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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 再会編
519/653

相手の武器を容赦無く完封

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『2点目ー!!真島の攻撃から一転!立見の電光石火のカウンターが炸裂した!神明寺のロングパスから田村と繋がり、最後はアーリークロスを豪山が頭で叩き込んで鮮やかな追加点です!!』



『一瞬の隙をよく見逃しませんでしたね神明寺君!田村君の右からの上がりも良かったですし、真島はGKの田山君が飛び出しを躊躇しましたかね?』



 立見のカウンターが決まったのは、彼らの力だけではない。田山があのクロスに飛び出して行けなかったのだ。



 一失点目の弥一の曲がるロングパスで失敗し、それが彼の動きを鈍らせてしまう。本来の動きが出来たら前に出てキャッチ、またはパンチングでクリアが出来ていたかもしれない。



「くっそぉ!」



 自分に対して許せない怒りが沸いて来たのか、田山はうつ伏せで地面に倒れたまま、両拳をフィールドへ叩きつけた。



「大丈夫だ田山、まだ2点差になっただけで負けてないぞ」



 峰山がすぐに田山へ駆け寄り、彼を引っ張り起こしながら声をかける。



「FK一本取って決めれば流れは真島に傾く。2点差は危険ってよく言うだろ?」



 名門校として戦うだけでなく、世代別の日本代表としても戦って来た。その中で幾つかの修羅場も経験した。



 2点差をひっくり返し、逆転した事もある。鳥羽はまだ勝てると不敵な笑みを浮かべた。




 前半はこのまま終了、2ー0と立見の2点リードで試合は折り返しへと入る。



「勝兄貴、真島さんまだ心折れてないみたいだよー」



「そりゃそうだろ。まだ2点差で後半40分ぐらい丸々時間あるんだからよ」



 立見の一同がロッカールームに戻ると、弥一は椅子に腰掛ける勝也へ駆け寄って話しかけた。



 心を読んで分かった弥一と違い、勝也は真島の漂わせる雰囲気を見て、それを感じ取っている。



「此処までは良い、けど2点差で1点でも取られたら不味いな…向こうには鳥羽のFKって強みがあるし」



 点差は2点。立見が昨年敗れた因縁の相手に、2点リードは正直出来過ぎだなと勝也は思い、ミネラルウォーター入りの水筒を飲んで喉を潤す。




「じゃあ蹴らせなかったら、その強み無くなるね♪」



「ん?まあそうだけどFK蹴らせないって簡単じゃねぇだろ」



 FKが強みなら蹴らせなければ良い。笑顔な弥一の発言に、水筒の中身をほぼ飲み干した勝也が弟分へ視線を向ける。



「大丈夫だよ。1点もやらないのは当然として、FKもあげない」



 無失点で抑えるどころじゃない。



 弥一は鳥羽の武器そのものを、完全に無力化させようと企んでいた。



 小さな狩人が今日の大きな獲物を狙う。





 立見、真島と共にハーフタイムを終えて、フィールドに戻って来た。



「(とにかくFK一本、何処かで早めに取って決めないとな)」



 後半はそのチャンスを静かに待ち続け、その過程で決められる時が来たら逃さず取る。



 鳥羽が決意を固めていた時に、小さな影が忍び寄って行く。




「鳥羽さんってFK大得意だから、蹴らせたらやっぱ怖いな〜蹴らせたくないな〜」



 弥一が鳥羽の顔を見上げ、陽気な笑顔を見せる。



「おいおい何だチビ君よ?まだチャンス来てないのに、そんな俺のキックが怖いかい」



「うん、でもー……」



 怖いのかと余裕の笑みを見せる鳥羽に、弥一は彼の言葉を受けて素直に頷く。



 その後に弥一は目の笑いを消していた。




「FK蹴れなかったら何も出来ないよね?」



「!」



 FKしか能が無い。そう言わんばかりの、弥一の鳥羽に向けられた言葉。



 弥一はこれを言った後に、立見の陣地へ速やかに向かう。




「はっ……」



 鳥羽は右手で軽く髪をかき上げる。そういう盤外戦術は世界でも受けていて、相手に煽られた事は何度か経験していた。



 今更少しの挑発では動じない。




「俺がFKしか出来ない、ねぇ……んな事言われたのは生まれて初めてだぜチビ君よぉ……!」



 だが、弥一の言葉は鳥羽の心を大きく揺さぶっていく。



 今の侮辱は無視出来ない。立見のゴールを自分が叩き割らない限り、この荒ぶった気持ちが静まる自信は無かった。



 鳥羽は凄みの混じった笑みを浮かべる。その顔は彼の心を表してるかのようだ。




 後半戦がキックオフ。真島が2点を取り返そうと、いきなり攻勢に出る。



『中盤で真島が巧みに繋ぐ!鳥羽に渡った!』



 峰山からのボールを受けた鳥羽が、鬼のような形相で前を向いてドリブル。



 川田を右へと振って、左から抜き去り中央突破に成功する。



 かと思われたが。




「うお!?」



 直後に弥一が右からスライディング。弥一の伸ばした足が鳥羽のボールを正確に捉え、弾かせていた。



 川田の大きな体が死角となって、小柄な弥一を察知出来なかった。鳥羽は弥一による、トリックプレーの餌食となってしまう。



