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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 選手権編

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悪い流れを耐え切れ!

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『立見と八重葉の決勝戦、後半が終了しても0ー0!互いに得点は入らず試合は20分の延長戦に入ります!』



『最後のPKが大きく流れを左右しそうですね。八重葉としては助かりましたし、立見は優勝が零れ落ちてしまいましたからメンタルがより大事になってきますよ』



「はぁ〜」



 弥一はベンチに腰掛けると、上を見上げて大きく息を吐く。前後半でかなり体力を使い、消耗度が大きい事が伺えた。



「弥一君、結構疲れてるみたいだけど……」



 勝也にタオルを手渡しながら、京子は疲れてる様子の弥一を見る。延長戦を戦い抜けるのか、交代するなら今しかないと勝也に相談。



「今の立見に居ると思うか?あいつの代わりを務められる奴が」



「……」



 限界近いのは分かっている。勝也とて弟分を無理させたくはない、だが弥一の代わりが出来る選手は立見にいなかった。



 彼はどの選手よりも上手く、狡く、強い。立見で一番の実力者である勝也をも凌ぐだろう。



 交代させるべきか、そのままで行くか。2人は難しい決断をしなければならない。




「皆、これ飲んで元気出せって!」



 重苦しい雰囲気の立見。その空気を打ち破らんと、安藤がドリンクを手に皆へ声を掛けていく。



「!安藤先輩、もしかしてこれって?」



「俺が作った特製の蜂蜜レモンドリンク、お前好きっつって強請っただろ?」



 安藤の持つドリンク、これに弥一は真っ先に食いついていた。彼の手作りである蜂蜜レモンドリンクの味が忘れられず、会う度に今日は無いのかと確認する程までになっていたのだ。



「やった〜、いっただっきまーす♪」



 愛するドリンクを飲めるとなって、弥一の顔に再び明るさが戻ると、安藤からドリンクを受け取って飲み始めた。



「ああ〜♡これこれ〜、この美味しさだよ〜♡」



 甘い蜂蜜とレモンの酸味が合わさって、疲れた体でもスッキリと美味しく飲める。弥一の顔はうっとりと、幸せそうな表情になっていく。




「控えGKとしてやる事色々あるのに、大変だったろ安藤」



「どうって事無いですよ。俺全然たいした活躍出来なくて立見に全く貢献してませんから、これぐらいはしとかないと」



 皆にもドリンクを配り、最後に勝也へ手渡すと労いの言葉を掛ける。それに安藤は全然苦じゃないと、笑って答えた。



「貢献してない?過小評価し過ぎだ安藤。お前が陰でずっとサポートしてきた事、知らない訳ねぇだろ」



「!」



 安藤がどれだけ動き、サッカー部に貢献してきたか。キャプテンとして勝也はきっちり見ていた。大門のアップに付き合うだけではなく、他の部員の練習を手伝ったりと自分から積極的に行ってきた。



