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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 選手権編
592/651

圧倒の裏側

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「くっそぉ!あのチビ!!」



「もう前出ようぜ前!この作戦駄目だ!」



 先程の煽られた事も込みで、またしても弥一にしてやられた海塚は怒りを露わにする。それと同時に、作戦を無視して攻めようと決めていた。



「いや、何言ってんだ!?監督からは徹底してこれで守ってじっくりチャンスを待つって言われたろ!?」



 冷静ではない様子の仲間に、佐田は落ち着かせようとする。他の仲間も頭に血が上ってる者へと、声を掛ける姿が見えた。



「2点リードされてんだろうが!守ってる暇なんざねぇだろ!」



「そうそう!チビの所ぶち抜いてやろうぜ!」



「おい待てって!」



 暴走は止まらず、佐田が呼び止めようとするが、仲間達はポジションに戻って行く。




『さあキックオフで試合再開……っと、海塚が前に出て来た!流石に2点リードされてはもう攻めるしかないか!』




「駄目だなありゃ」



 試合を見てた龍尾は先が見えたのか、そんな言葉が出て来た。



「流石にあれは、海塚ガタガタだなって分かりますよ」



 前半の序盤、自陣ゴールに引き籠もっていたが今は積極的に前へ出ている。しかしチーム全体的の意思疎通が出来ておらず、攻撃が噛み合っていないと月城の目に映る。



「チーム全体に乱れが見えている。このままでは海塚といえど2点程度では済まんかもしれんぞ」



 早く修正しなければ、取り返しのつかない事になる。照皇が話している間、前がかりとなった海塚はパスを回して攻め込んでいたが、勝也によってパスをインターセプトされる。



 そこから右足でパスを送れば成海が受け取り、手薄となった左サイドからドリブルで海塚エリアに侵入。PKを取られたばかりで、海塚DFは成海への寄せが甘くなってしまう。



 成海への意識が強くなると、得意の左足でシュートに行くと見せかけ、軽く豪山に転がす。これに豪山はすかさず右足で合わせ、幼馴染の阿吽の呼吸が3点目を生み出す。



 前半だけで3点差となって、作戦を無視して攻めた選手達に海塚の監督が難しい顔を見せながら、ハーフタイムに入る。




「監督すみません!作戦を無視してしまいまして……!」



 ロッカールームで選手達は監督に頭を下げ、作戦無視の事を謝罪している。



「……いや、むしろあれが立見には効果的だと思い込んだのが浅はか過ぎたのかもしれない。作戦は終わりだ、何時も通り攻めて3点差をなんとかひっくり返せ!」



「はい!」



 執拗なまでに守備を固めた事が、今回逆効果だったかと監督が反省すると、何時も通り強気に攻めてフィジカルで圧倒する、海塚のサッカーを見せて来いと選手達に伝えていた。



 弥一の挑発を受けて頭に血が上っていたが、ハーフタイムの間に冷静になれたようで、佐田は一安心。



 だが、この後の惨劇を彼は知る由もない。





『後半開始早々、4点目が決まった歳児ー!』



 立見は後半の頭から、右サイドの岡本に代わり優也を投入。すると海塚DFに俊足で詰め寄り、ボール奪取に成功する。豪山とのワンツーから、優也が右足で決めてみせて4ー0となった。



「なんや、立場逆転しとるやん?」



 想真の目の前には、攻め込む海塚と守備を固める立見の姿が映る。前半は逆だったが、後半は互いにプランを変えたようだ。



「立見めっちゃ上手く速攻で急所突いとるわー。嫌やなあれ」



 スタンドからは海塚が積極的に上がる事で、スペースが出来ているのが分かる。それが見えているかのように、立見はシュート並の速さでスルーパスを送って来た。光輝はこれを見て、立見のカウンターに強い警戒を持つ。




「(ゴール前をガチガチに固めたくなる訳だ……パスが速いし、かと言って引き過ぎも駄目なんだよなぁ)」



 次の対戦相手になるかもしれない立見の試合を見て、番が頭を悩ませている。その間に川田が豪快なミドルで、ゴールネットを派手に揺らして5点目。




「これ絶対に勢い乗らせたら駄目だよね」



「乗っちまったら相手はまず死ぬだろうよ」



 点を取られたら極めて高い確率で負ける。先制点はやれないなと、春樹がじっくり立見の試合を観察。狼騎がそう言った直後、上がって来た勝也が右の田村からのクロスに、右足で合わせてのボレーで合わせて6点目。




「ハーフタイムで海塚は上手く立ち直れなかったな」



 前半の失点を切り替えられず、尾を引いたまま後半へ臨んだ結果だと村山は見ていた。それを言っている間にも立見の攻撃は止まらず、ゴール前フリーの影山が7点目を決めてみせた。



