白熱する紅白戦
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
15分ハーフの紅白戦、立見の練習メニューとして珍しくないが、この日に限ってはかなりレアだった。
東京の有力校で主力クラスの選手達が集まり、混合チームを組んで紅白戦を行うケースなど、まず聞かないだろう。
「本当に贅沢な紅白戦だよなぁ」
『皆立見が大好きなんですね〜』
「そうなのかは知らねぇけど、よくこれだけ揃ったもんだよ」
マイペースな彩夏と話しながら、摩央は改めてフィールドを眺めていた。
「ボールは混合チームからで」
主審を務める薫は先攻を連合チームとして、笛を吹き鳴らす。
ピィ────
「寄せてけ!」
間宮の後方から大声でのコーチングが響くと、ボールを持つ豪山へ積極的に半蔵が詰めていった。
「(ハイプレスか)智春戻せ!」
立見の前線が早くも詰めて来たのを見て、勝也も声を飛ばす。
豪山はバックパスで勝也に送る。
「!」
そこに立見の1年、司令塔の明が勝也へ寄せていく。
「っ!」
このまま更に後ろへ戻させるプレスの狙いだったが、勝也は明の寄せに対して、引かずに真っ向からドリブルを仕掛けた。
いきなり勝負を仕掛けて来た事に、明は面を食らったのか切り返しに対応しきれず、勝也のドリブル突破を許す。
「右上がってる!気をつけろ!」
ゴールを守る大門からの視点が、走って来る冬夜を捉えて、素早く指示を出す。
側で弥一のコーチングを見てきたせいか、その面が彼は以前と比べて上達している。
その大門の声を受けて、田村が冬夜のマークに向かう。
「うぉっ!?」
勝也のドリブルに川田が向かうも、以前より速い動きに対応が遅れ、左踵でボールを上げて相手の頭上を越していく。
得意とするプレーで勝也自身も川田を抜き去り、いきなりの2人抜きだ。
「(抜かせないっす勝也さん!)」
ボールを追いかける勝也に反応して、ダッシュで向かって行く間宮。
彼への強い憧れはあるが、勝ちを譲るつもりは無い。
全力で戦ってぶつかる、それが勝也への礼儀で恩返しになるの間宮は考えていた。
勝也より先に間宮が追いつき、勢いのまま右足で強く蹴り出す。
高く舞い上がったボールに半蔵が走り、落下地点で待ち構える。
「(ここは明に!)」
球が落ちて来る間、半蔵はポストプレーで贈る場所を決めて、明の方を一瞬見る。
「(高っ!?)」
真島の2年DF真田が空中戦で競り合うも、190cmを超える半蔵の高さに勝てず、半蔵は頭で予定通り明へ落とす。
「おっと」
「!?」
パスを受ける明の前に、弥一が半蔵のポストで落とした球をカットして奪い取っていた。
明と半蔵の2人は先輩がボールを掻っ攫うのに対して、同時に驚く。
何故バレたんだと。
「弥一にはパス出させんなー!」
弥一がボールを持つ姿に、間宮はすぐに声を出す。
彼が持てば正確無比なレーザービームに射抜かれる、プロの試合を欠かさず見てきたので、出させる訳にはいかない。
明が素早く弥一へ寄せに行くも、その前に成海へパスを出していた。
この場はそういったパスを出さず、確実に繋げる。
成海から蛍坂、右の峰山とパスを回し、東京屈指の中盤選手達による共演。
即席チームとは思えない連係の良さだ。
峰山はこの位置から右足で、ゴール前に低く速いボールを蹴る。
その先には相棒の鳥羽が待ち構える姿。
「かぁっ!」
これを間宮は体を投げ出してのダイビングヘッドで、鳥羽の前にクリアした。
セカンドとなった球を影山が拾う。
変わらず立見でセカンドを拾う確率、一番を彼は誇っている。
「(弥一居るから低いロングパスは駄目だ、短く行こう!)」
弥一の異常な読みからのインターセプト、同じ守備陣の一員として影山は近くで見ている。
迂闊な甘いロングパスは取られてしまうと、彼の怖さは分かっていた。
なので近くの川田に出して、自らは混合チームのゴール前へ忍び寄る。
「お前結構ゴツくなったんじゃねぇか川田!?」
「そりゃ毎日鍛えてますから!」
ボールを持つ川田に、勝也が左肩からぶつかりに行く。
それを元々の体格の良さに加え、付いてきた硬い筋肉が弾く。
この1年で立見の誇る人間発射台は、更に力を身に着けて立見随一のパワーシューターとなっている。
「無理しないで保ー!」
その川田へ声を掛ける同級生の翔馬。
左にいる彼へ、川田は右足で強くパス。
「でっ!」
