小さな狩人と大きな狩人
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「なんて事だ、こんな開始から負傷なんて──」
「すぐに代えましょう、照皇と交代」
「!は、はい!」
富山やベンチが戸惑う中、マッテオは1人冷静に負傷した室を照皇と交代するよう、指示を送っていた。
『ああ〜、室君は駄目ですか……交代ですね』
『此処で入るのは照皇誠、このチームが出来てから彼自身にゴールは生まれてませんが、今日はどうなのか!?』
突然のアクシデントに、どよめきがスタジアムで起こる中、右肩を抑えながらフィールドを出て行く室。
「照さん、すみません……迷惑かけました……」
「何も気にせず怪我を治す事だけを考えろ」
右肩を痛そうに抑えながらも室が謝ると、照皇は彼に声を掛けてからフィールドに入っていく。
『日本としては辛いですね。長身選手揃いのウズベキスタンDFに対して、室君のような彼らに負けない高さが無しというのは……』
『これは日本、開始早々から暗雲か!?それを吹き飛ばすような先制点が欲しい所!』
「くっ!?」
中盤での空中戦、勝也が懸命に飛ぶも180cm台のトドチェフが頭1つ高い。
競り勝ったウズベキスタンがボールをキープ。
「ぐぇっ!?」
左のライン際でも競り合いになると、冬夜が相手のホーンと体同士が激突。
体格で劣る冬夜の方が跳ね飛ばされ、ホイッスルは鳴らなかった。
『日本、サイドを突破された!ウズベキスタンの大型選手達がゴール前に迫る!危ない!』
ホーンの視線はゴール前に揃う3トップへ向く。
「真ん中!後ろフリーだ!!」
今日の日本ゴールマウスを守る龍尾から、中央が空いてしまってると指示が出る。
影山がホーンの攻めてくるサイドへ寄ってしまったので、やや中央が薄くなったせいだ。
その甘くなった中央から上がって来る選手へに、ホーンは中央へ折り返してのパス。
「ナイスコーチング&ナイスパスー♪」
「!?」
ホーンはノールックでのパスをしていた、にも関わらず弥一が見抜いて中央へのパスをインターセプト。
余裕の笑みを見せる弥一に対して、ホーンが驚愕の表情を浮かべる。
『神明寺インターセプト!中央の折り返しを見抜いていたのか、ゴール前から飛び出していた!』
『また大胆な守備を見せますね、こんな大一番にも関わらず』
大事な試合で引き気味になってしまう、という事もなく弥一は何時も通りの神出鬼没なプレーを見せていた。
「奴は隙間を通して来るぞ!」
「出させるな!」
ウズベキスタンの選手達は弥一のプレーを研究しているのか、すぐに彼へ寄せて行く。
「(流石に出せないや!)」
前方の光る道筋は見えず、ロングパスが無理だと判断すれば、弥一は左足の踵を使って右にパス。
お洒落なパスに歓声が上がりながらも、春樹が受け取って右の辰羅川へと繋ぐ。
『今度は日本が右サイドからカウンター!辰羅川が走る!』
日本の大きな武器であるサイド攻撃、室がいない今も続行すると、辰羅川は右を一直線に突き進む。
「(高さが駄目なら──!)」
視線の先には狼騎の姿が見えていた。
彼の動き出しとスピードなら、高さあるDFに充分対抗は出来ると、辰羅川の右足から速いクロスボールが蹴られる。
「!(速い!)」
狼騎の反応して動き出す姿にシャッドは速い、となりながら自身も動く。
天性の反射神経からボールに迫り、右足のボレーで狼騎が合わせようとしていた。
「!?」
シャッドが狼騎の前に飛び出すと、左足でクロスを蹴り返す。
向こうも相当な反応を見せて仕事をさせない。
『低いクロスをシャッド弾き返す!高いボールだけでなく低い方にも強い!』
ボールは高く舞い上がると再び中盤での空中戦。
こうなると有利なのがウズベキスタンで、春樹と空での競り合いをハサフが制してトドチェフがキープする。
「カウンター来るよー!遅らせてー!」
速攻が来ると彼らの企みを心で読み、すかさず弥一は味方選手達にディレイで遅らせろとコーチング。