「調子悪かったのかな海塚。得意のフィジカルも空回りみたいだし」



「点差付き過ぎて集中力とかモチベとか欠けたんじゃないか?」



 仙道兄弟の佐助、政宗の2人は海塚が不調と思っている。でなければ此処までの点差は、あり得ないだろうと。




「気を抜くなよー!取れそうな点は逃さずガンガン取っとけ!」



 点差が開いても、勝也は攻撃の手を緩めさせず。相手に隙があったらゴールを狙えと、声を張り上げてチームの高い士気を保ち続ける。




「やはり立見は彼が居ると全く違うな」



 照皇の視線の先には、後方から声を掛け続ける勝也の姿。総体の時に、八重葉は彼が居る時と居ない時の立見と戦っていた。



 前半こそ押していたが、後半に勝也が入ると互角の展開。徹底したロングボール戦術で、自分達に迫った事は忘れない。



「何より分かったよなぁ。神明寺弥一を自由にさせない、立見に勢いを付けさせないと、まあまあの収穫じゃね?」



 立見の圧倒する試合を前に、龍尾は立見の攻略法を考えていた。特にこの2つが重要だと、彼の中で結論は出たようだ。





「(どうなってんだよ、何でこんな点差が……!?俺達優勝候補だよな!?)」



 佐田は電光掲示板に表示されたスコアを見て、信じられない思いでいっぱいだった。自分達が優勝候補である事を、改めて確認する程だ。



 翔馬の左サイドから蹴ったクロスが、そのままゴールに入ったり、武蔵の蹴ったシュートがDFに当たって、オウンゴールになってしまったりと、不運も立て続けに起こって9ー0とされてしまう。



 立見の強さもあるが、それだけではなかった。



 時は少し遡り後半の序盤。




「(はぁっ、なんとか1点でも返さないと!)」



「ねぇー」



 ボールがタッチラインを割ってスローインとなり、プレーが一時的に止まると、弥一が海塚の選手に近づく。



「あそこに居るチアの子、可愛いよねー?」



「は?……ああ、まぁ……」



 弥一の視線の先には立見のチアリーダーが、応援する姿があって彼も同じく見る。



「さっきあんたに熱い視線送ってるの見えたからさ。気があるんじゃないのー?」



「い、いや。そんな事無いだろ……敵だしよ(マジで!?あの子が俺に!?)」



 彼にとって好みの女子のようで、言葉で否定しながらも気があると聞いて、心に動揺が生まれる。これによって彼は試合以外で色々考えてしまい、集中力を欠いていた。




「何時も蕎麦ばかりで大変だよねー、たまにはがっつりラーメンとか寿司とか食べたいでしょうー?」



「っ……!」



 再びプレーが止まったタイミングで弥一は忍び寄り、海塚の選手に厳しい食事制限の事を知って、美味しい食事について話し出す。



「試合が終わった後の焼肉とか最高だよね〜♪」



 弥一の言葉を受け、思わずゴクッと喉を鳴らしてしまう。彼もこれによって食事の事を考えるようになり、プレーに精彩を欠いていた。




「(ストイック過ぎたせいか心に色々溜め込んでたなぁ。こんな効果抜群なのも珍しいや)」



 海塚の選手達に弥一の言葉は大きく効いている。心理戦で心を大きく揺さぶってぐらつかせ、得意のフィジカルを活かしたプレーも発揮が出来ていない。



 弥一はこの試合、このまま行けるなと確信。そして試合が9ー0となって、試合終了間際となった時。




『歳児倒れた!ホイッスル、またしてもPKだ!』



『完全に後ろから掴んでますね。審判の目にも入ってましたから』



 優也が得意のスピードを活かしてDFの裏に飛び出し、ドリブルでGKと一対一になろうとしたら、海塚DFが優也のユニフォームを後ろから掴んで引っ張る。



 優也が倒されると、主審の笛が鳴ってPKを指示。この試合2度目だ。




「弥一、此処まで来たらお前10点目を決めちまえ」



「良いのー?」



 誰が蹴るのか、話し合いが行われると思ったら勝也はすぐ弥一を指名。弥一はPKを取った優也に目を向けた。



「DFがハットトリックは滅多に無いだろ」



 優也もこれを蹴るつもりはなく、弥一に譲る。




『おっと、これを蹴るのは今日2点を決めている神明寺だ!』



『DFですが、やはりハットトリック狙いたいんでしょうね。しかも決まれば10点目ですから大事なキックですよ』




 再び弥一は助走を取って、GKは身構える。だが既に9点を失い、勝ちが無くなったせいか覇気が感じられない。



 弥一の助走から左足で蹴られたボールは、ゴール左のネットに突き刺さり、GKはダイブも出来ていなかった。



 10点目と2桁得点を達成し、更にDFの弥一が選手権の開幕戦で、ハットトリックを達成。国立の会場は大きく揺れていた。




 試合が終了を迎えると同時に、立見の選手達は喜び合う。初の選手権での勝利を噛み締める。一方の海塚の選手達はフィールド上で崩れ落ち、倒れ込んでショックを隠し切れなかった。



「(プロに行く前にこんな大敗を初戦で食らうなんて……向こう行ったらこれぐらい厳しいの待ってそうだなぁ……)」



 高校を卒業すれば、プロサッカー選手としてキャリアをスタートする事は既に確定。その前に高校サッカーで、相手に何も出来ず負けてしまう。



 プロではこんな化物だらけが居るのかと思いながら、体を起こすと佐田の前には、立見の応援スタンドに笑顔で応える弥一の姿が見える。



 DFの開幕戦ハットトリック。更に2桁得点と、立見は全国に衝撃を与えたのだった。




 立見10ー0海塚



 神明寺3


 豪山1


 歳児1


 川田1


 神山1


 影山1


 水島1


 オウンゴール




 マン・オブ・ザ・マッチ



 神明寺弥一

弥一「ハットトリック決まりました〜♪ま、PK蹴らせてもらったおかげだけどねー」


勝也「海塚相手にあそこまで上手く行くとは思ってなかったな。もう少し苦戦するかと思った」


弥一「向こうが不調でラッキーだったねー♪」


勝也「何か途中で「あの子が俺を」とか「カツ丼カツ丼」とかぼやいてる選手居て、集中力欠き過ぎてね?ってなったし」


弥一「うーん、多少の娯楽って大事かも?」

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