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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 国内プロ編
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感情の爆発

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 ホームで先制された東京アウラ。一方の埼玉フォルテはこの先制を切っ掛けに、アウェーの地にも関わらず積極的な攻撃を見せていた。



『ほぼワンタッチ、ツータッチで回す!っとミドルー!岩本なんとか体に当ててコーナーに逃れた!』



 J屈指の中盤と言われる埼玉のパス回し。そこからダイレクトのミドルシュートが撃たれ、東京DFの岩本が体を張ってブロック。



 埼玉の右からのCKに、ゆっくりと上がってくる選手の姿があった。日本の闘将こと王牙だ。



「ほらぁ!足んないぞ皆!もっとパワーくれよ!!」



「ウィーアーフォルテ!ウィーアーフォルテ!!」



 応援の後押しを頼む仕草を見せる王牙に、埼玉スタンドのサポーターは更に声を大きくさせる。会場は異様な熱気に包まれ、この状態でセットプレーを行う。




「上手く自分達の場に染め上げてますね。かなりやりづらそうです……」



「観客の応援をあおって自分達のペースに引き込む、ああやるのか……」



 ホームなのにフォルテのペースに場が染まりつつあって、賢人はやり難いだろうなぁと思う横で、勝也は王牙の応援の後押しについて参考にしていた。




 セットプレーが始まり、速いクロスが中央に放り込まれる。それに王牙が合わせに行くと、岩本が競り合って来た。



「ぐぉらぁ!!」



「うわぁ!?」



 長身の岩本を跳ね飛ばしながら、王牙は頭で正確に合わせる。全身を使ったダイナミックなヘディングに、ボールは勢いよく飛んで本道がダイブする間もなく、ゴールネットを揺らす。



『決めた滝口!魂のヘディング炸裂ー!フォルテ早くも2点差に突き放すゴールだ!!』



『物凄い勢いでしたね!こんな豪快なヘディングを混戦で行けるのは日本の闘将と言われる滝口ぐらいでしょう』




「王牙!王牙!王牙!」



「ありがとなー!おかげで力入ったわ!!」



 王牙は仲間達と喜び合いながら、埼玉スタンドの方へ向かって礼を伝えていた。




「これ不味いな。流れがあっちに持ってかれちまってる……」



「士気とか向こう高くなってるからねー、得点重ねて勢い増しちゃってるし」



 早々に2点差とかなり不味い流れ。勝つには此処から3点を、埼玉相手に取らなければならなくなった。しかし弥一もジャレスも、今の東京の状態から逆転のビジョンは見えないままだ。




「皆もっと攻めろって!引いてるから!」



 外から見て勝也はチーム全体が、埼玉フォルテの圧に押されて引き気味となってしまっている。これでは駄目だとベンチから大きく声を上げて、フィールドの選手達に伝えた。



 その時。



「勝也、準備しとけ」



「!はい!!」



 コーチからアップするよう言われ、勝也は意気揚々とベンチから飛び出して走りに行く。



 ついに念願のプロデビューが近づくと。




「(攻めたいけど、前向けない……!)」



 東京の司令塔、松川はボールを持つが埼玉の選手2人が素早く寄せて、自由にさせない。攻めの姿勢はあるが、相手はそれを許さなかった。



「くっ……!」



 佐々木は最終ラインから、埼玉ゴール前へロングパスを送る。しかしFWの堀田に王牙が競り勝って、頭で跳ね返す。




「このままだと2ー0程度では終わらないかもしれませんね……」



「何不吉な事言ってんすか賢人さん!これからでしょ!?」



 賢人の外から見たデータの限りでは、今の東京が2点差をひっくり返しての逆転勝利が出来ない。それどころかもっと突き放されると、勝也はそれを聞いて諦めず声を出して応援する。



 しかし賢人の悪い予感は当たってしまう。




『これはなんと!GK本道が痛恨のキャッチミス!零れた所を見逃さず小熊が今日2点目のゴールだ!』



『今のは本道痛いミスですね。あれはキーパーが取らなきゃいけないボールですよ』



 左サイドから埼玉に抉られ、高いクロスを上げられると本道が任せろと前に出てキャッチに行く。だが彼は掴めずポロッと手から逃げるように離れてしまう。



 そこに小熊が詰めて押し込み、3ー0と突き放す。



「何やってんだ本道てめぇ!」



「下手くそなキャッチすんなこの雑魚キーパー!」



「引っ込めー!!」



 信じられないミスに東京サポーターからは、本道に大ブーイングが浴びせられる。彼自身もガックリと膝をつき、落ち込んでいた。



 ドンマイとかそういった言葉は一切無く、彼らの言葉一つ一つが刃物となって襲いかかる。




「東京アウラもうガタガタだな」



「絶不調過ぎてJ2行きマジでありそうだぞ」



 埼玉フォルテのベンチでは、東京の姿を見て大半が今日の勝利を確信。談笑する余裕が出て来ていた。




『通った小熊!ゴール前、シュート!小熊ハットトリックとなるゴール!!得点ランキング首位独走だー!』



 ボール回しに余裕の出た埼玉。東京の選手達がプレスに行くも、難なく躱して小熊まで繋げると左足のワントラップから浮かせ、相手のマークを躱して落ちてきた所に右足で豪快なミドルを放つ。



