ファンへの感謝イベント
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「日本の夏こんな暑かったっけ〜?」
「何時もの事、じゃなさそうだよな。例年よりあっちぃ〜!」
東京アウラの練習グラウンド、空は夏の太陽が強く照らされて、サッカーで動き回る者達にとっては大変な暑さ。
弥一と勝也はこまめに水分補給するが、それでも夏の猛暑は容赦なく襲ってくる。
「そりゃリーグの方もサマーブレイク期間に入りますよ。こんな暑さで90分なんか走れる訳がない、神は我々人類に試練を与え過ぎです。もう少し甘くしても罰は当たらないかと……」
夏の暑さを憎々しく思っているのか、賢人は額に汗を流しながらも、ブツブツと文句を呟いていた。
「今思うと僕達よく総体の連戦を戦えたりしたよねー」
「ああ、すんげぇ暑かった上に連日試合だったし」
弥一と勝也が共に思い出すのは、昨年の夏に行なわれた高校サッカーの総体。
猛暑に加えて連日の試合と、かなり過酷な戦いだった事は今も覚えている。
「イタリアの暑さもまた凄かったが、何時味わっても日本のは暑いな。フライパンの上に立ったような感じだ」
「あー、イタリアだとオーブンで、ジリジリ焼けるような感じだったよね〜」
シャツを脱ぎ、上半身の逞しい筋肉を顕にするマグネス。
弥一と2人でイタリアの夏を思い出す。
「は〜、そんな中でサッカーやってんだなイタリア」
「「やらないぞ(よ)」」
夏の欧州はそれでサッカーするのかという勝也に、弥一とマグネスの声が重なる。
「イタリアだけじゃなく欧州全体が夏は試合も練習もやらないぞ」
「そうそう、夏休みにサッカーなんかやんないって。休みなんだからさー」
「……すっげぇ文化の違いを目の当たりにしてんなぁ」
ずっと日本でサッカーをしてきた勝也からは、想像がつかなくてあり得ない事。
生まれも育ちもイタリアのマグネスは勿論、3年留学していた弥一も、そっち寄りの考えに染まる。
「まぁでも、こっちはこうしてトレーニングあったり、それにイベントの参加もしなきゃいけないからな」
「イベントー?」
「ほら、言ってたろ。ファン交流イベントが週末にあるってさ」
「……ああ〜」
太一と勝也の話を聞いて、ようやく弥一は話の内容を思い出す。
サマーブレイクの期間を利用し、東京スタジアムにてファン交流イベントが次の週末に行われる事が決まったのだ。
サッカーの試合や練習だけではなく、プロになるとこういう事もやる。
「うーん、色紙やボールにいくつサインを書く事になるんだろうなぁ〜」
自分へ集まるファンの事を想像してか、ジャレスはニヤニヤと笑う。
「フッ!ハッ!」
一方浮かれる様子もなく、ロッドは1人で黙々とパントキックの練習を重ねている。
「(多分ロッド結構凄い事になりそうかも、女性人気高いからなぁ〜)」
180cmとGKとしては小柄だが、それでも女子からすれば金髪で長身のイケメンに変わりない。
黄色い声援に関してはロッドがほぼ持っていきそうだと、彼の練習風景を見た後、弥一は練習へ戻る──。
東京アウラのファン交流イベント、土曜日の当日を迎えた。
何時もは試合の行われるスタジアムだが、今回はチームとファンの交流の為に開放される。
イベント開催の時を迎えると、今日のイベントでMCを務める者達が姿を現す。
「東京アウラファンの皆さん、ようこそー!本日のMCを務めるエリーと」
「バリバリサッカーをやってた長岡とー」
「ただの補欠、シュータのシュートスナイパーです!皆さんよろしくお願いしまーす!」
東京アウラのチャンネルで馴染みの3人が挨拶して、会場のサポーター達は盛り上がる。
「では、本日の主役達……東京アウラの皆さんに登場していただきましよう!どうぞー!」
エリーの紹介と共に選手専用の入場口から、選手達が次々と登場。
MCの3人が登場した時よりも、声援は大きかった。
「どうも皆さんようこそ〜♪」
「弥一待ってましたー!」
やはり色々と注目されてる弥一。
彼への声援が特に多く、人気の高さはチーム随一だろう。
「大勢のお客さんいますからねー、シュートスナイパーのお二方はもう4分間の漫才やり甲斐あるんじゃないですかー?」
「やらんわ!」
「お客さんキミら楽しみにしとんのに、何で俺らでガチの漫才せなあかんの!?……長岡、打ち合わせしよか」
「何でやる気になっとんねん相方ぁ!」
動画でもやっていた弥一による、芸人への無茶振りは健在。
実際に見たサポーターからは笑い声が起きる。
「(弥一めちゃくちゃ場慣れしてねぇ?俺正直緊張してんだけど……!?)」
サッカーではない多くのサポーター達の前で、話したりする交流会に勝也は何時もとは違う緊張があった。
