東京のライバル達が見守る前で躍動
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
総体東京予選は2次トーナメントの2回戦。この日は同じ会場で2試合が行われる。
第1試合は優勝候補の筆頭に上がる真島高校、相手は新鋭の川部工業高校だ。
序盤から川部の猛攻が仕掛けられ、真島はこれを跳ね返し続ける。
真島相手に川部の優勢で試合が進み、番狂わせがあるかもしれないと、会場はそんな空気になりつつあった。
「意外って言ったら川部に失礼だけど、真島相手に攻めれてますね」
スタンドから真島と同じ、優勝候補と言われる桜王学園の偵察隊が観戦していた。
その中で1年の部員、広西冬夜が善戦する川部の選手達を見て喋りだす。
「川部は古豪の西園高校相手に1回戦で番狂わせ起こしてんだ。その勢いがあるから川部の優勢になっても不思議は無いと思うぞ」
冬夜の右隣に座り、双眼鏡で試合を見る同じ部の先輩。
「ただ流石は真島だな。3年の田之上を中心によく守ってるし、1年で期待のルーキーって言われる真田も良い動きしてるよ」
フィールドでは田之上が指示を出して行き、真田が駆け回り相手の攻撃を防ぐ場面が何度も見えた。
真島が川部の猛攻を守り切ると、真田から真島のキャプテンで司令塔を努める峰山へ繋がる。中央からドリブルで仕掛け、1人を躱すと2人目も躱そうとした時に峰山が相手の足に引っかかり転倒。
主審の笛が鳴って川部のファール。
「おっ!」
これを見た冬夜と桜王の偵察隊、身を乗り出す勢いで注目する。
良い位置で直接狙えるFK。
真島にはFKの名手が居る。このチャンスに彼が出て来ない訳がなかった。
東京No.1ストライカーと呼び声高い、真島のエース鳥羽尚弥。
彼はセットされたボールの前で腰に手をやり、相手ゴールを見据えていた。
「(これで行くか)」
今日の蹴るイメージは固まり、後はそれをキックで表現するだけだ。
ゴールほぼ正面で距離は30m程ある。
迷いなく鳥羽は動き出し、右のインフロントで蹴り放った。
ジャンプする川部の壁の更に上を越えて、ボールは川部ゴールへ向かう。
ただゴールマウスを捉えるにはコースから外れている。
ゴール右上を越えて失敗。そうなるかと思えば、ボールがそこから左下へ急激な曲がりを見せる。
「おおお!?」
GKがダイブし、手を伸ばすも、鳥羽が狙ったのはGKの取りづらい右上隅。
ゴールバーを掠めつつ、ゴールネットが鳥羽の芸術的なキックによって揺らされた。
真島の先制点。劣勢だったにも関わらず鳥羽がFKを決めた事で、流れは一変する。
「さっきまで川部が優勢かと思えば真島イケイケになってきたな」
双眼鏡で覗いた先には、先程と違う光景が広がっていた。
真島が川部を中盤のパスで翻弄し、向こうの陣形が崩れて来た所に攻め込む。真島本来のサッカーが行われている。
鳥羽のFKによる一撃で流れが一気に傾いたようだ。
「今年も鳥羽、峰山のコンビは健在みたいで……あれ止めるの大変そうだぁ」
「やっぱFKに関して鳥羽はズバ抜けるよな。変化がエグかったし」
鳥羽のキックを実際に見た桜王の偵察隊、彼の強さを再確認していた。
「(FKで鳥羽がズバ抜けてる……そうかな?)」
先輩達の会話を聞きながら試合を見ている冬夜。その時たまたま見ていた立見と前川の試合が頭を過ぎった。
東京No.1のGKと言われる岡田。その彼を棒立ちにさせた衝撃のキック。
それを蹴った弥一の居る立見は、この後の試合で登場する。冬夜はあのキックが今日また見れるかもしれないと思い、偵察隊に同行して来たのだ。
真島と川部の試合は真島がペースを握り、得点を重ねて最終的なスコアは4ー0。
鳥羽は2得点の活躍と、しっかり結果を出していた。
「よ、桜王さん隣良いか?」
試合を終えたばかりの真島の選手達。彼らはスタンドの方へ姿を見せていた。そこに鳥羽が東京最強を争う、ライバル校へ声をかける。
「どうぞ」
「んじゃ失礼っと」
冬夜の隣に鳥羽が腰掛け、峰山がその隣に座り他の真島選手達も続く。
「試合が終わったにも関わらず、わざわざ残って見学って事は立見目当てっすか?」
「そうじゃなかったらとっくに引き上げてたな、おたくらだってうちだけじゃなく立見目当てで来てるだろ?」
桜王だけでなく真島にとっても無視出来ない、それ程の存在になりつつある立見。
そのせいか、東京を代表する2校が此処に揃って偵察という、珍しい状況になっていた。
第2試合から登場の立見、相手は名門の空川学園だ。
エースの三船を中心に此処まで安定したサッカーを見せ、順当に勝ち上がって来ている。
