進化した王者
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
立見のユニフォームはダークブルー、GKは紫。
八重葉のユニフォームは白、GKは赤。
立見高等学校 フォーメーション 4-5-1
豪山
9
川田
成海 16 岡本
10 7
影山 神山
14 6
水島 神明寺 間宮 田村
21 24 3 2
大門
22
八重葉学園 フォーメーション 4-4-2
照皇 坂上
10 9
品川 村山 高知
11 7 8
仙道(政)
6
黒泉 大城 仙道(佐) 錦
21 5 4 3
工藤
1
「この試合、何時も左サイドバックで出てる月城君がいませんね〜」
八重葉のスタメンを見た時から、彩夏は気になっていた。期待の超ルーキーにして、全国随一のスピードを誇る月城はスタメンから外れ、今日はベンチからのスタートだ。
「おそらく歳児君と同じ起用方法で、この試合は臨んでいるんだと思う。後半の頭か終盤の彼のスピードで不意を突こうと」
「全国1番のスピードですよねあいつ。これきついなぁ……」
月城の投入するタイミング、立見が優也を後半に出す時と似た時間帯だろうと京子は読む。スマホで摩央が月城についてデータを改めて調べれば、高校サッカー界No.1のスピードスターと紹介されているのが見えた。
そんな相手が温存して後半に出て、苦しめるかもしれない。立見にとって、また一つ注意すべき存在が増えてしまう。
『八重葉、村山に高知!仙道政宗、佐助とほぼダイレクトで繋ぐ!』
フィールドでは八重葉による、巧みなボール回しが展開される。佐助が積極的に前へ出て参加と、立見のゴール前に早くも迫って来た。
「どるぁ!」
品川へ渡った瞬間を狙い、勝也が激しいスライディング。ボールを弾き出すが、それを素早く政宗がフォローしていく。
『セカンドを拾うのが速いですね政宗君!これは良いフォローですよ!』
一瞬村山がフリーになった所へ、政宗からの素早いパスが右足から放たれる。これが通り、村山は振り向きざまに右足でシュート。村山得意のターンシュートで、ミドルレンジから大胆に狙う。
「大門ー!」
その前に弥一の声が入り、大門は不意のターンシュートを慌てる事なく正面でキャッチ。
『この試合ファーストシュートは八重葉!村山の振り向きざまのシュートで幕を開けました!』
『流石に少し距離遠めでしたかね?でも中途半端に取られるよりシュートで終わって流れを作るのは村山君良いですよ』
「大門出せぇ!でっかく!」
「!」
そこに勝也の声が飛び、大きく出せと指示を受けた大門は右足のパントキックで、前に強く蹴り上げた。天まで届くような天井パスを思わせる。
「(馬鹿め)」
このプレーを見て、龍尾はニヤッと笑う。
一気に八重葉陣内に運ばれ、豪山と大城の空中戦となれば大城がこの球を制する。
その弾いたボールへ、素早い反応で佐助が迫っていち早くキープしていた。
『八重葉がこれをキープ!仙道佐助、素晴らしいセカンドへの対応だ!』
「っ!(おいおい、夏より零れ球への詰め速くなってんだろ!)」
予想以上に速い、八重葉のセカンドボールへの対応。これには勝也も驚かされる。夏の時のように徹底して、零れ球を狙う作戦は潰されてしまう。
「(セカンドへの対応は総体優勝後に浮かれる暇もなく、皆その強化練習を積み重ねてんだ。狙いが甘ぇぜ神山さんよ!)」
夏の時と同じ手は効かない。立見が思うように展開出来ていない所を、八重葉の最後尾から見ていた龍尾。
立見に徹底してロングボールの戦法をやられた試合で、八重葉はセカンドへの対応が若干甘い事に気付かされる。その日を経て、総体を制した後にセカンドへの対応を重点的に鍛え続けてきた。
それが王者を更に進化させ、立見の予選での圧倒的サッカーに刺激を受けた事もあってか、八重葉は全国の猛者を相手に此処まで完勝で勝ち上がる。
『ボールを取った八重葉、流れるようなパス回し!』
