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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 総体編
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天才GKの壁

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『立見対八重葉、70分の激闘を戦い終えましたが0ー0!試合の決着はPK戦に委ねられる事となりました!』



『八重葉がPK戦……一体彼らが最後にそれをやったのは何時なのか、彼らがこの試合0点で終わるのは正直予想外でしたね』



 PK戦に向けた準備が始まり、互いのチームはそれに備えて束の間の休息へ入る。



 此処からは互いのGKの見せ場だ。




「(PK……大丈夫なのか、相手は……)」



 時が来るまでの間、大門の心臓の鼓動が早く動いていた。



 試合前も緊張してしまい、勝也に励まされてなんとか試合に臨む事は出来たが、改めて緊張が大門に襲いかかって来る。



 それも試合前を超える緊張だった。



「(あの天才GKを相手に俺は……)」



 頭をどうしても過ぎってしまう、強大な相手の存在。



 才能に恵まれて比べ物にならない程、実績も積み重ねている龍尾を相手に行けるのかと、大門は大きな不安を抱えてしまう。




「どーん!」



「おわぁ!?」



 フィールドで座り込んでいた大門。そこに突然両肩に手を置かれるような感覚が伝わり、盛大に驚いてしまう。



 後ろを振り返れば、そこに居たのは弥一だった。



「八重葉を0点に抑えたのに暗ーい。この試合で何本も良いセーブした守護神に見えないよー」



「あれは弥一とかDFの働きがあったから……」



 今日の試合で大門は何本かのシュートを止めているが、それはDFのおかげと考えている。実際に弥一は照皇を封じたりと、かなり貢献していた。



「それでGKが駄目だったら無失点は無理だよ、勿論逆でもね。僕らが凄かったから今のスコアになったんじゃない?」



 DFもGKも優れていなければ、相手を完封する事はまず不可能。絶対王者相手なら尚更だ。自分達が優れているからこそ、今のスコアレスがそれを証明している。



「八重葉と張り合えてるし、勢いで龍尾ぶっ倒して高校で1番の守護神なっちゃお♪」



 明るく笑う弥一の顔を見て、大門は思わず笑いが出てくる。不思議なもので不安な気持ちは和らぎ、落ち着いていた。



「そうだな……やるか」



 どちらにせよやるしかない。今ゴールを守れるのは自分だけ、腹を括って大門は立ち向かう決意を固めた。





 両チームがPK戦で蹴る選手を決めて、両GKが1つのゴールマウスへと向かう。



「よお、1年君」



「?」



 歩く最中に大門へ龍尾が話しかけて来た。



「俺は全部止めるから、お前も1本2本ぐらいは止めて粘ってくれよ?」



「!」



 それは龍尾からの煽り。



 PKだろうが全部止める自信がある。相手に5人目が来るまで粘れと、揺さぶって来た。



 余裕そうな笑みを見せる龍尾に、大門はキッと見据える。



「俺だって止めますよ、全部」



「ほう?そりゃ楽しみで」



 相手が全部止める気なら、自分だって全部止めてやる。開始前から早くも2人のGKが火花を散らせていた。




『立見と八重葉のPK戦、先攻は八重葉からとなります。1番手は……おっと、いきなりキャプテンの大城が登場です!』



『まずはキャプテンが決めて勢い付ける狙いでしょうかね』



 両チームの選手達が見守る中、大城は大門の守るゴールマウスへ進み出る。表情に緊張は見られず、落ち着いた様子だ。



「(右……いや、左?落ち着け、大城さんは右足だから……!)」



 大門は大城の利き足を思い出し、彼の蹴るコースを考えていた。



 PKが開始されると、大城は助走を少し取って右足を振り抜く。ボールはゴールの右下隅に飛び、大門は同じ方向へ飛んで左腕を伸ばす。



 僅かに届かず、大城の蹴った球が豪快にゴールネットを揺らした瞬間、大城は右拳を握り締めていた。



『決まりました!まずは八重葉が大城の一振りで先行!』



『後一歩でしたね大門君。反応は悪くなかったですが大城君のキックが素晴らしかったので、これはしょうがないと思います』




 大門と入れ替わる形で龍尾がゴールマウスへと歩く。すれ違う時、彼の口から言葉が発せされる。



「全部止めるんじゃなかったか?」



「っ……!」



 決められた大門に対して、龍尾は容赦無かった。彼の強気な姿勢は一切崩さないまま、立見の一人目のキッカー、豪山を迎えていた。



「(此処は思いっきり!!)」



 豪山は先程の大城みたいに勢いよく、右足を振り抜いてゴール左を狙う。



 弾丸のようなスピードで飛ぶ球を、龍尾は右腕を伸ばして豪山のシュートを弾き出す。



『止めたぁぁ!工藤龍尾、豪山のキックを右手1本でストップだ!』



『あのスピードであの距離を止めますか!?本当にとんでもないですよ彼……!』



 龍尾のビッグセーブに、スタンドからは大きな歓声が沸き上がる。




「(悪い、大門……!)」



