闘将が見守る試合
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
総体2日目、シード校も登場して夏の過酷な戦いが今日も始まる。
早めに試合会場に到着した立見。試合前のミーティングへ入っており、今日の試合を欠場の勝也もその場に居た。
「相手の天鳥高校は昨日の泉神と違って、ガンガン前に出て行く攻撃サッカーが得意だ。昨日も初戦を4ー1で勝って乗ってる事を思えば、今日もそう来る可能性がある」
大事を取って椅子に座った状態で、勝也は今日の相手について説明。
2回戦の相手は大分代表の天鳥高校。前線に3トップを置いて、積極的にゴールを狙う攻撃的なスタイルで、予選から得点を重ね続けている。
「大分で鳥かぁ、唐揚げの本場だよね〜」
大分で鳥と聞いて、弥一は鳥の唐揚げが真っ先に思い浮かび、食べたいという欲が出て来た。
「唐揚げの代わりにこれを食べてください〜」
彩夏が弥一へ差し出したのはカステラの入った袋。彼だけでなく、試合に出る部員達に配られていた。
「これはこれで美味しいー♡」
ふわふわな食感と優しい甘み。カステラの美味しさに弥一は癒され、活力となっていく。
「(後は……見守るしかねぇか)」
負傷した自分の出来る事はした、試合に出られない勝也はベンチで見守るのみだ。
出場したい気持ちを抑えて応援に集中する。
『総体2回戦、立見高校と天鳥高校。どちらも1回戦を快勝で突破した者同士ですが、立見はキャプテンで大黒柱の神山勝也が今日はメンバーから外れています』
『これは立見にとってかなりの痛手ですね。攻守の要で精神的な柱でもある彼がいないとなると、今回立見は苦しいかもしれません』
フィールドへ出て来た両チーム。立見の代理キャプテン成海が勝也に代わって、相手のキャプテンと対峙していた。
「(神山勝也がいないなら、この試合行けそうだな。向こうが勝手に崩れてくれるかもしれないし)」
勝也のいない立見なら勝てる。本来のキャプテンが不在は向こうにとって、予期せぬ事態のはずだ。チーム力は確実に落ちて、天鳥には今回有利な試合になる。
相手キャプテンだけでなく、天鳥の選手達全体がそう考えていた。
「(あ、絶対攻めてくるこれ)」
彼らの心を読み取った弥一。勝也のいない立見と知って、相手はより強気に攻めて来る。
普段攻撃的なチームなら尚更だ。更に言えば彼らは初戦で得点を重ね、勢いに乗っている状態。何よりの根拠は心が攻めるぞと叫んでいる事だった。
「間宮先輩〜」
「ん?どうした……」
弥一は間宮の元へ小走りで駆け寄ると、ヒソヒソ2人で話し始める。
ピィーーーー
キックオフは天鳥から始まる。予想通り彼らは最初から攻勢に出て、3トップを中心に立見ゴールへ迫っていた。
『天鳥、中盤で繋ぎ左サイドに展開!福島高いクロス!』
素早いパス回しから、オーバーラップしてきた左SDFへとボールを預ける。彼は左を深く行かず、そのままクロスを上げていた。
背の低い弥一を狙って、長身FWを突っ込ませる。試合前に考えていた、立見への攻撃パターンの1つだ。エリア外なので、大門が飛び出してキャッチする事も出来ない。
「うぉらぁ!」
しかし長身FWと競り合ったのは、弥一ではなく間宮だった。空中戦でぶつかり合い、間宮が頭で弾き出して制する。
セカンドボールを影山がクリアして、相手の流れを一旦断ち切った。
『左からのクロスを間宮が弾き出して影山がクリア!まずは立見、天鳥の攻撃を1つ止めました!』
『神明寺君と間宮君の位置が何時もと違いましたね。あそこに神明寺君が居て、空中戦になったらまた変わっていたかもしれません』
「(キックオフまでは普段通りの位置だったのに、あいつら何時の間にポジション入れ替わったんだ……?)」
