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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 選手権編
573/652

超攻撃チームの奇策

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 ダークブルーのユニフォームを身に纏う立見、GKは紫。



 緑色のユニフォームを身に纏う西久保寺、GKは赤。




 西久保寺高等学校 フォーメーション 5ー5ー0




       



      明石     島   


       7      9



     笠井  若杉  飛坂


      8   6    17


     


 前田  土門  大木  栄田   辻


  5   4    3    10   11



        小平


        12




 立見高等学校  フォーメーション 4ー5ー1




          豪山


           9



          川田


 成海        16       岡本


  10                7



      影山     神山


       14       6



 水島   神明寺    間宮   田村


  21     24      3     2



         大門 


          22




「(どうなってんだ?FWの栄田と辻がDFラインに入ってて、全体的に引いてる……)」



 試合の立ち上がり、成海が左サイドからドリブルで行こうとしたが、西久保寺の飛坂と辻の2人がかりに止められてしまう。



 その時にボールが出て立見ボールのスローインになり、プレーが一旦止まったタイミングで勝也は向こうのDFラインを観察。そこには本来前線の選手である、栄田と辻の両名がDFの位置にいた。



『これはまた相当ガチガチに守備を西久保寺は固めて来ましたね。5バックの上にトリプルボランチで、FWの人数が0とは……西久保寺がこういう事をしてくるとは思いませんでした』



『そうですね。一体西久保寺の監督、高坂学はどんな意図でこの作戦をとったんでしょうか?』



 超攻撃的なサッカーをする西久保寺が、何故こんな超守備的になるのかと会場の方もざわついている。




「5ー5ー0ってそんなフォーメーションあるんですか〜?」



「いや……俺は見た事無いけど……」



 摩央も彩夏も馴染み無い陣形を見て、あり得るのかこれ?と思っていた。



「海外ではそのシステムを使ったクラブがいた、というのは聞いた事あるけど実際に見るのは初めて……まさかこの決勝戦でそれを使って来るなんて思ってもいなかった」



 冷静な表情は崩さないが、内心で京子も驚いている。




「……」



 弥一の視線は相手ベンチに座る高坂へ向けられた。この奇策とも言えるフォーメーション、それを考えたのは指揮官である彼だろうと。






 遡る事決勝前、西久保寺サッカー部の部室にて。



「立見戦は攻めないで後ろをしっかり固める。5ー5ー0のトリプルボランチだ」



「5ー5ー0って、いくらなんでも消極的過ぎません?」



「立見が2桁得点しまくってるのにビビり過ぎじゃあ……土門の言葉をそこまで真に受けなくても」



 いっそ思いっきり引いて守らないかと、言い出したのは土門だが高坂はそれを作戦として考えていた。しかし今まで攻撃サッカーをしてきた彼らが、急に超守備的に行こうというのに対して難色を示す。



「立見のこれまでの得点を見てきたけど多いんだよ。相手が前に出てる時にボールを奪って速攻と、ミドルレンジからのゴールに、スペースを突いてDFの裏へ抜け出したシーンがね」



 高坂は立見のこれまでの試合の得点シーン、全てに目を通して分析した。西久保寺は攻撃サッカーのチームで取られたら取り返せば良いと、撃ち合い上等の戦いを此処までしてきたが、今回の相手は無失点記録を持つ立見だ。



 今までのような、取られたら取り返すが通じる相手ではない。1失点でもしたら、それで息の根が止まってしまう恐れがある。まずは立見の攻撃を抑えなければ、話にならないと高坂は考えた。



「じゃあ、思いっきり守りまくってPK戦っスね!小平、お前に決勝戦はスポットライトが当たるぞ!」



「いや、負けてるとは思ってませんけど……立見の大門も八重葉戦で結構PK戦で止めたりと、優れたGKですから簡単じゃないですよ?」



 PK狙いなら西久保寺の誇る1年守護神の出番だと、土門が小平の背中を軽く叩く。期待されている1年だが、立見相手にPKも簡単ではないだろうと、あまり作戦に前向きではなかった。



「別にずっと0ー0を保てとは言わないさ。勿論守りを固めても失点する確率はあるから、点を取る術も無ければ勝てる可能性は限りなく薄い」



 守備を固めるだけではなく、どうにか立見から得点出来る術を考えなければならない。立見の攻撃を封じて更に難攻不落な鉄壁の守備を崩すという、中々高難易度なミッションと言える。



 その為の手段も高坂から皆へと伝えられた。





『左サイド、水島からクロス!栄田弾く!高い!』



 左から翔馬が左足のアーリークロスを上げ、川田の頭に合わせようとしたが、今日CBとして守る栄田が頭で競り勝つ。



「(撃てる!)」



 そこに影山がセカンドに詰め寄り、右足でミドルレンジからシュートを狙う。しかし中央をガチガチに固めたDFのブロックに弾かれ、再びボールは零れていく。



 若杉が拾うと、彼はボールキープやパスで繋げようとせず、立見のゴールへ向かって思いっきりボールを蹴り出していた。西久保寺の選手が誰もいない、立見陣内へとボールは転がって間宮がこれを取る。



