闘将の覚悟
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「お前変わんねぇなぁ、またチャーハン行く所とか」
「勝兄貴こそ変わらずラーメンは塩一直線だねー」
都内のラーメン屋にて、それぞれ食券を購入すれば注文の料理が届く。
弥一には海老のチャーハン、勝也には塩ラーメンと、彼らの席に置かれていった。
昔から2人とも頼む物は変わらないなと、太一は思わず笑いが溢れそうになってくる。ちなみに彼は醤油ラーメンに餃子に唐揚げと、既に食券を購入済みだ。
2人とも食べ盛りの高校生。単品だけではまず足りないだろうと、皆でシェア出来る物も太一は密かに頼んでいた。
「染み渡るぜ塩〜」
「美味しい〜♡」
部活終わりで空腹状態。それが何より最高のスパイスとなって、より美味しさが際立つ。
勝也はラーメンを啜り、弥一はチャーハンを食べ進める。
食事が一段落つくと、太一がウーロン茶を一口飲んだ後に、話を切り出す。
「さて勝也、話の続きと行こうか」
「……おう」
弥一と他愛ない話をしていた勝也。車内での話の続きが始まると、太一の方へ向き直った。
「これは弥一君もいずれ関係してくると思うから、君も聞いてもらいたい」
太一の言葉に弥一は小さく頷く。
「高校を卒業後、勝也はサッカーを続けるんだよな?」
「そのつもりだよ。大学には行かず、プロ…は都合良過ぎるだろうから社会人のチーム入って働きながら続けようと思ってる」
高校を卒業した後の進路、勝也は大学に行くつもりは無かった。1番の理由は金銭だ。
勝也は京子や勝気を守らなければならない。それには己の力で稼ぐ必要がどうしてもある。
「大抵は大学に進学する子が多いけど、お前の場合はそうだな。京子ちゃんや勝気君を幸せにしなければならない」
そう言う太一の勝也に対する目つきが鋭くなると、勝也は兄の迫力に一瞬怯みそうになった。
「高校を卒業後、家族を守りながらサッカーをするか。言っておくが簡単に出来ると思うなよ?」
プロとしてサッカーを続ける太一、それと同時に家族を支える大黒柱でもある。勝也に先輩として、鋭い眼差しと共に厳しい言葉をぶつけていた。
家族を支えてサッカーを続ける覚悟があるのかと。
「……思ってねぇよ、そんな事は微塵も」
勝也は太一から目を背けず、真っ直ぐ向く。
「俺は京子と勝気を愛し、サッカーで守り続ける。困難で険しくても突き進む」
覚悟は既に決まっていた。生まれたばかりの息子をこの腕に抱いて、京子と共に顔を見た時から。
俺がこの家族を一生かけて守るんだと。
勝也の覚悟、意志の強さが隣に座る弥一にハッキリ伝わる。誰よりも大きい心の声に偽りなど無かった。
色々な心を見てきたが勝也以上に熱く、強い心を弥一は知らない。そんな彼だから立見に、人が惹かれるように集うのだろう。
「……悪い、意地悪が過ぎたな」
勝也の顔を見て、太一はフッと笑みを浮かべた。
「サッカーが上手いだけじゃプロにはなれない。これで食っていく、生活していくっていう覚悟が大事だと俺は思う」
大人となって独り立ちして続けるサッカー、それで生活して生きて行くには上手いのは勿論だが、覚悟を固める必要がある。
サッカーで生活していく事。プロとして経験している太一は勝也にその覚悟があるのか、今一度確かめたようだ。
「立見のサッカー部を0から作り、多くの仲間が集い、今年は東京を制した。それは並大抵の事じゃない。大変な事も多かっただろ」
「ああ、上げればキリがないぐらいにな」
これまでの事を頭で振り返り、太一と話しながら、勝也は新たに頼んだオレンジジュースを一口飲む。
「……力になれるかどうか分からないが、上に推薦しとくよ。勝也をうちにどうだって」
「っ!?」
太一の言葉に、勝也は飲んでいたオレンジジュースを噴き出しそうになる。
「それって勝兄貴をプロチームに推薦して、スカウトが来るかも知れないって事ですか?」
それまで黙っていた弥一も此処で口を開く。太一はプロチームの東京アウラに所属する選手、上に推薦するという事はそういう事なのだろう。
「ああ、東京予選を見ていたけど元々の気持ちの強さに加えて、技術面が増している。去年はそこまでじゃ無かったけどな」
プロとして弟相手だろうが見る目は厳しく、去年までの勝也はチームに推薦出来る実力には届いていなかった。
それが今年は推薦のレベルにまで到達。これならチームの役に立つだろうと太一は判断する。
「勝兄貴やったじゃん、これ総体で優勝したらスカウトの目に止まるねー♪」
「俺がちゃんと活躍して、チームの力になれるかどうかだろ。んな単純じゃねぇと思うぞ」
「そうだな。優勝したから勝也が確実にスカウトされる、とは言い切れないよ弥一君」
優勝したらスカウト行けそうと明るく笑う弥一だが、神山兄弟に揃ってシビアな事を言われる。
「総体は優勝を狙う事に変わり無いけどな。スカウトがあってもなくてもそこは関係無ぇよ」
勝也は優勝を狙うと、弥一に強気な笑みを見せた。
「けど優勝はかなりハードル高いぞ、東京以上の強敵達が集うし連戦と日程も相当きつい。何より八重葉を倒さなきゃならないしな」
「ああ、やっぱそこが最大の壁だよなぁ……」
優勝するにはかなり過酷となる総体。その中でも1番の壁であろう存在を、勝也と太一は揃って思い浮かべる。
「勝兄貴、八重葉ってそんな強いのー?」
「お前な……流石に高校サッカー関わるならそこは知らなきゃ不味いだろ」
帰国してまだ日が浅い弥一が、日本の高校サッカーにある程度無知なのは仕方がない。ただせめて最も強い学校は知っておけと、勝也の口からため息が出てしまう。
「八重葉学園。静岡の強豪校で去年の総体、選手権、高円宮杯と高校の3大タイトルを全て制している。今の高校サッカーで絶対王者と言われてる所だよ」
知らない弥一の為に、太一から丁寧に説明してもらっていた。
「サッカーのエリート揃いでチーム力は間違いなく全国随一、その中でも去年1年の頃から原動力になった2人の天才が特に厄介だ」
「FWの照皇誠、GKの工藤龍尾、どっちも高校No.1と言われてる2人だな。照皇の攻撃陣が毎試合得点を重ねて、工藤やDF陣が毎試合完封する。それを何処の高校も崩せちゃいねぇ」
神山兄弟から八重葉について教えてもらい、弥一の頭の中に入っていく。
「あ、だからって八重葉を意識し過ぎんじゃねぇぞ?他にも関西の最神第一とか強いし、福井からも大型ストライカーが注目されたり、強い高校はまだまだ沢山居るからな?」
八重葉を意識し過ぎて、他に足元すくわれないようにと勝也は他の強豪校についても伝える。
何時の間にか勝也の高校卒業後の事についてから、弥一の高校サッカー界を学ぶ場と化していた。
弥一「勝兄貴の進路についてだったよね〜?何で僕の勉強会にー?」
勝也「お前が想像以上に今の高校サッカー界知らないとなって急遽だよ」
弥一「とりあえずお腹空いて来たから鶏の唐揚げ追加で食べて良いかなー?」
勝也「好きに食え、総体になったら食うもの限られるからな。1人で勝手に買い食いとかすんなよ?」
弥一「ああ〜、また現地の美味しいグルメお預け〜」