じだったし」
弥一「確かに大きなリアクションとか照さん全然してないからねー」
月城「ガタイ良いし髪型といい某アンドロイドを思わせるよなぁ」
弥一「今度、宴会か何かで照さんにワイルドな黒い格好させてサングラス付けてもらって、言ってもらおうよ♪アイル・ビー・バ……」
勝也「止めとけ!」