 本道が飛びつくも届かず、ゴールネットが今日一番の揺れ動きを見せた。ハットトリックとなる小熊のゴールに、埼玉サポーターは祭りが始まったような盛り上がりだ。



「終わってない終わってない!前向け前!」



 怒涛の4失点にショックを隠しきれない東京イレブンに、太一が懸命に声を出せば手を叩いて励ます。しかしキックオフに向かう、選手達の足取りは重かった。




「諦めちゃってるね東京ー……ま、4点差が後半でついたからしょうがないか。そこから逆転勝利とか見た事ないし」



「今日も駄目かよ……」



 ジャレスが頭を抱える隣で、弥一はこの試合もう勝てないなと見ていた。これが全員諦めず、不屈の精神を持っていれば話は別だが彼には見えている。



 諦めていないのは数名ぐらいで、大半は心が折れてしまった。もう今日は勝てない、無理だと。



『小熊止まらない4点目ー!今日は何処まで得点を重ねる気だ!?』



 東京はエリア内でファールを取られ、埼玉にPKを与えてしまう。これを小熊が本道の跳ぶ方向とは逆のコースに蹴り込み、5ー0と絶望の底に叩き落とすゴールを決めた。




「だからそこ行けってくそー!」



 勝也は相変わらずフィールド外から声を掛け続ける。



「勝也、交代だ!」



「!!はい!」



 やっとこの時が来た。イメージしていたデビューと違う、圧倒的な点差がついてしまっているが、プロの舞台に立つ事に変わりない。



『東京は選手交代ですね。松川を下げて背番号24、神山勝也が入って来ました!この春に立見高校を卒業したばかりの18歳となった若武者がJ1デビューです!』



『ついにお兄さんと同じ舞台に立ちましたね。この状況じゃなければもっと盛り上がってた所ですが』




「どらぁぁ!!」



「おっと?」



 ボール回しを再び行い、王牙にボールが来ると勝也が必死な形相で走り、滑り込んでのスライディングで取りに行く。しかしこのがむしゃらな動きに、王牙はパスを送って冷静な対処を見せる。



