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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 総体編
546/651

勝者も敗者もいない試合

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『最後に照皇決めたー!八重葉が準決勝進出!PK戦の死闘を制しました!』



『本当にどっちが勝つのか分かりませんでしたよ。八重葉が此処まで追い詰められたというのは王者となってから初めてですよね』



 照皇のキックがゴール右上隅に決まれば、3ー1。勝也の出番まで回さず八重葉が、この戦いに終止符を打つ。



 絶対王者として八重葉がまた一つ連勝を重ねた。




「立見……ねぇ……」



 試合を観戦していた一人の男が呟く。黒いスーツの上着を肩にかけ、ペットボトルの水を飲んで水分補給する中で彼は考え込む。





「勝ったと思うか?今日の試合」



 ロッカールームへ引き上げて来た八重葉の選手達に、監督は問う。それに答えられる者はこの場に居なかった。



「前半押し込んだにも関わらず点を取り切れず、後半は向こうの執拗なロングボールにバタついてしまった。PK戦は後1本差という所まで追い上げられ、八重葉が危うく敗退する所だった。……この勝利は満足か?」



 監督の言葉に対して、選手達は黙ったまま。これが答えを表してるようなものだ。




「満足なんざこれっぽっちもあるかよ」



 ロッカールームの椅子に腰掛けた龍尾が言葉を発する。監督がその場を後にして、選手達が着替えを進める中、彼の言葉に照皇は背を向けて同じく椅子に座っていた。



「……守れたのかリュウ?俺がもし止められた後、神山勝也に回ってきたら」



「どうだろうな」



 照皇がもしもの事を聞くと、意外にも龍尾は止められると断言せず。彼の事だから止められると言う、そう思っていた照皇には少し意外だ。



「そりゃ実際目の前にしたら何がなんでも止めるつもりだ。けど……あいつに1本決められて、落ち着かない感じになっちまった」



 頭の冷えた龍尾は少し前の自分を振り返っていた。何時も通り止められると思ったら、弥一に決められて心が荒ぶってしまう。



 確定してるかどうか分からないが、おそらく向こうの5人目は此処まで出番の無かった勝也だ。



 照皇が決めていなかったら、心を落ち着かせる間もなく、戦う時を迎えていたかもしれない。立て続けに決められ、向こうのGKが波に乗って止め続ける。



 そんな結末もあったかもしれない。



「強ぇよ立見は、特にチビ……神明寺弥一は」



「同感だ。奴は今まで見たどんなDFの中でも厚い壁だった」



 龍尾と同じく照皇も彼と直に争い、その身で弥一の強さを体感していた。



 70分動き続けて、無得点で終わったのは高校サッカーに入って初めての事。チームが勝利を手にしたが、照皇は勝ったという気分になれない。



 それは側に座る龍尾も同じだ。



「っし、反省はした。明日すぐまた試合だから備えねぇとな。相変わらず総体のスケジュールは過酷だわー」



 明日またすぐに試合が控えている。何時までも引きずっている場合ではないと、龍尾は席を立って荷物をまとめ始めた。



 照皇も同じく引き上げられるよう、手早く済ませていく。次の試合に向ける中、頭の片隅では弥一の存在が消えないままだった。






「今回八重葉はかなり危なかったですね、0ー0でPKまで持ち込まれたのは今年だけでなく去年もありませんでした。それでもしっかり勝ち切りましたが今日は……」



 勝利した八重葉の監督が会見に出席し、多くのフラッシュが焚かれて光る会場。その中で記者が今日の試合について質問する。



「今日の試合は勝者も敗者もいません」



 監督の発言に、先程よりカメラによるフラッシュが多く光った。



「今日あのフィールドに居たのは……極限の戦いに立ち向かった勇者のみです」



 立見も八重葉も問わず、今日の試合を戦い抜いた選手達を勇者と言って敬意を表する。



 それが最後まで、彼らの戦いを見届けた監督として出来る事だ。





「折角勝って準決勝行けたのに、立見敗退なんて……勝也さんと戦えると思ったのになぁ」



 準決勝に進出した牙裏。帰りのバスの中で、立見が八重葉に負けたと速報を知って、春樹は分かりやすいぐらいに落ち込んでいた。



