後ろから見た彼の実力
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「あんた良い仕事すんな、おかげで良い不意討ち出来たぞ」
「当たり前だろ、勝也さんだぞ？お前のゴールは半分以上勝也さんの手柄だからな！」
「そこは上手く詰めた狼騎の手柄がでけぇだろ」
早い時間に日本がコートジボワールから先制ゴール。
狼騎は勝也が良い仕事をしたと評価して、春樹は実質勝也のゴールだと言い張る。
それを勝也は落ち着かせた後にポジションへ戻って行った。
「お前ら油断すんな！今日の日本の10番は違うぞ！」
予期せぬ早々の失点に驚く守備陣へ、ドランは油断するなと大声で言う。
この失点で彼の中のスイッチが一気に入ったらしい。
彼だけでなくコートジボワールの選手達、全員の目が変わった。
「向こうさん本気で来るぞー！引き締めてけよー！」
「あっちの空気変わったよー、油断しないでねー！」
相手が本気で来ると分かり、弥一と龍尾は同時に味方守備陣へ向かって、声を出す。
再び2人のコーチングが重なる。
「(あいつまた……！つか俺と同じように感じ取ってたのかよ)」
また弥一に邪魔されるのかと、睨むように彼を見る龍尾。
その中で自分に近い感覚を持ってる事を理解した。
先制されたコートジボワールの攻め、中盤でクレイを中心にパスを回していく。
「(お、取れる！)」
そこに冬夜が相手のパスを取れると思い、右足を伸ばす。
「わっ！？」
しかし横からダンの長い右足が伸びて、予想以上のリーチに冬夜を驚かしながらも、ダンがこのボールを取っていた。
「(想像以上にこいつらゴツい！)」
室が195ｃｍの長身から相手に寄せて、ぶつかっていくが幼い頃からアフリカの大自然の中、鍛えられた彼らの肉体は想像を超える。
日本最長身の男によるチャージでも、簡単には崩せない。
「わぁっ！？」
ガンツからのロングパスに、ヒューイと影山が空中戦で競り合うと、影山はアフリカのフィジカルを前に弾き飛ばされる。
「(わかった、日本はボールの扱いは上手くてもフィジカルが無い。奴らには力で行った方が正解だ！)」
先程から自分達との接触プレーで、競り負けてる日本の姿を見てドランはニヤッと笑う。
日本の弱点は貧弱なフィジカルだと。
クレイがセカンドを拾い、ドランがパスを要求。
「(行かせるかよ！)」
この試合でドランのマークを任されている番。彼がボールを持つと共に、渾身の力で左肩のショルダーチャージを仕掛ける。
「ぐおっ！？」
ドランの右肩に、右半身にズシンとした衝撃が体を駆け巡っていた。
予期せぬ番のパワーに驚かされたか、ドランはボールをキープ出来ず、足元から離してしまう。
「バンちゃんナイスー！」
ボールを弥一が取れば、すぐに迫り来るクレイの突進。
だが弥一はクルッと右回りの華麗なターンで躱し、ボールを前へ大きく蹴り出してクリア。
相手にシュートチャンスを作らせる事なく、攻撃を断ち切ってみせる。
「アフリカの身体能力に苦戦してますね……」
「ですがそれでも彼らは食らいついています」
日本と体の作りが違うアフリカ、その力を前に苦戦しているなというのが富山の印象。
マッテオは高い身体能力を誇るアフリカ勢を相手に、よく食らいついてると評価していた。
「特に彼は吹っ切れたみたいです」
指揮官の目は背番号10、日本のキャプテンへと向けられる。
「オラぁぁ！」
「(しつこいなこの日本人！)」
クレイは躱していくが、勝也はすぐに追いかけて来た。
何度もしつこく来て終わりのない、無限ループのように感じてしまう。
「うおっ！？」
勝也の執拗な寄せに体制を崩したクレイだが、そこから驚異のボディバランスで立て直し、追ってきた勝也を引き離そうとする。
「逃がすかよぉ！」
絶対逃さないと、勝也はクレイと一気に距離を詰めて、彼のボールにスライディングで滑り込む。
「ぐぅっ！」
クレイが勝也の足につまずいて倒れると、主審のファールが鳴った。
勝也の反則という判定を下す。
「くっそ、悪い！奪えなかった！」
「いや、ナイスファイトっスよ！」
「むしろよくあんな粘って行けるなって、感心しちまうぐらいだよ」
奪えなかったと悔やむ勝也に冬夜、辰羅川の2人が称賛。