だが先にゴールネットを揺らしたのは立見だった。
「うおおーし!!」
ゴールを決めたのは豪山。猛々しく吼える彼に仲間達が駆け寄っていた。
勝也、成海とパスで繋ぐ中、豪山がエリアの外へ走り、勝也が一瞬フリーになった豪山に送る。
カットの難しい速いボール。日々のサッカーマシンの特訓で、スピード慣れしている豪山。足元に収めると寄せて来るDFをパワーで蹴散らし、右足で空川ゴールを狙った。
豪山のパワーシュートが豪快に大きくネットを揺らし、名門相手に立見が幸先良く先制。
「1点に満足すんなぁ!こっからだぞこっからー!」
勝也は気を引き締めさせようと手をパンパン叩き、さらなる攻めの姿勢を見せる。
「立見の大将はやっぱ威勢がいいというか、今時珍しい熱血君タイプかな?」
「まあ…そんな感じですかね?声デカいですし」
声を張り上げてチームを鼓舞する勝也。それを見て珍しいタイプだなと鳥羽は見ていて、冬夜も同意する。
「あ、またチャンスだ」
峰山が攻め込む立見を見て、追加点のチャンスだと注目。
しかし空川の守備が意地を見せると、左サイドからドリブルで来ていた翔馬を2人がかりでストップ。
「此処は俺投げるから」
スローインに行こうとしていた翔馬を制して、ボールを持ったのは川田だった。
「どらぁぁぁーーー!!」
気合いの雄叫びと共に、川田の渾身のロングスローが左タッチラインから放り込まれる。
「長っ!?」
ロングスローはぐんぐん伸びて行くと、ゴール前の豪山まで向かっていた。
頭で下へ落とし、ボールは勝也の元へ。
そこに振り抜かれる勝也の右足、混戦の中で撃たれたシュートはGKの伸ばした手を抜けて、左下隅にゴールが決まった。
「なんだあのロングスロー、結構距離行ってなかったか?」
川田のロングスローを見て峰山は驚愕。
「今のサッカーでロングスローは珍しくないけど、あんなぶん投げるかね」
「人間発射台みたいっすね」
海外には人間発射台と呼ばれる名選手が存在する。川田が立見のそれみたいだと、冬夜の言葉に鳥羽も峰山も理解。
「攻撃は神山、成海、豪山、それに加えて右の田村と思ってたが……あの大きな中盤の選手も注意する必要が出て来たな」
「影山ってのも地味だけどセカンドをガンガン拾って来るし、あれもやりづらいかな」
立見というチーム全体を見れば、それぞれの選手が強みを持って活躍しているのが分かる。
勝也に弥一と注目されているが、個々の能力も侮れない。
そんな中、後半に優也が途中出場で空川から僅か8分で2ゴール。
そして……。
「おおお!?」
スタンドから歓声が上がる。
勝也のスルーパスからDFの裏へ自慢の俊足で抜け出し、優也が飛び出したGKの頭上を越える右足のチップキック。
ふわりと浮かび、吸い寄せられるようにゴールへ入った瞬間に優也の3点目。
ハットトリックとなるゴールを決めていた。
現在東京予選の得点ランキング1位は鳥羽だが、今回で優也が一気に急接近。
得点王の行方も分からなくなってくる。
「あのクール君と幼馴染だったのか?」
「あいつ元々陸上部でめっちゃ速いんすよ。家族が陸上一家で昔からトレーニング積み重ねてますから」
鳥羽は冬夜から優也が幼馴染と聞き、速い訳だと隣の峰山と共に納得していた。
その頃立見はゴール前でFKのチャンスを迎える。
これに弥一のキックを知る観客達が、また見れるかもしれないと期待が膨らむ。
だが弥一は上がる気配が無い。
「良い位置だけど行かないのか?」
「もう得点充分だからいいやー」
大門に後ろから声をかけられ、弥一が振り向くと蹴らない事を告げた。
既に立見は大量リード、試合時間も残り少ない。
そこまでゴールに執着はせず弥一は勝也のFKを見守る。
観客の中には蹴らないのかと残念がる者も居たが、手札を見せる必要は無い。
今日の弥一は静かに、だが確実に空川を完封してDFの仕事に徹するのだった。
立見7ー0空川
豪山1
神山2
影山1
歳児3
マン・オブ・ザ・マッチ
歳児優也
勝也「何か今までに無いの追加されたぞ!?マン・オブ・ザ・マッチとか無かったから!」
弥一「何となくやってみようかな、と思って今回から付けてみたらしいよー」
勝也「そんで選ばれたのが優也と、そりゃハットトリックだからな。分かりやすい」
弥一「選ばれた優也君、感想どうぞ〜♪」
優也「感想も何も……仕事しただけだ」
弥一「はいクールー、他にもコメントでこっちの方が活躍してるだろ?いやいやこっちが選ばれるべきだ!って選手がいたと思ったら遠慮なくジャンジャン送ってくれると嬉しいです♪」