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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 選手権編
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魔術師の過去と思い

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「いやー、凄いの見せてもらったねー!勝兄貴凄いじゃん♪」



 1on1が終わって弥一は勝也へ近づき、凄いと笑顔を向けていた。



「けどありゃ完敗だ。ディーンは日本に来たばっかで絶対にコンディション100%とかじゃねぇだろ?」



 その勝也はディーンに食らいつきはしたが、それは彼の体調がベストではないからだと、悔しげな顔を見せる。確かに来日したばかりで、体調や時差を整えたり調整の暇など無かっただろう。本調子ではないはずだ。



「別に体調が悪かったから、とか言う気は無い。あれが今の状態で出来た俺のカルチョだ」



「いや、でもな……」



「コンディションを万全にするに越した事はないが、常にベストで挑めるとは限らない。プロになれば良くない状態の時でも戦う事もあるからな」



 本調子ならもっとやれたとは言わず、これが今の全力だとディーンは言い切る。



 プロになった時はコンディションが、あまり良くない時でも戦う時が来る。そういった選手達を、ディーンは同じ世界で何人も見てきた。いずれその道を目指す勝也に向けて、伝えているかのようだ。



「(俺より年下でずば抜けて上手く、プロのトップで戦ったり……天才の中でも異次元ってのは伊達じゃねぇな)」



 今まで彼の姿は画面でしか見てきていない。今日、直に勝負をした勝也は天才との力の差を肌で感じた。



 自分はこの先もサッカーを続け、上を目指す。そうなればディーンと試合で、再び会う事があるかもしれない。勝也がそう考えていた時。



「神山君、もう時間!」



「あ、皆終了だ終了ー!片付けて着替えて帰るぞー!」



 時計を確認した幸が勝也に伝えれば、部員達にキャプテンから今日の部活終了が告げられる。これを聞いて、皆が片付けに動いた。



「これあっちに運べば良いのか?」



「あー!やるよやるよディーン!」



「お客さんにそんなのさせられません〜!」



 ディーンがサッカーマシンの片付けを、手伝っているのを見て摩央と彩夏も協力し、マシンを移動させる。



 立見に来て共にサッカーをしただけで充分過ぎるのに、片付けまで彼を使うのは贅沢の極みだ。人知れずディーンは今日だけ、立見サッカー部の一員となっていた



「ねえディーンって宿泊ホテルとか決まってるのー?」



「ん……?」



 各自が帰り支度をする中、弥一はディーンに宿泊先が決まってるのかどうか話しかける。それを聞いた時、彼は考え込んでいた。



「そういえば、お前とアキバを巡ったり立見に行ったりしていたから……まだ決まっていなかった」



「あ〜、それならちょっと待ってて」



 今日の宿が何も決まっていないと聞き、弥一はスマホで電話する。



「お母さん?あのさー、今日友達を家に泊めても良い?うん、夕飯も家で食べるよー。うん、うん。はーい、じゃあ帰るねー」



 電話の相手は家に居る母の涼香。弥一は母と話し、それが終わるとディーンに笑みを浮かべながら、右手でVサインを作った。



「良いってさ♪という訳で今日は家おいでよー」



「急でよくOK貰えたな……」



 わざわざ日本まで来たディーンを、寒い外で野宿させる訳にはいかないと、弥一の思いつきからの行動は早い。こうしてディーンは弥一の家に泊まる事となり、共に自宅のある桜見へと向かう。




