選手権準決勝 立見VS牙裏
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
高校サッカー選手権。準決勝からは開幕戦以来となる聖地、国立競技場で2戦とも行われる。
「やっっと試合で会えましたね勝也さん!」
「お、おお。そんな会いたかったのかお前」
国立のフィールドにて、立見と牙裏の両選手がウォーミングアップを行なっている時、勝也の前に春樹が駆けつけて挨拶していた。
「そりゃそうですよ!総体で戦えるかと思えば途中で負けちゃったりと、そこから選手権の今日!ついに戦えるんですから!」
どれだけ待ち望んでいたのか、春樹の勝也に対するキラキラ輝く目を見れば大体分かる。
「まぁ俺も春樹とは敵チームで公式戦とか無かったしな。中学時代に俺らがもう少し勝ち上がってりゃ、石立中と当たってただろうし」
「中学時代は残念ながら機会無かったですね。でも、今日やっと戦えますから!あ、勿論加減はしませんよ!そういうの嫌いなの、ちゃんと分かってますからね!?」
「お、おお(すげぇ熱……!そんな立見と試合したかったのか春樹の奴?とりあえず気合満点っぽいから、そこ負けねぇようにしないとな)」
「(本当は勝也先輩と同じ柳石中学や立見高校に行きたかったけど、「お前はもう俺から独り立ちした方が良い」と僕に試練を与えてくれた。ああ、やはり貴方は凄い人だ!)」
「(うーん、見事に気持ちズレてるというか。春樹さん高校生になって信者に磨きがかかってるかな……?)」
2人の心を覗き見た弥一。春樹の心を見た時、彼への崇拝でほぼ埋め尽くされており、少し引いてしまう。
「よ、立見期待のルーキー君」
背後から声を掛けられ、振り返れば弥一は40cm以上の差がある彼の顔を見上げていた。
「実物の方がちっさいなー。自分小学生って言うたら多分信じる人おるで?」
「お兄さんはおっきぃですね〜、大学生でも通りそうですよ♪」
「それガチで言われんねん。大学生どころか社会人思われるし、まぁ背の高い奴あるあるやろ多分」
弥一は相手のキャプテン矢島と言葉を交わし、互いに笑い合った。
「ま……今日でどっちが高校最強のDFが決まる。みたいな話になっとるみたいやけど、別に俺はんなもん興味無いわ」
「へぇー、奇遇ですね。僕もいらないですー」
高校サッカーにおいてポジションのNo.1と言われる称号。それを弥一も矢島も、執着は特にしていなかった。
「No.1になっても勝てるとは限らん、むしろ余計な力が加わって邪魔や。大事なのは勝利、それより大事なもんは無いやろ」
自分の称号よりも勝利を最優先、それが矢島の考えだ。その主義があってこそ、石立中学で2度の頂点に輝いたのだろう。
「勝利より大事な物……1個ありますねー」
「ほう?」
無邪気な笑みで見上げる弥一に、矢島は興味深そうに見下ろして彼の答えを待つ。
「無失点で勝利。僕それが1番大事って思ってますねー」
迷いの無い瞳と言葉、弥一の中でそれが最重要だとハッキリ言い切ってみせた。
「まぁDFとしては最も理想的な勝ちやな。ただ坊主、お前がそれを1番大事やと思うなら危ういで」
やんわりと笑みを浮かべ、矢島はDFの先輩として伝えるかのように弥一へ告げる。
「そういう奴は1失点でもしたらガラガラ崩れ落ちるもんや。築き上げたもんが、たった一度のゴールで全て台無し。それでも戦い続ける鋼のメンタルはこれから必要になってくるで」
「……」
弥一は無言で矢島の言葉を聞きながら、彼を見上げていた。
「どうやら納得行ってなさそうな顔やな。ほな、高校最強DFがどっちか決めると同時にどっちのやり方が正しいか、試合を楽しみにしとくわ」
それだけ言うと、矢島は後ろを向いて歩きながら弥一へと、ヒラヒラ右手を軽く振る。飄々とした感じだが、彼の心は牙裏の勝利を強く願っていてかなり熱い。
勝利第一のやり方は、高校になっても変わっていないようだ。