ファールを取られたものの危険な位置ではないから、相手の反撃による勢いを潰すには良い。
「(何だよ、コスタリカの時とは全然違うじゃないか！？)」
「(焦ってる焦ってるー)」
自分達の攻撃に対して、想像以上な粘りの守備をする日本に、クレイは内心戸惑っていた。
その様子は弥一だけ見えて、焦っていく相手の心がよく分かる。
「ガンガン当たれば良いんだ！パワーで攻めろパワーで！」
思うように攻め込めないチームに、ドランは声を荒げながらも日本攻略法を伝えていく。
その言葉通り、コートジボワールは接触プレーで激しくぶつかる回数が増す。
「おわぁ！？」
サイドの攻防でタップと争う辰羅川に、シュラが死角から強く体を当てて来る。
これにバランスを崩し、倒されるもノーホイッスルとなってしまう。
そこからタップが右へ大きく蹴り出すサイドチェンジ。
落下地点にいたオーバが冬夜と空中戦になるも、競り勝って頭で中央へ折り返した。
「(絶対こいつは通さない！)」
ドランがボールを持つと再び番が後ろから迫って、前を向かせないようにする。
日本選手の中でずば抜けて当たりに強い、それは此処までのぶつかり合いで、ドランも把握済み。
「(甘いんだよ！)」
「わっ！？」
すると番に対して後ろを向いて、キープしてたドランがボールと共にクルッと回る。
力のぶつかり合いから急にテクニックで来られ、番は意表を突かれてしまう。
華麗なターンを決めた事で前を向き、ドランは番を抜き去ってボールに追いつき、日本ゴールへ前進。
する事は無かった。
「(甘いのはどっちかなー！)」
「！？」
ドランの長い右足が届くよりも先に、弥一がボールを取る方が速く、ドランの突破を阻止する。
彼の目には小さなＤＦの姿を全く捉えられなかった。
「狼さんＧＯー！」
その直後、弥一は右足で迷いなく強い球を蹴る。
両チームの選手が多くいる中盤、僅かな隙間をヒュンッとボールが抜けて狼騎まで届く。
「(聞いてねぇよこんなパスが来るのは！)」
弥一から何も聞かされていなかった狼騎だが、持ち前のずば抜けた反射神経、瞬発力でパスに反応して走り出す。
このスタートダッシュには、マークするＤＦガーランも遅れてしまう。
敵にも味方にも容赦無い、弥一のレーザービームを思わせるパスに狼騎は追いつく。
「うおおお！」
「！」
狼騎の目には相手ＧＫバートが、必死の形相で飛び出していた。
瞬時に右足でシュートを放つも、至近距離まで迫っていた守護神が体全体で防ぐ。
ボールが弾かれて、ゴール前で宙を舞う。
そこにチーム最長身の室が跳躍して、マークするＤＦも同じように飛ぶ。
身体能力が高いアフリカのＤＦよりも高く、室は頭でボールを捉えて押し込む。
一度防いだバートが懸命のダイブで、左腕を目一杯伸ばすも及ばず。
コートジボワールのゴールネットは再び揺れ動く。
「いいよー、速さと高さの2トップー♪」
2点目のゴールが決まり、弥一は後ろからゴールを決めた2人へ、明るく声を上げて称える。
その姿を龍尾は後ろから見ていた。
「(あいつ、青山をブラインドにしてドランから見えないように、張ってやがったのか……その直後にあんなキラーパスをぶっ放したりと)」
最後尾からフィールド全体がよく見える、ＧＫの目から見えた弥一の悪巧みの姿が。
大柄な番を壁にドランが抜き去った直後、狙っていたかのようにボール奪取。
不利であろう小柄な体を最大限に活用する姿、そして神業を思わせるロングスルーパス。
「(何をどうすりゃそんな事が出来るんだよ！？)」
敵として相対した時や外から観察した時より、伝わって来る彼のサッカーの巧さ。
後ろから見ていた龍尾は弥一のレベルの高さを目の当たりにして、内心驚かされる。
詩音「神明寺先輩の力の源は美味しいご飯、という訳で僕達も絶品の食事を食べまくる！」
玲音「此処のラーメンが美味しいらしいよー！」
三笠「いや、俺としてはこっちの定食屋」
立浪「待った、この店のカレーピラフも良いぞ」
半蔵「あの強さがこれを真似して身に付くのか……？」
影山「という感じで1年の子の間では美味しい店を発掘して食べる、これが流行っちゃったみたいでね……」
室「サッカー部じゃなくてグルメ部になってないスか！？」
想真「つかあいつどんだけ後輩から慕われとんねん。何時か後輩達が神明寺の銅像まで作りそうやで」