そんな中、慣れた感じでMC陣と陽気にトークする弥一を凄いと思う。
「風岡選手は寝具のCMに出てますが、ファンからこんな質問が届いていますねー。今まで受けたCMでお気に入りの寝具はなんですか?」
「最近だとマユズミシェスタのベッドですかね。あそこ布団も枕も良くて、疲れた体に本当良いです」
よく眠る事で知られる風岡へ、オススメの寝具についての問いに答える。
ちなみにマユズミシェスタは弥一や立見が世話になってる、黛財閥の方で展開してる物だ。
「ロッド選手には、好みの女性のタイプが特に多いです!」
「……サッカーに集中してるので、今はあまり意識してない」
女性からの人気が高いロッドには、そういった質問が来るも彼は今のところ、あまり異性への興味は無いらしい。
「というかぶっちぎりで多い奴ありますねー、弥一君への質問で」
「僕ですかー?ギャラいくらとか来ちゃったのかな〜」
「ちゃうわ!いやまぁ、ぶっちゃけなんぼ稼いでんのか気にはなるとして」
相変わらず芸人とのやり取りで笑わせる弥一に、この質問が多く届いている。
「どうやったらカウンターシュートを出来るようになるんですか?とか、どうやったらそんな上手くなるんですか?というのがもう滅茶苦茶来てます!」
数々のスーパープレーを、高校サッカーやプロの舞台で見せてきた。
神業の技術を持つ弥一に皆が、その技を習得する方法を知りたい。
「壁にぶつかっても折れずに立ち向かい、磨き続ければ出来ると思いますよー。実際僕そうしてましたから♪」
今まで経験してきた事を頭の中で振り返りつつ、弥一は話す。
体格差に苦しんだり、圧倒的な才能に跳ね返され続けてきた。
しかし弥一は折れる事なく、どうすれば勝てるようになるのかを考え、浮かんだら行動を起こす。
それが弥一のやり方だ。
「折れる事なく最適の道を探し、すぐに実行。そのおかげだと僕は思ってますねー」
「なるほど、壁にぶつかっても諦めない事に加えて、一番良い考えを導き出してすぐに実行する行動力……これはサッカーに限った事ではないかもしれませんね」
「そうですねー、シュートスナイパーのお二人が漫才でどんな鬼スベリしても、どうすればウケるか考えて、これ次の漫才ですぐ使おうって感じです♪」
「勝手に俺らスベらすな!」
「けどホンマに参考になるやつー!実際それあった後、大阪帰るか……東京進出早すぎたってなった事あるし!」
「言わんでええわ!なんならそん時、俺ちょっと泣いてもうたからな!?」
弥一が真剣に語ったかと思えば、芸人2人を巻き込んで会場の笑いを誘う。
「兄貴……やっぱプロになるなら、あれくらいのトークはしないと駄目かな?」
「いや、あそこまでは俺も出来てないから……」
真剣に話す中でボケて笑わせて、和ませたりする弥一のトークに、あれぐらい話せないと駄目かと悩む勝也。
それに太一は首を横に振る。
あのトーク力は自分でも無理だと。
それからサインに握手会、更には軽くFKを披露したりと、イベントは大盛り上がりの大盛況だった。
「……」
多くの客で賑わう中、1人の少年が一点を見つめる。
周囲と同じく東京アウラのユニフォームを着ているが、彼の纏う雰囲気は他と異なっていた。
短めのサラッとした金髪、整った顔立ちは日本人のそれとは違う。
見た目は10代前半で、アイドルグループに居てもおかしくない、可愛い顔と容姿だ。
「アクアクーラ毎日飲んでるから!」
「あはは〜、飲み過ぎには注意してね〜♪」
ファンと明るい笑顔で握手を交わす弥一。
その弥一と同じぐらいな身長の金髪少年が、彼に近づく事なく青い瞳を向けている。
彼はふいっと視線を外した後、スマホを取り出して連絡。
「調べておいて、過去の試合記録を残らず全部」
そのやり取りは英語で行われ、騒がしい周囲には何が話されているのか全く分からない上、興味も向けられていない。
「スクールの時やミランの時、それも全部。神明寺弥一を知る為だから」
弥一について調べるよう指示する少年。
ファンとの交流を深める弥一は知らない。
自分の事を徹底的に調べる者の存在を……。
弥一「本当はもっと色々あったんだけどね〜、時間の都合上カットになっちゃったよー」
勝也「つかお前シュートスナイパーさんと仲良すぎだろ。絡みまくりのイジり過ぎだ」
弥一「だってあの2人毎回面白いリアクションするからさー、お客さんも喜んでたし♪」
勝也「本当すっけぇ色んな人と握手したり、ボールやユニフォームにサインを書いたりと、ある意味試合より大変なんだなこれ」
弥一「僕にはアクアクーラの空のボトル持ってきたファンの人いたねー。後はなんか見覚えある青髪とピンク髪の双子っぽい子達とかいたしー」
勝也「それあいつらしかいねぇだろ」