弥一に戦略を心で読まれ、バレている事など夢にも思わない。天鳥の選手は何でだと首を傾げながらも、右のタッチラインを割ったボールを取りに行く。
「ああ〜、左に今鈴木が空いてたって川田ー!」
勝也がベンチに座って試合を見守ると、川田がボールを持っている時に、左サイドが一瞬フリーになっていた。
だが川田はそれを見つけられず、パスを出すのが遅れて勝也は思わずベンチから声を出す。
「勝也、立ち上がらない」
「え?あ……わり」
安静にしろと医者から言われているが、席を立って前に進み出ようとしていた勝也。それを京子が止める。
本来ならホテルに残り、大人しく休むのが1番だが、本人の強い希望でベンチに座っている。
「ああくそ〜!」
試合に出たくても出られない。中1の時でも経験しているが、当時よりも今の方が出場したい気持ちは強かった。
彼の気持ちは傍らで座る、京子にも伝わっている。
『川田から岡本へ、山岸インターセプト!天鳥カウンターだ!』
川田からのパスを読まれ、天鳥が速攻に出た。
左から中央へと中盤で繋ぎ、前線のFWが前に飛び出すと共に、グラウンダーの速いスルーパスが出される。
「いただきー♪」
「!?」
そこに間宮と再びポジションを入れ替わり、元の位置に戻った弥一がお返しのインターセプト。
パスが心でバレていた上に、弥一から見ればスピードが遅かったので、余裕を持って左足でカットする事が出来た。
直後、弥一は右足で速い球を蹴ると中央の川田へ、一直線に向かって通る。
「そのまま行っちゃってー!カウンター返しだよー!」
弥一のコーチングに後押しされる形で、川田はドリブルで中央を突き進む。途中で相手の肩と肩がぶつかり合うも、体格を活かして跳ね返す。
そして川田は勢いのままに、左足を振り抜いて行った。
『撃ったー!川田ロングシュート!!』
左足のボールはゴールに向かって、ギュンッと加速していき、弾丸シュートがゴール左を捉えている。
「ぐっ!?」
天鳥GKが反応。両腕で弾いてボールが転がって行くと、天鳥DFがクリアしようと向かう。
そこに忍び寄る影がいた。
影山が先にボールを取り、天鳥エリア内の左45度の位置から、右足でシュートを放つ。
再び止めようと左手を伸ばす、GKの手を掻い潜ってボールは右のサイドネットに突き刺さる。
『決まったぁー!先制ゴールは立見、影山!川田の強烈なロングシュートのこぼれ球を拾って押し込んだ!神山勝也が欠場した不安を吹き飛ばすかのようなゴール!』
『その前の川田君のロングも凄かったですが、更に前の神明寺君ですね。インターセプトの直後にすぐフリーの川田君へ迷いなく送ったりと、視野の広さに切り替えの速さ……素晴らしいですよ』
欲しかった先制ゴールを決めて、影山へ立見の選手達が駆け寄ると、手荒い祝福を与える。
これを見たベンチの勝也も、右拳を握りしめて喜ぶ。
「やられた……!」
「大丈夫だって、時間あるし。此処は気持ちを切り替えてマイペースにやるぞ」
勝也を欠いた立見に先制され、まさかという気持ちはあった。だが時間はまだ充分あると励まし合い、攻めを急がず少しペースを落とそうと決める。
「(攻撃自慢なのにペース落としてくれるんだ?息継ぎの暇与えてくれるのありがたいねー♪)」
その考えもサイキッカーDFには筒抜け。
既にこの試合は弥一による支配が始まりつつある……。
弥一「大分良いな〜、本場の美味しい唐揚げが気軽に食べれて羨ましい〜」
摩央「すっかりサッカーより唐揚げ行ってんじゃねーか」
弥一「だって大分で天鳥って名前だよ!?絶対唐揚げ関係してて学食に唐揚げ定食出てそうー」
「いや、学校名には関係無いよ」
「学食に美味い鳥の唐揚げあるのは本当だけど」
摩央「わざわざ出演して答えてくれた!?」
弥一「やっぱり食べられるんだ美味しい唐揚げ〜」