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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 国内プロ編

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全てを覆す存在

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 東京アウラとシエル東京のダービーマッチは前半、アウラが押し気味に試合を進めるも、シエルGKグリードの好セーブに阻まれて0ー0のまま折り返す。



 そして後半が始まると、司令塔として機能し始めた勝也をシエルは徹底マーク。



「ってぇ!?」



 フィールド中央でボールキープする勝也に、カルニャがボールごと右足を容赦なく削って来て、勝也は倒される。



『これはかなり激しいカルニャ!勝也倒されてファールだ!』



『カードは……出ませんね。注意ぐらいまでのようです』



 主審に注意されるカルニャは厳しく行ってないと、アピールするように両手を軽く上げた。



「勝兄貴大丈夫?」



「こんなもんどうって事ねぇよ」



 弥一が心配する中、勝也はすぐに立ち上がって小さくジャンプ。足の痛みは特に感じられない。



「勝也気をつけろ、お前狙われてるぞ」



 カルニャだけでなく複数の選手が、勝也に視線を向けている。潰されないように気をつけろと、太一から言われれば勝也の口元に笑みが浮かぶ。



「上等じゃねぇか」



 逃げる気という選択肢は彼の頭の中には無い。自分を狙うという事はそれだけ恐れている証拠だろうと、勝也はプロから認められているみたいで嬉しく感じた。




「(あ〜、かえってサッカーバカの火を点けちゃったかぁ)」



 彼らの狙いを弥一は心を読んで分かり、それを伝えようとしたが今の勝也には水を差すだけで、プラスには働かないだろう。



 それなら火が灯されて荒ぶるままに暴れてもらおうと、弥一は何も言わずにポジションへ戻る。




「出る杭は早めに打っておけ」



 ハーフタイムで波坂から選手達に伝えられたのは、勝也への徹底マーク。弥一が身動き出来ない今、アウラの中心となっているのは勝也。



 それをシエルの面々は認めていた。なので勝也を全力で潰しに行く。




「(ルーキーにこれ以上やらせるかよ!)」



 ボールを持った勝也へ、泉口が左からショルダーチャージを仕掛ける。



「っとぉ!」



「おわぁぁ!?」



 ぶつかりに来た泉口と肩同士が接触した瞬間、勝也がターンでクルリと回って、衝撃を上手く受け流す。泉口の方がバランスを崩し、勝也はその間に振り切っていた。



 この辺りは立見高校に居た時、弥一や輝咲の合気道で鍛えられた経験が活きていく。



『鮮やかなターンから勝也、ゴール前のジャレスに送った!』



 再びジャレスにボールが渡り、高崎と争いながらも左足でシュートを撃つ。



 ゴール右上と枠を捉えているが、そこに伸びてくるのはグリードの長い左腕。ダイブからボールを大きく弾き飛ばす。



『これも止めたグリード!ビッグスパイダーによるスーパーセーブだ!』



『ううん、今のは入っててもおかしくなかったんですがリーチがやっぱり長いですね彼は……!』




「うわー!もう、あれ止めちまうのかよぉ!」



「良いって、流れこっちだからもう1本行くぞ!」



 今のシュートを入れる事が出来なくて、ジャレスは悔しそうな表情を見せる。そのエースに勝也は軽く肩を叩き、励ましていた。




「(良い、マークが集中してきても負けていない。その調子だ勝也)」



 シエルの選手達が勝也に寄せて来ても、彼はそれを振り切って司令塔としての役割をこなす。



 後半になっても懸命にボールを追いかけ、走り回る勝也に音崎は最後まで、この調子で行ってほしいと願う。




「そこ左上がってるー!7抑えてー!」



 シエルが反撃で攻め込んで来るも、カルニャのサイド攻撃を狙って来ると弥一が左の風岡達に指示を送る。



「(ならこうだ!)」



 ドリブル突破が難しいと瞬時に判断すれば、カルニャは右足で大きく左へサイドチェンジ。



「勝兄貴11番ー!」



「!」



 弥一もまた瞬時に勝也へとコーチング。その声を受けて勝也は迷う事なくダッシュを開始。



 反対サイドにはアルーベが待っていて、ボールをそのままヘディングで中央に折り返す。そこには何時の間にか中央へ移動していた、山野が待ち構える。



「おらぁぁ!!」



「ぎゃっ!?」



 このボールは通さないと、気合いの雄叫びと同時に滑り込んで山野がトラップしたと同時に、スライディングで弾き出す。



 しかしこれがファールと判断されて主審が笛を吹く。



