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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 選手権編
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現役プロの心境

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「遅くなったけど東京アウラ、リーグ優勝おめでとう」



「ありがとうございます」



 12月となって冷たい風が吹く午後の昼下がり。カップルや主婦達がお茶をして会話を楽しむ中、奥の目立たない席で西久保寺の監督を務める高坂と、東京アウラで現役プロサッカー選手として活躍する太一。有名人の2人が揃って喫茶店にてコーヒーを飲む。



 その中で高坂は東京アウラのリーグ戦優勝を、ささやかながら祝福する。



「試合見てたよ。流石マグネスは攻め込まれていても、相手の一瞬の隙を逃さなかったね」



「ええ、彼から始まったカウンターが見事に決まってくれましたよ」



 劣勢な時間帯だったが、マグネスを中心とした東京の守備陣が凌ぎ続け、そこからカウンターの弾丸ロングパスが炸裂。これが左サイドの風岡に渡って、ゴールまで持ち込んだのだ。



「天皇杯の試合で横浜に負けてなかったら、もっと最高でしたけどね」




 東京アウラはリーグ戦を制する事は出来たが、横浜グランツに負けて元日の戦いはお預けとなっている。その事を悔やみつつ、太一は白い湯気が昇るコーヒーを啜る。



「最高か……」



 何気ない太一の言葉に、高坂は目を伏せた。



「僕はあの決勝、最適と思える戦い方を選手達と共に導き出した。だが……西久保寺にとってあれが最高の戦い方と言えるのかどうか、今となっては分からなくなってしまった」



 高坂の言ってる事が、立見との選手権全国への出場を懸けた決勝戦だと、太一はすぐに理解する。



「効果はあったんじゃないですか?立見はこれまで2桁得点と、あまりに驚異的な攻撃力を持ち合わせていた。それをたったの2点で抑えたのが証拠だと思いますから」



「世間はあまりそう思ってくれないけどね」



 前半は立見とスコアレスになったりと、かなり善戦した印象だが同時に西久保寺の長所を消し去っていた。途中で消極的なサッカーに対して、観客からブーイングが飛んだりと全員が称賛する訳ではない。



 あの試合後、西久保寺は守るだけのつまらないサッカーに走った。最初から攻める事を貫けば、こうならなかった。等と、SNSで批判的な書き込みがあったり、世間では賛否両論だ。



「大体負けたらそういう批判が飛んで来るのは、今に始まった事じゃない。プロで戦う君なら分かるだろ?」



「そうですね……」



 太一や高坂にとって批判は身近な物。勝てば称賛され、負ければ批判される。彼らが戦うプロの世界では、何も珍しくない当たり前の事。



「それを、弟が耐えられるのかどうか正直心配はあります」



「ああ、勝也君か。彼は今年かなりの成長を見せたな。絶えず声を出したり、豊富な運動量で広い範囲を走り回るのが彼の長所だが、ここに来て技術面もかなり増したように思える」



 決勝戦で立見と戦い、勝也のプレーを思い返す高坂。彼から見れば昨年より、相当実力が増している印象が強かった。



「あれなら遅かれ早かれプロに行けそうだが、君はあまり前向きじゃなさそうだね?」



 眼鏡越しで高坂が太一の方を見ると、彼は複雑そうな顔を浮かべている。



「夏の時、彼は一度うちの練習に来ていました。その時はプロとして話にならないレベルでしたが、今は見違えるようです。ひょっとしたら……というのはあります」



 勝也の成長に関しては太一も認めており、いずれ自分の戦う世界に来るかもしれないと思う程だ。



「ただ、あいつは強いように見えて脆い所がある」



 太一の頭の中で思い出すのは、勝也が小学生の時に全国大会で負けて優勝を逃し、家で泣いていた姿。



 試合ではチームを引っ張る頼もしい存在だが、強い挫折を味わうと抱え込んで苦しむ。そういった弟の姿を、兄として見てきた。




「俺は……プロであいつが潰れて、壊されていくのが怖いんです」



 もしもチームが負け続け、心ない批判や罵声を浴びてしまい、その結果立ち直れず壊れてしまったら。想像するだけでも太一には恐ろしく、プロを目指す事を心からの賛成は出来ずにいた。



「その弟はプロへ行こうとしているのかい?」



「熱望していました。それ以外の将来を考えてないと思います」



 以前ラーメン屋で勝也と、その事で話していたのを思い返す。太一の目からは本気でプロを目指していて、迷いが無いと感じた。



「だったらもっと信じてやろう。君は少し弟に対して過保護過ぎる。その脆い頃で止まったままだと、思っているのかな?」



「……」



 太一はもしもの最悪な事ばかりを考えている。高坂からそう見えて、弟を信じてやれと彼の目を見た。



「何より本人がその道を強く望むのなら、止められないだろ」



「そうですね……あいつが強く望んだ事を自分から投げ出すような奴じゃありませんから」



 高校に上がる時もそうだった。彼がサッカー名門校に行かず、部の無い立見を選んで0からサッカー部を作ると決めた時も、勝也は自らの言葉を曲げる事なく、立見サッカー部を作り上げた。



