東京の最強チームを決める決勝
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
立見が真島を3ー0で下し、決勝進出を果たしたと同時に、念願の全国初出場を決めた。
同時刻に行われたもう一つの準決勝では、桜王と西久保寺の試合が終了。結果は4ー1で桜王が立見と同じく、夏の総体出場の切符を手にする。
この結果、決勝は立見と桜王で東京の頂点を争う事になった。
ただ試合は準決勝が行われた翌日と、厳しい日程の上に総体出場が決まった状態で、モチベーションを維持するのは難しい。
総体前に怪我でもすれば元も子もない。力を抜き、フルメンバーでは臨まず温存が賢明だろう。
だが立見は違った。
「帰ってすぐ休め!明日に差し支える飯は食うなよー!」
準決勝の試合後、ロッカールームで勝也は明日の試合を見据えていた。
大きな勝利を手にした余韻。それに長くは浸らず、部員達を早々に帰し、食べる物も限定させる。
こういう連戦は総体で勝ち進めば、必ず味わう事になる。試合時間は短くなるが、連日試合をこなさなければならない。
その感覚に慣れる為の練習、何よりも最後は勝って終わりたい。東京の王者として全国に殴り込む。
勝也の思いは部員達全体に伝わり、各自が決勝へと備えて行動する。
翌日、東京予選の決勝戦で対面する立見と桜王。
桜王は此処まで安定した戦いぶりで、危なげなく勝ち上がって来た。
シードで立見より試合数が少ないにも関わらず、得点は出場チームトップを誇る。失点もたったの1と抜群の成績だ。
「相手は真島にも劣らない東京の超強豪。だけど俺らなら勝てる!立見が東京の頂点に立つ!」
「立見GO!!」
「「イエー!!」」
総体出場を決めたにも関わらず、勝也を中心に高いモチベーションを保って試合に臨む。それが円陣で表れていた。
東京随一のチーム力を誇る桜王。中盤の蛍坂、原木は鳥羽や峰山と同じ、世代別の日本代表経験を持つ。彼らの奏でる攻撃で多くのゴールが生まれている。
守備でも東京No.1と呼び声高いDFの榊。長い手足が武器で190cmの長身GK高山。彼らを中心に相手の攻撃を跳ね返す。
「川田も行け!そこで囲むんだ!」
中盤で蛍坂がボールを持ち、成海と奪い合いになる。勝也が間髪を入れず、川田に行けと指示を出す。
「ぐっ!?」
成海の相手をしてる最中。すぐに体の大きな川田が迫って来て、囲まれれば蛍坂はキープしきれず、ボールは弾かれる。
これをフォローしに原木が走るも、先に取ったのは影山だった。
「カウンター!!」
そこへ勝也の声が響き渡り、立見は桜王ゴールへと迫る。影山から勝也とパスが繋がって、相手に体を寄せられながらも、勝也の右足によって、ボールは桜王のゴール前へ高く上がる。
豪山がジャンプすると共に、榊も同時に飛んで豪山のヘディングを阻止。ボールがゴール中央のエリア外へ転がると、中央に切れ込んでいた成海が左足を一閃。
勢いのついた左足のシュート。ゴール左下に飛ぶが、長身GKの高山は倒れ込みながらも、成海のシュートをしっかりとキャッチング。
「あー!惜っしぃ!」
これに後方から眺めていた弥一は悔しがる。
「高山は東京屈指のGKだからな、簡単じゃねぇよ」
弥一とは対照的に、間宮は想定内だと驚く事なく、相手の速攻に備えていた。
立見と桜王の前半、立見が優勢でシュート数も上回っている。桜王も攻めているのだが、弥一のコーチングや間宮、影山、田村と2年を中心とした守備が通さない。
「(もう初めての全国行きが決まってるのに……何でこんなやる気満々なんだよ立見は!?)」
桜王は総体出場が確定し、名門として勝ちたい思いはあれど、そこまで決勝に対するモチベーションは高くなかった。目的は果たしたので、必要以上に頑張る事は無いだろうと。
なので蛍坂にとって、目の前の立見が懸命に向かって来るのは驚く事だった。まるでこの試合こそ、全国行きが懸かっているかのように。
『立見、間宮のクリアからセカンドを影山が拾う!再び速攻だ!』
『しかし桜王も流石の守備ですよ。榊君を中心にしっかり守れてますし高山君も好セーブを連発してますからね』
蛍坂、原木達の中盤を制して、勝也を起点に攻撃を続けるが、桜王のDFや高山もこれを通さない。
「1回2回防がれた程度で折れんな!相手が音を上げるまで行け!」
相手が鉄壁だと感じ始めた攻撃陣に、勝也が活を入れるように声を張り上げる。
前半は0ー0で折り返す。後半に勝負をかけようと、立見は頭から優也を投入していく。
「(スペース空いてる!)」
右の空いているスペースを見つけ、自慢の足で優也はそこへ走る。勝也もそこを狙って、グラウンダーのパスを蹴っていた。
だが素早い彼より早くパスに追いつき、クリアする者がいた。
優也と同じく後半の頭から、左SDFで出場の冬夜だ。
「やらせねぇよ優也!」
「っ!」
共に幼い頃から速さを競い合う2人が火花を散らす。
「(流石に後半の優也対策とかもうしてくるかぁ。より速い選手を後半まで温存して、立見が優也を投入したタイミングで出して来ると……)」