 決めて取り返そうとしていた豪山だが、防がれて大門に対して心で詫びていた。



『これで八重葉が一歩リード!続いて八重葉は村山が出てきます』



 今度こそ止める。村山を前に大門は気合を入れる為、右拳を左掌に当てる。



 村山が蹴った瞬間、大門は左に動く。だがボールは動いた大門と反対、右方向へ向かってゴールマウスに吸い込まれていく。



「くっそぉ!」



 悔しさのあまり、大門は倒れたまま右拳でフィールドを叩きつける。



『決めました村山!大門今度は逆を突かれてしまった!』



『隅ギリギリでしたね今の、この局面であんなボールが蹴れるのは凄いですよ』



 2連続で八重葉が決めて大分有利となる。立見は龍尾を相手に、なんとしても1本決めなければならない。




「(結局そんなもんか)」



 龍尾は既に1本決まった時点で勝利を確信。後は自分が残らず止めるだけ、勝也だろうと誰が出て来ても、決めさせる気など無かった。



『立見、2人目は成海。1本取り返さなければ立見としては相当苦しい!』



『かなりのプレッシャーですね、2ー0で先行されていますから力みやすくもなるんですよね』



「(取り返さないと……大門や後に控える皆に負担はこれ以上かけられない……!)」



 なんとしても決める。その思いを左足に込めて、成海は蹴り出した。



 しかしボールは無情にも大きく浮き上がってしまい、龍尾は動く事もなく浮いた球を見送る。



『あー!外した成海!左足のキックは大きくふかしてしまう!』



 4人のキッカーが蹴り終わり、2ー0と八重葉の圧倒的優勢に変わりは無い。



 肩を落として戻って来る成海に、勝也はすぐ彼の肩をポンポンと叩き、励ましていた。場のプレッシャーが想像以上に大きくなり、魔物となって成海へ襲いかかった場面を皆が見てしまう。




「もう楽に蹴って良い、浮かしても構わないぞ政宗」



「っす、行ってきます!」



 精神的優位に立てた事で、大城は政宗を安心させるように言葉をかけ、送り出していた。



 政宗としても、リードしていて内心ではホッとしている。一方、目の前のGK大門には、大きなプレッシャーがのしかかってしまう。



「(こんな時こそ落ち着かないと……)」



 大門は深く深呼吸。絶対止めなければ、と気負い過ぎていた己を落ち着かせようとしていた。



 練習ではPKはよく止めていた、その感覚を思い出せと自らに強く伝える。



 政宗が助走を取って走り、右足で勢いよくボールを蹴り放つ。



 今度はその動きがよく見えていた大門。飛んで来た球は左方向へ飛んでいて、大門も同じ方向に飛べば、左掌にしっかり球を当てて叩き落とす。



『止めたぁぁ!立見GK大門も1本止めました!』



『今度はしっかり読んで反応してましたね、良いセーブでした!』



「よぉぉし!!」



 ようやく1本止めた。大門が大きくガッツポーズを取ると共に、立見の応援席を中心に歓声が大きくなる。



「やった!止めたー!」



「良いぞ大門ー!こっからだこっから!」



 仲間の好セーブに勝也と翔馬が共に喜び、立見にも良い雰囲気が戻りつつあった。




『立見この流れに乗れるか!?3人目は影山だ!』



 立見の3人目として出て来た影山。ボールをセットして、大門と同じように深呼吸で心を落ち着かせる。



 大門が作った流れに続こうと、右足でゴール右隅を狙った。



 それを龍尾は最初から分かっていたかのように、同じ方向へダイブしていく。両腕を伸ばすと、影山の放ったボールを両手で、完璧に弾き出していた。



『またしても工藤の壁だぁー!立見まだ1本も決められない!』



 決められる事も外す事も許されなくなった。立見に絶望を与える龍尾のPK阻止。八重葉の応援席が勝ちを確信すれば、声援がより大きくなる。




 4人目に出て来た佐助。彼がこれを決めて3ー0とした瞬間、八重葉の勝利が決まる。勝利を決めるキッカーとなれば、蹴る方にも相当なプレッシャーだ。



「(立見が圧倒的不利……大丈夫、気負う必要は無いんだ)」



 八重葉の優勢は動かない。佐助は自分にそう言い聞かせると、目の前に立つ大門を見据える。



「(止められる……止める!)」



 同じように大門も相手を見据え、両者にプレッシャーが襲いかかってきた。



 その中で佐助が動き出す。左足で思いきり蹴らず、左下隅にボールを転がしていく。



 大門は冷静に転がって来たボールへ反応。倒れ込みながらもキャッチしてみせた。



『止めた大門ー!!転がして来たPKに対応して2連続セーブだ!』



『なんとか首の皮1枚繋がりましたね立見!』



「やった!やった!!」



 2連続セーブに大門は大きく喜びを表す。




「おおっし!これ決めて5人目の勝也先輩に繋げないとな!」



 立見は5人目に勝也が蹴る事は決まっている。その前に敗退の危機を迎えたが、大門がピンチを救った事で、見守っていた間宮達は追いつけると、希望を大きく持っていた。




 そんな中、1人静かにゴールを見据える者が居る。




 4人目で絶対外せないキッカーを任される事となった弥一。



 体力を奪い続ける猛暑と共に、極限のプレッシャーが襲いかかる。

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