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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 国内プロ&U-20代表編

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迷える努力の天才

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「試合も練習も無い日とか何時もこんな感じなのー?」



 今の時間、誰も使っていない八重葉のサッカーグラウンドにて、照皇はフィールドの周囲を軽く走り回る。


 それを弥一はベンチに座って見ており、声を大きくして問い掛けた。



「これが俺の日課だ。鍛錬を怠る訳にはいかん」



「変わってるねー、全然遊ばないっていうのは〜」



 弥一の近くへ差し掛かる時、照皇が口を開いて会話を交わす。


 なので弥一が話しかけるタイミングも、彼が近くに走って来た時と限られている。



「お前こそ酔狂じゃないか。貴重なサマーブレイクの期間を俺に会う為、わざわざ早朝に東京から静岡までやって来て使うとは」



「そうかなー、静岡の美味しいうなぎとか焼きそばを食べに行く小旅行も良いなぁって思ったし♪」



 照皇から見れば弥一も充分に変わっている。


 休みの期間を利用して、自分へ会う為に東京から此処まで来たのだ。


 そういった人物を照皇は今まで見た事も聞いた事も無い。



「第一、この八重葉にどうやって入った?部外者は立ち入り禁止となっているはずだぞ」



「警備員さんに僕のサインあげるって言ったら、内緒であっさり通してもらえたよー?その後の部員の皆も僕を見て、皆驚いたりで案内してくれたから♪」



 母校のセキュリティの甘さに、ため息をつきたくなる。



 こんな子供みたいな無邪気に笑う少年に八重葉は、照皇は必死で勝とうとしていた。


 彼は本当に自由奔放と言うべきか、何も縛られず日常でもサッカーでも自由。


 彼のポジション、リベロを体現するように。



「リュウさんの怪我、重いのー?」



「2、3週間で治るそうだ。来年のアジア予選は勿論、選手権にも間に合うだろう」



 弥一は龍尾の怪我について尋ねる。


 彼と幼馴染の照皇は状態を知っており、思ったよりも元気そうに雑誌を見たりゲームをしている姿を、既に見てきた。



 彼は本番の試合までには復帰出来るはずだ。



「照さんの方は大丈夫なのー?」



「俺は見ての通りなんともない」



 続けて弥一が照皇の状態を聞けば、健在だとアピールするように彼は走り回っている。



「けど調子悪そうだよー、去年と比べて得点が全然取れてないし外したりしてる事が多くなったみたいじゃんー?」



「そういう時もある。これから戻していくつもりだ」



 自分が点を取れなくてチームに迷惑をかけた。


 その事を照皇は心底申し訳なく思い、自分の力の無さを悔やむ。



 照皇は償いの為に総体が終わって間もない、にも関わらずこうして己を鍛え続ける。



「気にしてる?あの大会で1点も取れなかった事を」



 弥一の言葉に照皇はピクッと一瞬反応を見せる。



「初戦のコスタリカ戦で1点に大きく貢献してたじゃん、FWは点を取る事だけが全てじゃない。照さんが一番よく分かってる事だよねー?」



「無論分かっている。だが……それで満足していては、上に行けないだろう」



 文句一つ言わず、厳しい練習を日々こなす。


 何処までもストイックに己の力を高め、強さを追求していく。


 それが照皇という男。



 一体彼が何故そこまで努力を重ね、追い求めていくのか。


 金や名声を得る為でもない事は、彼の心を覗けば分かる。


 この道だと決めたらそこしか進まない。



 どんなに向かい風で苦しくても、引き返さず進み続けるのみ。


 そこに損得とかは無かった。




「神明寺、折角此処まで来たんだ。少し相手を頼みたい」



「また急だねー」



 アップを済ませた照皇は額の汗を軽く右腕で拭い、ベンチに座る弥一へと目が向く。



「グルメを味わうには早過ぎる時間帯だろう、少し体を動かしてからの方が美味い」



