日本とイタリアの天才コンビ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「俺ら今物凄いの見ようとしてるよなこれ……」
「高校の部活でこういうの普通無いですよ〜……」
立見の1年2人の主務とマネージャーは今、目の前に映る光景が信じられなかった。
立見高校のサッカーフィールドに、世界が注目する100年に1人の天才が黒ジャージを着て立っているのだ。
本来ならこんな事はチームの責任者達に話を通したり、色々手続きがなければ到底実現などしない。それを弥一がオフのディーンを誘って連れて来るという、友達を案内する感じでまさかの実現だった。
そのディーンは弥一、勝也と同じチームに居て他は2軍のメンバーで、相手は2人の抜けた立見の1軍メンバーだ。
「ディーン、軽めの紅白戦だけど大丈夫か?日本に来日したばかりなんだろ」
勝也はディーンのコンディションについて心配する。イタリアから日本までの長いフライトで、万全とは思えない。
「さっきも言ったが、動いた方が調子は良い。余計な心配はするな」
「化け物かよ……!?」
普通ではあり得ないディーンに対して、勝也から思わずそんな言葉が出てくる。サッカーをしてる方が調子が出る変わり者は世界中を探しても、そうはいないだろう。
「しかし、出来る事ならお前とは敵同士の方が良かったんだが弥一?」
「まーまー、今回はジョヴァニッシミの黄金コンビの力見せつけちゃおうよ♪」
「黄金コンビなんて呼ばれた事無いだろ」
準備を進める弥一にディーンの目が向けられた。今回この組み合わせとなったのは、クジをした結果だ。
「ディーンと同じチームでゴールを守るってヤバい、俺のサッカー人生今が1番ピーク……!?」
今回ディーン側のゴールを守る事となった安藤。イタリアのスターと紅白戦とはいえ、同じチームになれて感動している。安藤だけでなく皆がその気持ちなのは、弥一にしか分からない。
「ディーンと敵として向き合うって、これ夢か?って疑うよな」
「何だろうな、物凄い豪華なクリスマスプレゼントを早めにもらったような気分だ」
珍しく興奮が抑えきれていない成海と豪山。まさかディーンと会うだけでなく、彼とサッカーをするサプライズが待っているとは、夢にも思っていなかった。
「しかしこっちは主力がほとんど居るとはいえ、弥一も勝也も向こうで更にディーンが入った……万全じゃなくても彼のテクニックは全てを超越する程に高い」
成海や全員がディーンによる異次元の技を、先程目の当たりにしたばかりだ。彼にボールが渡れば危険なのは間違い無い。
「やるからにはディーンを封じてみせましょうよ!日本の高校サッカーは強いんだって見せつけるんです!こんだけレギュラー揃ってんですから!」
強い3人が向こうはずらりと揃ったが、間宮は彼ら相手だろうと抑えるつもりで張り切っている。
「じゃあディーンは僕がマークするよ」
「おおー、シャドウボランチのエースキラーは怖いからな!頼んだぜー!」
ディーンのマークを自分からやると言い出した影山に、田村は頼もしいと彼の肩を軽く叩く。
15分ハーフの紅白戦がスタート。
早速影山が作戦通り動き出すと、ディーンへ静かに忍び寄っていた。
ボールは勝也へ預けられ、弥一がすかさず上がって目でボールを要求。小学校時代からの付き合いである2人が、アイコンタクトを交わすと勝也はショートパスで弥一に繋ぐ。
「ディーン注意な!」
DFラインから間宮の大きな声が飛ぶ。弥一は味方選手の誰もいないであろう左のスペースに、右足で強くボールを蹴る。
「!?」
同じ頃、ディーンが瞬時に地面を強く蹴って、スタートダッシュで影山を引き離した。それは今日、この日本に着いたばかりの選手の動きとは思えない。
シュート並の速さで左サイドに飛ぶ、弥一の弾丸パスにディーンは追いつこうとしている。
「(トラップ!その間に迫れる!)」
左足でトラップしてボールをキープする。次のプレーはそう来ると読み、影山がディーンへ迫っていた。
「!?」
だが異次元の魔術師のプレーは、影山の想像を超えてくる。
追いついたかと思えばディーンはそのまま、左足でゴール前へダイレクトクロスを蹴ったのだ。
地面スレスレを行くグラウンダーの球が、間宮達DFの隙間を掻い潜ってゴール前のFWへ届く。これもまたシュートを思わせる強く、恐ろしいぐらいに正確なボールだった。
「わっ!?」
だが彼はゴール前のDFをすり抜け、自分にボールが来る事を備えていなかったのか驚いて、トラップミスが発生してしまう。
球は弾かれてゴールラインを割り、相手チームのゴールキックとなって攻撃は失敗した。
「ゴメン!ああ来るとは思わなかった……!」
