プロとなる者達
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「まさか同じタイミングで俺ら此処に来るなんてなぁ……」
「こんな偶然もあるもんだね〜」
弥一、勝也の2人が見上げる先にあるのは、東京アウラのクラブハウス。本日彼らはこの場所へ来るようにと呼ばれていた。
「弥一……本当にプロになっちゃうんだなって改めてお母さん思わされたわ」
彼らだけでなく、弥一には母親の涼香が同伴している。弥一はまだ高校1年、親の同席も必要だとなってイタリアへ単身赴任中の父親がいない今、涼香がついて行くしかない。
「涼香さん、大丈夫です。弥一君の事は責任持ってしっかり見ますから」
弥一がプロになるのが不安そうな涼香に、太一は安心させようと声を掛ける。彼も勝也の保護者として今日は同伴していた。
「うちの弥一の面倒を小さい頃から見てくれて太一君と勝也君の2人には凄く感謝してるわ。本当ありがとう」
弥一が小学校時代から2人の世話になっている事は、涼香も勿論知っている。なので2人には深く感謝していた。
「いえ、こちらこそうちの弟の面倒を見てくれたりと弥一君には大変お世話になっていますので、感謝してもしきれません」
涼香に対して太一は深々と頭を下げ、保護者同士の挨拶が続く。
「つか弥一、お前他のクラブから誘われて東京アウラを選んだ決め手は何だよ?」
勝也は気になっていた。弥一を欲しがるクラブはいくらでもあって、その中で東京アウラを選んだのは何故なのか。
「距離めっちゃ近くて引っ越す必要が無いからー♪」
「あー、まぁ交通の問題はでかいよな。後は慣れた東京の環境ってのもあるし」
住み慣れた土地を離れない上、住んでる場所を移さなくて済む。勝也の為だけでなく、弥一はそういった面も考えて東京アウラを選択していた。
「北海道も考えたけどねー、美味しい所多いし総体の時は全然食べられなかったし。でも遠征で行けるからいっか、てなったんだー」
「お前所属チーム選ぶのも飯中心かよ……」
彼が美味しいグルメ好きな事は分かっていた。それがチーム選びでも関わるのは、本当に好きなんだなと勝也は無邪気に笑う弥一の顔を見る。
「それでは神山勝也君とは年俸800万円で契約でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
提示された契約金、そして目の前には契約書。これにサインをすれば勝也は今日からプロサッカー選手となる。
「(京子……勝気……これから俺、たっくさん稼いで来るからな)」
家族への想い、愛する存在を絶対に守って幸せにしよう。改めて心で誓いつつ契約書にサインを書いて、合意となった。
「終わったぁ〜」
弥一は自販機で買ったアップルジュースを飲んで、一息つく。思ったよりもずっと色々な内容が詰まっていたりと、彼にとってはちょっとした試練となってしまった。
「おう、そっちも終わりか」
「しんどかったよ〜」
そこに契約を終えた勝也も合流。軽く右手を上げた兄貴分に、弟分の方は初めてのプロ契約で、試合よりも疲れた感じが出ている。
「ねぇー、勝兄貴はいくらで契約したのー?」
「え?いや、そいつは……」
自販機でオレンジジュースを買う勝也に、弥一は契約金どれくらいで交わしたのか気になって聞く。対して勝也の方は容易く契約内容を言っていいのかと、周囲の目を気にし始めた。
「今誰もいないから平気だって、それに同じチームだしさ?」
「んー……弥一耳貸せ」
「うん」
勝也が手招きすると、弟分は素直に従って右耳を傾ける。そこに勝也は囁くように伝えた。
「……800万」
「わーお、高額〜……」
1年目の新人選手として貰える金額、それを伝えれば弥一は高額だと感じた。無論日本のトップや海外のトッププロとなれば、億を超えるような大金を貰える事は2人とも知っている。
それでも高校生で、親から貰っている小遣いで過ごしてきた者達からすれば凄い金額だ。
「お前はどうなんだよ?」
「じゃ、耳貸してー」
こうなると弥一の方はどれくらい貰えるのか、勝也は気になって弥一に訪ねる。左耳を傾けた勝也に、弥一は小声で伝えた。
「……1200万♪」
「高っ!?」
1000万を突破する契約金を聞いて、思わず勝也の声が大きくなってしまう。自分より400万も高い契約となっていた。
「なんかねぇ、プロ1年目の新人選手でこれが上限いっぱいの金額みたいだよー」
「それでもまぁ多いよなぁ。多分エリートの会社員ぐらい貰ってるか?分かんねぇけど」
