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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 国内プロ編
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吠える虎

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「ユンジェイか……あいつトップ上がってたんだな」



「誰〜?」



「お前は相変わらず見たりとかしてねぇのかよ。まぁ忙しかっただろうけど」



 遠くから横浜の背番号18を背負う、ユンジェイの姿を勝也は見ていた。彼について何も知らなさそうな弟分に、軽くため息をつきながらも何者なのか説明する。



「キム・ユンジェイ17歳。横浜グランツのユース育ちで実力は一級品、早くも次の韓国A代表を担うエースだって評判の選手だよ」



「ふぅん、実際強いの?」



「俺も直接この目で見るのは初だけど、弱かったらそんな噂されねぇだろ」



 韓国期待の次世代のエース候補。まだ17歳だが、横浜グランツは彼とプロ契約を交わして、開幕戦に抜擢している。



 それだけの力を兼ね備え、プロの舞台に立つ資格を持つ。現時点で弥一と勝也の一歩先を進んでいた。




『2月中旬、ついこの間に此処、国立競技場で熱き高校サッカー選手権が終わり今日、J1の長い戦いが始まります!前回覇者の東京アウラと横浜グランツの第1節、勝ってリーグ戦に勢いを加速させるのはどちらとなるのか!?』



『横浜グランツは辰羅川、ユンジェイ等フレッシュな新人を開幕戦でいきなり起用と思い切った事をしてますね。これが吉と出るのか凶と出るのか……』




「東京GOイェー!!」



「「GOイェー!!」」



 キャプテンマークを身に着けるマグネスが、気合の声掛けを行い皆が合わせていく。




「東京アウラの掛け声って立見に似てるよねー。あれ参考にしたのー?」



「んな事ねーよ、たまたま被っただけだ」



 立見で掛け声を重ねてきた弥一、勝也にとっては馴染みに近い感じ。いずれ自分達もそこに加わると思いながら、試合開始の時を待つ。




 ピィーーー



 横浜グランツのボールで開幕戦のキックオフを迎える。



 東京アウラが前線からプレスを仕掛けて来るも、横浜の中盤はショートパスで上手く掻い潜っていた。



 それを見たユンジェイがゴール前へ走るが、そこへマークに付くのはマグネスだ。



「今日がデビューかいバンビーノ?容赦はしないぜ!」



「フン、俺を子供扱いした事を後悔するんだな!」



 マッチアップした途端、両者から火花が飛び散る。その間に横浜はボールを繋いでいくが、コースを読んだ太一がインターセプトに成功する。



『神山取った!東京此処からすぐに速攻へ出る!左の風岡が走り出した!神山から松川、スルーパス!』



 太一がボールを取れば一瞬フリーになってる松川を見つけ、右足でパスを出せば松川は左足でワントラップして、右足で左サイドの空いているスペースにパスを出した。



 かなり速いパスだが、そこは日本代表のサイドアタッカー。更にギアを上げて迫り、風岡がこのボールに追いついてみせる。



「中央中央!堀田さん来てるぞー!」



 勝也は身を乗り出して、ゴール前に走っている堀田を指差せば、懸命に風岡へ伝えようとしていた。



『風岡から堀田!東京チャンスだ!』



 その声が聞こえたかのように、風岡はDFが寄せてくる前に左足で折り返す。



 堀田は左足でワントラップして、相手の守備のリズムを遅らせてから右足でシュートに行く。



 右足のシュートは真っ直ぐ飛び、相手ゴールを捉えていたが相手GKは正面で難なくキャッチ。



「っ……!」



 目の前にいる相手の迫力に、堀田は一瞬たじろくような姿を見せた。それを誤魔化すように背を向けて、ポジションに戻る。




「あ〜、今のはあの人の前だと甘いシュートだったかなぁ」



「 流石に弥一も横浜の河岸さんぐらいは知ってるか」



「失礼だなぁー。僕そこまで無知じゃないからねー?」



 東京アウラが点を取る為には、今日立ち塞がる最大の壁を破らなければならない。横浜グランツのGKが何者なのか、勉強が足りていない弥一も分かっていた。



「日本を代表するミラクルGKの河岸正勝(かわぎし ただかつ)さん。知らない訳ないし」



 GKとしてそこまで大柄ではなく、ロッドと同じ180cmだが、河岸という男は今の日本のNo.1キーパーと呼ばれている。