「FWなら色々なパスを想定して、来ると思った方が良い」
ポジションへ戻りながら外したFWへ、ディーンはこうした方が良いとアドバイスを送る。
「今の……全国クラスのFWだったら決められてた所だよな」
「そうですよね……」
自分達の守備が無力化されている。パスを受け取るFWが優れていたら、ゴールされていた確率は極めて高いと、間宮と大門は難しい顔を見せていた。
「弥一の強めのパスに追いつくだけじゃなく、ダイレクトで更に強いパスを蹴るってあり得ないですよ!」
「でも、今実際に彼はやったから。信じられないけどね……」
何であんな事出来るんだと頭を抱える翔馬に、目の前で見た影山は先程のディーンの姿が目に焼き付いて離れない。
大門のゴールキックから試合再開。中央に長身の2人が揃っているので、センターサークルへ高いボールを送って、長身の豪山が空中戦を制すれば、川田がキープした。
「(ディーンに意識向き過ぎだね!)」
「うぉ!?」
ディーンへの警戒心が強くなっている上、こんな所にいきなり迫るとは思っていなかった。川田は弥一の姿を見れば驚きの声を発すると共に、小さなDFによってボールをあっという間に奪取される。
弥一の視線は前線のFWへ向いており、右足で高いロングパスを蹴り出す。
「(違う!)右来るぞ!!」
この時、弥一の蹴る動作を大門は見ていた。何時も後ろで小さなDFを見てきたので、そんな単純な縦パスを放る訳が無いと読む。
大門の読み通り、カウンターの為に上がっていたディーンが左サイドを駆け上がる。そして弥一の蹴ったロングパスは左へ大きく曲がって、吸い込まれるようにディーンの元へ向かっていた。
「(またダイレクトか!?)来るぞ!!」
中央を守る間宮の脳裏を過る、ディーンのダイレクトクロス。再び間を狙われるのではないかと、周囲のDFへ声を掛ける。
「(このコースなら!)」
今度は右を守る田村がディーンに向かい、彼のクロスを蹴るであろうコースも切っていた。
そのディーンは弥一から来た曲がるロングパスの球を、左の踵で蹴り上げる。これが田村の頭上を越えて左から中央のゴールへ向かい、自身も左から抜き去ってボールを追う。
「(このまま来るなら此処で足止めだ!)」
ディーンが蹴り上げたボールに追いつこうとしてる時、間宮も走り出して迫る。これはディーンの方が、ボールには早く追いつきそうだ。
間宮は此処で足止めして、後ろの田村や他の選手が来て挟み撃ちを狙う。
「っ!?」
だがディーンはボールをキープすれば、間宮を前に立ち止まる事なく右回りの華麗なターンで躱し、足止めもさせなかった。
流れのままに左足でシュートに行こうとした時、影山が何時の間にか戻ってブロックに入る。
そんなシャドウボランチが忍び寄る動きすら、冷静に見ていたディーンは左足で軽くボールに触れて、右に少し転がす。
これによって影山のブロックも剥がし、ディーンの右足が今度こそ振り抜かれる。ゴール右下隅にボールは寸分の狂い無く向かい、大門の伸ばした左手も届かず、ゴールネットが揺れ動く。
「あ……」
あまりの出来事に、審判役を務める部員はゴールの判定も忘れて魅入ってしまっていた。
彼だけでなく、他の多くの部員達も同じだ。
「(先輩達3人をあっという間に……これが異次元の魔術師……!)」
「(というか弥一もディーンが上がったの、分かってた……!?)」
ディーンによる世界レベルの技を目の当たりにして、その起点を作った弥一に優也も翔馬も揃って驚かされる。
「さっすがぁ〜♪何時の間にか上がったりして、やる事分かってたんだねー!」
「お前が上がって忍び寄るのが見えた。だから速攻が来ると思っただけだ」
陽気に笑う弥一とディーンが軽くタッチを交わす。ジョヴァニッシミで共にチームを支えた2人が久々に組み、日本の地で躍動していた。
「(これが世界か……!)」
弥一、ディーンの2人が話している所を自陣から眺めていた勝也。この時、彼はディーンと同じチームになった事に己のくじ運が悪いと思った。
異次元の魔術師と相対したら、今の自分は何処まで通じるのかと。頭に浮かぶようになる。
彩夏「ファイヤーイレブンが漫画から現実に飛び出して来ました〜!」
摩央「いや、あれボールに炎や雷が纏ってるし。けど……そう言いたい気持ちは分かる。ディーン天才通り越して化け物か!」
武蔵「実はもっと前から日本に居てコンディション万全にしてたドッキリとかじゃないか!?」
翔馬「未来のスーパースターが僕達にわざわざそんなドッキリ仕掛けないでしょ!?弥一じゃあるまいし!」
川田「こっちはほぼレギュラー揃ってて、向こうは神山先輩に弥一にディーン……何かやべぇ感じする!」