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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 選手権編
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執着心の強さ

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『な、なんとぉ!?立見がぐるぐる回っている間に神明寺から速いクロスが蹴られ、それをなんとGKの大門がヘディングで決めて驚きの先制点が聖地国立で生まれました!!牙裏は今大会これが初失点!』



『今年始まったばかりですが、もう驚きのゴールが生まれましたね!?これ上半期1番の衝撃ゴールでしょう!トリックプレーからまさかのGKの得点ですからね!?』



 国立競技場は今、騒然としていた。



 GKが上がったかと思えば、立見の選手達がぐるぐる回ったりと1回のセットプレーで、相当な事を仕掛けての得点。滅多に得点する事の無いGKによる珍しいゴールもあって、かなりレア度の高い得点となっただろう。




「なんやねんこれ……!神明寺かと思ったらそのままクロス放り込んでキーパーかい!シンプルやったわクソ!!」



 まんまと弥一にやられ、何で大門を警戒しなかったんだと、矢島は頭を抱えて強く後悔する。



「(勝也さん、そういうのもやるかと思ったら完全な囮……!大胆過ぎるって!)」



 自分の知らないパターンのサッカーをされて、春樹も何で見抜けなかったんだと悔やむ。




「あのチビ、カーブとか結構使って来たけど嫌なタイミングで剛速球で来やがった」



「曲げたりして、そのイメージ強くなってましたよ。あんな速いストレートも蹴って来るんスね」



 今のは対応しづらいと、月城はその前の立見が回る所も見て、今あそこに自分が相手として立ってなくて、良かったと思っている。



 龍尾の方は難しい顔を見せていたが、その後で笑いが込み上げてきた。



「(これをもう見ちまったから、立見は決勝じゃ同じ事は出来ないって訳だ)」



 彼らがやって来たのは一度限りのビックリ芸。これで立見が上がって来たとしたら、おそらく同じ事はやって来ないだろう。



 やってきたとしても、龍尾が絶対決めさせはしない。





「(上手く行ってくれて良かったぁ〜)」



 皆が大門を祝福する最中、弥一は先程の打ち合わせを思い出す。




 遡る事、立見のハーフタイム。ロッカールームにて。



「牙裏の守備が想像以上に堅い。春樹に加えて矢島の守備をどうにかしないとかなり厳しいんだよな……」



 勝也は難しい顔をして、豪山を欠いた状態での攻めをどうするか考えこんでいた。他のメンバーも皆が、深刻そうな表情を見せている。



「正面からは厳しいからー、もしも時間迫って来たらこういうセットプレーとかどうかなぁ?」



「何かあんのか弥一?」



 弥一に何やら考えがあるようで、勝也と立見の面々は小さな彼に目を向けた。




「大門がゴールに向かって走って、頭でドカン!」



「え、俺!?」



 予期せぬ所で自分の名前が出て、大門は驚く。



「何かと思えば、それ奇策でもなんでもねーよ。後半の残り1プレーで仕掛けるパワープレーだろうが」



 間宮は呆れたような顔で弥一を見ていた。彼の事だから、とんでもない奇策かと思えば、あまり有効では無さそうな方法だ。



「そんな単発でビックリさせられるなんて思ってませんよー、他にもこういうのやってもらおうと考えてますから♪」



 弥一の顔は実に楽しげで、彼は次にこう言う。



「皆は知ってますよね?ちょっと前の高校サッカーで、世界を驚かせたグルグル回るトリックプレーを」



「ああ、あれ見てたわ。初めて見た時は「何だこれ!?」って驚いたけど……!?」



 勝也がそれを思い出してる時、気づいてしまう。弟分が何を言おうとしているのかが。




「あれみたいにゴール前でグルグル回ってください♪」



「無理無理無理!!」



「ただ回るだけじゃないだろあれ!?相当な積み重ねがあってこそだから!」



 弥一のとんでもない無茶振りに、翔馬や成海は出来ないと何度も首を横に振る。



「 何もまんま、その動きをやれって訳じゃないですから。その場で手を繋いでグルグル回るだけ、ボールは気にしなくて良いです♪」



「つまり、そっちは完全な囮って事かよ。注意を向けさせる為の」



 そのプレーでホールを合わせ、決めようという訳ではない。彼らは注意を引かせる為に、本当にその場で回るだけだ。



「本命はそっちだから。事前に変えて直接行くかもしれないけどね♪」



「……!」



 弥一から微笑まれて、大門は覚悟を決めるしか無かった。




「はぁ〜!本当ヒヤヒヤした!」



 ゴールを決めてもみくちゃにされた後、大門は今更ながら心臓に悪い事をやったと気づけば、胸はバクバクと高鳴っていた。



「僕もかなりスリル感じたよー!でも取れて良かったー♪」



 守備がガラ空きになって弥一も平気という訳ではない。外した時のリスクを思えば、プレッシャーは大きかったはずだ。



 その時、自分を見る視線が感じられて弥一はそちらを向いた。睨むように見ていたのは弥一に騙され、初失点を許した矢島。




「(取り返して来るならどうぞ?)」



「!」



 その矢島を見ると、弥一はニヤリと笑えば背を向けて位置に戻る。それが自分を煽ってると思えて、矢島はギリッと歯を食いしばる。



「(神明寺ぃぃぃ!あのクソガキャァ!!絶対この借りは返したるからなぁ!!)」



 矢島の心はマグマのように煮え滾り、弥一にも初失点を食らわせてやろうという思い。そして勝利への執着心が彼を突き動かし、終盤戦に臨む。




『先制点を奪われた牙裏、全体的に前へ押し上げてより攻撃的に行く!』



『天宮君と矢島君も積極的に上がって来ましたね!』



 牙裏は同点に絶対追いつこうと、押し寄せる波の如く皆が立見ゴールへ迫っていた。



「もう見えたらガンガン撃つんや!ロングでも構わんわ!」



「楽に撃たせるなよ!きっちり寄せてけー!」



 勝也と矢島、互いのキャプテンの声で皆が動き、激しい攻防戦を繰り広げる。佐竹に川田が激しく肩からぶつかり、そこから零れた球を春樹が拾って、ミドルレンジから右足でシュート。