「此処だよー」



 桜見の駅に着いて、弥一の案内で自宅のマンションに辿り着けば、エレベーターで10階まで上がる。そのフロアを少し歩けば、神明寺という表札のある部屋が見えた。



「そういえばイタリアでも弥一の家に行った事は一度も無かったな」



「あ〜、これがお初かぁ。ようこそ我が家へ♪」



 ディーンに明るく振る舞いながら、弥一は家のインターホンを鳴らす。数秒程待つとドアは開かれた。



「お帰り弥一。その子がディーン君?」



「ただいまー、そうだよ。イタリアの友達♪」



 料理の最中だったのかエプロン姿の涼香が、弥一を出迎える。この時、息子の隣にいる海外の友人に気付く。



「初めまして、サルバトーレ・ディーンです」



「あ、ご丁寧に……弥一の母の涼香です。息子が凄くお世話になってます」



 ディーンは涼香に対して礼儀正しく挨拶。彼の姿と流暢な日本語に驚きながらも、涼香は挨拶を返して2人を家に招き入れる。




「ディーン君、豚肉とか苦手だった?」



「好き嫌いは特に無いです」



 リビングのテーブルに料理を並べながら、涼香はディーンに好き嫌いがないか聞けば、彼は何でも食べられると答えた。



 テーブルには豚の生姜焼き、サラダ、味噌汁、白米と涼香がサッカーをやる息子の為に、アスリート向けに考えられた食事だ。



「(母の手料理……か)」



 一般家庭でよくある温かな食卓を見て、ディーンは物思いにふける。



「じゃ、いただきまーす♪ディーンご飯冷めちゃうよー」



「あ……」



 弥一に言われてハッと気付き、ディーンも箸を持てば共に食事を始めた。



「お母さん相当勉強してないー?美味しいじゃん〜♡」



「そりゃあね。栄養あっても味気なかったら駄目だと思って、そこは色々考えたから」



 豚の生姜焼きを味わうと、その美味しさにすぐ白米へ行きたくなり弥一はご飯をかきこむ。栄養あるだけでなく、美味しさも兼ね備える母の手料理に、食の手が止まらない。



 ディーンの方は箸を上手く使い、イタリア人である彼も箸を止めずに食べ続ける。



「イタリア人のディーン君が来るからパスタとかの方が嬉しいのかなって思ったけど、此処でも何時もと同じは駄目かなってなったから和食の方を出してみたの」



「日本食も好きなのでありがたいです」



「良かったー、ディーン君って凄いしっかりしてて礼儀正しいのね。弥一もこういうの見習わなきゃ駄目よ?」



「はーい」



 礼儀正しいディーンの姿が、涼香から見て非常に好印象だったようだ。弥一から見れば、ひたすらサッカーに一直線なサッカー馬鹿という感じだが。





「……サイズがややデカいようだ」



 夕食後、弥一が風呂へ入っている間にディーンは涼香からパジャマを貸してもらう。それから弥一が上がった後、ディーンも入浴して上がれば借りたパジャマを身に纏った。



 サイズ的に小柄な弥一の予備では小さ過ぎるので、父親の予備を借りたがディーンにとっては少し大きく、手足共に捲ってサイズを調整する。



「僕のじゃ小さいしお母さんの借りた方が良かったー?」



「いや、これで問題無い」



 涼香の方がサイズとしては近いが、ディーンは丁重に断って今日はこれで過ごすと決める。



 弥一は自分の部屋にディーンを招き入れれば、床に布団を敷いて彼の寝床を作っていた。



「超一流のプロ選手を床に寝かせるのは悪いと思ってるけどねー」



「美味い食事が出来て入浴もさせてもらい、眠る事も出来る。充分だ」



 ディーンは贅沢な扱いや環境を望むつもりは無い。野宿を避けられただけ、ラッキーだと思っている。



「母親の姿は見えたが父親の方はどうしている?」



「イタリアに残ったままだよ。僕とお母さんだけ日本に帰って来たから」



 弥一の父親だけいない事が気になり、ディーンが弥一に尋ねるとイタリアに居ると、彼はベッドに入りながら教えていた。




「ディーン、ひょっとして手料理とかあまり食べてこなかった?」



「何故そう思う?」



「何かそんな顔してたからー」



