永遠の愛を誓う
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「ほら弥一君、ちゃんとネクタイ締めなきゃ駄目だよ」
「うええ〜、キツい〜」
この日の弥一はスーツに袖を通し、ネクタイを緩めに身に着けていたが、輝咲によって直される。その彼女も何時もは着ないワンピースを纏う。
「今日は我慢しよう?彼の大切な日となるんだから」
「うん、なんとか我慢する〜」
弥一も輝咲も今日がどういう日なのか分かっていた。共に招待状を貰い、都内の大聖堂に彼らは今いる。
「弥一!輝咲さん!」
そこへ2人の名を呼ぶ声が聞こえ、振り返れば目の前に立つ立見サッカー部の面々。
選手権を戦った優也、大門、摩央といった同級生達に加えて間宮達3年の先輩の姿もあり、立見高校を卒業して現在大学生となった成海、豪山まで来ていた。
それぞれが正装と普段見ない姿に弥一は珍しいと思いながら、皆と挨拶を交わす。
「ううん、私としてはまだ信じられないんだけどねぇ。まさか教え子が先になっちゃうなんて」
「本当ビックリですよ〜」
サッカー部の顧問をする幸、マネージャーの彩夏もドレスアップして、この場に来ている。
「(前から知ってたけど、まさか……こんな早く勝兄貴が結婚式をやっちゃうなんてなぁ)」
聳え立つ大聖堂を見上げながら、弥一は改めてその事を考えていた。
今日は勝也と京子が結婚式を行う日。弥一や立見の皆は招待を受けたのだ。
「勝也さんが結婚……こんなめでてぇ日は他にねぇよ畜生……!」
「泣くの早すぎるから、落ち着きなって」
「今から泣いたらお前枯れ果てんだろ終わる頃には」
結婚式が始まる前から間宮は既に男泣き。それを影山、田村の同級生達が落ち着かせる。
「いやもうホントさ、あいつやる事がサッカーに限らず早いだろ色々と」
「だからこそ0からサッカー部を作れたんだろうけどよ」
中学時代からの付き合いで、勝也と共に立見サッカー部の初期を支えた成海、豪山。それぞれ友人の早さに笑う。
「なんていうか……プロにもなったりと、手の届かない遠い所に行っちゃったって気分かな」
「どっちも簡単に出来る事じゃないせいか。凄い事を次々とやる人だ」
勝也が一気に遠い人間になった気がする。彼の結婚式の招待を受けて、大門と優也は共に同じ事を思った。
「ほあ〜」
「よーしよし、フォルナも一緒に見ようねー♪」
「此処ってネコのペットとか大丈夫だっけか……あ、OKか」
「駄目な所を勝兄貴は選んだりしないってー」
今回ペットも参列OKな場所を選んでおり、2人はちゃんとフォルナの事も考えてる。思いやりが伝わって小さく笑みを浮かべつつ、弥一はフォルナを優しく撫でてあげる。
「はぁ〜、試合より緊張するかもしれねぇ」
今回の主役で新郎の勝也は純白のタキシードを着て、不安そうに部屋をうろうろと歩き回っていた。
「落ち着きなさいってこの子はもう……」
両親2人は晴れ舞台に立とうとしている息子へ、大丈夫か?と心配そうな目で見ている。その膝の上には勝也の子、勝気がすやすやと熟睡中。
「やるって言ったのお前だろ。堂々としろ勝也」
そこへ太一が近づき、弟の右肩に手を置けば歩き回る足はストップ。
「やっと責任を果たせる大人になったんだ。ここまでやったからにはちゃんと京子さんを、家族を守れよ?」
兄として、家族を築いて守り続ける先輩として、太一は強く熱い眼差しで勝也を真っ直ぐ見ていた。
「勿論、俺にとって何より大切だから絶対に守る」
その太一に勝也は目を逸らす事なく、守ると言い切る。
「……お前本当……大きくなったなぁ」
「わっ、なんだよ……!?」
太一は勝也の頭をポンポンと撫で、彼の幼少時代が頭の中で蘇っていく。あの頃可愛い弟だったのが、一人の男に成長して愛する者と共に歩む。
ずっと弟を見てきた兄としては、込み上がってくる物があった。
「おお〜、勝也さんの白タキシード……かっけえぇ」
「間宮君、ちょっと声大きいから抑えて」
大聖堂内にて新郎である勝也が先に入場すれば、それを見た間宮は目を輝かせる。幸は声が大きいと注意。
勝也と京子の家族や身内と、2人の関係者達が出席して祭壇に立つ勝也へ皆の視線が集まっていく。
そこへ純白のドレスを纏う京子が、母親に手を引かれながら姿を現す。
「京子さん綺麗〜……」
「本当に……美しいな」
普段の京子とは違う花嫁姿に、弥一と輝咲はその美しさに目を奪われていた。
「(京子……)」
「(勝也……)」
主役である新郎新婦の2人は互いの姿を見れば、改めて想い合う。改めてこの人が好きで、愛していると。
