異次元の魔術師によるサッカー部の観察
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「え〜と……つまりディーン君は日本に来日して来て、オフだから神明寺君が案内して観光したり……それで立見に行きたいという彼の為に此処へ連れて来た、で良いのかな?」
「大体そんな感じです♪」
立見にディーンがやって来た、という超サプライズに部内は未だ混乱が収まらぬまま、幸は弥一にイタリアから此処に辿り着いた経緯を確認する。
「言えよ!ディーンが来るなら!」
「ゴメンー、そこは皆を驚かせたいと思っちゃったからー」
だったら最初からそう説明しろと、勝也は弥一に怒る。そう言いながらも内心では本物のディーンだと、かなり心が躍っていた。
「ディーン、貴方はどうして日本の立見高校へわざわざ来てみたいとなったの?良ければ聞かせてほしい」
皆と比べて冷静な顔を崩さない京子が、ディーンに何故この場所に来たのかを尋ねた。そんな彼女も内心では、驚きが隠しきれていない。
「今の弥一が通う場所。その彼にサッカーを教えた師が、0から作ったチームが気になって直に見てみたいと思った。単なる俺の興味本位だ」
「それって……お、俺?」
そう語るディーンの目が、真っ直ぐ勝也へと向けられた。この場所を作った彼としては、自分が関係しているとは思っていなかったらしい。
「神山勝也。全ての始まりと言っても過言ではない、お前が作り上げた立見サッカー部を見ても構わないか?」
「いや、俺そんな御大層なもんじゃねぇし!?」
勝也としては、ディーンに随分とハードルを上げられた感じだった。練習見学については勿論許可を出す。
「とりあえず僕も参加するから着替えるけどー、ディーンも私服だと余計目立つから着替えた方が良いよー」
「分かった。そうする」
弥一はディーンと共に部室へ入ると、その中で着替えて来る。
何時も通りの放課後の練習だが、今日は何時もよりも遥かに緊張感がサッカー部に漂う。
黒いジャージに着替えたディーンが、皆の練習をじーっと見ているのだ。
「今日は見学者も居るんだ!気を引き締めろよー!」
熱の入った勝也の声と共に練習は開始され、馴染みの青い高速マシンが何時も通り、マネージャー達の手でセットされていく。
「あれは最大時速130キロ程のスピードで撃ち出せるマシンだな」
「え?あ、ああ……まあ」
「色々なシュートだけでなくパスもクロスも行ける優れたサッカーマシンだ。出来て数年と聞くが、中々良い物を使って練習しているのか」
「ええと、まあ……そう、ですね。おかげさまで……」
たまたま隣に居た摩央がディーンの話を聞き、ガチガチに緊張しながらもマシンの使用前で、既に特徴を完璧に言い当てて驚かされる。
その彼の前にサッカーマシンから放たれたボールが、高速クロスとなってゴール前に飛ばされた。
低いクロスで弾丸シュートでもおかしくないような、速い球に対して間宮が恐れず頭から飛び込む。優也が合わせようとしていたボールを、ダイビングヘッドでしっかりクリアする。
「随分度胸のあるDFだな。ああやって恐れず身を投げ出して守れるのはかなり勇気がいるものだが」
「間宮先輩は恐れ知らずのCBだからね。立見じゃ2番目ぐらいの熱い人だよー」
体を張ってセンターを何時も守ってくれる。ディーンに対して、弥一は間宮の事を見ながらそう語っていた。
ちなみに1番は勝也で、そこは不動だ。
「あいつは瞬時にコースを切るのが上手い。目立たない所で仕事が出来るタイプといった所か」
「影山先輩は神出鬼没のシャドウボランチでねー。普段から気付かれ難いから見えない所で活躍してる事が多いんだー」
弥一とディーンの目の前では、飛んで来るであろうパスやシュートコースの間に入ったり、相手の死角を突いての守備を行う影山の姿があった。
「4ー5ー1のシステムは中盤やDFが特にしっかりしてなければ、呆気なく崩れてしまう。中央に弥一や神山、更に間宮と影山が支えてこそ今の立見は成り立っているな」
弥一や勝也だけではない。ディーンは他の選手も見て、分析している。立見の無失点は弥一の力も大きいが、他の選手による貢献もかなりあると。
