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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 選手権編
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猛攻と鉄壁

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「2人とも、ゴール前にもう籠もる必要は無ぇ。前出ろ!」



 キックオフで試合が再開される前、土門はDFに居る2人に前線へ戻るようにと、口だけでなく手でも前行けと動きで伝える。



「そうですよー!もう得点しないと勝てませんし、あの不意打ちが立見にまた効くとは思えないですから!」



「確かに1ー0でこのまま負けたら終わり……うん。どうせ2ー0でも3ー0でも10ー0でも一緒だしな!」



 前田の言葉も受ければ、栄田は攻めようと決心。何点取られようが負ければ一緒だと、此処から本来のサッカーに彼らは戻る。




『おっと!?失点して西久保寺は栄田や辻が前線に上がり、何時もの攻撃スタイルに戻しましたか?』



『このままでは負けて終わりますからね。点を取りに行かなきゃ駄目ですし、当然そうなるでしょう』



「良いぞー!西久保寺そうこなくちゃー!」



「攻めろ攻めろ!何時も通りリスク覚悟で攻めて立見ゴール叩き割っちまえー!」



 陣形が何時も通りに戻れば、彼らに向けて応援の声が飛ぶ。




「気を付けて、相手相当速いよ」



「ああ、後は任せて休んでろ」



 立見の方もこの間に交代が行われ、翔馬と優也が軽く言葉を交わしていた。



『おっと?立見の方は選手交代のようです。これはDFの水島に代えてFWの歳児ですか』



『確かに水島君かなり動いてましたが、歳児君DFの位置にそのまま入りますか……これはまた奇策に出ましたね』




「此処じっくり守ってくぞー!焦るなよー!」



 相手が前に出て来るのを見て、勝也が周囲へ守りをしっかり固めるようにと、仲間への声掛けを忘れない。



 失点から西久保寺のキックオフで試合再開。当然の如く、点を取る為に彼らは立見ゴールへ雪崩込むように向かう。先程まで全員が自陣へ引き籠もっていた時と一転、DFラインも上げて完全な攻撃モードだ。



『西久保寺が前に出て来た!川田がボールを弾く、土門が取り返す!』



 中盤で激しいボールの奪い合いとなり、川田が若杉のドリブルを止めるもセカンドとなった球を土門がフォロー。そのまま一気に前線へ、右足による力強いキックを蹴った。



『土門ロングパスでゴール前!間宮と栄田競り合う!』



 高いボールとなって、長身2人が共に地面を力強く蹴れば空を舞う。空中戦で競り合いとなり、先に頭を捉えたのは間宮の頭。



 立見ゴールから少しボールを遠ざけられたが、セカンドを拾ったのはまたも西久保寺。前線に人数をかけて、立見陣内に多くの緑ユニフォームを纏う選手が見られた。



「右気を付けて右ー!」



 弥一は右を警戒するよう、声を上げた。相手の左サイドには、重戦車のようなドリブルを持つ前田が居る。先程のカウンターで、田村が跳ね飛ばされる程のパワーを思えば、彼は厄介な存在だ。



「うわっ!?」



 前田がボールを持ってドリブルすると、阻止に向かっていた武蔵が体を当てられ、弾き飛ばされる。



『おーっと1年前田強烈!左を突き進み、神山が向かう!』



 武蔵を突破した直後、前田に対して勝也が距離を詰めていた。



「(フィジカルはたいしたもんだ、けど足元は隙だらけ!)」



「っ!?」



 前田のボールキープの甘さに気付き、勝也は不意にスライディングを仕掛けていた。右足がボールを捉え、前田はボールを手放して転倒。



「ファール!」



 倒れた前田はアピールするが、主審は首を横に振って立つように伝える。ボールへ行ってスパイク裏も見せていないので、ノーファールの判定になったようだ。



「時間が勿体無ぇ!構わず攻めろチャド!」



 アピールの時間が無駄と、土門は前行けと前田に指示。




「さっきまで守ってばっかだったのが急に攻めて来たな。リードされてるから当たり前だけど」



「作戦代えて来たんですね〜、守備重視から攻撃重視へと〜」



 立見ゴールにほぼ全員が迫って来た相手を見て、摩央と彩夏は作戦を変えて来たとすぐ分かった。



「(右の辻君がかなり速いから、これを歳児君が抑えられるかどうか……)」



 優也のDF起用。相手の右サイドにいる、俊足サイドアタッカー辻を抑える為だ。上手くいくかどうか、京子の目は優也に向けられる。




「っ!」



 持ち前のスピードでマークを振り切ろうと動く辻。だが優れた速さを持つ彼が、そのマークから逃れる事は出来ていなかった。



「(FWなのにDFって前半の俺の真似事か!)」



 本来はFWである優也。この試合では翔馬に代わり、左サイドを守るDFとしてプレーする。立見随一のスピードを誇る優也は辻を決して逃さない。




「(良いねー、京子先輩の采配ズバリ的中ー♪)」



 辻を優也が徹底マークして、自由にさせていない所を見れば左の守備は任せて大丈夫そうと、弥一は内心で京子の采配が良いと思った。




「(立見の守備が堅い事は知っていたけど、まさか此処まで鉄壁とはな……)」



 ベンチには戻らず、フィールドに近い所から戦況を高坂は見守り続ける。教え子達は攻勢に出ているが、立見の守備の前に攻めあぐねていた。おかげでビッグチャンスのシュートは、未だ1本も撃てていない。



