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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 国内プロ編

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不満が爆発

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「アウェーでボコボコにやられちゃったみたいだねー」



「……そういうの、あんまり皆の前じゃ言わない方が良いぞ」



 東京アウラの練習グラウンドにて、何時も通り選手達が集まって練習をするが、チームの雰囲気は重い。



 弥一は休憩中にロッドの側で周囲の様子を見ていた。




 東京アウラと名古屋エポラールの試合は前半に名古屋が先制点を奪い、更に東京のジャレスが1発レッドを貰って退場処分となる。



 そこからはホームの名古屋ペースだった。



 後半にエースの大里が右足の豪快ミドルで1点を奪い、更に頭から飛び込むダイビングヘッドでもゴールを決めて、結果2得点の活躍を許す。



 点を取り返そうと風岡達が攻めるも、笹本の巧みな守備が光ったり、GKクルーガの安定したセーブにも阻まれ、1点を取り返す事すら出来なかった。



 3ー0、東京アウラの完敗で4連敗。勝也の出番は結局無いまま、彼はベンチで試合終了の笛を聞くだけだ。



 しかしこれだけでは終わらず負けた彼らに、東京から応援に来たサポーター達が彼らへ怒りを向ける。




「開幕から全然勝ってねぇじゃんか!!」



「おい!てめぇら勝つ気あんのかよ!?」



「J2にこのまま落ちて良いの!?」



「前回覇者が4連敗ってなんだよ!情けないにも程があんだろうが!!」



 応援したチームは何も良い所無く、無惨に完敗と彼らも怒りの感情が大きくなっていた。背中を後押しするサポーターが言葉を刃へと変えて、選手達を襲う。



 選手達はそれぞれ黙って聞くしかない、そんな彼らに罵声は止まってくれなかった。



「太一ぃ!てめぇ今日仕事してねぇよなぁ!?頑張り屋って言われてんのにサボりかましてんじゃねぇぞコラァ!!」



「な!?てめ……!」



 兄への暴言が聞こえ、勝也はサポーターの暴言にカチンと来て言い返そうとする。



「勝也!」



「っ!?」



 そこに太一が勝也の前に来ると、言い返そうとしていた弟の口を手で塞ぐ。この時の勝也は太一の表情が見えていた。



 絶対言うな、と弟に対して鬼のような形相で睨む太一。そこから先の言葉は決して言わせない。




「兄貴!いいのかよ!?あんな言われっぱなしで!」



「事実だ」



 ロッカールームに戻ると、勝也は納得が出来ず声を荒げるが太一は何も無かったかのように、ユニフォームから着替えていた。



「俺達が負け、不甲斐ない試合をしてしまったから彼らは怒る。それに応える為には良いプレーをして、勝利するしかない」



 プロでは当たり前の事だと、太一はサポーター達の言葉を受け止めて前に進む。




「……(本当にいいのかよ、このままで……!)」



 言葉を飲み込んだ勝也。今日の試合で東京は攻守で良い所が無く、一つにチームが纏まっているようには見えなかった。



 しかし何も出来ず、何も言えなくて好き放題言われて耐えるしかない。悔しさからか、勝也は拳が震えるぐらいに強く握り締める。



 翌日のスポーツ紙には「どうした東京アウラ!?」「地に堕ちた昨年覇者」「最下位でJ2降格もある!?」と、4連敗によってこういった記事が目立つようになる。



 チームは暗い道を彷徨い歩く。




「(本当……絵に描いたような絶不調と転落っぷりだなぁ)」



 心が読めても未来予知まで出来る訳ではない。まさか自分のチームがこうなるとは、弥一も思っていなかった。あまりそればかり考えると、こっちまで暗くなりそうなので話題を変える。



「ロッド、そういえば次ベンチ入りって言われたじゃん?おめでとうー♪」



「まだ試合に出られる訳じゃないし、控えGKの出番はそんな簡単に来ない。その言葉は早いぞ」



 弥一は知っている。ロッドがコーチから次の試合で、第2GKとしてベンチ入りするよう言われた事を。彼と共に多く練習を重ねたので、それが嬉しく思えた。



「まぁ、うん。出番はなぁ……簡単に訪れないもんだね」



 ロッドの出番が何時なのか分からなければ、弥一の出番も何時なのか分からない。以前の音崎との衝突を思えば、多分ロッド以上に可能性が低そうだ。




「……ん?」



 その時、練習に励む選手達の中に弥一は1人足りない選手がいる事に気づく。



「おい、何処行く?」



「ちょっと走りたくなったんで、軽く行ってくるね〜♪」



 席を立って弥一はロッドに明るく笑って伝えると、その場から走り去っていった。





「(ああ、思った通りサボりだねー)」



 練習前に弥一は彼の心を覗いている。やってられるかと、その時に大きな不満が感じられたので、途中サボって彼は敷地内の建物の影に隠れ、座り込んでいた。



 明らかに機嫌が悪そうな雰囲気を漂わせ、褐色肌の大柄な男へ弥一は近づく。




「練習やってらんないよねー」



「!ヤイチ……」



 弥一の前に居たのはジャレス。彼は練習をサボり、隠れてコーラを飲んで休んでいる。その彼の隣に座り、母国語であるポルトガル語で語りかけた。



「練習戻れとか、そう言われて連れ戻しに来たとかじゃないのかよ?」



「んな訳ないじゃん。僕もサボりサボり、毎日クソ真面目に練習なんか体持たないしさぁ」



 大柄なジャレスの隣に、ちょこんと座る弥一は彼と同じコーラを手に持っている。そのプルタブをプシュッと開けて、ジャレスと同じく飲めば爽快感が最初に来ると、後に甘みが伝わった。