そこに迫り来る長身ストライカー揃いの3トップ。
トドチェフが一旦ヒールパスで後ろに下げると、上がって来たポポフが日本ゴール前へ高く蹴り上げた。
「(ちぃっ!外か!)青山!」
龍尾は蹴られた球を見上げれば、手の使えない外のエリアへ落ちると見て飛び出せない。
代わりに番へと声を掛けて任せる。
「っせぇ!」
大柄な海外選手にも負けない大型DFの番。
相手のカマンと宙を舞うボールへ向かって跳躍、空中戦での勝負にヘディングで競り勝ち、ロングボールを跳ね返していた。
これを影山が拾って一旦キープすれば、試合を落ち着かせていく。
『日本、ウズベキスタンの速攻を許さない!影山これを取った!』
『DFは青山君と仙道佐助君、高さある選手が揃ってますからね』
「(やっぱ中央かってぇ……!あんだけ大男達が密集してるから当たり前か……)」
勝也は相手の守備陣に目を向け、中央が相当厚い守りだと感じた。
大男で固められたゴール前は下手にシュートを放っても、生半可な物では弾き返されて向こうに渡る恐れがある。
「こっち!」
冬夜が右手を上げてボールを要求。
そこへ影山がパスを送り、トラップした冬夜が前を向いて左サイドから仕掛けていく。
「(此処は突破で流れを作って崩す!)」
果敢に目の前のDFへ1対1のデュエルを挑み、日本のペースに引き寄せようとする。
「っ……!」
大柄なホーンと向き合い、素早いフェイントで翻弄を狙うも歩幅のある相手に詰められ、思うように抜く事が出来ない。
その間にポポフも迫って来て数的不利となってしまう。
「それで良い、日本のサイドに仕事をさせるなよー!」
後ろからシャッドが手を叩き、味方の守備を褒めていた。
鼓舞も聞いたのか2人は取り囲み、冬夜からボールを奪い去る。
「番!上がってー!」
「え!?」
弥一からの声が届いた番は驚きながらも指示を聞き、相手側のゴールを目指して走り出す。
そこにホーンから縦へのロングパスが蹴られた。
ピィ────
直後に線審の旗が上がると共に主審の笛が鳴らされる。
『これは日本カウンターのピンチでしたがラインを上げていました!』
『良いオフサイドトラップですね、向こうの心理的にもロングパスは駄目だと思わせる良いプレーです!』
オフサイドを取るのが苦手な番を前もって走らせ、後は得意とする弥一と佐助が相手を罠に嵌める。
3バックによるロングボール潰しとなった。
「(とにかくシュートだ、1本シュートを撃たなければ始まらない!)」
プレーが再開すると照皇は相手ゴール前に向かう。
日本は中盤でボールを素早く回し、勝也に渡ればゴール前の照皇へ右足のパスを出す。
地を這う速い球が一直線に飛び、シュートでもおかしくないような速度。
それを照皇が右足で完璧なトラップを見せれば反転。
自分の正面に立っていたDFを素早いターンで躱し、一歩前へ出て来ていた。
「!?」
だが、それを察知していたのか長いシャッドの右脚が伸びてくる。
照皇のボールを弾くと、零れ球が相手ゴールへ転がればGKヤッコフが拾い上げてのキャッチ。
「日本の天才ストライカーって聞いたけど、この程度か?」
「……!」
照皇の耳元に囁かれる異国の言葉、シャッドから言われた事は正確に分からないが、何となく挑発されたのは感じた。
何時もなら冷静に受け止められる、ただ彼の不調や負けられない大事な試合。
様々な要素が積み重なり、照皇の心を乱し始めていく。
「(あっちも結構ハンターじゃん)」
やり取りを遠くから見ていた弥一。
自分とは色々異なるシャッドだが、やっている事は結構似てるなと思っていた。
フィールドの小柄な狩人と大柄な狩人、両者が互いの攻撃陣に仕事をさせない──。
弥一「寒い季節になったから、牛肉の鍋とか美味しいよね〜♪」
勝也「絶対に今それが食いたいと思ってんだろ?」
弥一「ウズベキスタンの牛肉が美味しいと聞いてから♪」
勝也「本当に美味いグルメにはストレートだな」
弥一「鍋のシメにラーメンとかやってみたいしー♪」
勝也「それはまぁ、間違いなく美味いわ」