 6点目を狙ってショートパスの連続で繋ぎ、ゴールに迫れば再び小熊にパスが渡った。



「うおっ!」



 これ以上は通さんと、太一が左からショルダーチャージでぶつかる。小熊のドリブルスピードは一瞬鈍るが、185cmの恵まれた体格でぶつけ返す。



 体格で劣る太一は吹っ飛ばされ、小熊が振り切ってフリー。かと思ったら1人の選手が詰め寄る。



「(決めさせるかよ……!)」



「!」



 追いついたのは勝也。彼は低い位置からぶつかっていくと、小熊はその衝撃に驚くと同時に足が止まった。



「(中々良いショルダーチャージをしてくる……!?)」



 勝也が粘って足止めをしている間、太一も追いついて2人がかりで小熊のボールをなんとか弾く。



『神山太一、勝也!兄弟2人でエース小熊を食い止めました!』




 追加点を許さなかったが、試合はこのままタイムアップ。東京アウラの完敗で5連敗、埼玉フォルテは5連勝と首位をキープする。



 またしても完敗の東京。それも5ー0と今シーズン最多の点差で敗戦と、下を向いて落胆のイレブン。



 だがそんな彼らを許せない者達がいた。




『何やってんだてめぇら!恥ずかしくねぇのかよ!?』



『何時になったら勝てんだコラ!』



『ホームでなんだこのザマは!アマチュア相手じゃねぇと勝てねぇのか!?』



 怒るサポーター達による遠慮の無い罵声。試合の時以上に、厳しい言葉が飛んできていた。



『本道辞めちまえ!2試合8失点の守護神なんかいらねぇんだよ!このゴミ!雑魚!虫けら野郎が!!』



『攻撃もヘタレ揃いじゃん!ゴールする気あんの!?サッカーってゴールしないと勝てないのをちゃんと理解してますかー!?』



『途中で諦めてるし勝つ気ねぇだろ!そんなにJ2落ちたいか!?』



『つか音崎辞めろ!お前が率いてから負けっぱなしで疫病神だろうが!東京から出てけこの野郎!』



 選手達への罵声は全く収まらず、個人を傷つけるような暴言まで飛び出す。



「皆落ち着いてくれ!次勝つから、絶対勝つから!」



 太一が落ち着くようにとサポーター達に伝える。



「信用出来るかボケ!5連敗でホームで勝てなくて失点多い、得点出来ねぇ!これでどうやって勝つんだよああ!?」



 だが火に油を注ぐような結果となったようで、サポーター達の怒りは益々ヒートアップ。選手達を守るように、警備員達が前に立つ事態にまで陥っていた。




「皆さん、申し訳ないです」



 そこへ監督代理を務める音崎がサポーター達の前に出て、謝罪の言葉を口にする。



「折角応援に来てもらって、勝利を届けられなかった事。本当に申し訳ないし悔しいと思ってます。これは我々の力不足で、これから更に力を付けてチームを一つに……」



「力不足過ぎんだよ!」



「お前が辞めりゃ良い話だろうが音崎ぃ!この疫病神が!」



「良い所なんもねぇチームをどうやって立て直す気だよ!?良い言葉並べてやり過ごそうとしてんじゃねぇぞ!」



 謝罪の言葉を述べてる途中で、割り込んで来るように東京サポーター達の暴言が飛び出していた。




「(なんだよこれ……)」



 共に戦うチームはそれぞれバラバラ。更に応援するサポーターからは好き放題に貶され、目の前には憧れのプロの舞台とは程遠い、地獄の光景が広がる。



「やーめーろ!やーめーろ!やーめーろ!」



 東京サポーター達による音崎辞めろコールが広がり、収拾がつかなくなってしまっている。選手達も音崎の言葉も皆を止められず、やりたい放題だ。



「(こんなの、違ぇだろ……!絶対!)」



 勝也はキッと前を向けば、真っ直ぐリポーターの方へ走るを



「わっ!?おいキミ、何するんだ!」



 リポーターの持つマイクを勝也は強引に奪い取り、東京サポーター達の元へ行くと。




「うるせぇんだよてめぇらぁぁぁーーーー!!!!」



「!?」



 マイクによる勝也の怒号が東京スタジアムに響き渡り、東京の面々だけでなく埼玉側の方も皆が驚いていた。



「てめぇら好き勝手何言ってやがんだ!?こっちを応援じゃなくてケンカしたいのかよ!?」



「なんだてめぇは!今日デビューしたばっかのクソガキがしゃしゃり出てくんな!」



「出るに決まってんだろうが!同じ東京アウラなんだから当たり前じゃねーか!そこにクソガキもクソ親父もクソジジイも関係ねぇだろオッサン!!」



 サポーターが勝也にも容赦なく言葉をぶつけるが、勝也はすかさず強い言葉で言い返す。



「俺らだって勝ちてぇんだよ!こんな所で最下位争いなんかしたかねぇ!そっちだって上を行く俺らを見たいんじゃねぇのか!?」



「も、もう返しなさいキミ……!」



 マイクを返すよう求めるリポーターに構わず、勝也は言葉を続ける。



「それが辞めろとかてめぇが悪いとか、好き放題に貶したりして、それで下に落ちて無様に連敗し続ける姿を見て、それで楽しいか!?勝ちを重ねて上に登るより楽しいのかよ!?」



「っ……」



 まるでプロレスのマイクパフォーマンスのように、飛び出していく勝也の言葉を前に、騒いでいたサポーターが黙り込む。



「頼むから応援してくれ!こっちは次勝てるように最大限の努力するから、俺ら信じて応援してくれよ!なぁ、頼むよ!」



「勝也いい加減にしろ!!」



 そこに太一が駆け寄り、マイクを取るとリポーターに返して謝罪する。幸いにも勝也の言葉が功を奏したか、騒動は収まってきた。




「(……言うね、さっすが勝兄貴)」



 兄貴分が心を熱く皆へ語りかける姿を見て、弥一は小さく笑った後に席を立って会場をジャレスと共に去る。





「……おい、あのマイクで喋ってた威勢のいいガキ。名前なんつった?」



「え?確か神山太一の弟で神山勝也って18歳の……」



 埼玉側のベンチでは、騒動を見ていた王牙がスタッフに勝也の事を聞く。



「勝也……うん、面白そうだから覚えとくわ」



 密かに誰も知らない間、日本代表の闘将は新たに出て来た破天荒な若者に注目するようになる。




 埼玉フォルテ5ー0東京アウラ



 小熊4


 滝口1




 マン・オブ・ザ・マッチ



 小熊俊太

弥一「罵声が凄かったよ〜。皆やっぱストレス溜まってたみたいー」


ジャレス「まだ優しいな。ブラジルはあんな程度じゃねぇぞ」


弥一「ああー、色々起こってるみたいだからねぇ。酷い時は悲惨な事も起こってるって聞くし」


ジャレス「そう、だから皆勝つために必死って訳だ」


弥一「皆が機嫌良くなるには勝つしかないからねー。負けたら場を収める度に勝兄貴がマイクパフォーマンスしなきゃいけないしー」


ジャレス「流石にあんなクレイジーなのは見た事ねぇよ。お前の兄貴凄ぇな?」

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