「ぷはぁ〜、よく動いた後のコーラは染みる〜♡」



「……」



 自分の隣で美味しそうにコーラを飲む弥一を、ジャレスは自分も飲みながら見ていた。



「お前もコーラ飲むのか。スポーツ飲料のCMやってるから、そういうの駄目かと思ったぞ」



「飲み物くらい好きに飲みたいからねー。それしか駄目ってキッツいじゃん」



 構わず弥一はコーラを美味しく味わう。スポーツに炭酸は駄目だと言われるが今だけ解禁して何も縛られず、自由にやっている。




「……きついな、あれは駄目でこれも駄目って言われんのは。正直やってらんねぇよ」



 不満を吐き出して、ジャレスの缶を持つ右手は自然と力が入っていく。ほぼ中身が空になった缶は彼の手で潰されていた。



 普段からコーラを飲むなと言われ、禁止されたりサッカーもあれこれ指示されたりと、ジャレスの中で不満とストレスが溜まってしまう。それが先日の試合で悪い方に爆発したようだ。



「マジで嫌になっちまう、もうちょっと好きにやらせろってんだ……!」



 不満の止まらないジャレス。前の試合では試合を壊した愚か者と叩かれ、彼は反発するように腐っていた。




「本当……僕を出さないあの腐れ監督とかバカだよね。チームが不調の一番の原因は何も分かってないあのバカントクのせいだよ」



 すると不満を言うジャレスに、弥一も機嫌悪そうに愚痴を言い始める。



「ぶっちゃけて言うとさ、僕あのオッサン本気で気に食わないんだよね。こっそり1回闇討ちとか考えてるんだよ。背後から金属バットでガツン!って感じで」



「!?お、おい……それは……」



「チーム辞めてやろうと思ってるけど、このまま抜けてもスッキリしないし。最後に思い知らせて去ってやろうと思ってるからさ?」



 愚痴が止まらずヤバい事まで言う弥一に、不満を言っていたジャレスは自分以上に不満が大き過ぎると感じ、思わず止めようとしてしまう程だ。



 強過ぎて憎悪が膨らみ、犯罪にまで走りかねない程に。



「どうせもうこんなチーム上に行けないしさ?一緒に堕ちて巻き込まれるなんて嫌だし、ジャレスも強いんだからもっと融通効くチームへ一緒に行こうよ。このチーム嫌いなんでしょ?」



「え、俺……」



 一緒にチームを抜けようと言い出す弥一に、ジャレスは戸惑いの表情を見せる。その時、弥一は立ち上がりジャレスに背を向けた。




「あーもう、なんか言っててムカついてきた……!今すぐ辞めると行ってくる。音崎のオッサンもいたらブッ潰そっと」



「!」



 強過ぎる不満と闇を持つ弥一が、今からチームをさっさと辞めようと歩き出す。その右腕をジャレスは咄嗟に強く掴んだ。



「……何?」



 振り返る弥一の顔は苛立った顔で、自分の腕を掴むジャレスを睨むように見る。



「お前、早まんなって……!そりゃ出られない不満とか分かるけどよ、まだ4戦でそこまでする事ねぇだろ?」



「……」



「1回座ろう、な?」



 ジャレスは弥一を落ち着かせるように隣へ座らせ、改めて彼と話す。



「ケイタとか気に食わない所あるだろうけど、あいつはちゃんと見てて悩みを聞いたりして良い所もあるし、今は調子悪いけどチームがフルパワーを発揮すりゃ……物凄ぇチームってのも俺知ってるからさ」



「……」



 不満を言っていたジャレスだが、音崎やチームメイトが嫌いという訳ではない。彼なりにそれぞれの良い所を言うのを、弥一は黙って聞いている。



「だからその、見捨てないでやってくれねぇか?俺もまた頑張るし、何かあったら力になるから。早まった真似だけはすんなって……もう少し頑張ろうぜ、な?」



 このまま彼を行かせたら、取り返しのつかない大事をやってしまうと、ジャレスは説得するように弥一へ語りかけ続ける。



「力……なってくれんの?本当に?」



「勿論だ!練習とか付き合うし、遊びも一緒に行こうや!」



 弥一が不満な顔を見せて、ジャレスが明るく笑って励ます。いつの間にか先程とは互いの表情が逆転していた。



「じゃあ練習戻るから付き合って……後僕が今言ったの他には言わないでほしい。ややこしくなって面倒なの嫌だから」



「言わねぇよ、言う訳ねぇだろ!練習だな!?よし、戻るぞ!」



 あんな闇を抱えている事を、明るい笑顔の裏側に隠していた顔をジャレスは見てしまい、自分の胸の中にしまっておこうと決める。あれは表に見せたら駄目な顔だ。





「(作戦成功♪)」



 ジャレスの見えない所で弥一は笑みを浮かべる。



 普通に練習に戻ろうと言った所で、説得しても効果は薄い。なので自分が彼以上の悪童になってジャレス以上の不満、闇を見せる。それによって逆に説得されたり、良い効果を生み出していた。



 サイキッカーならではの企みと作戦。弥一は彼を連れ戻すと、共にロッドを相手にシュート練習を重ねる。

弥一「お疲れ様で〜す♪」


賢人「弥一君は何時も明るいですね。裏の顔とかあるんでしょうか?」


ジャレス「!?ケント、あまりそういう詮索は良くないと思うぜ……!」


賢人「?ジャレス、何か見たんですか?(ポルトガル語話せる)」


ジャレス「何も見てねぇよ!」



弥一「(ちょっと効果大き過ぎたかもねー)」

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