サイキッカーDFが思う事
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「ヤイチ、残念だがプリマヴェーラには上がれない。君は此処までだ」
新たな監督から突然言い渡されたが、小さな東洋人に驚きは無い。
心の中を覗き込んで自分を外すという事を、前もって知っていたからだ。
「確かに君はこのジョヴァニッシミにおいて、要だった。それは確かだ。しかし上に上がれば上がる程、より体格が大きく屈強な相手とぶつかる時が必ず来る。そうなったら君の小さくか細い体はとても耐え切れないだろう」
技術の高さにチームへの貢献度は認められても、弥一の小柄過ぎる体がこの先戦うのは無理だと断定される。
「体を大きく、強くしなければプロとしては戦えない。そのまま無理に戦えば選手生命どころではなく、命に大きく関わるかもしれないんだ。どうか分かってほしい……そして諦めてほしい」
監督としては弥一が一大事となってしまう前に、彼の命を守ろうと道を絶たせて諦めさせたつもりだった。
「(どうせ通じるのは今だけだ。こんな小さく貧弱なのがプロで通じるはずが無い!今までそんな選手が超一流のフィールドで活躍した事など見た事も聞いた事もないし、取り返しのつかない重傷を負われて騒ぎになるのも面倒だ)」
こういう時あまり心は読みたくなくて、知りたくなかった。弥一には彼の心が見えてしまい、本性を知る。偏見と面倒事を避ける為に弥一を切り捨てただけだ。
「分かりました、今までお世話になりましたー♪」
何も無かったかのように、弥一は明るく振る舞ってミランを去る事を受け入れた。どうせ監督の決定は動かないし、弥一自身も彼の下でサッカーをやろうとは思わない。
こうして弥一は数年世話になったミランを去る事になる。
「お前を上に上げず新体制となったジョヴァニッシミは、あの頃の輝きを消した。当時のメンバーが上に上がったり、お前みたいにクラブを離れたりしてバラバラになったからな」
「あの監督がどうなったかとか、分かる?」
「成績不振が続いて監督クビだ。もうミランにはいない」
「それはざまぁwって言うべきかなぁ」
弥一をミランから追い出した監督が率いた新チーム。どうやら上手く導く事が出来ず、自らの手腕の低さを露呈してしまったらしい。
「でも今の立見に結果として入れた訳だから、感謝出来る所もあるよね」
「そうか」
「本当に感謝はしないけど」
「そうか」
「うん、そう返すタイプなのは分かってたー」
弥一の思っている事を言って、ディーンは腕を組んで聞いていた。
「立見の事は調べた。お前にサッカーを教えた師が0からチームを作ったのだと、日本でかなり有名になってたぞ」
「あ、そんなに?知らない間にめっちゃ名が広まっちゃったんだねー」
忙しいはずなのに、よくそんな調べる暇あったなぁ、とディーンに感心しながら弥一はグラスに注がれた水を一口飲む。勝也が弥一にサッカーを教えたという話は、以前から弥一がチームメイト達に話していたので、当然ディーンも知っている。
「無失点は大半お前の力による物だな」
「流石にそれ過大評価だね。1人のDFがそんな何でも防げる訳じゃないってー」
「俺を1on1で止めたお前ならやりかねない」
そう言うディーンの目は迷いなく、弥一に真っ直ぐ向けられる。
「……まあ、ディーンと数え切れないぐらい1on1とかやってたからね。そりゃ強く上手くなるし、おかげで相手の動きが前よりよく見えるようになったと思ってるよ」
イタリア留学時代。ジョヴァニッシミに入ったばかりの弥一はディーンに全く歯が立たず、抜かれて負ける日々が続いていた。
それでも彼を止める事を諦めきれず、毎日食らいつく日々が続く。しばらくして弥一が初めてディーンを止めた事で、その執念が実り初勝利した時、イタリアに居て1番嬉しかったのはハッキリ覚えている。
「おかげで日本じゃほとんど1on1で負けてない」
「ほとんど?」
弥一の言葉にディーンは引っかかり、反応を見せる。その言い方からすると、自分以外の誰かに負けたように聞こえるが。
「ちょっと色々あってさ。神山勝也と何度も競い合ってて……連勝続いたけど、ある日負けちゃったんだよねー」
「負けた……弥一が、そいつにか」
その事を明るく笑って語る弥一の話を聞きつつ、ディーンはこの時考えていた。自分と互角に争う力を身に着けたはずの弥一が、日本で勝也に1on1で負けた事。
彼のプレーは立見の試合動画で見ている。闘志溢れるプレーでチームを引っ張る姿が、闘将を思わせた。彼が負け続けながらも弥一に勝利したと聞き、ディーンの中で興味が湧いてくる。
「お待たせしましたー」
「あ、来た来た♪」
女性店員が頼んでいたラーメンを運んで来て、弥一とディーンの前に置かれていく。細麺が自慢で刻んだネギやナルトにチャーシューがトッピングされ、大きな海苔が飾られていた。
2人はまずレンゲを持って、スープをひと掬いして一口飲む。
「美味いなこれ」
「僕も初めて此処来たけど大当たり〜♡」
醤油と塩、それぞれのスープを味わえば弥一とディーンの味覚が美味いと伝わり、箸で麺をすすっていく。
「ヤバい、美味すぎ〜♡」
美味しい醤油ラーメンを堪能して、弥一は幸福の世界に誘われる。
「普段ラーメンは食べないが、たまに食うとこんな美味いのか」
イタリア人ながら右手で器用に箸を使い、ラーメンを食べ進めるディーン。サッカー界の期待の若手が日本のラーメン屋でラーメンを食べてるとは、誰も思っていないせいか周囲は彼に気付く気配は全くなかった。
「ハマってラーメン食べまくるのは避けた方が良いよー」
「そこはプロとして節制するから大丈夫だ」
今日ぐらいは特別。その日だと思って、弥一とディーンの箸は完食まで止まらない。
「どうしようかなぁ?このままアキバ探索を続けようか〜……」
ラーメンを食べ終えて、これからどうしようと弥一が考えていた時。
ディーンの心の声が聞こえた。
「(ああ……ディーンにはそっちの方が良いか)」
その声が聞こえた弥一は彼らしいと納得した後、スマホで時間を確認する。
「ディーン」
「なんだ?」
何か思いついたのか、弥一は楽しげな笑みを浮かべている。ディーンが彼の言葉を待っていると、弥一が思いついた事を言う。
「今から立見行ってみない?」
そう言う彼の顔は悪戯好きな子供のようだった。
勝也「なんだろ?急になんかすっげぇ今日そわそわするっつーか……落ち着かねぇ」
京子「病気?体が悪いのならすぐ病院行きましょう、すぐ手配を」
勝也「いやいやいや、体調は絶好調で元気だって!なんとなく嵐が来そうな感じがしただけで」
川田「実は有名ゲーマーで今日大会の日だからそれに行った!」
武蔵「アイドルの追っかけしてる!」
安藤「遠くから友達が来るから会いに行った?」
勝也「あっちまだ弥一が休んで何しに行ったかの予想大会やってんのかよ」