『攻撃を断ち切ったかと思えば勝也、ファールを取られてしまう!』



『あー、イエロー出ますねこれは。やはり少し激し過ぎましたかね』



 主審が勝也にイエローカードを掲げる。勝也はこの試合1枚目だ。



「くっそ……悪い」



「PKだったら何してくれんだよー、だけどFKなら良いって♪」



 すまないと謝る勝也に弥一はPKじゃなきゃ大丈夫と、明るく笑って励ます。




『シエルFKのチャンス!これは破壊力抜群のシュートを蹴る、ウルグアイの重戦車アルーベの出番か!?』



『壁としては怖いですよね。バズーカ砲みたいに彼のキックは凄まじいですから』



 アウラが壁を作り、シエルは泉口とアルーベがボールの前に立つ。



「集中しといていいよ、アルーベだけにさ」



「ずいぶんと言い切るな。奴が蹴るのを分かってるみたいに」



「僕の読みが当たるの知ってるでしょー?」



 向こうはエースで来ると弥一がロッドに伝える。本当は彼らの心が見えて、狙いは丸見えだったがその事は言わずに読みと誤魔化しておく。




 シエルのFKが開始。弥一が心を覗き見した通り、アルーベが助走からの右足で狙い、大砲を思わせるパワーシュートがアウラのゴールを襲う。



 壁の頭上を越えて迫れば、ロッドが真正面でボールをキャッチ。ズシンとした重みのあるシュートが体に伝わるも、彼は表情を変えない。



 ダイナミックなセーブを見せるグリードとは対照的に、ロッドは堅実なセーブでゴールを守った。



『ロッド真正面でガッチリと掴んだ!っと、スローイング!カウンターだアウラ!』



 投げられたボールを勝也が左足でトラップ。左の風岡が走り出したのが見えたので、左サイドのスペースを狙って右足でロングスルーパスを送る。



 これが走っていた風岡に渡り、アウラのチャンスにサポーターの歓声が沸いていく。



『通った風岡!このまま切り込むか!?』



 シエルの守備は風岡のドリブル突破を警戒して、距離をとっていた。風岡は左から切り込む、と見せかけて左足でジャレスに速く低いクロスを蹴る。



『左からのクロス、高崎クリア!』



 ジャレスへのシュートを許さず、高崎が体を投げ出してのダイビングヘッドで、ボールを外へ弾き出す。



 そこへ勝也がクリアされた球に迫って、側にはカルニャが並走して追う。



 両者がボールを取ろうとした時、2人の体が激しく激突。



「うぉわぁ!?」



 ぶつかった2人が派手に転倒。これを後ろから見ていた主審は、すかさず笛を吹く。



『これは両者凄まじい激突!大丈夫か!?勝也の方は起き上がり、カルニャの方は少し痛そうな表情ですが……』



『あー、主審は勝也のファールを取りましたか。カルニャの方かと思ったんですけどね』




「勝也大丈夫か!?」



「おう、平気平気!」



 太一が心配して駆け寄って来れば、勝也はなんともないとアピール。



「(けど折角のカウンターチャンスを潰されちまった……いいや、まだ時間あるし次だ)」



 今のカウンターで得点に繋げられなかった事が悔やまれるも、勝也は流れていったボールを手に取り、次だと後ろを向いたまま相手に投げ渡す。



「っと」



 それが取りに来た高崎の手を弾き、ボールが外へ流れていく。



 するとこれを見ていた主審が勝也の元へ近づくと、黄色いカードを再び掲げた。




「え……!?」



 一瞬何が起こったのか、勝也には理解出来ず。段々それがイエローカードだと分かれば、スタジアムは騒然となる。



『あーっと!?これは神山勝也に2枚目のイエロー、という事はこの試合退場!次節の試合も出場出来ません!』



『投げ渡したのが試合を遅らせる遅延行為とみなされたんでしょうか、しかしこれは厳しいですね……!』




「ちょ、待ってくださいよ!?俺そういう事したつもりない!」



「今のがイエローは違うでしょー!」



「そんなの勝也はやってないですよ!」



 これには勝也本人も含め、弥一と太一にアウラの面々が納得いかないと猛抗議。アウラのサポーター達も大きなブーイングを送っていた。



 しかし主審は首を横に振り、判定を変える気配は全く無い。



「試合遅らせるとか勝兄貴はしてないからねー!?」



 弥一は主審の心を読むと勝也が遅延行為を働き、非紳士的な事を行ったと判断してカードを出したのだと分かる。



「待て弥一!……いい、もう」



 主審が弥一を見下ろすのが見えて、このままでは彼までカードを貰うと思い、退場処分を受けた勝也本人が止めた。



「けどー!」



「お前が退場とかになる方がでけぇだろ、このまま食い下がってもしょうがねぇから……」



 勝也は弥一に言い聞かせた後、フィールドから出ていく。



 その時、弥一の目に一瞬見えた勝也の涙を流す姿。大事な時に戦えなくなってしまう、強い無念の思いが彼の心を覆っていった。