相手も立見の情報は入っている。当然得点ランキングで、首位の鳥羽と同点で並んでいる優也は警戒されるだろう。
『後半投入された立見の秘密兵器こと歳児優也!だが桜王も後半から入った広西冬夜が完璧にマーク!』
『何時もはほとんど歳児君が決めてくれますが、この後半に彼が封じられると立見は苦しくなって来そうですね』
「優也、勝てそうか?あの幼馴染君相手に」
プレーが止まったタイミングで、勝也は優也の方へと歩み寄って話しかける。
「勝ちます」
優也は勝也の目を見て真っ直ぐ勝つと言い切った。迷いの無い目、それを見て勝也はニヤッと笑う。
「この負けず嫌いが、よく言った」
止められ続けても折れていない後輩。それで勝つと言い切る彼に、立見のキャプテンがやる事は決まった。
『神明寺インターセプト!原木のパスを読み切っていた!』
蛍坂から原木と、流れるようなパスが展開される。原木からのラストパスが前線に送られるも、来ると分かっていた弥一がコースに飛び込んでボールをカットする。
勝也の考えてる事は弥一に見えていた。間髪入れず、一瞬フリーとなっている勝也へ右足の速いパスを送る。
すると優也が右サイドから中央へ走って行く。
それが見えた勝也はゴール前、中央に再び右足で、地を這うようなボールを蹴っていった。
優也が右足でトラップし、足元に収めて前を向くと、目の前には冬夜の姿が見える。
幼馴染の姿が目に入れば、優也は左足を振り上げてシュートに行こうとしていた。
「(シュートじゃない!フェイント!)」
冬夜はこれに飛びつこうとはしない。優也の利き足が右である事はよく知っている。左足のキックフェイントから、本命の右足でシュートする気なのだと。
優也は左足で蹴ると見せかけて切り返し、右足でシュートに行く。予想通りと冬夜はこのキックフェイントを見抜き、動き出してブロックに向かう。
「!?」
次の瞬間、冬夜の目が見開いていた。
優也は右足でも切り返し、左足を振り抜いてシュートを撃つ。2連続キックフェイントから左足のシュートだ。
「(左!?)」
左足でシュートして来た事に、高山の反応が遅れてしまう。優也は左足を一本も撃っていない。それで左は無いと思い込んでいた。
ゴール右下隅に飛ぶボールへ、高山が目一杯左手を伸ばすが届かず。
後半ついにゴールネットは揺らされた。
『決まったぁー!!立見先制ゴール!名門桜王の守備を相手に歳児タイムが炸裂したー!』
『右足のゴールが多かったですが、左足も行けたんですね。予想以上に伸びが来たので高山君も反応遅れたかもしれません』
優也へと立見の選手達が集まり、ゴールを喜ぶ。
「お前やるじゃねぇかよ!もう左足の成果出すの早すぎだろー!」
「たまたまですって……!相手が油断してただけで……!」
勝也から手荒く祝福されながら、優也はそう言おうとしていたが、他の選手からの声やスタンドの歓声で、声は届いていない様子。
「決まったかな?」
場所は静岡。
学校にあるサッカー専用グラウンドにて、1人の帽子をかぶった男がスマホで、立見と桜王の決勝をライブ配信で見て呟いた。
側にいる坊主頭の男も、同じように自分のスマホを見る。
高校サッカー界の絶対王者、八重葉学園を支える2人の天才。
高校No.1の天才ストライカー、照皇誠。高校No.1の天才GK、工藤龍尾。
彼らはこれから最大の敵として、立ち塞がるかもしれない相手を偵察していた。
「ま、今年全国来てくれなきゃ困る所だったけど」
そう呟く龍尾の持つスマホには、勝也の姿がアップで映し出される。
「守り切ろう守り切ろうー!後ちょっとだよー!」
弥一が声を上げていく。もう時間はアディショナルタイムへ入り、1ー0のままリードは保っている。
桜王も名門の意地を見せて最後の攻撃に入るが、原木がボールを持った時。
「!?」
弥一があっという間にボールを奪取してしまい、刹那の出来事に原木を驚愕させていた。
そしてボールを高く蹴り上げると、試合終了のホイッスルが高らかに鳴り響く。
この瞬間、立見が東京の王者となって、創部僅か2年のサッカー部による快挙が達成される。
立見1ー0桜王
歳児
マン・オブ・ザ・マッチ
歳児優也
総体東京予選 優勝 立見高等学校
大会最優秀選手 神山勝也
大会得点王 歳児優也
支部予選1回戦 川木西 4ー0
支部予選2回戦 橋岡 6ー0
支部予選決勝 壁代 3ー0
1次1回戦 岩城 5ー0
1次決勝 前川 1ー0
2次1回戦 音村 2ー0
2次2回戦 空川 7ー0
2次準々決勝 水川 4ー0
2次準決勝 真島 3ー0
2次決勝 桜王 1ー0
得点36 失点0
勝也「10試合もやったのに結構さらっと流れたもんだなぁ」
弥一「本編で一度やったからねー。とりあえずこういう相手と試合したよーって事で、改めて載せてみました♪」
勝也「俺としては試合流してほしかったけどなぁ」
弥一「そうなったらまた結構長くなっちゃいそうだよねー」
勝也「その分全国は長いよな!?」
弥一「ネタバレ出来ないからノーコメント!だそうだよー」