「ウゼェ、てめぇが負けた訳じゃねぇだろうが」



 隣の窓際の席に座る狼騎にとって、災難かもしれない。立見が負けて勝也とフィールドで相対する事が出来ず、その事で愚痴る春樹の声を聞かされる事になるのだから。



 帰るまで延々と聞かされるかと思えば、春樹は狼騎の方を向いて真剣な顔つきとなっていた。



「準決勝、僕達が八重葉を倒して立見の敵討ちをするぞ」



「そうしてやる義理なんざねぇよ。優勝は狙ってるから八重葉は龍尾もろともブッ潰すが」



 自分達が立見、勝也の敵を討つと張り切る春樹。一方の狼騎は立見や勝也にそこまで特別な思い入れは無いが、絶対王者と龍尾の壁を突破する事は狙っている。



 決勝の切符を懸けて、準決勝は八重葉と牙裏で争う。




 八重葉0ー0立見


   (3ー1)




 マン・オブ・ザ・マッチ



 工藤龍尾






「ん……」



 弥一が目覚めた時、最初に見たのはホテルの天井だった。



 何時の間にかユニフォームは着ておらず、夏の青いパジャマ姿で彼はベッドで眠っていたのだ。



「弥一君?」



 聞こえてきたのは聞き覚えある女性の声。まだ意識が覚醒してないせいか、ぼんやりしていた。




「輝咲……ちゃん?」



 意識がハッキリしてきて、弥一はその名を呼びながら彼女の方へと視線を向ける。



「良かった、起きてくれて……!」



 そこには心配そうな顔を見せていた輝咲。ベッドの側の椅子に座る姿があった。




 輝咲はこの北海道に、立見の女子バレー部の一員として参加。総体の日程では高校サッカーより前に女子バレーは始まる。



 女子バレー部の方は1勝したが、敗退してしまう。それから輝咲は立見サッカー部の応援に専念する。




「君が倒れて運ばれるのが見えたから、心配になってさ。高見先生達に言って、弥一君の世話をこうして任せてもらったんだ」



「ああ……心配かけちゃってゴメン」



 試合会場に輝咲も居て、PK戦を見ていた。それを理解すると弥一は彼女に心配かけた事を謝罪。同時に上半身を起こす。



「試合はどうなったの?」



 龍尾からゴールを決めた後、意識を手放した弥一はまだ試合結果を知らない。尋ねられた時、言うべきかと輝咲に迷いが生じる。



「(駄目だったんだ……)」



 心を読むまでもなかった。



 輝咲が言いづらそうにしている姿を見れば、大体分かってしまう。立見があの後負けた事を。



 チームの敗退。立見は夏の舞台から去る事が確定した。



 この事実に輝咲は今の弥一に、どう声をかけるべきか分からず黙っている。今の彼にはどんな言葉をかければ良いのかと。



 そんな彼女の優しい気遣いは心で弥一に伝わって来る。




「あはは、とりあえず北海道のお土産何か買って東京帰ろうかな〜♪ずっと買いたかったし、何にしよう〜?」



 これ以上心配をかけないよう、弥一は輝咲の前で明るく振る舞う。もう自分は大丈夫という姿を見せる為に。




 すると輝咲は弥一に近づき、彼を両手でぎゅっと抱きしめた。



 突然の輝咲の行動に、弥一は驚いて何も言えなくなってしまう。



「僕の前で我慢しなくていい」



 輝咲から見れば、今明るく振る舞っていた弥一が、かなり無理しているように見えた。



「今この場には僕しかいない。我慢せず……本当の君を見せて良いんだ」



 抱きしめて離さないまま、輝咲は言葉をかける。



 彼が辛く苦しくならないように、彼が安心して弱さを吐き出せるようにと。



「っ……」



 もう我慢しなくていい、そう言われれば弥一は内に溜め込んでいた気持ちが溢れ出て来る。




「うあっ……うぁぁ……!あぁぁぁ……!」



 輝咲の胸の中で泣きじゃくる弥一。輝咲は泣き続ける彼の背中や頭を優しく撫で続けていた。

想真「喋りづらいわ俺ら!」


光輝「こういう回で何で呼ぶねん!?無しでええやろ今回は!」


室「なんとか場を繋いでくれって事らしいよ」


想真「大無茶振りやないか!ホンマやりづらいー!」


光輝「とりあえず言える事は、PKは色々しんどい!」


室「本当それ。頭で決めるならともかく、物凄いプレッシャーの中で蹴るのは……出来れば避けたいよ」


想真「PKを蹴った奴は決めた奴、外した奴、関係無く全員蹴るだけで凄くて偉い!せやから八重葉の監督さんも勇者って言ったんやろな」

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