 数々の神がかりなセーブでチームのピンチを救い、クラブや代表で大きく貢献。これは止められないというシュートを多く止めている事から、ミラクルGKの異名が付いていた。



「あの人が守ってて、こっちもマグネス率いるDFは堅いからなぁ……多分点の取り合いにならず1点勝負だろ。横浜は昨年失点が1番少なかったしな」



 弥一以上に横浜グランツをよく知る勝也。昨年は東京アウラがリーグ制覇を達成したが、失点は横浜グランツが最も少なく終えている。



 それも今守っている河岸による功績だ。



「確か9試合連続無失点でJ1の記録に並んだんだよね?」



「そうそう、PK取られて失点しなきゃとっくに記録更新して、更に伸ばしてもおかしくなかったからよ」



「横浜は失点少なかったけど得点取れなくて、ドロー重なったから思うように勝ち点伸ばせなかったんだっけか」



 昨年のシーズンについて、弥一と勝也が話している間も目の前の試合は動いていた。




「ち……!」



 マグネスの厳しいマークに遭うユンジェイ。圧倒的な体格差もあって、思うようにプレーさせてはもらえない。



「左来てるぞ、気をつけろ!」



 マークしながらもコーチングで、マグネスは相手が来ている事を伝える。




「わっ!?」



 辰羅川がボールを持って右サイドからドリブルで上がるも、太一が猛然と迫って滑り込む。太一の左足で弾かれた球はタッチラインを割って、一度流れを切る。



『神山激しいスライディングー!本日デビューの辰羅川にこれがプロだと言わんばかりの挨拶か!?』



『今年も東京の守備はなかなか堅いですね。特に中央のマグネス、神山は突破が困難かもしれません』



 前半もそろそろ45分が経過しようとして、スコアレスのままハーフタイムに入りそうだ。



「此処集中なー!此処で失点は駄目だぞー!」



 マグネスは周囲に声を掛けて集中。一方で横浜はユンジェイと辰羅川が、ヒソヒソと話していた。



『横浜のスローイン!再びボールは辰羅川……』



 スローインでボールを受けると、辰羅川は佐々木に寄せられながらも得意の右足で東京のゴール前へ、クロスが上がる。



 圧倒的に高いマグネスに対してハイボールは蹴らず、低いボールが向かうもグングン高く上がっていく。グラウンダーを狙ったつもりが、ユンジェイと同じぐらいの高さのボールが行ってしまう。



「(ヘディング!)」



 マグネスはこの高さなら頭で合わせると、瞬時に判断してユンジェイの動きに注目する。



「!?」



 だが、彼は予期せぬ動きを見せてマグネスを驚愕させる。



 右から来たクロスにユンジェイは、右足を高々と上げてボールを蹴っていた。それはサッカーで見る蹴り方ではなく、どちらかというと武道の回し蹴りに近い。



 予期せぬユンジェイのキックは球を捉えて、マグネスの右側を通過。GKの本道はこのシュートに一歩も動けず、棒立ちでゴールネットを揺らされてしまう。




『ご、ゴール!決まったぁぁ!なんと本日デビューのキム・ユンジェイ、変わったボレーで東京アウラのゴールを叩き割った!韓国期待の虎が此処で吠えるーー!!』



 まさかのゴールに会場も揺れる。



 開幕戦、プロデビューしたその日に初ゴールを決めたユンジェイ。後ろから辰羅川や仲間達に抱きつかれながら、スーパーゴールに熱狂する横浜サポーターのスタンドに向かって吠えた。




「なんだぁ今のは!?」



 勝也はユンジェイの予期せぬゴールを目の当たりにすると、驚愕してしまう。その隣で弥一はスマホを操作している。



「あれ武道の上段回し蹴りだよ。あんな合わせ方してくるって……あ、やっぱり」



 合気道を習い、武道については弥一も触れていて詳しい。そのおかげでユンジェイのキックが、サッカーのとは違う事は分かった。



「彼、元々テコンドーのチャンピオンでもあったみたい。それで蹴りを沢山磨いたんだと思うよー」



「そいつは……他のサッカー選手じゃ真似出来ねぇな」



 スマホで弥一が画像を見せると、そこにはテコンドーの大会で優勝してトロフィーを持つユンジェイの姿が映る。



 思わぬ経歴を持つ者による先制点を、東京アウラは献上してしまう。

弥一「テコンドーは韓国の国技と言われてるけど、サッカーに応用してきたかぁー」


勝也「あんな足上げられんのか……これ合わせんの大変だって!」


弥一「というかテコンドー出来るなら、あれ見たいけどなぁ〜♪」


勝也「あれ?」


弥一「ほうお〜……」


勝也「それ以上は駄目だ弥一!色々怒られそうだから!」

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