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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 国内プロ編
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奮闘した結末

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 東京スタジアムの上空から雨は降って来るが、雷は特に鳴り響いていない。これで大雨に加えて、雷が発生していたら選手や観客達の安全を第一に考え、試合が中止になっていた所だ。



 そうはならず、降りしきる雨の中で試合は行われていた。



「また雨強まってない〜?」



 選手用の観覧席の室内から見ても、雨が強くなって来たように見えて弥一は窓に張り付きながら、勝也とロッドへ振り返る。



「確かに開始前よりは強いな。大雨になるかならないか……微妙な所だ」



「天気予報で雨になるとか聞いたけど、此処まで降るのは聞いてねぇかも」



 2人から見ても雨の勢いが増してるのは明らか。このまま強まり、暴風雨に変わるなら雨天中止も出てくるが、今の所は雨が降っているのみだ。



「とりあえずこのまま1点守り切っちゃえば勝ちだね♪」



「いーや、守りに入り過ぎも良くねぇ。更に追加点で突き放して勝ちだろ!」



 弥一は守り切り、勝也は攻め切ると兄弟の意見は攻守で真っ二つに分かれる。どちらにしても勝ってもらいたい、その思いは2人だけでなくロッドも願い、東京の皆が願う事である。




『リードされているアニモ札幌、此処でロングパス!岩本が頭で弾く!セカンドは、拾った神山!クリア!』



「良いぞ神山ー!頑張り屋ー!」



「勝て勝て東京!勝て勝て東京ー!!」



 雨の中で奮闘する選手達の姿を見て、サポーター達も懸命に声を出して声援を送り続ける。



「引き過ぎるなよ!攻められる時は攻めていけ!」



 何時もと違う環境でのサッカー。選手達の体力も消耗していくが、苦しい時に太一が声を出して指示を送ったり励まし続ける。



 出場している選手達の中で、間違いなく一番声をよく出していた。コーチングは大事と、勝也に教えたのも太一だ。それをプロの舞台で彼は体現していく。



 そして時には自ら動き、相手を止めたりパスやドリブルのコースを限定させて、味方と連携で止める。悪天候の中でも守備に良いリズムをもたらし、同点ゴールを狙う札幌の攻撃を凌いでいた。




「音崎さん、此処は1点守りに行ったかぁ」



 勝也の視線の先には攻撃の要、ジャレスが下がって守備の選手が交代でフィールドに入る姿が見える。



「そろそろ後半も30分だ。攻撃に行くか守備に行くか、ハッキリさせてチーム全体に伝える頃だろう」



 ロッドが時間をスマホで確認すれば、後半開始から30分が経過しようとしていた。アディショナルタイムも入れれば、おそらく残り20分前後だ。



 1点リードしている今、選手達全員の意識を一つに向けて、集中を高めさせる狙いがあったのかもしれない。前半から出ていた賢人も下がり、攻撃的な選手を下げて東京アウラは徹底した守備に打って出る。





『後半も40分を経過!スコアは1ー0と東京が1点のリードのまま!初勝利に向けて終了の時は刻一刻と迫っています!』



『まだどうなるか分かりませんからね。最後まで気を抜かずやってほしいです』




「向こう攻めてくるぞー!気をつけろー!」



 最後尾から本道が声を張り上げ、選手達に気を抜くなと伝えていく。終盤で体が最も重い時間帯。加えて悪天候もあって、普段よりも激しく体力を消耗。



 最後の攻防戦さえ乗り越えれば勝利は目前。3戦目にして、やっと勝ち点3を重ねられる。



 札幌がパスを中盤で繋ぐも、ゴール前をガチガチに固める東京を前に攻めあぐねてしまう。



 その時、札幌の選手が思い切ったロングシュートに行く。



「ぐっ!」



『札幌シュートー!岩本弾いて零れる!ゴール前混戦!東京クリアしたい!』



 DFの岩本がシュートをブロックするが、弾き飛ばす事は出来ず東京のゴール前にボールが転がり、両選手がセカンドに向かって走る。



 その時、ボールが東京ゴールへ向かって勢い良く飛ぶ。本道が左手を伸ばすも、触る事が出来ずゴールネットが揺れていった。



 決まった瞬間、札幌のサポーターが歓喜の声を上げて東京サポーターは声を失う。



『同点ゴールー!!札幌なんと土壇場で追いついた1ー1!東京の勝ち点3がスルリと逃れてしまうー!』



『セカンドを上手く制しましたね。そこで迷わず振り抜いた良いシュートが生まれ、同点ゴールを呼び起こしましたよ!』




「えええ!?マジかよ!」



「ああー!セカンド制してたらああならなかったのにー!その前にもっと大きく弾いてブロックしてよ〜!」



 まさかの札幌の後半45分前の同点ゴールに、弥一と勝也は揃って驚くと、弥一の方は味方の守備のダメ出しをしていた。



「最悪なタイミングで同点にされたな……突き放す力は多分残っていないだろ」



 同点ゴールを見て、ロッドは冷静に東京の方が追い詰められたと考える。交代は守備を固める為に使ってしまい、此処からまた攻撃にシフトチェンジするのは、おそらく無理だろう。