「センターだけじゃないよー。うちはサイドも強いからね♪」
「歳児や田村とスピードに優れた2人か。確かに彼らによる速攻を見れば、予選で2桁得点を叩き出して来たのは頷ける。中央には豪山に川田と長身でパワーがあるターゲットも2人揃ってるからこそ、守備側は負担がかなり大きくなってしまったんだろうな」
立見が此処まで2桁得点を多く達成したのは、こういう事なのだとディーンの分析を聞いて、弥一はそんなに立見の試合見てたのかと思っていた。
「皆元々凄い天才って騒がれてた訳じゃないんだけどね。今じゃ全国の強豪にも負けないぐらい強くなってると思うよ」
「……以前のジョヴァニッシミぐらい、か?」
「僕はそれを思い出すぐらい強いと思うけど、ディーンから見てどう?」
2人が数々の栄光を築き上げてきた、歴代最強のユースチームと名高いミランのジョヴァニッシミ。弥一から見て、立見の予選での快進撃はそれを思い出させるぐらいで、ディーンは意見を求められると腕を組み、彼らの練習風景から目を離さない。
「強いが、足りない」
ディーンは立見を見て言い切り、弥一はそれに対して何も言わなかった。
立見というチーム自体は強い。だがディーンにとっては、足りないと感じたのだ。その足りない事は何なのか弥一には分かるが、それを彼らに教える気は無い。
「あ、取りまーす」
選手のクリアしたボールが流れ、弥一やディーンの元へ行ってマネージャーが取りに行こうとした時だった。
ディーンがボールに対して瞬時に動き出し、あっという間にボールへ詰めると、球が左タッチラインを割る前に右足を目にも止まらぬ速さで振り抜き、ボールを捉えて飛ばす。
「え……?」
ゴールマウスに立っていた大門は今、何が起こったのか理解出来ず自分の守るゴールに、ボールが入っていたのを見て呆然とする。
「嘘だろ……なんだあれ……!?」
外から見守っていた勝也の目の前で信じられない事が起きていた。
弥一と共にゴール近くの左タッチラインに居たディーンが、DFのクリアして流れたボールをそのまま右足でシュート。ゴール前には多くの立見選手達が密集していて、距離もあるのでまず届かないと思われた。
だが彼の蹴ったボールは立見の選手達の隙間をすり抜け、最後には間宮の股下を通過して、反射神経に優れた大門も反応する間もなく、ゴール左下隅へ正確にボールが入っていたのだ。
冷静な京子や優也も目を見開いて驚く程に、ディーンが驚愕のプレーを見せつける。
「ディーン何してんのー?来日したばかりだから無理しちゃ駄目だよー」
「動いていた方が調子は良くなる」
体調を気遣って弥一は無理しないよう言うが、ディーンの場合はサッカーで体を動かした方が良いらしい。
「(昔から変わらずカルチョ馬鹿だなぁ)」
暇さえあれば彼が考えている事はサッカーで、体の方はボールを蹴っていた。天才集団と言われたジョヴァニッシミの中でも、ディーンは特に別格で彼が思う事は、ほぼサッカーばかりだ。
天賦の才に加え、重ね続けた努力によって今や異次元の魔術師と呼ばれる程に、プロでも彼の無双は続いて誰にも止められない。
衝撃が残る中、練習は進んで勝也が次のメニューに進もうとしていた。
「よーし、終わり!最後軽く紅白戦なー」
「神山」
「おわぁ!?ビックリした!なんだよディーン……!?」
部員達に紅白戦をやる事を伝えていた時、何時の間にか忍び寄るように勝也の右隣に立って、ディーンが話しかけて来た。
「それ、俺も参加して良いか?」
見ているだけでは物足りなくなってきたのか、ディーンは自ら紅白戦の参加を申し出て来る。
初めて彼が現れた時に続き、再び部内が大きくざわつき始めていた。
勝也「豪華にも程があんだろ!」
成海「今のキック、スマホで撮ってなかったかー!?」
摩央「一瞬過ぎて取り出す暇もありませんでしたー!」
彩夏「私も間に合いませんでした〜!」
豪山「あれは永久保存クラスで凄かったってのに……!」
京子「(撮れてたけど、皆練習どころじゃなくなりそうだから……)(偶然スマホで記録していたらディーンのキックが映ってた)」