レジェンドを止めろ!
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『神明寺弥一プロ初ゴールー!東京アウラ先制!なんという曲がりのキックを見せてくれたんだ!?』
『強風が影響してあんな曲がりになったんでしょうか?もう魔球と言っても良いですよねあれは!』
大歓声を浴びながら弥一はスタンドへ駆け寄り、サポーターと共に自身のゴールを喜ぶ。その後ろから勝也にジャレスと続き、もみくちゃとなっていく。
「お前何であんなん蹴れるんだよー!?」
「凄すぎて意味分かんねぇって!」
「強風が味方してくれたんじゃないのー!?」
祝福したりされたりする中、あんなキックをよく蹴れるなと言われるが、弥一としては風の影響もあってか良いキックとなってGKを騙す形となって、今吹いている風へ密かに感謝する。
「嘘だろ……あんな曲がるの、今まで一度も見た事無いぞ……!?」
掴めると思ったら信じられない曲がりで、自分の手から逃れるように動くボールを目の当たりにして、代表経験を持つ浪川も呆然とさせられてしまう。
「ショックを受けてる場合じゃない。こっち負けてるんだからすぐ切り替えて攻めるぞ!」
豊富な経験によって修羅場には慣れているせいか、キャプテンの大木はパンパンと手を叩いて選手達を鼓舞。他のベテラン選手も経験の浅い若手を励まし、前を向かせる。
『押していた神戸でしたが先制点は東京。アウェーとはいえ優勝を狙う神戸としては、是が非でも同点ゴールを狙いたい所でしょう』
『首位の埼玉フォルテが引き分けで勝ち点迫るチャンスですからね。今のうちに追いつけるなら、追いついておいた方が良いですよ』
神戸はすぐにキックオフで試合再開。同点を狙おうと、前半と違って懸命に走り攻撃的に出た。
「(そんな無理しちゃっていいのかな〜?)此処しっかり守備がっちり守ってー!」
先制した弥一はDFラインから神戸の動きを観察。周囲に声を掛けて、守備陣を引き締めさせる。
此処を粘れば自ずと向こうは自滅してくれるのだから。
ピィーーー
『オルトドまたしてもオフサイド!』
『この時間帯になっても東京ライン乱れませんね、素晴らしい』
神戸は積極的にオルトドへボールを集める事を狙ったが、すかさずDFラインを上げた東京によって、オフサイドとなってしまう。
「今のオフサイドかホントに!?」
かなりイライラしているオルトドが線審に詰め寄ると、それを神戸の選手達が止めて彼を宥めた。
1ー0と1点差のまま時間は経過して、神戸も焦る時間となってくる。
「「今日もゼロ!ゼロ!ゼロー!!」」
「そうそう今日もクリーンシート(無失点)の日だよー!」
東京サポーターからは、このまま逃げ切る期待を込めての大合唱が始まり、弥一はそのサポーター達を盛り上げていく。
「(あの年でたいした盛り上げ上手だな……)」
スレイダーは静かに弥一とサポーター達の姿を見て、煽るのが上手いと感心。
「(ただ、クリーンシート宣言はまだ早い)」
それと同時にこのまま済ます気は無いという気持ちが強まり、まだ勝利を捨ててはいない。
「っらぁぁ!」
終盤に神戸のDFシグも積極的に上がり、ロングレンジから右足でパワーのあるシュートを狙う。
「ぐぅっ!」
これを太一が体を張ってシュートブロック。左肩に激痛が走るも、歯を食いしばって耐え切れば再びボールを追いかける。
『凄まじいシグの弾丸シュートを神山太一、身を投げ出してブロックー!』
『痛いはずなのに堪えてボールを追いかけるって凄まじい根性ですね!?』
「兄貴!」
「!おう!」
球に追いついた太一の目に、上がっていた勝也がボールを求めて右手を上げる姿が見えた。今なら誰のマークも無く、太一はフリーとなっている弟へ迷わずパスを出す。
「おわっ!?」
しかし勝也、太一の死角からスレイダーが現れると太一のパスに飛び込み、インターセプトに成功。
『取ったスレイダー!神戸はシグも含めて前線に多く人が残ったままだ!』
『チャンスですよ神戸、パスのターゲットは結構いますからね!』
攻撃的に出ていた神戸は早々にスレイダーがインターセプトして、守備に戻る必要はなく前線に留まる。
「左フリー!」
ロッドがゴール前から神戸のフリーになってる選手を見つけ、コーチングで伝えていく。だがスレイダーはパスを出さずドリブルを開始。
「(行かせるかこの!)」
並走してきた勝也がスレイダーの左肩めがけて、ショルダーチャージでぶつかりに行く。
「わっ!?」
当たると思った瞬間、スレイダーのドリブルが1段階スピードを増す。それが勝也の目には相手がフッと消えたように見えて、驚くとバランスを崩し転倒。
「(取れる!)」
ドリブルのスピードを上げた事で、足元からボールが離れた所を狙って太一は滑り込み、スライディングのクリアを狙う。
「!?」
しかし太一のスライディングが届く前、球がデコボコになった芝によってバウンドしたか、ボールは逃げていくように太一の上を越えていった。
そこにスレイダーが追いつき、神山兄弟2人を抜き去る。