新人選手で貰える金額の上限は決まっている。いかに優れてようが、それより上の額で契約する事は禁じられており、弥一はその上限での契約金で入る事となった。
「後は入団会見あるっつってたよな。そこでも俺らと、他の新しく入団する選手達で会見するとか」
「いよいよって感じするねー。僕らプロだよプロ♪」
勝也が改めて予定を確認する隣で、弥一は自分達がプロサッカー選手になれた事に、浮かれた感じだ。
「会見の時は多くのカメラとかそういうの入るだろうから、流石に緊張すんな……」
「発言の時に噛んだりとかしないでねー?それで笑い誘ったら結果オーライだけど♪」
「噛まねーよ!入団会見で笑い必要か!?」
ムキになって弟分に言い返した勝也。入団会見の時は、絶対噛まないようにしようと心に決めた。
入団会見の当日、多くの記者達が集い本日の主役達にカメラが向けられる。選手達が登場すればパシャパシャと、フラッシュが焚かれていく。
弥一と勝也は現役の高校生という事で、立見の制服を着て登場していた。
「これからプロとして、東京アウラの力になれるよう精一杯頑張っていきたいと思います!」
今回は弥一、勝也を含めた5人の選手達が東京アウラに入団する事となり、一人一人がプロサッカー選手としてこれからについての意気込み等を語る。
「では神山勝也君。お兄さんの太一選手と同じチームでプロとしてのキャリアをスタートさせる事となりますが、それに向けての意気込みをお願いします」
「あ、えー……。兄みたいに自分も東京アウラで活躍して、日々食べていく為に頑張りたいです」
自分の番が来て勝也は何を喋ろうかと、頭の中が真っ白になっていた。とりあえず生活していきたい気持ちが強く出て、その事を意気込みとして言う。
「では神明寺弥一君。これからプロとしてサッカーをしていく事となりますが、意気込みの方をお願いします」
「はーい♪」
この中で一番緊張してなさそうな弥一はマイクを手に持つと、彼は不敵に笑った。
「このクラブで未来永劫、何処にも破られない無失点記録を叩き出そうと思います」
「!?」
新人選手の中で一際小さな彼の言葉に、会場はどよめきが起こる。
「未来永劫……ってそれはJ1の無失点記録を更新する、という事でしょうか?」
「そうですよー?僕が出てる時はそれぐらい行けると思ってますから♪」
止まらない弥一節に、カメラは彼に向けられて注目を集める。
「(あいつ……此処でもやりやがった)」
思い出されるのは弥一が立見サッカー部に入部した時。それと同じ、またはそれ以上に彼のビッグマウスが炸裂して、勝也は悪目立ちしてないかと頭を抱えたくなってしまう。
結局弥一に注目が集まり、目立った会見となったのは言うまでもない。
「弥一、急に何であれ言ったよ?シンプルに頑張りますとかで良いだろ!?」
会見終了後、勝也は何で急にあんな事を言ったのかと、気になって弟分に問い詰める勢いで聞く。
「だって皆求めて来たからさ〜、ちょっとしたファンサってヤツ?」
「求めて来たって何だよそれ!?」
弥一からすれば、記者達の心はまる見えだった。当たり障りの無い新人選手達の言葉に、インパクトに欠けるなと思っていた心が。そこで彼の悪戯心が湧く。
ただ彼の中でJ1の無失点記録を超え、誰にも破らせない不滅の記録を作る。それについては本気だ。
「あ、ちょっとゴメンー。はいはいー」
弥一がスマホを起動させた時、電話が来て勝也に一言断ってから応答する。
「今終わりましたよー。はーい、すぐ行きまーす」
「弥一?何か用事でもあるのか?」
通話を終えて、その場を後にしようとする弥一に勝也は話しかけた。すると彼は振り返って言う。
「CMの打ち合わせ♪黛財閥の人々が色々協力してくれたおかげで出演出来るんだー」
「は!?」
会見に続いて衝撃が走るような言葉を弥一が言った後、彼が立ち去って呆然とする勝也だけがその場に立っていた。
この後、弥一の出演するCMが全国で流れるという事を、世間や勝也はまだ知らない。
弥一「という訳でCM出演もする事になりましたー♪」
勝也「お前色々飛び越えてねぇ!?プロなったばかりでもうCMかよ!」
弥一「そこは黛財閥の関係者の皆さんが色々動いて頑張ってくれたおかげだねー」
勝也「そういや大企業の社長にお前気に入られてるんだったな……そのコネでけぇわ」
弥一「だねー、「君は将来の日本サッカーを絶対背負っていく!」ってもう熱意が凄くてさぁ」
勝也「しかし……どんなCM出てんだ弥一?」
弥一「それは次回のお楽しみでーす♪」