勝也は咄嗟に右足を伸ばし、川田のパスを弾く。
「遠くからでもいいよー!ガンガン撃っちゃってー!」
そこへ弥一から遠くてもシュートしようと、後方でそれを伝えていた。
拾った峰山は中央へ右足で折り返し、蛍坂が待ち構える。
「ナイスパース!」
だが、このパスを下がっていた玲音がインターセプト。
まるで弥一を思わせるようなプレーだ。
「(弥一に憧れてるからってそれも真似すんのかよ!)」
奪った玲音に勝也がすぐ来ている。
攻守切り替えの直後を狙うも、玲音は間一髪で伸ばして来た勝也の右足を躱して、左足で右サイドへ大きく出す。
そこには詩音が走っており、双子ならではの連係でカウンターが発動。
高く上がってきた球が、走る詩音の前に落ちていく。
「ゴール前マーク!」
混合チームの最後尾を守る岡田が声を出して、榊が長身の半蔵に付いた。
弥一は勿論、真田もDFの身長としては低めなので、マークは彼が適任だろう。
右サイドの詩音が右足でクロス、それを追いついた冬夜が阻止に向かう。
これはフェイントで詩音は右足で蹴ると見せかけ、切り返して中央へドリブルで切り込む。
「(騙されるか!)」
だが冬夜はこのキックフェイントを見破り、右足を伸ばしてボールを弾く。
夏の東京予選ではやられたが、ここは抜かせない。
「!」
それを拾いに行く蛍坂よりも先に、影山がセカンドを取る。
忍び寄っていた影山に誰も気づかず、フリーの状態だ。
「キーパーミドルー!」
弥一の叫びと共に、影山はエリアの外から右足でシュート。
混合チームのゴールマウスへ勢い良く飛ぶ。
「おっし!」
これを岡田が大きくダイブする事なく、ほぼ正面でシュートを両手で受け止めていた。
「お前よくシュートって分かったな、おかげで取りやすかったぞ」
「そこは岡田さんの実力でしょうー、ナイスセーブ♪」
気づくはずもない、弥一が影山のシュートするという心を読み取り、瞬時に岡田へ伝えていた事など。
その事を言わずに弥一は笑顔で岡田を称賛。
「思ったより白熱して良い勝負になってるなぁ」
「──そうだな、最初は無茶苦茶でどうなるかと思った」
ベンチに座って戦況を見守る優也と武蔵。
彼らの前にはフィールドにて、白熱した戦いを繰り広げる、両チームの姿が見えた。
「何か紅白戦だっけって思いそうなぐらい、レベル高いし皆ガチじゃないか……?」
「軽くのはずが皆スイッチが入ったらしいな」
「あ、おい?」
武蔵と話していた優也がベンチから立ち上がり、軽く走りに向かう。
「お前もスイッチ入ってんじゃん──分かりやすい奴」
1人取り残された武蔵が、走る優也の後ろ姿を見て小さく呟く。
「峰山ぁ!右来てるぞー!」
勝也は声を大きく出してのコーチング。
持ち前の大声が、サッカーグラウンドに響き渡る。
「(違う、あれデコイ)」
後方で翔馬のサイドを駆け上がる姿に、弥一は囮だと見抜く。
本命は中央の彼だろうと、そっちに視線を向けた。
中盤の川田から、明へと渡って彼が前を向いた瞬間。
「(本命は君だよね明?)」
「!」
影山の忍び寄っていたやり方を、そっくり真似するように弥一も気配を消して迫る。
「(ターゲット探してる暇は無い!)」
目の前の相手に隙を与えては駄目だ。
頭より体の方が、その事をよく理解していた。
「(お、来る?)」
明の心を読んだ弥一は彼が仕掛けて来ると、身構える。
その通りに明は先輩を相手に、真っ向勝負を仕掛けていく。
「(この人は一瞬の隙も逃さないハンターだ!)」
隙を見せる事なく、何時にも増して集中を高めた。
そうしなければ今の強大な壁を越えられない。
「良い集中だね明、その調子だよ!」
「っ!」
翻弄しようとフェイントをいくつも見せるが、弥一を抜く事も崩す事も出来ず、向こうは話しかける余裕もあった。
今の立見で背番号10を背負い、総体でもMVPとなって超ルーキーとして注目されるが、その彼をもってしても弥一の壁は厚く、突破が出来ない。
「そこ!」
「うわっ!?」
足が止まった僅かな隙を弥一は見逃さず、ボールを奪い取る。
そこで薫が前半15分の終了を告げる笛が鳴り響く。
春樹「言ってくれれば岐阜から飛んで来たのに……」
狼騎「行くのかよてめぇは」
想真「オールスターやったら俺らも呼ばんかい!」
室「東京じゃない俺達は普通に無理だって、遠征費とか結構かかっちゃうし」
月城「だから俺らは呼ばれず、あとがきで留守番だ」