「下を向くな下を!負けるぞ!!」



 終盤で同点ゴールを決められ、チームに重苦しい雰囲気が漂うと、すかさず太一が大きく声を出して切り替えるよう伝える。



 ショックを受けたまま、試合を再開して連続失点を食らうのはサッカーでよくある事。自分達がそうならない為に、今こそ気を引き締める必要があった。



「突き放せ東京ー!」



「もっかいゴール決めろー!」



 東京サポーターからは、もう1点行けという声が飛ぶ。このホームでの勝利が見たいと、彼らからそういった強い気持ちが弥一には伝わってくる。




 終盤、再び突き放そうと東京の選手達が攻めに行く。しかし攻撃の意識と守備の意識とがバラバラなせいか、ボールを持つ選手に味方のフォローが追いついていない。



 逆に追いついた札幌は息を吹き返し、動きが良くなって東京の個人技による突破を阻止。



「ああもう、フォロー遅いって……!そんなんじゃなかったろさっきまで!」



 勝也は見ていて、さっきまでの東京アウラの動きとは全然違うと感じ、かなりじれったく思ってしまう。



「!不味いぞあれ……!」



 目の前で東京のパスをインターセプトした札幌の選手が、速攻を仕掛けて他の選手達も攻め上がる。これはヤバいとなったか、ロッドの目が見開かれた。




『札幌ボールを取った!左に振って川木、クロスを上げた!松本ダイレクトボレー!!』



 札幌は左サイドに展開。そこから再び中央、ゴール前へ低いクロスを上げると、完璧にタイミングの合ったボレーシュートが東京ゴールの右に矢の如く飛んでいった。



 本道が左腕を目一杯伸ばしながら、懸命のダイブを見せるとシュートには一歩及ばず、ゴールネットが豪快に揺らされる。



「あーー!」



 これを見て弥一は思わず声を上げた。



『後半終了間際!ドラマが待っていた!!なんと札幌が終了間際に逆転ゴール!僅か10分での逆転劇だ!東京にとっては悪夢の失点!』



 後半のアディショナルタイム。札幌の逆転ゴールが決まって、札幌の選手やサポーター達はお祭り騒ぎ。一方の東京は絶望の底へ突き落とされてしまう。



 そして試合終了の笛。



 これには東京の選手達やサポーター達は大きく落胆。太一も声を上げる事が出来ず、フィールドに倒れ込んで両手で顔を覆う。



『試合終了ー!アニモ札幌は今シーズン初勝利!東京アウラはまさかの開幕3連敗!勝ち点0のままです!』



『今日は勝てる試合だと思ったんですけどね。やはり……何が起こるか分かりませんね』




「……先、戻る」



 ロッドは短く2人に伝えると、早々に席を立って去った。



「マジかよ……」



 試合に出てない勝也もこれには落胆。チームは途中まで勝ち点3が手元にあったはずだが、終盤で逃してしまい勝ち点1すら獲得出来ず。



「(逆転負けなんて、見たくなかったなぁ……)」



 応援してたチームが逆転のゴールを決められてしまう。出ていなかったが、弥一は悔しく思った。



 それと同時に自分が出ていたら逆転ゴールは勿論、同点ゴールも絶対許さない。そういう思いも沸々と沸いてくる。




「!」



 その時、弥一の心に伝わって来た。それは試合を見守っていたサポーター達から感じ取った物だ。




「(いい加減勝てよこの野郎!)」



「(前回覇者のくせに何やってんだ!)」



「(逆転負けなんて弛んでるし、プロとして情けない!)」



 一部のサポーターから連敗による怒りとストレス。それが憎悪となって、膨らみつつある。



 高校サッカーでは無かった多くの負の感情。プロの舞台では光と闇がよりハッキリして、勝者は栄光を手にし、敗者はただ落ちていくだけ。その環境がそうさせているのかもしれない。



 スタジアムに止む気配の無い雨が容赦なく、敗れた東京選手達に降り注ぐ。



 この悪天候は今の東京アウラを表しているようだった。



 そして彼らに更なる試練が訪れる事になってしまうのは、まだ誰も知らない……。

勝也「逆転劇は……まぁサッカーやってりゃ山程あるよな」


弥一「……」


勝也「出てないけど無失点に拘るお前にとっちゃショックな試合だったか。珍しく深刻な顔してる……」


弥一「勝兄貴」


勝也「うん?」


弥一「明日学校で歴史のテストなんだけど、どうにか外国語のテストになる方法無いかなぁ?」


勝也「悩んでたのそれかー!覚悟決めて受けて来いっての!」


弥一「だって歴史苦手なんだもんー!外国語だったらこっちのものなのに〜!」

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