 夕食の時、弥一はディーンの心が見えていた。手料理を懐かしいと思う彼の心が。寝転がりながらも、弥一とディーンの目が合う。



「……ひょっとして辛い話とかトラウマとかあったりする?」



「別にそんな重い話は無い」



 過去に何かあったのかと弥一は思ったが、ディーンはたいした過去は無いと言い切る。



「ただ、全く母が家に帰らないだけで母の手料理という物に縁が無かっただけだ」



「家に?」



 イタリア時代でも、ディーンの家族については聞いた事が無く、主に話すのはカルチョ関連の事ばかりだった。弥一はディーンの話に集中する。



「俺の母は世界中を飛び回る有名人でな。顔を合わせても家で料理を作る事はなく、主に外食や家に居たシェフが作っていた」



「家にシェフって結構お坊ちゃんだねー。お父さんとかどうしてるの?」



「俺が物心つく前に離婚したらしい」



 ディーンの家は母子家庭で、母が相当な稼ぎをしているおかげで、彼は金銭的な不自由は何一つなく育つ。その分家で母と顔を合わせる事が少なく、弥一の家のような家庭の味とあまり知らないまま過ごしてきた。



「1人でする事も無い。家にあったボールを蹴ってひたすらリフティングの記録を作る事が俺のカルチョの始まりだったようだ」



「ようだって自分じゃ覚えてないの?」



「物心がついてない時から既にやっていたみたいでな」



 弥一が1人でボールを蹴っていたのは小1ぐらいだったが、ディーンはそれより早く蹴り始めていた。その時から既にリフティングが出来る程と聞き、改めて底知れぬ才能を感じさせる。



「母のおかげで何の不自由もなくカルチョを始め、続けられている。料理の味は知らないが、母に感謝している。そこはプロで戦い恩を返すつもりだ」



 母親の存在があったからこそ、ディーンはサッカーを自由に続けられている。その事を彼は深く感謝していた。



「プロでも敵無しって聞いてるよー?世界一も近そうだね♪」



 弥一は茶化すように笑うが、ディーンの方は仰向けに寝転んで天井を見上げる。




「イタリアを揺るぎない世界一に再び導く。それが今俺の目指す事だが……俺はどうやら恐ろしく贅沢で欲深いようだ」



 かつて弥一に語ったディーンの、イタリアサッカーを世界一に再び導くという願い。時が経った今でも、願いは変わっていないが彼の中である思いが生まれていた。



「……お前と1on1で争って以降、試合が味気無く感じる。俺を滾らせ、熱くさせる男は弥一しかいなかった」



 あまりに強過ぎるが故に、ディーンにはライバルと呼べる存在がいない。試合に出ては勝ちをただ繰り返し、何時の間にかその日々は味気無く、面白くないと感じ始めたのだ。



「お前以外に俺を滾らせる男と出会えていなかったが、今日会った勝也は良い。技術的にはまだまだだが、彼は磨けば光る物がある」



 ディーンを一瞬とはいえ勝也は本気にさせていた。自分の心に火を付けた勝也に、興味を持って成長が楽しみだと語って、ベッドの方に目を向けた。



「 あ〜……海老カツバーガーもう一つ〜……」



 話を聞いていたはずの弥一は眠気に敗北。既に夢の世界へ飛び立ち、食べ物の夢を見ているようだ。



「……電気ぐらい消せ」



 ディーンは立ち上がると部屋の明かりを消し、再び布団へ入って眠りにつく。




 イタリアのスーパースターが電撃来日して、CM撮影を日本でしてきた事は後日ニュースとなるが、その彼が秋葉原を巡ったり立見でサッカーをして、かつてのチームメイトの家に泊まった事は何処のマスコミも知らないまま、発表される事は無かった。

勝也「こんな事まず無ぇよな。友達とはいえ、海外のスターが家に泊まるなんて」


摩央「無いですよ。あまりにレアケース過ぎますし」


大門「あれ、今日その弥一は?」


勝也「ラッキー先生の元でみっちりマンツーマンで勉強中だ。今頃は「うええ〜!きつい〜!」とか言ってるだろうよ」


摩央「あいつマジで呼び出し食らったんですね」

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