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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 国内プロ編
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春の新たな風

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 季節は3月。日本列島全体にようやく春の訪れが来て、寒さが和らぎつつある。



「(この場所ともお別れになっちまうか……)」



 立見高校の校内にあるサッカー部の部室前に、勝也は3年間世話になった場所を見上げていた。



 選手権優勝を達成し、今や全国区となった立見サッカー部。その創立者として色々込み上がるものがある。勝也、成海、豪山、京子といった3年の初期メンバーはこの春に全員が卒業。サッカー部は後輩達に託し、引き継いでいく形となる。



「勝兄貴、思い出に浸るのまだ早いと思うよー」



 話しかけて来た声に勝也が振り返れば、そこには弥一の姿があった。弥一はまだ1年で4月から2年に進級。サッカー部に在籍はしているが、プロの活動があって部活への参加は難しいだろう。



 今日は久しぶりに2人揃って部活に顔を出していた。



「分かってるって、今日は立見の新一年生になる予定の中学生達が来るんだからな。みっともない姿は晒さねぇよ」



「先輩になるって嬉しいなー♪どんな後輩達が来るんだろー?」



「さあなぁ……案外すっげぇ生意気なのが来るかもしんねぇぞ?無鉄砲で俺なら此処で天下取ってやる的な、俺様キャラな野郎とか」



「だったら即鼻っ柱へし折ってやろうかな〜」



 弥一と勝也でこんな後輩達が来るかもしれないと、話が盛り上がっている時。



「「失礼しますー!!」」



「!?」



 二重に聞こえて来た声に2人は振り向く。すると彼らの前に居たのは小柄で同じ背格好の2人、桃色のポニーテールと青髪のストレートボブに加えて可愛い感じの容姿は男性アイドルを思わせた。