『天宮のシュート!間宮がブロック!これはラインを割って、影山が拾ってCKにはさせない!クリアー!』



 ミドルシュートを間宮が体を張ってブロック。零れ球に狼騎が迫っていたが、その前に距離の近かった影山が拾ってボールを蹴り出す。彼のスピードにも慣れてきたようだ。




「絶対にこれ0で凌ぐよー!今日のヒーローはDFだよー!皆輝いてるからねー!」



 奮闘する守備陣に弥一は声を掛け続け、DF陣を欠かさず盛り立てる。これを凌げば自分達が目立ってヒーローになれると、守備の選手達は皆が集中して張り切る。



「く……!」



「(好きにはさせねーよ!)」



 春樹が再びセカンドを拾おうとすると、これを先に拾ったのは勝也。ボールを蹴り出して、此処もクリアして守る。何時までも後輩に、セカンドを制されてばかりでは終われない。




「戻せぇ!」



 怒号のような矢島の声が響き、ボールを要求すると自分の所へ転がって来る。



 それを渾身の力を込めて右足を振り抜けば、豪快なロングシュートとなった。だが、優也がシュートコースに飛び込めば足で弾く。



「スローインすぐ行くで!」



 タイムアップの時は迫り、矢島は急がせる。





「……焦って攻撃が単調になってきてるな」



 スタンドで試合を黙って見ていた照皇が、静かに口を開く。彼から見て牙裏は焦っていると感じられた。



「狼騎の強みを活かさずマシンガンみてーに遠めのシュート撃ちまくって来たけど、立見には効いてねぇな。落ち着いて対応してやがる」



 牙裏が積極的にシュートを撃って数を稼ぎ、押しているように見えるが、立見の守備は慌てず体を寄せたり、コースを切ったりと楽に撃たせてはいない。



 このまま終わる、照皇と龍尾は揃って確信したのだった。




『牙裏、セットプレーで矢島が上がる!192cmの高さを活かし、ゴールを狙う!』



『GKの加納君も上がりましたよ、これがラストプレーになりそうですね!』



 これが最後のワンプレーかもしれないと、牙裏はセンターサークル付近でFKを獲得すればキッカーはキック力のある佐竹。前には矢島にGKの加納と、長身をずらりと揃えてのパワープレーに出る。




「(もう小細工いらんわ!俺の高さは誰も届かん!シンプルイズベストや!)」



 この局面なら力で取る方が、最も確率が高いと矢島は見ていた。身長は自分が両チーム通じて今回の試合で最も高く、高さで競り負ける事はあり得ない。



 佐竹の右足で蹴ったボールが、立見ゴールまで一気に届く。矢島は頭上のボールに向かい、何時も通りに飛ぼうとしていた。



「うぶっ!?」



 そこに体に伝わるズシンとした強い衝撃。飛ぼうとした瞬間を狙われ、矢島のジャンプのタイミングは狂って飛べず。



 犯人は低い位置からタイミングを見て、強くぶつかっていった弥一だ。



 ボールは流れて大門が取ればしっかり体で包んでキープする。そこから強く蹴り出して国立競技場の空を球が舞った瞬間、試合終了の笛は鳴っていた。



『試合終了ー!1ー0!立見なんと選手権初出場にして初の決勝進出!一足先に決勝への切符を勝ち取りました!!』




「(負けてもうた……俺の高校最後の試合がこれか……)」



 立見が勝利を喜び、輪を作る一方で牙裏は落胆の色を隠せず倒れ込む者が続出。



 勝利を目指して最後まで戦ったが、敵わなかった。矢島は自分の勝利を阻んだ存在に目を向ける。



「(あいつ、ホンマに無失点全部目指す気か……?)」



 皆と喜び合ったり、スタンドに向かって陽気に応える弥一の姿を見て、矢島は思い出す。試合前に聞いた勝利より更に大事な無失点での勝利。



「(いや、どっかでコケるはず!そん時のあいつの泣き顔が見物やくそ!)」



 一瞬、弥一なら本当に全部無失点をやってしまうかもしれない。そう思えたが矢島は無い無いと首を何度も横に振り、何処かで泣きを見ると思い直す。




「(神山に神明寺……こいつは決勝が随分と楽しみになっちまったな)」



 立見の勝利を見届けた龍尾は不敵に笑っていた。これは絶対決勝へ行かなければならないと、そう決めれば八重葉の面々と共に第2試合へ向かう。




 立見1ー0牙裏



 大門




 マン・オブ・ザ・マッチ



 大門達郎

大門「初めて選ばれた!?」


弥一「良かったねー♪多分公式戦初ゴールでもあるでしょー?」


大門「そりゃそうだよ!あんな上がるような事は中学時代もしてなかったし!」


摩央「つかホント……終了間際でもないのに無茶苦茶なトリックプレーやったな!?」


弥一「次にCKまた取れるとは限らなかったからねぇ、かますなら此処かなって」


大門「心臓に悪いから次はやらないと思う……」

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