「それ言われると弱いなぁ〜、美味しいのは食べたいし〜」



 美味しいグルメに目がない弥一。


 確かに時刻はまだまだ早朝で、飲食店が開店するには早い時間帯だ。



 弥一は着ていた白い上着を脱ぎ捨て、動きやすい青Tシャツと黒いハーフパンツの格好となり、フィールドに入っていく。



「高校と比べてプロはどうなんだ?」



 自分より一足先にプロサッカー選手となった弥一に、照皇は彼の準備を待ちつつ聞いた。



「激しいねー。高校じゃ反則だろっていうのが取ってくれなかったり、全体的に狡賢さは増してると思うよー」



「狡賢さ──か」



 軽くストレッチする弥一から話を聞いて、照皇は腕を組んで目を閉じる。


 思い出すのはU-20の代表戦。



 対峙する海外のDF達は見えない所で、ユニフォームを引っ張る等をしてきた。


 見つかったら反則にも関わらず、それを審判の死角を突いて狡く実行と、日本の高校サッカーではあまり体感しなかった事。



「かつてオーストラリアに留学した時も、俺は日本と全然違うと感じたが、皆そういった事を身に着けているのか」



「そうだねー、照さんの一番苦手な部分だよね?」



「……」



 柔軟を続ける弥一にそう言われ、照皇は何も言えない。


 真面目な性格のせいか、自らが狡賢く行く事は無かった。



 今のままで自分は本当に世界へ通じるのか、その迷いが徐々に照皇の本来のプレーを狂わせ、不調となってしまう。



「ま、だからって照さんに狡賢くなれとか強制する気は無いし、そのスタイルで行くならとことん貫くのが良いんじゃないかなー?」



 準備を終えた弥一は照皇と向かい合って立つ。



「強大な壁にぶつかっても、ブチ破れるまで挑む。それが出来る人は本当に強いと思うから」



 自分が何度も絶対的な才能へ挑み、勝也が諦める事なく何度でも向かって来たように。



「──では、その強大な壁に俺も挑ませてもらおう。ボールは?」



「そっちからどうぞー」



 弥一が照皇にボールを軽く蹴り渡すと、それを右足でトラップして照皇は目の前の相手を見据える。




「っ!」



 小さなDF、だが彼にその目で見られた時、背筋に寒気のような物が伝わった。


 先程まで容易に話していた弥一は、獲物を狙うような鋭い目で照皇から目を離さない。



「(久しぶりだな、この感じは!)」



 他のDFと対峙した時には無かった感覚。


 少しでも気を抜けば取られるかもしれない、独特の緊張感。


 照皇から見て、今の弥一はその圧を放っている。



「遅いよ」



「!?」



 瞬きしてる暇すら彼は与えてくれなかった。


 一瞬で照皇へ詰め寄ったかと思えば、彼のキープするボールをあっさり奪い取ってしまう。


 そのまま弥一は強くボールを前へ蹴り出して、自らも走り、球に追いつくと空のゴールマウスへ左足でシュート。



 ネットを揺らした弥一の勝利だ。



「今のが試合だったら相手にカウンターのチャンスをプレゼントしたようなもんだよ」



「っ……もう一度だ……!」



 弥一と照皇の1on1が、誰もいないグラウンドで再び行われる。




 高校サッカー界において、照皇誠は高校No.1の天才ストライカーと呼ばれた。


 その天才が1人の小さなDFを、一度も突破出来ていない事実は、照皇の力を知る者からすれば信じ難いだろう。



 そんな肩書きも弥一の前では無となり、彼はボールを奪われ、止められ続ける。



「(こんなに、歯が立たないのか!?)」



 以前はもう少し食らいつけたはずの相手と、前よりも大きな差を感じてしまう。


 日々プロの選手と練習、試合を重ねたり、アドルフや小熊といったエースとも戦ってきた。



 その経験が弥一をよりレベルアップさせていく。



 照皇とて鍛錬を重ね続け、高校での試合を日々こなしてきたが、弥一は更に先へと進んでいる。



「っ!?」



 照皇とボールの間へ、弥一は巧みに小柄な体を入れると、そこからボールを奪取。



 抜かせんと照皇は立ち塞がるが、彼の左右に素早く動くフェイントから、下を通されて弥一は照皇の後ろへ行った球に追いつく。



 ボールと自分を挟むように抜き去る、メイア・ルアを成功させた弥一は再びゴールネットを揺らす。