「(勝兄貴……)」



 悔しいという彼の心の叫び。弥一のみがその声を聞いて、小さくなっていく勝也の背中から目を離さない。




「何でだよー!」



「あれ誤審でしょ絶対!」



「ふざけんな審判ー!!」



 重苦しい空気が漂う東京アウラの選手達、サポーターのブーイングは止まらない。ベンチの音崎も難しい顔を浮かべていた。




「(どうやら運がこっちに味方したみたいだな。波に乗った選手の退場は向こうにとって大きな痛手だ!)」



 一人少なくなった相手にシエルの勝利する確率が高まり、波坂は平静を装いながらも、内心では有利な展開にほくそ笑む。



 これで攻めない訳がなかった。




『1人少なくなったアウラ!シエル左からのクロス、岩本弾く!』



 猛攻を仕掛けて来るシエル。1人少ないアウラは防戦へと追い込まれていく。



『セカンドにアルーベ詰めている!』



「ぐぅっ!」



 転がって来たボールをそのまま右足で狙うアルーベに、太一がその前へ飛び込むと、豪砲と化した球を背中で受け止める。



 激痛を覚悟でシュートを弾くと、ボールは跳ね返って左サイドの風岡にまで行った。



「賢人走れー!!」



 風岡は逆サイドの賢人に叫ぶと、大きく右へ蹴り出す。これに賢人は右サイドをダッシュで駆け上がる。



「神明寺走ったぞ!マーク!」



 弥一も攻撃チャンスと見て前へ上がると、それを見た鈴木がアルーベに伝えながら自身もマークに向かう。後半も攻撃で弥一を自由にさせないつもりだ。



『アウラカウンターのチャンス!右の源田からクロスが上がった……グリード高い!キャッチで防ぐ!』



『やはり2 mとなればハイボール圧倒的に強いですね』



 源田からジャレスへの高いクロスも、2mの長身GKグリードに取られて、攻撃を断ち切られてしまう。




「ああくそ……!」



 退場となった勝也はフィールドだけでなく、ベンチに留まる事も許されない立場となったので、ロッカールームにてスマホのライブ中継で試合を見守っていた。



 自分が退場になったせいで皆に大きな負担をかけて、足を引っ張ってしまった事を悔やみながら、東京アウラの勝利を願う。




「はぁっ……はぁっ……」



 弥一は両膝に両手を置いて、息を切らして辛そうな姿を見せている。ポジションに戻る事が出来ず、その場に留まっていた。



「(よし、あいつはもう限界だ)」



 シエルのボールとなり弥一の姿を見れば、アルーベも鈴木も意識を攻撃に切り替えて、アウラのゴールを向く。



 ボールを取ったグリードは大きく出そうと、右腕のスローイングで泉口に向かって遠投。



 相手が1人退場になった事でマイボールにした時、シエルの攻撃の意識がより強く出る。



 攻撃に移る瞬間、疲労していた弥一の口元がニヤッと笑みを浮かべると共に、泉口に出された遠投のスローイングへダッシュで駆け寄っていく。



『大きく出したグリード!シエルのカウンター……え?』



 突然入って来た小さな選手。彼の目は鋭くゴールを睨み、泉口の前でグリードの遠投を右足のボレーで、シエルのゴールマウスへ撃ち返した。



 思いっ切り投げてカウンターに繋げたつもりが、自分の右脇を突然風を切るようにボールが通過。



 ゴールネットが大きく揺れ動いた時、東京ダービーマッチの熱気に包まれた東京スタジアムは一瞬静まり返る。



 ビッグスパイダーと呼ばれる名手は呆然と立ち尽くし、シエルの選手達も似たような反応。監督の波坂も目の前の光景が信じられないといった表情だ。




「やったーー!」



 弥一がゴールを決めて飛び上がったと同時にスタジアムから、この日最大の歓声が沸き上がる。



 1人退場となった劣勢も、勝也の退場となった悔しさも、全てを一撃で吹き飛ばしてみせた。



 J1の舞台で16歳のルーキーが新たな歴史を刻み込む……。

ディーン「何故俺が呼ばれる」


弥一「皆あとがきどころじゃなさそうだから、イタリアから特別ゲストって事でー♪」


ディーン「……単純に撃ち返しただけでなく、ターゲット(泉口)の近くでわざと疲れたフリをしてたな。それで到達する距離を縮めてより確実に間に合うようにした」


弥一「あー、やっぱディーンには分かっちゃう?とにかく騙して引き離そうと思ったんだよねー」


ディーン「一番大きかったのは向こうの攻撃意識が大きくなり過ぎた事か。演技も含め、弥一への警戒心が薄まった所にあの不意討ち。という要素があって今のゴールが生まれたんだろう」


弥一「解説ありがとうー♪多分話の中だとこういう解説出来ないと思うから今回あとがきでやってみました♪」


ディーン「別に解説役になったつもりは無いが」

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