セカンドを制して、村山を中心にパスを回す。速さも正確さも兼ね備え、カットは困難だ。
「川田!7!」
村山を自由にはさせられないと、勝也は川田へマークを任せる。その声を受ければ、川田は村山にきつく肩からぶつかっていった。
『1年川田の激しい当たり!っと政宗これを拾う!』
セカンドへの対応に優れた政宗が、追っていた岡本より速くボールを拾う。
そこから照皇に向けて右足で強く蹴ると、球はシュート並の速さで彼の胸付近へ向かって飛ぶ。
「(あまーい!)」
「!」
胸トラップに行こうとしていた照皇の前に、弥一が政宗のパスを読んで飛び込む。勢いあるボールを左足で蹴り返し、クリアしていた。
『神明寺、照皇の前でパスを跳ね返す!』
弥一の蹴ったボールが前へ運ばれるも、大城が走って前に出てくれば、川田を空中戦で跳ね除けて頭で押し戻す。再びボールを持った八重葉が、立見のゴール前付近に迫る。
『ボールを持った高知!いきなりシュート!』
パスに行くと見せかけ、キックフェイントに備えていた成海の意表を突き、そのまま右足を振り抜いてロングシュートに持っていく。影山がコースに入り、左肩で受け止めるも再びセカンドとなった球へ、八重葉の素早い詰めが入る。
坂上がミドルレンジから、左足のシュート。今度は間宮が胸で受け止めて、シュートを弾き飛ばす。
高く上がったボールはゴール前、エリアの外なので大門は飛び出せない。落下地点に迫るのは照皇だ。
「(頭で繋いで来るなら、飛ばさせないっとー)」
そこに忍び寄る弥一。照皇が頭で繋ごうとしているのを、阻止する狙いだった。
照皇はタイミングを合わせて、飛ぼうとしているのが見える。弥一は左から低い位置で迫っていく。
弥一得意の合気道式、ショルダーチャージが炸裂する。
「!?」
しかし驚かされたのは弥一の方。照皇は弥一の低い位置からの当たりが来る前に、バックステップで躱したのだ。
ボールは誰も触れずにワンバウンドして、真上に跳ね上がった瞬間。照皇がそこから前に飛んで、右足のジャンピングボレーで合わせようとしていた。
「(撃たせない!!)」
「!」
だが弥一も躱されたままでは終わらない。バランスを崩さないで踏み止まると、右足で芝生を蹴って飛び、左足を伸ばしてスパイクのつま先でボールを蹴り出す。
これには誰も拾えず、そのままボールはタッチラインを割っていく。
『神明寺かろうじてクリア!照皇のシュートを阻止しました!』
『序盤から八重葉の凄まじい波状攻撃でしたね。我々も一息つく暇がありませんよ』
プレーが途切れず、立見の守備を休ませる暇なく立ち上がりから猛攻を見せる八重葉。弥一が断ち切ってくれたおかげで、立見の守備陣はようやく息継ぎをする事が出来た。
「やりますね〜照さん、僕の当たりを躱したのは日本じゃ貴方が初めてですよー。おめでとうございます〜♪」
弥一は照皇のペースを乱そうとしてるのか、自分を躱した相手を称えて軽く拍手を送っている。
「あれ、聞こえてますー?」
だが彼の反応は何も返って来ない。弥一が何を言っても、彼の集中が乱れる事は一切無かった。
「(上手くて身体能力高くて体もゴツい……優也みたいに冷静で動じないと、心は熱いみたいだけどね)」
現代サッカーにおいて必要な物を、高校生の時点で多く兼ね備えている天才ストライカーの照皇。彼は弥一を躱し、立見からゴールを決める事に集中している。
「(決めさせる気無いけど!)」
弥一の方も1点も取らせる気は無い。照皇をどう封じてやろうか、頭を働かせ始める。
弥一「こういうのってライバル側の方が煽ったりするもんだけど、全然相手してくれない〜」
照皇「……」
弥一「こういうトーク場でもだんまり〜?(という訳でそんな彼の心を見てみましょうー♪)」
照皇「(何を話すのが正解だ……?トークは自分の方であった出来事を話すもの、練習しかしていないが……八重葉の練習方法を部の許可も無しで語る訳には)」
弥一「えー、とりあえず龍尾さんか月城辺りにバトンタッチで〜」