「はいはい此処守り切ろうー!守れば勝ちだよー!この試合のヒーローはDFだよー!」



 手をパンパンと叩き、弥一が立見の守備陣を鼓舞する。



「後輩に頼ってる場合じゃねぇぞ!真島の反撃を残らず跳ね返せ!」



 間宮達2年も弥一に負けてられるかと奮起。



 間宮がハイボールを頭で跳ね返し、田村が相手のクロスを体を張って阻止すれば、高い確率で影山がセカンドを拾って、真島の攻撃を断ち切っていた。



 真島は途中からDMFの戸田を下げて、1年FWの緒方を投入で、より攻撃的な3トップとなった。だが大きな効果が出ないまま、時間ばかりが経過していく。



「(くっそぉ!)」



「!キーパーミドルー!」



 中々決定的なチャンスを作れない焦りから、真島の緒方が右足で強引に狙う。



 彼の焦る心が伝わった弥一、すかさず大門へ伝える。



『代わった緒方、果敢に狙うも正面だ!』



 ボールは備えていた大門が正面でキャッチ。




「マネージャー!」



 勝也がベンチへ向かって京子に叫ぶ。これを聞いて京子は彼が何を望んでるか分かった。



 京子は優也に交代の準備を伝え、立見も選手交代。スタミナの落ちて来た成海に代わり、優也が代わって入って行く。




「今が一番お前のスピードが活きる時だ。いっちょぶちかましてやれ優也」



「はい」



 交代で入った優也の耳元で、勝也は存分に長所を見せつけてやれと彼を後押し。




「(後10分……!)」



 プレーが止まっている間に、電光掲示板の時計を鳥羽は確認した。



 もう時間に余裕は無い。早く1点を取らなければという焦りと、弥一に自らの力を証明しなければ気がすまない苛立ち。



「こっちだ!早く!!」



 味方にボールを要求し、鳥羽は左足でトラップする。




「!?」



 刹那、小さな影が鳥羽の目の前を過ぎ去っていた。これを読んでいた弥一はボールの奪取に成功。



「カウンター!!」



 弥一が叫んだ直後に、右足で蹴り出したパスは勝也へ渡る。



「不味い!ディレイ!」



 速攻はさせず、プレーを遅らせろと峰山が叫ぶ。だが立見の勢いは止まる事なく、勝也を中心にほぼワンタッチでボールが回る。



「この!」



 勝也に行くと読んだ真田。武蔵から勝也にパスが行った所へ、距離を詰めていた。



 勝也は自身へのパスに対し、右足で下から軽く蹴る。ボールは迫って来た真田の頭上を越えて、自らも左脇へ走って通過。



 個人技で魅せ、観客が驚きの声を上げると、勝也は再び右足で真島ゴール前にパス。



『抜け出した歳児!大チャンスだ!』



 後半入ったばかりで体力充分の優也。試合終盤まで来て、スピードのある優也の急な動き出し。真島DFの対応が一瞬遅れてしまう。



 田之上が迫るも、優也の右足がボールを捉える方が速かった。



 ゴール左へ飛ぶシュート、田山が懸命に伸ばす左手は届かない。



 立見の決定的となる3点目が決まった瞬間、大歓声が会場を包みこんでいた。



『立見3点目ー!!歳児優也、スーパーサブの仕事を今日も果たした!またしても立見のカウンターが炸裂だ!!』



『その前の神山君の個人技が凄かったですね!あれをダイレクトでやるとは……お兄さんの太一選手が見たらうかうかしてられないってなりそうですね』




 優也が弥一や勝也から手荒い祝福を受けている頃、真島はガックリと項垂れてしまう者が多数出ていた。



 峰山がなんとか励まして前を向かせるが、一度傾いた立見の流れは断ち切れず。



 彼らの鉄壁の守備は最後まで崩れる事なく、タイムアップの時を迎える。




『試合終了ー!!立見が優勝候補の真島をなんと3ー0で下す番狂わせ!創部から僅か2年で全国!夏の総体出場を決めました!』



 弥一や立見の一同が全国初出場を決めて、歓喜の輪が広がる。特に勝也と部の創立メンバーが喜びを爆発させていた。




 一方、鳥羽は腰に手を当てて天を仰ぐ。



 結局この試合で一度もFKのチャンスは巡って来ず、彼の武器は一度も振るえなかった。



「なんてこった……」



 鳥羽の口からそんな呟きが無意識に出て来る。



 勝也を中心とした立見の攻守が目立っていたが、それよりも鳥羽の中で強く焼き付いた存在がある。



 彼の前で何も出来ない。何もさせない。自分の持つ物を完全に無力化させて封じこめた。



 最後には彼に言葉で心をかき乱されてしまう。



「(高校最後の年で……とんでもねぇエースキラーが出て来ちまったなぁ……)」




 鳥羽のサッカー人生で生涯忘れる事は無いだろう。誰よりも実は上手く、狡賢く、容赦の無い勝負師。



 小さな狩人、神明寺弥一の名を。




 立見3ー0真島



 神山1


 豪山1


 歳児1




 マン・オブ・ザ・マッチ



 神山勝也

勝也「今回初めての大きな試合って感じだったな!楽しかったわぁ〜」


弥一「うーん、勝兄貴がマン・オブ・ザ・マッチ分かってるねー♪」


勝也「てっきり弥一かと思ったら違うのかよそこ」


弥一「ゴール決めたりアシスト決めたり、守備でも走ったりしたから当たり前だと思うよー」


勝也「ま、選ばれるのは嬉しいけどな!」

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