「(昨年の立見にはそんなイメージが無かった。彼が入ってからだな……今年ずっと無失点になったのは)」



 高坂の視線の先には、常にコーチングを続ける弥一の姿。立見を難攻不落の要塞にした、小さなDFに元プロも注目する。




 一度止められても再びボールを取って、互いにフォローし合い波状攻撃を仕掛ける西久保寺。立見の方も1人が抜かれてもカバーして守ったりと、攻撃を通さない。先程までの立場が逆転した攻防戦だ。



『残り時間少なくなってきた!1ー0で立見1点リードは変わらず!西久保寺が懸命に攻めるも立見の守備が隙を与えない!』



「豪山先輩もっと前詰めてー!武蔵真ん中寄り過ぎー!」



 後方から弥一の声が飛び、前線の選手達が動けば相手のDFラインからのロングパスを蹴り難くさせる。



「こっち!!」



 中々チャンスを掴めなくて業を煮やしたか、栄田が下がってボールを要求する。



 パスが中盤で繋がって栄田に渡れば、彼はすかさず前を向いて中央突破を狙う。すると誰よりも速く栄田に迫る者がいた。




「!?」



 自分がボールを持っていたはずが、足元にそれはもう存在しない。栄田の死角から弥一が迫り、あっという間にボールを奪取してしまったのだ。



 あまりの速さに反応出来ず、すぐ追いかける事も忘れて驚愕する。



「カウンター!」



 弥一がそう叫ぶと共にボールは右足で蹴り出された。



『神明寺取った!左サイドに出す!』



 西久保寺が攻撃的なシステムに戻し、全体が前進していたので後ろのスペースは広く空いている。



 これに優也が疾走。マークされていた辻も、追加点は絶対許さんと追いかけた。



「(こんな速いのかよ、この1年坊主が!)」



 チーム随一の俊足同士、その差は縮まらない。しかし優也が追いかける先にあるボールは、左のタッチラインを越えようとしている。



 通らない。弥一のミスキックで自分達のスローインだと、西久保寺の選手達が思った時。



「!?」



「(嘘だろ!?)」



 タッチラインの前でボールがワンバウンドすると、前に跳ねず垂直に跳ねてラインを越えない。これには辻だけでなく優也も驚き、スタンドの観客達も驚く声を上げていた。



 その間に優也がボールに追いつくと、足元の球を大きく蹴り出して前に運び、自らはそれに追いつかんと走る。



 スピードに乗って前進する事を重視したドリブル。ラン・ウイズ・ザ・ボールは速さに優れる優也に適した運び方だ。



 それでもボールを蹴っている分、普通に走っている時よりスピードは落ちている。後ろから辻が優也に追いついて来た。



「(ファールになっても構うか!)」



 これ以上の失点は出来ない、辻は優也に右から強めに肩でぶつけに行く。



 だが優也は激突して来た瞬間、辻のショルダーチャージを受け流す。



「わっ!?」



 ガツンとぶつかるはずが、辻の方がバランスを崩してしまい転倒。これで優也は完全にフリーの状態となって、西久保寺ゴールへ左から向かう。



『歳児完全にフリーだ!小平飛び出したぁ!』



 エリアからも飛び出し、小平が必死の形相を見せながら優也へ迫る。ボールが離れた所を狙い、スライディングでクリアしようとした。



 しかし優也の左足の方が速く触り、ボールを軽く浮かせれば小平の体を越えて、優也も滑り込んで来る彼を飛び越える。



 そして優也は無人のゴールへ右足でシュート。



『立見決定的な2点目ー!!歳児優也、大一番で追加点を決めた!歳児タイム健在だー!』



 ゴールネットが揺れた時、大歓声が会場を包み込む。それと同時に立見の選手達が彼へと駆け寄って行く。



「優也ー!追いついてくれて良かったよー♪」



 ボール奪取からカウンターのパスで、得点チャンスを作った弥一が優也に抱きつく。



「お前本当……化け物か」



 相手の攻撃を潰したどころか、カウンターチャンスを見逃さず。送られたパスは手前でバウンドして止まるよう、回転がかけられていた。あれが無ければ優也の足でも、追いつく事は出来なかっただろう。



 呟くような優也の声はスタンドからの声に掻き消され、誰にも聞こえなかった。



 弥一のテクニックと優也のスピードによって、試合を決める2点目が入れば試合はこのまま終了を迎える。



 立見が初となる冬の選手権出場の切符を勝ち取った。

勝也「ホッとしたぁ」


弥一「ん?何かあったのー?」


勝也「いや、前田がアメリカと日本のハーフってのを忘れててさ。話しかけられたら「やべぇ、俺英語話せねぇ!」ってなってた」


弥一「ぱっと見は海外の人だからねー。ガタイも良いし」


京子「外国人に道を尋ねられて凄く焦った事あるから。でも世界にいずれ行くなら他の国の言葉覚えないと」


弥一「イタリア語教えようかー?」


勝也「知ってるっての!ブラボー、とかチャオ、とかアモーレ、とか!」


弥一「最後のは日本の有名サッカープレーヤーのを聞いて覚えたよねー?」

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