 きっとプロになると決めたからには、途中で諦める事はせず最後まで走りきって来る。そういう奴だと勝也を太一は誰よりもよく知っていた。



「しかしプロの練習に参加か……神明寺弥一って小さなDFの彼は呼ばれなかったのかい?」



「あ、いえ。呼ばれました。元々上は弥一君が本命だったようでしたから」



「そうか。僕から見てあの2人、不思議と中々面白いコンビだなと思ってね」



 弥一の並外れた読みやテクニック。小柄な高校生ながら、プロ顔負けのプレーをするDFが、勝也とフィールド上で仲良さそうに話しているのを高坂は見ていた。



「東京アウラとしては、神明寺君を狙うなら勝也君も揃って獲得した方が色々上手くいくんじゃないかな」



「そういえば……勝也が小学生で初めて全国制覇した時も、弥一君が居てくれましたね」



 高坂の話を聞いて、太一は過去を振り返る。勝也が柳FCで全国優勝を成し遂げた時、確かに弥一が側に居た。



「案外彼らみたいなのがプロだけでなく、代表でもやってくれるかもしれない……いや、やってほしい」



 選手としては引退した身の高坂。彼の頭の中に浮かぶのは、弥一や勝也に他の同世代の優秀な選手達が、胸に八咫烏を宿す蒼き日本のユニフォームを纏い、同じチームで戦う姿。



 男子サッカーで世界一の日本を実現させたい。それは現役の頃から、高坂が追い求め続けてきた目標だ。




「何やら熱い話をしているようだな」



 彼らが話していた時、2人とは別の声が飛んで来る。高坂はそちらを向き、軽く右手を上げれば太一は頭を下げる。



 その人物は緑のストレートロングの女性だ。



「やあ、サッカーについて話すとついつい熱が入ってしまってね」



 高坂が笑ってる間、女性は席について注文を聞きに来た店員に「コーヒーで」と答えた。




 緑山薫が女性の新監督として、協会から立見高校へ推薦された事は、世間も立見サッカー部もまだ知らない。









「選手権の組み合わせ決まりましたー!」



 立見高校のグラウンドにて、サッカー部が午後の練習をしている最中、摩央から選手権の組み合わせが決まったという、知らせを持って選手達に伝えられた。



 これを聞いた勝也は「休憩ー!」と声を轟かせ、休憩ついでにトーナメントの組み合わせを確認する。



「立見は開幕戦で、鹿児島県代表の海塚高校と当たります」



「フィジカルお化け集団で有名な所か」



 摩央から対戦校の名を聞けば、間宮が反応。



「九州の高校か……高校サッカーでは九州勢が強く、上位によく行っている印象があるな」



「俺も、選手権優勝してる高校も結構あるし」



 優也と川田は高校サッカーを観ていて、九州の高校がよく勝ち上がってる印象が強かった。



「実際この海塚も強豪で知られてる。トレーニングは主にフィジカル重視、徹底した食事制限もして一人一人が競り合いに強く、予選も危なげなく勝ち上がってるみたい」



 スマホで海塚についての情報収集を既にしていた京子。



「徹底した食事制限ってどんなのですかー?」



「主に蕎麦だけ」



「ええ〜!?美味しいけど、ずっと続くのは嫌ですよ〜!」



 海塚のストイックな食事を京子から聞けば、弥一から悲鳴のような声が上がる。美味しい食事が楽しみで、大事にしている彼にとって、それは地獄にも等しい。



「それで鍛え上げられた鋼の肉体だ。馬鹿には出来ねぇし、弱い訳がない。実際こいつらとの試合は八重葉も手を焼いてた程だしな」



 勝也は海塚に対して厄介な強豪校だと見ている。そして八重葉が彼らから点を取るのに苦労していた、昨年の選手権をチェック済みだ。



「つか開幕戦って事は……国立だよな?」



「ああ、ベスト4まで行く前に一度そこで試合が出来るとは……」



 成海も豪山も開幕戦で、あの舞台に立てると揃って同じ事を考える。選手権の開幕戦は毎年、高校サッカーの聖地と言われる国立競技場で行う。



「国立ってあの国立だよね……?」



「ヤバ、緊張する!何時も見てた所で開幕戦やるなんて!」



「お、落ち着いてって!?気持ちはすっごい分かるけど!」



 聖地で開幕戦を行うと分かれば、田村は落ち着かず頭を抱えていた。影山も大舞台と聞いて緊張している様子だ。




「(えー、八重葉はっと……あ、反対側のシードだ)」



 部員達が初の国立で盛り上がる中、弥一はスマホでトーナメント表を確認。八重葉と再び当たるとしたら、互いに決勝戦まで勝ち上がる必要がある。



「(決勝行かなきゃな……)」



 先の事を調べていたのは弥一だけではない。初戦で国立の地を踏めただけで、満足などする訳がなく勝也も先を見据えていた。



 自分と同じ事を考えていた兄貴分を見て、小さく弥一は笑みを浮かべる。

弥一「コーヒーやだ〜、苦い〜これで海塚の人達が蕎麦をお供にコーヒーも飲んでたら僕絶対海塚で過ごすの無理〜」


勝也「いや、流石にストイックでもそれはしてねぇだろ……多分」


京子「でもアスリートにとってはどちらも良い効果を持つ。コーヒーに関しては過剰な摂取に気をつけた方が良いけど」


勝也「という事は苦くても1杯ぐらいは飲んだ方が良いって事かな」


弥一「コーヒー牛乳とかじゃ駄目ー?それか砂糖とかホイップをたっぷり入れたりとかー」


京子「後者は糖分の取り過ぎになりそうだから駄目」


勝也「ブラックで飲む気無ぇなこれ」

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