「見かけない顔だけど、ひょっとしてサッカー部の体験入部……」



 勝也が2人に聞く前に、彼らの方が先に口を開く。



「初めまして!石立中学3年の氷神詩音です!」



「初めまして!同じく氷神玲音です!この春から立見高校に通う事になりました!」



「「よろしくお願いします神明寺先輩!!」」



 同じ苗字で背格好も同じ。多分双子だと弥一や勝也に伝わると、2人は揃って弥一に同じタイミングで頭を下げる。



「(うお!?息ぴったり!つか氷神兄弟……石立中を全国優勝に導いた双子じゃねーか!?凄ぇの来たぞ!)」



 中学サッカー界を騒がせている双子。その噂は勝也も聞いていたが、まさか立見に来てくれるとは思わず驚いてしまう。



「これは俺らいなくても大丈夫そうじゃねぇか弥一……?」



 勝也が隣の弥一に目を向けると、弟分は一瞬険しい顔を見せていた。



「とりあえず君達?顔を上げようかー」



「「はい!」」



 弥一の言葉に瞬時に反応すると詩音、玲音は揃って顔を上げる。此処もタイミングが一緒なのは変わらない。



「2人が僕に憧れて来てくれる、その熱意はすっごい嬉しいよ?でもねー……」



 笑顔の弥一、ただ彼の目は笑っていなかった。詩音と玲音の肩にポンと、それぞれ手を置くと弥一は耳元で囁く。



「サッカー部のキャプテンで、この場所を作ってくれた神山先輩に挨拶しないのは感心出来ないかなぁ」



「「!?」」



 弥一からすれば2人が勝也を無視したと見えていた。囁かれた言葉に彼らは揃ってビクッとなり、無礼だった事に気づくと2人は勝也に向き直る。




「「ごめんなさい!神山先輩!!」」



「あ、いや……そんな上下関係ガチガチに厳しいつもりもねぇから……な?」



 土下座しそうな勢いで頭を下げる双子に、勝也は変わった後輩が入って来たなぁと思った。





「柳石中学から来ました石田半蔵です!」



 体験入部の者達が集い、それぞれ挨拶する中で一際大きな男の番がやってくる。中学生達どころか、立見サッカー部の部員の誰よりも大きかった。



「でっけぇ〜……何cmあんだよ?」



「192cmです!」



 170cm以上ある勝也も見上げなければならない。195cmの高校最長、室に匹敵する程だ。



「(こいつは思わぬ大型新人も来たもんだな。DFの立浪ってのも相当でけぇし、俺が抜けた後の立見って高さが武器になってそうだ……)」



 頼りになりそうな新入部員が次々と入ってくれて、勝也は安心して次の立見を託せると思えば、勝也はキャプテンとして声を掛ける。



「これで後は1人かな?確か電車の遅延で遅れるって連絡は来てんだよな」



「ええ、でもさっき連絡来た時はもうすぐ着くって……」



 まだ来てない者が1人いて、勝也は京子に確認。そこに2人の男女が駆けつけて来る。



「遅くなって申し訳ない……ごめんなさい」



「いえいえ、そんな言う程遅れてませんし練習開始前でしたよ緑山さん!」



 女性の方が頭を下げると男子の方も頭を下げた。そこに幸が近づいて、大丈夫と声を掛ける。見覚えある女性に、部員達の間でざわつきが起き始めると女性が自己紹介。



「正式にはまだ先だが、春から立見サッカー部の監督を務める緑山薫だ。よろしく頼む」



 薫が挨拶で頭を下げるのと同時に、部員達は揃って「よろしくお願いします!」と挨拶。




「ねぇねぇ、皆ざわざわしてるけどー……あの女の人そんな凄いの?」



「お前な、元女子プロサッカー選手の事くらい知っとけよ。テレビとかにも出てただろ……!女子の日本代表選手にも選ばれていたし!」



 相変わらず無知な弥一に、何で知らないんだとなりながら摩央は怒りつつも教える。女子のプロサッカー選手として、様々な功績を残してきた緑山薫。その彼女が立見の監督として来てくれたのだ。



「緑山明です……よろしくお願いします……」



 一方の彼は弟の緑山明。挨拶はするが声はあまり出ておらず、前に出るようなタイプじゃない事が誰の目から見ても分かる。



「よーし、じゃあ全員揃った所で今日の練習開始!」



 立見のキャプテンとしていられるのも後僅か。勝也は3年間続けて来た開始の合図を下す。




「はい右走るよー!と思ったら左斜めー!」



「うわわ!?」



「ひぃぃ!!」



 弥一が先導する形で急走、緩走とペースを変えたり走るコースもコロコロ変える練習がフィールド上で行われる。彼の気分次第で変化していく、ある意味で鬼のトレーニングを体験して大半の中学生達は苦戦していた。



「はやぁぁ!?」



「わぁぁ!?」



 更に立見名物である高速サッカーマシン。経験者の現役部員達は問題なくこなすが、このスピードに慣れていない彼らは悪戦苦闘。体験入部から容赦なく、中学生の彼らに立見サッカー部の洗礼を浴びせる。