「(おいおい、あっち攻める気あんのか?ゴールを全員で固めてばっかじゃねぇか)」



 間宮がボールを持った状態で相手ゴールを見れば、全員がゴール前付近にずらりと揃っていた。前線に1人残すという事もせず、文字通りの全員守備だ。



『間宮から神山、右サイドの田村走る!パスが出され、前田が弾いた!』



 素早くパスを繋ぎ、田村が笠井を追い越して勝也からのパスを受けようとするが、前田がこれを弾いて断ち切る。1人を躱してもすぐにカバーされてしまう。



「(くっそ!通りづれぇ……!)」



 守備の堅いチームとは何回か試合してきたが、勝也の知る限り、今までの中でも1番多くの人数がゴールを守っている。こんな徹底的に守備を固めて来たのは初めてだ。



 田村が右から豪山の頭を使おうとクロスを上げるが、土門によって弾かれる。左から切り込んで行こうとするも、栄田と辻が2人がかりで成海のドリブル突破を阻止。



 此処まで2桁得点で予選を勝ち進んだ立見だが、前半まだ一点も奪えていない。西久保寺の徹底した守備固めが、それを許さなかった。



「(こっち!来い!)」



 川田が厳しいマークに遭いながらも、体格を活かしてキープしていた時。勝也が相手ゴール前へ走り、ボールを要求する。



 それを見て川田から左足でパスが出され、勝也はそれを左足でワントラップして軽く浮かせれば、落ちて来た所を右足で捉えて相手ゴールにシュートが飛んで行く。



 勝也が得意とするワントラップボレー。ゴール前に密集するDFの頭上を越え、縦回転がかかって上から下へ急激に落ちると、ゴール左を捉えていた。



 そのシュートを西久保寺の1年GK小平が、横っ飛びでボールに向かえば両腕を伸ばして弾く。



 弾かれた球はゴール左へ外れ、ゴールラインを割る。



『惜しい!立見のシュート!キャプテンの神山による良いミドルでしたが、西久保寺の1年GK小平これをファインセーブ!準決勝では音村学院の猛攻を防ぎ切った頼もしき守護神!』



『DFのブロックを躱してシュートが届いたまでは良かったですけどね、ガチガチに固めてる相手にこういうミドルやロングは良いと思いますよ』




「まるでイタリアのカテナチオみたいじゃねぇか。あんなゴール前を固めたりして」



「カテナチオもそこまでやんないよー。今の相手は前線に人を全然残してないからー」



 勝也が今の西久保寺の守備をそう例えた時、イタリア留学している弥一からすれば、前に人がいない分カテナチオ以上に守備的に見えた。




 立見はCKのチャンスを迎えるが、成海のゴール前へ放り込んだ高い球を栄田が頭でクリア。長身FWでヘディングが強いという長所を、今日はDFの方で活かしている。



 此処まで2桁得点を叩き出した立見の攻撃。それを超守備的陣形という、奇策で凌ぎ続ける西久保寺。



 健闘はしているが、一部の観客は不満そうだった。




「何だよ西久保寺、攻撃サッカーは何処行ったんだ?」



「ビビらず攻めろー!守ってばっかじゃ勝てないぞー!」



 あまりに消極的過ぎる西久保寺の今日のサッカー。見てる側としては、攻め合う試合をみたいと思っている。互いに予選で大量得点を叩き出しているので、そういう試合展開を期待した者は多い。



 次第に彼らへ向けて攻めろという声が、多く聞かれるようになる。しかしフィールドで戦う西久保寺、ベンチに座る高坂は作戦を変える気など全く無い。




「(分かってないな……これが次もあるリーグ戦じゃなく一度負けたらそこで終わりなトーナメントだという事を)」



 不満の混じるような声援を耳にしながら、高坂は心の中で強く思う。



「(不満も批判も勝手にしろ。プロと違って高校サッカーはエンターテイメントじゃない、彼らの……己の将来、人生が懸かった一発勝負だ。攻撃的だろうが守備的だろうが勝てば良い)」



 元プロの勝負師として魅せるより勝利を優先。派手に戦って負けるよりも、どんな奇策を使ってでも勝って全国へ行く。彼はそちらを選択していた。



 批判も覚悟の上で若き監督はフィールドで戦う、教え子達を見守る。

弥一「ゼロトップは初めてだねー」


勝也「色々な試合あったけど、此処までどのチームもそれやってなかったからな。まさか超攻撃サッカーのイメージ強いチームがやるとは驚かされたわ」


弥一「ホント高坂さん策士だ〜元プロはやらしいな〜」


勝也「聞こえたら失礼だから止めろってお前!」


弥一「(聞こえて心乱れてくれたらラッキーだけどね)」

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