『此処、国立競技場に全国ベスト4の猛者が集結!選手権も残すは準決勝と決勝、まずは立見と牙裏が決勝の椅子を争います!』
『立見も牙裏も此処まで攻守で素晴らしい成績を残してますからね。総合力は互いに引けを取らないと思いますし、鍵としては立見の歳児、牙裏の酒井。両チームの攻撃選手に今回の試合を大きく左右するかもしれません』
超満員で開始前から早くも、冬の寒さを消し去る程の熱気が漂う国立競技場。スタンドには立見の応援団が来ており、その中には輝咲の姿もあった。
「牙裏か……今日はきつい試合になりそうかな?」
「そうですねぇ、立見と八重葉と同じく牙裏もこの大会無失点で来て、攻撃でもエースの酒井が得点王争いに食い込む程取ってますから」
「後、ボランチの天宮もセカンドをどんどん拾ったりして良い仕事するんですよねー。後は後ろにいる190cm超えのCDF矢島がもう壁って感じです。相手のエースをとことん仕事させないんですよねー」
輝咲を慕うチアリーダー2人から、牙裏がいかに厄介なチームか教えられ、要となる者達の名前を言っていく。
「でも、立見は無失点。今回は……彼の壁を破れるかどうかだね」
輝咲の視線の先には、フィールド中央でコイントスによる、先攻後攻を決める両キャプテンの姿があった。
「たいしたもんやなぁ」
「ん?」
互いに向き合う勝也と矢島。その時、長身の彼が呟くように言う。
「あんた漫画ぐらいでしか出来ん事やっとるで。ベスト4まで来とるし、もう有名人確定や。後でサインええか?」
「さ、サイン?まあ良いけど」
「おおきにー」
急にサインが欲しいと言われ、彼のペースに勝也は弥一のようにマイペースな奴だと少し調子が狂う。
「向こう先攻や。変幻自在な立見のサッカーやけど、うちのやる事は変わらへん」
牙裏の円陣に矢島が加わり、コイントスの結果を伝えた後に彼の目は狼騎に向けられる。
「狼騎、相手は任せたわ」
「……っす」
矢島のやんわりとした笑みの中で、射抜くような鋭い目を向けられて狼騎は頷く。
「勝利以外はいらん!牙裏最強ー!」
「「牙裏最強ー!!」」
矢島の掛け声に皆が揃え、決戦に向けてチームの士気を高めていった。
「相手には頂点を知る奴が何人かいる。今まで以上に気を引き締めないと、狩られるのは俺らになっちまう」
円陣に加わった勝也の言葉を皆が真剣に聞いている。今回の相手はワンランク上の強さを持つと、全員が理解しているようだ。
「聖地に帰って来ただけで満足は無しだぜ!今日も勝つ!立見GO!!」
「「イエー!!」」
こちらも勝也の掛け声でチームの士気を高め、決戦に向けての準備が整っていった。
ピィーーー
立見のキックオフから、大歓声が沸き起こる中で準決勝の試合が試合開始。
豪山が軽く蹴り出し、成海が後ろに戻す何時も通りの立ち上がりだ。
「(弥一に……!?)」
川田がパスを弥一に出そうとした時、その足が止まる。弥一には早くも狼騎がピタリとマークに付いていた。
「おおっ?」
いきなり真っ直ぐ自分のマークに来た狼騎に、弥一は驚きながらも、ゆったりとした歩きから急なダッシュをかける。
「(甘ぇぞ小僧!!)」
しかし緩急をつけた動きに、狼騎はすぐに反応して弥一のマークを外さない。驚異の反射神経を持つ彼から逃れる事が出来なかった。
「(その調子で最後まで頼むで狼ちゃん。あのちっさいリベロに今回自由はやらん)」
狼騎が弥一をピタリとマークする姿を、後方から見て矢島がニヤリと笑う。
狼を操り、自由な存在を封じる。勝利主義の策略が、早くも弥一に襲いかかってきた……。
弥一「何かまた個性的なチームになったなぁ牙裏」
摩央「ヤンキーみたいなFWが居るかと思えば、何か狂ってそうなボランチだったり、曲者っぽいでっかいDFと、不気味な感じするぞ」
大門「全国でも屈指の個性の強さかもなこれは……」
弥一「とりあえず悔やまれるのはー……ゴロちゃんもう1年早く生まれて来てくれれば最強の個性派集団が完成だったー!」
摩央「何を悔んでるんだよお前は!?」
五郎「っくしゅ!(現在は中3な三好五郎)」