「(無いでしょパス)」
「!」
太一を躱した直後にスレイダーの前へ立ち塞がる弥一。互いのパスを潰し合った2人が、終盤でついに直接対決。
何度も長距離のパスをカットされ、彼がいるならスレイダーはドリブルで直接持ち込もうと考えていた。その思考を弥一は読むと、ゴール前から離れて迷わず向かう。
彼に見つかる事なく、周囲の選手をブラインドにして忍び寄る。そして目の前の獲物を発見。
スレイダーは弥一も抜き去るつもりで、足元のボールを操り右や左に素早く動き、年齢を感じさせない機敏さを見せた。
「……!」
いくつものフェイントを匂わせる動き、通常なら困惑させられるが弥一は釣られず、スレイダーにピタリと付いている。世界で数え切れない程、強者と渡り合ってきたレジェンドも驚く。
『これは、抜けないスレイダー!神明寺、世界一を獲得しているプレーヤーを相手に通さない!』
するとスレイダーは左足を振り上げ、シュートかパスに行くモーション。だが弥一は飛び込まず、これが罠だと分かっていた。
その通りスレイダーが左足でキックに行くと見せかけ、切り返して右から弥一をドリブルで抜きにかかる。読んでいた弥一はそのドリブルコースを塞ぎに動く。
直前で今度はスレイダーの右足が動き、素早い切り返しと強い踏み込みで左からの突破を狙う。
「(甘いね!)」
これも弥一は読んでいたか、再び突破を阻止しようとした。
「(来ると思った)」
しかしスレイダーは弥一が食らいついて来るだろうと読み、コースを塞ぎに来る彼を見れば左足でボールを軽く浮かせる。
連続キックフェイントから、頭上を越すチップキック。長年磨いてきた技を見せて、弥一の左を突破していく。
「抜かせないっとー!」
「!!」
小さな彼の次のプレーに、冷静なスレイダーの表情が驚愕に染まり、スタンドからは驚きの声が上がる。
弥一はチップキックを蹴られ、自分の頭上を越えて来た時、クルッと背を向けて飛び上がった。そこから右足を空に向かって上げると弧を描くボールを捉え、蹴り飛ばしてのクリア。
『オーバーヘッドでクリア!守備で魅せる神明寺弥一!!』
『スレイダーの連続フェイントも驚異的でしたが、神明寺はそれを越えてますね……!』
会場が弥一の守備でのスーパープレーに魅せられてる間、ボールが宙を舞ったタイミングで主審が試合終了の笛を鳴らす。
『試合終了ー!1ー0で東京アウラが6連勝!好調のビクトリー神戸をも破り、とうとう連敗を連勝が数字で上回りました!!』
『今回はもう神明寺、ロッドの活躍無しではこの勝利は無かったですね。守備による勝利です』
6連勝で神戸を破った事に、ホームの東京アウラはお祭り騒ぎの状態。選手達もサポーター達もこの勝利に喜び、歓喜の輪を作っていた。
「疲れたぁ〜!」
オーバーヘッドの後に弥一は倒れたまま空を見上げ、今の気持ちを叫ぶ。今日は何時もより走ったり、驚かされたりと心身共に消耗する。
「怪我、してないか?」
「あ、どうも〜♪」
そこに近づいて来た1人の選手。先程まで激闘を繰り広げたスレイダーが、弥一の傍まで来ると右手を差し伸べ、弥一はその手を掴んで引っ張り起こしてもらう。
「僕を真っ向から止めてきたDFは随分久しぶりになる。何年ぶりかの……極上のサッカーを楽しめた事に礼を言う」
スレイダーとしては良いサッカーが出来たようで、それが出来た事に弥一へ感謝を述べていた。
「こっちも滅多に味わえないレジェンドとのサッカーが出来て良かったよー、シーズン後半ぐらいにまたやれるといいね♪」
「怪我無し、またはカードでの出場停止が互いに無かったらな」
レジェンド相手にも弥一は変わらぬ陽気な笑顔で接し、握手を交わす。これで終わりではなく神戸とはリーグ後半にも再び戦い、更にカップ戦で当たる可能性もある。
そこでまた激闘があるかもしれない、ただ今日は勝利を喜んでおこうと弥一はスレイダーから離れ、ヒーローインタビューに向かう。
「(ディーンの他にいたか……フットボールに新たな風を吹かせるかもしれないルーキーが)」
直接戦って分かった。彼の力がサッカー界全体を揺らすかもしれないと。
一体彼がこの先どんな風を吹かせるのか、ヒーローインタビューに応える弥一を見た後に、スレイダーは小さく笑うと神戸のベンチへ引き上げる。
東京のスタジアムは弥一への応援歌で一体となっていた。
東京アウラ1ー0ビクトリー神戸
神明寺
マン・オブ・ザ・マッチ
神明寺弥一
弥一「試合終わったー!神戸牛〜♡」
勝也「やっぱ飯一直線か、そんな食いたかったんだな」
弥一「だって神戸って聞いてからずっと食べたいと思ってたんだもんー!もう今日の晩御飯はそれで確定だからねー!」
賢人「神戸牛なら肉寿司のがあるみたいですよ、それが絶品らしいので」
弥一「うにゃぁぁ〜♡肉寿司なんて素敵なワード〜♡」
勝也「ちょ、賢人さん!弥一もう幸せの世界旅立ってるじゃないスか!?変な猫みたいな声まで出たし!」
太一「まぁ……彼のおかげで勝てたし今日くらいご馳走しようか」