心で強い結びつきを感じ取って、弥一は彼らなら大丈夫だと静かに1人で確信。間違いなく幸せな家庭を築いてくれるだろう。
「新郎、勝也。汝は病める時も健やかなる時も常にこの者を愛し、守り、慈しみ、支え合う事を誓いますか」
「はい、誓います」
「新婦、京子。汝は病める時も健やかなる時も常にこの者を愛し、守り、慈しみ、支え合う事を誓いますか」
「誓います」
祭壇に並び立つ勝也と京子はそれぞれ、牧師の読み上げる言葉に対して夫婦の誓いを立てる。
それから指輪の交換を行い、そして夫婦の証となる誓いの口づけの時。
勝也から京子へと唇を重ねた瞬間、式場からは割れんばかりの拍手が沸き起こっていた。
「あの2人の事、お前も見守ってくれよー?」
「ほあ〜」
弥一は拍手を送りながらこれからも側にいるであろう、フォルナに2人を見守るよう伝えれば、応えるように鳴き声を上げる。
2人が参列者達の間を寄り添い歩く姿に、皆が祝福の言葉を伝えていく。
「……緊張したぁ〜!」
人生最大の大きな出来事を経験した勝也。皆との歓談の時に、その緊張が解かれれば解放感に浸る。
「すげぇ格好良くて立派でした勝也さん!堂々としてましたよ!?」
「ああ見えて心臓バクバクだったんだよ。失敗して式台無しになったらどうしようって考えてたし」
試合よりも緊張していたが、間宮からすれば立派な花婿姿で何も失敗は無い。むしろ勝也への憧れが増すぐらいだ。
「つか今もなんか……凄ぇって思うわ。お前らが結婚して夫婦になっちまうって」
中学時代から勝也、京子と歩み続けてきた豪山からすれば、2人とも遠くへ駆け抜けていくように見えた。
「2人を見てると、結婚って良いなぁってなってきたなぁ」
「まずお嫁さん探し、というか彼女もまだ出来てないからね?」
「悲しい現実を今突きつけてくんな……」
結婚に対して羨ましく、自分も意欲が高まってくる川田だが翔馬に現実を突きつけられ、肩を落としてしまう。
「京子さん、本当におめでとうございます」
「ええありがとう。次は……輝咲さんと弥一君の番ね」
「!……はい」
「お?お?早くも次の結婚式ありそうな予感ですか〜♪」
花嫁姿の京子に輝咲は改めて祝福の言葉を述べると、京子から次は2人の番と言われて、輝咲は驚いて頬を赤くさせるも小さく頷く。それを聞いた彩夏はマイペースながら、興味深そうに輝咲の方を見た。
今日の勝也、京子に続いて新たな結婚がありそうだと。
「これからはもう新婚パワーで後半のリーグ戦もガンガン行っちゃってよー♪」
「たりめーだ。何時の日か代表に呼ばれる為にもやるからよ」
「そうなったらまた忙しいね〜」
きつく締まったネクタイをさりげなく緩めつつ、弥一は兄貴分を祝福。その中でこの先の試合について話す。
J1のリーグ戦は後半戦がもうすぐ始まり、一度戦った19チームと再び総当たりとなって、また厳しい戦いが彼らを待つ。
「ああ、今も2人ともプロで忙しいですから代表に選ばれたりしたら……結構大変な日程になりそうですね」
プロの世界をまだ体感していない大門だが、弥一と勝也が色々忙しそうというのは分かる。特に弥一は部活の練習に、あまり参加出来ないぐらいに忙しそうだ。
「それでも代表には呼ばれてぇよ。あの八咫烏を胸に着けて世界と戦いたいし」
昔から日本代表の試合を見続け、憧れていた。世界と戦う大舞台に。何時かそこに行ってみたいから始まり、成長すれば絶対行く、と変わっていく。
呼ばれれば勝也は何時でも向かうと決めている。
「ああ、立見のユニフォーム決める時とかそれ意識したもんな」
サッカー部を共に作った時、ユニフォームの色はこれが良いと勝也が言った事を、成海は今でも覚えている。憧れの代表を意識して立見のダークブルーはそれで決まっていた。
「立見からも何人か代表出るかもしれないよねー?U-20辺りからとかー」
「そこは八重葉辺り多くなりそうだ」
代表に呼ばれるならこの辺りかもしれないと、弥一が予想するのを優也達も他校から選ばれる可能性がありそうな選手を言っていく。
「(折角の結婚式でも、結局サッカーから離れない……か)」
勝也を囲む立見メンバーがサッカーに関する話で、花を咲かせるのを太一は遠くで見守り、思わず小さく笑ってしまう。
その結婚式の後だった。
U-20日本代表に弥一、勝也の名が呼ばれて代表に招集されたのは。
春樹「勝也さんお幸せにぃぃ〜〜!」
間宮「大黒柱としてこれから頑張ってください〜〜!」
摩央「あの先輩達、号泣しながら叫んでるなぁ」
影山「彼も岐阜から来てたんだね」
弥一「話の中で登場はカットとなって、あとがきからの登場になりましたー♪」