「やっぱ照さん不調だね、前はもっと強かったのに」



「はっ……はっ……」



 伝ってくる汗を拭う弥一に対して、照皇は両膝をに両手を置き、息が乱れてきていた。



「お前が……強くなったというのもあるだろう……!」



「そうかな、まぁそういう事にしといてこの辺りにしとこっか。そんなに長居も出来ないし」



 滞在時間は限られている。


 ベンチに行ってスマホで時間を確認した弥一は、ここで1on1を終了。




「……神明寺、何故そこまでする?静岡のグルメをただ味わいたいだけで、此処までやるのか?」



 照皇はドリンクを飲んで喉を潤した後、改めて弥一に静岡へ来た理由を聞く。


 自分を励ます為だとしたら、何故こんな手間をかけて来るのかと。



「U-20のイタリアが本気になったから」



「イタリア?」



「これこれ」



 弥一はスマホを操作すると、照皇にその画面を見せる。



『イタリアの神童ディーンがA代表を辞退、U-20の代表となり優勝を目指すと宣言』



「ディーンが……!」



 照皇もディーンがいかに化物なのか、セリエAでのプレーをテレビで見て知っていた。


 A代表に選ばれても全くおかしくない男が、自分達の目指す大会に立ち塞がる。



「彼が参戦するなら、そのイタリア代表は間違いなく史上最強。彼だけでなく他にも天才やエリート揃いの強者がゴロゴロいるし」



 それ以上に弥一はディーンをよく知る。


 あの異次元の才能は全てを、自分すらも凌駕する程。


 更にその世代にはミラン時代、弥一の頼れるチームメイト達がいて、いずれも敵となれば強敵揃いだ。



 日本が優勝を目指すなら、ディーンのイタリアが立ち塞がる確率は極めて高い。


 大番狂わせも無論あるだろうが、弥一は知っている。



 ディーンとカテナチオは、そんな甘い相手じゃないと。



「だから困るの、照さんが不調でリュウさんも怪我っていうのは」



 記事に載るディーンの写真を見る弥一の目は真剣で、彼はこのイタリアを本気で倒そうとしている。


 それが照皇から見て取れた。



「お前の気持ちは理解した。無論俺も日本の優勝に向けて全力を尽くすつもりだ」



「そうしてくれるとありがたいねー」



「必ず神明寺、お前の領域まで向かう」



 弥一から見た照皇の目は強い決意に満ち溢れ、そこにはイタリアや世界の強者を倒すだけではない。



 神明寺弥一もいずれは倒す、という気持ちも込められていた。



「その頃には僕また上行ってるかもね♪」



「だったら俺も上がるまでだ」



「楽しみにしとくよ、じゃあ部外者は此処で退散しとくね♪」



 何時もの笑顔を見せると、弥一はグラウンドを去って行く。



「あ、おい……!」



 呼び止めようとするが彼は足早に去ったので、その声はもう聞こえていない。



「……上着を忘れているぞ」



 軽くため息をつくと、照皇はベンチに置き忘れた彼の白い上着に目を向ける。



「(しかし、リュウが珍しく代表で嫉妬したのも何となく分かるかもしれない……神明寺、あいつは天才とかそんな言葉では最早片付けられん)」



 代表での龍尾が弥一とやり合っていたのを思い出し、改めて照皇は弥一のプレーを振り返った。


 高校の時よりも更に一段階成長して前を進み、更にDFとして強大な壁となっている。



 ディーン同様、弥一も天才では収まりきらない。



「(だからと言って、諦めたりはしないがな!)」



 その壁に諦めず、挑もうと照皇は再び走り始めた。


 努力の天才は折れる事なく、成長する壁への挑戦を諦めないだろう……。

弥一「うええ〜!僕の上着〜何処〜!?」


勝也「お前そんな大事な上着忘れんなよ!高いやつか!?」


弥一「服に僕お金かけないよ〜、3800円とかなりのお買い得な価格で〜」


勝也「だったら何で大事にしてんだ?」


弥一「輝咲ちゃんに「その服似合うね」って褒められたからお気に入りなの〜!」



京子「……という感じで弥一君が慌ててる間、静岡から届け物が来て忘れた上着は無事に戻り、弥一君は同じ物を3着追加で購入したそうよ」


フォルナ「ほあ〜」

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