決勝を終えた者達の思い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『試合終了ー!立見と西久保寺の決勝は2ー0で立見の勝利!この結果、東京予選のAブロック代表は立見高校となりました!』
『春の時と同じく無失点に加えて今回は攻撃力がかなり目立ちましたね。この決勝以外全て2桁得点は本当凄いと思いますし、攻守において今の立見は東京最強と言えるかもしれません』
「うぉっしゃーー!全国だ全国!選手権だぁーー!!」
勝ち取った選手権への切符。その嬉しさが込み上げて来たのか、秋空に向かって思いっきり勝也が叫ぶ。
「マジで行けるんだな!?正月にずーっとテレビで見てた所に!」
「そうだよ!正月はコタツ入ってミカン食えないぞ!俺達が選手権出るんだからな!?」
正月恒例となる自分達の過ごし方を思い出しながら、成海と豪山も共に喜んでいた。やはり立見サッカー部を作り、ずっとそこを目指してきた3年初期メンバーの喜びが大きい。
「やったやった!聖地国立行けるぞこれ!」
「まだ決まってないけどね!」
「何言ってんだ!?そこに行くまで勝ち進むんだよ俺達は!」
間宮、影山、田村の2年トリオは3人で輪を作って喜び合う。早くも高校サッカーの聖地へ行こうと意気込んでいた。
「やったなぁ!」
「お前ら美味しい所取りじゃないかー!」
「言われてるよ優也ー♪」
「お前もだろ」
大門と川田が弥一と優也の元へ集まり、弥一と優也を選手権に導いたヒーローだと称賛したり茶化したりとして、1年の方も歓喜の輪を作る。
「うぐっ……う……」
あと一歩で選手権だった西久保寺。大事な決勝戦で2点を取られて小平は悔し涙を流す。
「畜生!あと1勝だったのにー!」
土門が空へ向かって叫び男泣き。前田もフィールドに倒れ込んで、両手が顔を覆っていた。
「悪い……俺が歳児を止めきれなくて2点目決められちまったから……」
「それ言うなら俺も神明寺に何も出来ないまま、ボールをあっという間に奪われたよ」
辻が止められなかった事を謝れば、栄田は大元は自分だと彼も責任を感じている。優勝ではしゃぐ弥一達の方へ視線を向ければ、先程のプレーを思い出す。全く反応出来ないままボールを奪われた時、背筋がゾッとするような感覚があった。
あれが本当のエースキラーなのかと思いながら、栄田は観客に向かって陽気に手を振る弥一を見る。
「(負けたか……最初から攻撃サッカーを貫くべきだったか、いや。後で多分そういうのは山程言われそうだな)」
攻撃サッカーを捨てて守備的に行った結果は敗北。この後そういう批判的な声が飛んで来る確率が高い事は、高坂の経験上分かっている。
試合が終わった後も彼の仕事はまだ残っていた。それをやり遂げようと動き出す。
「今日はどうなるかと思っちゃったけど、うん!皆選手権出場おめでとう!」
「これまた体育館でお祝いありますかー?総体出場祝いで美味しい料理解禁して、皆で祝って食べたいですよー!」
「う、う〜ん?それは学校側に聞いてみないとなんとも言えないかなぁ」
「それはお父さんに言えばやってくれると思いますよ〜。優勝知って考えそうですから〜」
表彰式を終えてロッカールームに戻って来た立見イレブン。幸から皆へ労いの言葉を掛けると、弥一から選手権出場祝いのパーティーとかあるのか問われていた。
校長達に聞いて許可を取らなければと、幸は困った表情を見せるが、横から彩夏が自分の父親である黛財閥の社長が開催してくれそうと、彼女が勝利の報告も兼ねてスマホで連絡を取り始める。
「選手権かぁ……国立の舞台良いなと思ったり、その大会に出てる高校生達がプロみたいなスーパープレーやったりと、ホント華やかな感じだったなぁ」
選手権を当時見ていた頃を安藤は思い出し、そして実感していく。今度は自分達があの舞台に行くのだと。
「その華やかな場所に僕達が行けるようになるなんて凄い事ですよね?だって創部からまだ2年ぐらいですから、すっごい快挙を僕達やったと思います」
出来て数年のサッカー部。監督もコーチも居ない、それで全国出場を達成出来たのは、もはや漫画やドラマの世界だ。客観的に見ても、翔馬には物凄い事だと思えた。
試合が終了した時には、優勝が決まって選手権に行けると皆が喜びを爆発させていた。ロッカールームで落ち着いた今も、改めて行けるんだという実感が皆に沸いてくる。
「さあさあ、帰る準備終わったら早くバスに乗ってー」
幸が手をパンパンと叩いて伝えれば、立見サッカー部はロッカールームを出てバスへ向かう。
「勝兄貴」
「ん?」
窓際の席に座る弥一。窓から景色を見ながら話しかけて来て、右隣に座る勝也は弟分の方を見た。
「選手権、出るだけで満足しないよね?」
「当たり前だろ」
「「倒さなきゃいけない相手がいるから」」
会話する中で弥一と勝也がシンクロしたかのように、言葉が揃う。
総体で負けた八重葉へのリベンジ、そして全国優勝。2人は共に同じ事を考えている。
出る時も人々から多くの声援が鳴り止まないまま、立見サッカー部を乗せたバスは、東京予選決勝の舞台を後にした。
立見が選手権出場を決めて、予選の総得点で八重葉を超える得点を叩き出した事はすぐ話題となり、SNS等で注目が集まる。
一方その立見と決勝を戦った西久保寺に対して、賛否両論の意見が飛び交っていた。あの立見を前半0点に抑えたのなら、戦術として正解だろうと称賛するのに対し、引き過ぎた守備で攻撃を捨てる、不意打ち狙いで攻めない、カウンター頼みのサッカーはどうなんだと批判的な意見もある。
試合後に監督の高坂は「今までの攻撃を捨てて守備で今回徹底的に行こうと指示したのは僕なので、今回の敗戦の責任は全て僕にあります」と、あの守備的陣形は自分が指示してやらせた事を語っていた。
教え子達に責任は一切負わせず、自分が全ての責任を被り非難を受け止める。それが高坂の試合が終わった後の仕事だった。
立見2ー0西久保寺
神明寺1
歳児1
マン・オブ・ザ・マッチ
神明寺弥一
高校サッカー選手権 東京予選Aブロック
優勝 立見高等学校
1回戦 本橋 14ー0
2回戦 壁代 10ー0
3回戦 水川 11ー0
準々決勝 亀岩 12ー0
準決勝 空川 10ー0
決勝 西久保寺 2ー0
得点59 失点0
大会最優秀選手 歳児優也
大会得点王 歳児優也
弥一「得点王とMVPの2冠おめでとう優也ー♪」
優也「得点王はともかく、これも俺で良いのか」
大門「1試合5得点の試合とかやってたし、決勝もゴール決めた上に守備で走ってた。選ばれない方がおかしいだろ?」
摩央「いらないって言って辞退とか無しだぞ」
優也「流石にいらないという事は……まぁ選ばれたのなら、貰っておく」