 ベンチに座って出番を待つだけでなく、他でチームに貢献出来る事は何か。安藤は常に考えて部へ尽くしてきたのだ。



「お前も立見へ立派に貢献してる大事な部員だ。そこは誇りを持って胸を張れ」



「……はい……!」



 勝也は彼に笑いかけ、肩をポンポンと軽く叩けば延長戦に向けての準備に入る。その安藤は涙腺が緩くなりながらも、何時も通り他の選手たちの準備を手伝う。





「工藤、お前は本当に……凄いとしか言えん。よく八重葉のピンチを救ってくれた!」



「うっす」



 八重葉のベンチでは監督から龍尾に労いと、感謝の言葉を掛けていた。PKを終盤で取られた時は、監督も正直敗北を覚悟してしまったが龍尾によって敗北は免れる。



「もう絶対勝てますよ!このままゴリ押しでやっちゃいましょう!」



 月城はこの勢いに乗っかって、そのまま立見を押し切って倒そうと提案。単純な策だが、龍尾の超セーブで流れは八重葉へ一気に傾いている。



「そうだな……では、延長戦に向けて月城に一仕事してもらおうか」



「ういっす!」



 監督に何か考えがあるようで、月城は延長戦に向けた策を授けられた。




「……」



 照皇は延長戦に向けて、既に準備を始めている。彼の頭に浮かぶのは弥一の姿。PK戦を狙う気は全く無く、きっちりゴールを奪って立見を倒す。



 彼の中に流れるストライカーとしての血が、無得点で終わりたくないと叫び、ゴールを何よりも欲していた。






「……さっきは決められなくて悪い。延長戦まで長引いちまったのは俺のせいだ。皆に余計な負担をかけて本当にごめん」



 延長戦のキックオフ前、勝也は円陣で皆にPKを失敗した事を謝罪。あれを決めてれば、今頃は歓喜の優勝で喜んでいたはずだ。



「決められなかったら、次のチャンスで決めちゃおうよ。20分の間にさ?」



「そっすよ!まだ負けた訳でもなんでもないっすから!」



 それに弥一と間宮のDF2人が声を掛け、勝也を励ましていた。



「あの天才から、次は決めてやります……!」



 チャンスを物に出来ず、悔やんでいるのは優也も同じ。今度こそ決めてやろうと、冷静沈着な彼が珍しく闘志を剥き出しにしている。



「おし……じゃあ行くか」




「立見GO!!」



「「イエー!!」」



 この試合2度目の掛け声。再度気を引き締めて、延長戦へと皆が挑む。




 ピィーーーー





 しかしその気合とは裏腹に、前半から八重葉のペースで怒涛の攻撃が仕掛けられる。



『おっと月城!?何時もの左サイドではなく、右サイドから攻め上がって来た!』



「(え、嘘!?あっちじゃないの!?)」



 自分が月城の相手をする事となった翔馬は驚き、スピードで彼に一歩先を行かれてしまう。



 何時もは左サイドバックとして出ていて、主に左サイドを中心にプレーしてる月城だが今は逆サイドのプレーだ。その上、開始前からポジションに移動ではなく、試合が始まって混戦となっている最中で移動してきたので、不意を突かれる形となった。



「相手トリッキーに来てるよー!注意してー!」



 照皇をマークしながら、弥一はコーチングを行う。




「(このまま右で上げてくる!?)」



 ボールを持った月城に影山が迫ると、右足でのクロスに警戒。月城が右足を振り上げると同時に、影山は阻止しようと体を寄せに行く。



 だがこれは右足でのキックフェイント。蹴ると見せかけての切り返しで、影山を躱して立見エリア内に侵入していった。



『月城入った!八重葉、先制のチャンス来たか!?』




「(このままシュート!?それともパスか!?)」



 相手がどちらを選択して来るのか、身構えながら大門はどう来るのかを読む。



「(俺が決めてやらぁ!!)」



 周囲には渡さず、自らがヒーローになる事を狙う彼は左足を振り抜く。立見エリアに入って、右45度の角度からシュートだ。



 しかし彼が自分で決めるという強い気持ちは、弥一にバレていた。



 照皇のマークを離れると月城のシュートコースに飛び込み、左足を伸ばしてボールを弾く。



『月城シュート!神明寺ナイスブロックだ……!?』



 弾かれたボールはエリアの外に出て、立見ゴール前の中央へと舞っていた。そこに上がって来た大城が詰め、弥一の弾いた球をそのまま右足で振り抜く。



 ミドルレンジからパワーシュートが飛び出し、ゴール左上へ豪球が突き刺さんと襲いかかる。



「ぐおお!」



 これに大門が飛びつき、両腕を伸ばして大城の放ったシュートを弾き飛ばす。右サイドの方に流れて行けば、田村が取ろうとするがそれよりも早く、村山が追いついていた。



『大門止めた!ボールはまだ八重葉!村山上げた!』



 田村が阻止に動くも、村山の左足のクロスが立見ゴール前に上がり、照皇がそれに対して飛ぶ。



「(これで決める!!)」



 180cmの長身と跳躍力から繰り出されるヘディング。決勝ゴールに向けて、照皇は力の限り地面に叩きつけるように額で完璧に合わせた。



 今度こそ決めてやるという強い執念。立見のゴール右をしっかり捉えていく。




「(決めさせないっての!!)」



「!?」



 これを月城のシュートをブロックした弥一が、照皇の放ったヘディングが地面を叩いて跳ね上がる前に、右足で蹴り飛ばしてしまう。



 冷静な照皇も弥一のこのプレーを目の当たりにして、目を見開いていた。




「(よし来た!)」



 再び弾かれた球に大城が迫り、シュートを狙う。



「(何度もやらせる訳ねぇだろ!)」



「っ!?」



 そこへ勝也が大城より今度は素早く駆けつけ、弥一の弾いたボールをキープ。一瞬見えた鬼気迫るような勝也の顔に、大城は気迫に押されたのか詰めきる事が出来なかった。



『ようやく立見ボール!八重葉の波状攻撃を凌ぎきりました!』



『今の照皇君のヘディングは大門君も間に合っていなかったように見えましたから、神明寺君あれを何故蹴り出せるんでしょうか!?』




「はぁ……はぁ……はぁ……」



 八重葉の攻撃を凌ぎきった弥一だが、両膝に手を置いて肩で息をしていた。誰が見ても体力を消耗している事は明らかだ。



 その証拠に立見が反撃を仕掛ける時、弥一は動こうとせず。



 立見は八重葉にシュートが放てないまま、延長戦前半の10分が終了する。

弥一「安藤先輩ー、蜂蜜レモンのドリンク専門店とか始められるそうじゃないですかー?」


安藤「それ一本勝負は流石に弱いだろ!店始めるならやっぱ、料理をしっかり学んでレストラン開店とかの方が良いし」


弥一「だったらそこにメニューでドリンク置いてくださいよー。そしたら頼みますから♪」


安藤「あー、まぁそれは普通に良さそうか……」


勝也「あいつガチで惹かれてる感じだなぁ蜂蜜レモンドリンクに」


輝咲「(僕のライバル安藤君、というか蜂蜜レモンドリンクになりそう……?)」

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