 練習が終わる頃には、大半がグロッキー状態だったのは言うまでもない。




「思ったより皆最後までついて来れたっスね」



「おう、その中で特に見所ありそうなのは氷神兄弟、石田、緑山……後は立浪に三笠といった所か」



 勝也、間宮と新旧キャプテンで話し合いが行われ、思ったよりも優秀だったと意見が一致する。



「特に緑山の身体能力はエグいな。あいつだけだろ?弥一のランダムランや高速クロスにすぐ対応出来たのは」



「ええ、しかもあいつ……まだ体力残ってるみたいっスよ」



 勝也との話し合いの中、間宮はフィールドの方に目を向ける。大半が倒れ込んで息切れを起こしているのに対し、明はしっかりと立って弥一と対峙する。




「何故……俺を誘ったんですか……?」



「ん?まぁ体力に余裕がありそうなのとー、教えようと思ったんだよねー」



 明は弥一から突然、1on1やらない?と誘われた。スタミナにまだ余力はあり、問題無く行けるが何故わざわざ自分を誘って来たのか、分かっていなかった。



 だが弥一は彼の心を見透かすように言う。



「此処では何の加減もいらないっていう事を」



「……!」



 明は自らの力が優れ過ぎて、それでトラブルを起こした過去を持つ。弥一は心を読んでそれが分かり、こうして直接伝えようとしている。



「来なよ、時間も無いから一本勝負だ」



「……はい……!」



 弥一がボールを左足で蹴り渡すと、明は右足で綺麗にトラップ。その動き一つで明がいかに優れてるか、弥一には理解出来た。



 ボールを持った明はドリブルで弥一を抜き去ろうと、真っ向から迫る。その姿を見据えたまま弥一の方は動かない。



「っ!?」



 すると弥一は左足で地を蹴れば、一気に明へ迫り至近距離まで来る。迫るスピードに驚きながらも、明は右から左に鋭く切り返して左から抜こうと考えていた。



「いただきー!」



 その切り返して来た方向を最初から見抜いていたかの如く、弥一は明からボール奪取。そのままドリブルで突き進み、明の追走も躱しきれば右足でゴールネットを揺らす。



「負け、ました……(全然相手にならなかった……!)」



 今まで見てきた誰よりも上手い。自分の力が全く通じず、明は完敗だと弥一に頭を下げた。



「いやー、あの練習の後にあれだけ動けるのは凄い事だよー?優秀優秀♪」



「ありがとうございます……」



「後はこの立見サッカー部でみっちり練習して鍛えるようにー。あ、オーバーワークは絶対駄目よー?此処それ禁止だから〜」



「はい」



 1on1の時の真剣な目つきから、弥一は元通りの明るい笑顔に戻って明の奮闘を労う。




「ちょっとー!狡いよキミぃー!僕も神明寺先輩に1on1やってもらいたいのにー!」



「僕も僕もー!」



 そこへ明と同じく余力が残っている詩音、玲音の氷神兄弟2人が弥一と1on1を行った明が羨ましいと思い、揃って駆け寄って来る。



「分かった分かったー、そんな元気あるなら少し2人もやろっかー?」



「「やったー!!」」



 弥一から氷神兄弟へ1on1の誘いが来れば、共に飛び上がって喜ぶ。崇拝する弥一とそれが出来るというのは、彼らにとって夢のようだ。




「キープが甘いよー!」



「わぁ!?」



 詩音、玲音が順番で1on1をするも、弥一に2人ともあっさりボールを取られて終わる。2人からすれば自分への寄せからボール奪取まで、弥一の動きが速すぎて見えなかったらしい。



「(プロでスタメンどころかベンチにも入っていないって聞いたけど……この人どう見てもベンチ入りは確実にしてもおかしくないのに……)」



 東京アウラの試合については明も見ているが、弥一なら入っていてもおかしくない。間近でプレーを見て、実力不足とは思えなかった。



 次の第3節は選ばれるのかと考えたが、明の予想は外れて東京アウラVSアニモ札幌とのホームゲームにも神明寺弥一、神山勝也の名前はスタメンやベンチ、変わらずどちらにも無い。

詩音「速い!」


玲音「巧い!」


詩音&玲音「「神明寺先輩マジハンパない!」」



勝也「また個性的な後輩が来たけど弥一よ、初日どころか体験入部から後輩をビビらすな」


弥一「ごめん〜、あれ普通に駄目だろうと思って注意しただけだからー」


勝也「おかげで俺にもすげぇ挨拶来るようになったし、あいつらお前の言う事に従い過ぎじゃねぇか?」


弥一「うーん、あの2人でドッキリ企画とか面白そうだねー♪」


勝也「いや、あいつらアウラのチャンネル出れねぇだろ」

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