過去を遡り見つけた答え
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「お前、上手いなー」
銀髪の子供が自分より小さい、リフティングをしている黒髪の子供に話しかける。
「(ああ……そうだ。俺より小さいのに良いリフティングするのを見て、それで声をかけたんだ)」
今の勝也が幼い頃の自分と弥一を見ていた。この頃の弥一は確か小1年だったはずだ。彼の居る学校はサッカーよりも野球が盛んな所で、一緒の球技をする友達がいないから1人でリフティングをする日々を送っていた。
「あ、俺は神山勝也っていうんだ。お前は?」
「神明寺弥一」
「何か長いなー、弥一の方が短くて言いやすいからそっちで呼ぶな」
「(そういや、あの頃の弥一はそんな喋るの得意じゃない感じだったなぁ)」
初めて会って彼と言葉を交わした時、今のような明るい感じではなかった事を勝也は思い出す。
そして彼と共にサッカーをするようになり、勝也は自分の教えられる事を伝えながら彼と遊ぶようになる。あの頃から彼は色々出来た訳ではない、解らない事があれば自分がその度に教えたりしていた。
勝也にとって弟が出来たようなものだ。
彼とサッカーをしていき、ある日もう1on1をやっても良いだろうと、勝也は弥一と一対一の勝負を繰り広げる。
そこで弥一は予想以上に食らいついて、勝也はつい本気を出して弥一を突破していた。
「お前、クラブに入る気は無いか?」
「(1年で俺の動きにあそこまで付いてこれる奴はいなかったし、あのまま学校で1人でサッカー続けるのは勿体ないと思ったんだったな……)」
幼い自分が真剣に弥一を柳FCに来ないかと、誘っている所を見て勝也は当時の事を振り返る。
誘っていなかったら、今の弥一は居なかったかもしれないと。
弥一は勝也の誘いにすぐ乗って、柳FCへ入る。そこでDFを希望すればクラブの一員として、サッカーを本格的に始めるが彼も最初は上手く行かず悩んでいた。
「(ああ……そうだ、あいつも最初から全部上手く行っていなかった。DFとして壁にこの時ぶつかってたっけ)」
上手く出来ず、落ち込んでいる弥一に話しかける過去の自分。今の勝也はその2人を見守り続ける。
「コーチング、声の掛け合いを覚えた方が良い。もっと周りの味方を頼れよ」
「コーチング?」
「声を出すっていうのはさ、ドリブルやシュートと同じぐらい実は大切な技術の一つなんだよ。攻撃でも守備でもな、テレビとかで見てたら凄さ伝わりづらいだろうけどスーパープレーの裏にはコーチングもあったりするんだ。優れたコーチングが切っ掛けで得点が生まれたり失点を止めたりも出来たりとかするし」
「!!」
幼い自分が弥一に教えている事、勝也はそれにハッと気付く。
昔の自分が弥一に教え、今の自分があの時やっていなかったプレーがあった。
「(は……なんてこった。昔の俺の方が分かってんじゃねぇか、何が大事かっていうのを……!)」
弥一への嫉妬、なんとしてもプロになる、色々な感情が重なって勝也は本来の自分を見失ってしまう。その結果、あの時の彼はコーチングを忘れ、1人で突っ込んでいた。
コーチングを覚える前の弥一と同じ事を、彼はしてしまったのだ。
「(それに対して、弥一は昔俺が教えた事をずっとやってる……昔も今も)」
弥一は何時も後ろから絶えず、味方へと声をかけ続けていた。勝也から教わった事をひたすら実行し、ずっと磨き続けている。
才能だけではない。躊躇無く良いと思った事を、すぐに実行できる行動力と決断力。それが弥一の強みなのだと。
「(何やってんだ俺……救いようの無ぇバカ過ぎんだろうが……!)」
かつて伝えていた事を弟分が変わらず実行している。対して自分はそれを忘れ、上手く行かず嫉妬や喧嘩までしたりと、自らの行動や言動を深く後悔する。
「(弥一……!)」
勝也の目から大粒の涙が溢れ出て来る。答えが見つかり、彼の過去を振り返る旅は此処で終わりだ。
「勝也……大丈夫?」
「ほあ〜」
現実世界に戻れば、心配そうな顔で見つめる京子。宝石のような青い瞳で、同じく見つめてくるフォルナの姿が見えた。
「ああ……どんなに俺が浅くて愚かだったのか、思い知らされた所だよ……」
勝也は腕で流れる涙を拭うと、自らのスマホを操作し始めた。
自らのけじめをつける為に、弟分と同じように彼も迷う事なく実行に移す。
「そうか……神山先輩とそんな事があったのか」
喫茶店で弥一は目の前の人物と、向かい合う形で席に座る。その相手は輝咲だ。
外で彼女と出会い、輝咲は弥一の様子が何時もと違うと感じれば、何があったのか聞く。弥一は共に喫茶店へ入り、そこで隠さず彼女には全てを話した。
「うん……喧嘩しちゃったし、退部届も出しちゃったから。もうサッカー部と関わる事は無くなったよ」
あのまま部に残っても悪化するだけだと考え、弥一は早いうちに退部届を幸に提出。ズルズルと残るよりも、すっぱり辞めた方が良い。
そうやって弥一は今回も早い決断と実行で、サッカー部を辞めてしまったのだ。
「弥一君は本当にそれで良いのかい?あの人と喧嘩別れしたまま、卒業して離ればなれになってしまっても」
「お互い悪い事言い合っちゃったし、退部届も出したから……」
「そういう事を聞いてるんじゃない」
輝咲は真剣な眼差しで弥一の姿を捉え、離さない。その目を向けたまま彼に問いかける。
「君自身はどう思っているのかだよ。このままで本当に良いのか、それとも仲直りしたいのか」
「……」
彼女にその目で見られると、弥一は何も誤魔化せないと感じ、口を開く。
「仲直り……出来るならしたいよ。サッカー部も本当は退部なんかしたくなかった……友達いっぱい出来たり僕にとって楽しい場所だったから……」
仲が修復出来るのであればそうしたい。弥一はそう望んでいるが、状況はもう遅いと思っていた。手遅れだと。
「だったら、改めてもう一度冷静に話してみるのが良いんじゃないかな?感情的だったその時と違って、今なら……不安だったら僕も付き添うし」
「それは……」
流石に部外者の輝咲にそこまで付き合わせ、甘えてしまうのは悪い気がした。話し合いには抵抗を見せる弥一。そこに彼のスマホが何度か鳴り出す。
「見てみようよ。ひょっとしたら彼から何か来てるかもしれない」
今輝咲と話している時にスマホを見てる場合じゃないと、無視していた弥一へ輝咲は見るように促す。
言われて弥一はスマホを確認。そこにはメッセージ通知の知らせが届いていた。
この日に立見サッカー部全員、学校に集まるようにと勝也からの知らせだった……。
想真「何であとがきまた俺らやねん!?」
光輝「ネタ出し尽くすまでやらす気かい!?」
室「あー、そういえば立見の方で何かお蔵入りのショートコントあったとか聞いたけど……」
想真「ショートコントぉ?とりあえず他にやる事あらへんし、見ようやないか」
光輝「お蔵正解やろこれ」
想真「一気に真冬来たかと思ったわ」
室「サッカーは強いけど笑いの方は壊滅的だったみたいだ……」