取材を受ける兄弟、弟は記者を困らせる
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「どんどん来いー!」
放課後、立見のサッカーグラウンドで勝也の声が響き渡る。
ゴール前で選手達が固まり混戦となっている所へ、青い機械にセットされたボールは勢い良く放たれた。
文字通りの弾丸並のスピード。
人が蹴っては出ないであろう速さで、地を這うように向かう。
そこに勝也は臆することなく頭から突っ込み、ダイビングヘッドで低い弾丸クロスをクリアする。
「すげ!あのボールをクリアしちゃった勝也先輩!」
サッカーマシンから繰り出された高速ボール。それに対応してみせた勝也に、休憩中の田村や安藤の2年達は驚かされる。
「神明寺君に続いてもう対応出来るようになったんですね〜。流石キャプテンさんです〜♪」
立見の不思議少女なマネージャー彩夏、闘将のプレーを見れば笑顔で拍手を送っていた。
彼女は日本の大企業、黛財閥社長の娘であり、そのおかげでこの部に優れた機械を置く事が可能となったのだ。
このサッカーマシンは、ボールを高速で撃ち出せる高性能な物であり、今みたいなクロスボールをグラウンダーやハイボールで出す事が可能で、シュートマシンとしても活用出来る。
最大時速は130キロのスピードが出るという。
それを弥一はすぐに対応してみせ、周囲を驚かせたが勝也も今のように反応出来るようになって来た。
彼にサッカーを教えた師として、弥一に負けられない意地もあったかもしれない。
「よーし次ぃ!!」
勝也の合図と共に再びボールは放たれ、新たな練習方法を取り入れた立見の部活は続く。
「神山君ちょっと……!」
「はい?」
今日の部活が終了すれば、勝也は速やかに解散させる。そこに顧問の幸が練習の終わったタイミングで声をかけて来た。
「今度雑誌取材あるでしょ?向こうがね……」
「……え、マジですか……!?」
幸から話を聞いた勝也は驚く。雑誌取材に関して何かあったようだ。
「弥一ちょっと来ーい!」
「うん?」
大門と話しながら部室に戻ろうとしていた弥一。勝也に呼び止められ、大門に先行っててと伝えてから駆け寄って行く。
「実は立見の方で雑誌の取材があるんだけどな。本来なら俺だけで受ける予定だったのが、急に向こうが弥一も取材したいってさ」
「えー、僕も取材受けられるんだ?」
勝也から向こうに取材を申し込まれた。それを知って弥一は少し驚くぐらいだ。
「それで向こうは神山君と神明寺君、2人同時に取材したいみたいなの」
個別ではなく2人への取材。弥一も勝也も向こうが、柳FCの事を調べたなと分かった。
かつて小学生時代共に柳FCで全国優勝を経験し、更に弥一は勝也が卒業してから3連覇を経験している。
立見の闘将として注目されている勝也。そこへ共に全国制覇を成し遂げた弥一が同じ立見で活躍したら、まず記者は放っておかないだろう。
「僕は取材受けますよー♪」
弥一の方は取材を受ける事に前向きだった。
これを見て勝也は弥一が嫌がるなら断ろうかと思ったが、彼自身そう言っているなら大丈夫と判断。
「じゃあその日は俺と弥一で受けますよ」
幸へ向き直り、取材を予定通り行う事を勝也は了承。
翌日、取材の日を迎えると放課後に弥一と勝也は校長室へ呼ばれ、隣の応接室で記者と対面していた。
「サッカーチャンピオンの宮崎と申します、本日はよろしくお願いしますね」
「こちらこそお願いします」
20代前半で栗色ポニーテールの女性記者が、2人に名刺を出して挨拶。
勝也は席に座った状態で頭を下げ、右隣に座る弥一もそれに続いた。
「立見サッカー部が創立されてから僅か2年、去年の快進撃に続いて今年の総体予選でも絶好調ですね」
女性記者の宮崎は立見の去年の戦いと、今年の戦いを振り返る。
「高い得点能力で知られてますが、今年は予選で未だ無失点とそれ以上に守備が凄く安定してるように思います。去年と比べて見違えるようで守備の強化に余程力を入れたのでしょうか?」
「勿論失点はあるより無い方が良いですから、きっちり守備の練習もしてますよ」
宮崎の質問に勝也は慣れた様子で答えていた。
取材に関して初めてではない、去年も経験している事だ。
学生である勝也の立ち上げた部が僅か1年程で、東京の選手権予選で決勝まで勝ち上がったのは、高校サッカー界でちょっとした騒ぎになっていた。
サッカーチャンピオンといえば大手のサッカー雑誌。近年の立見の活躍に目が止まったらしい。
「神山君にとって最後の高校サッカーとなる今年はやはり全国出場が目標でしょうか?」
「そうですね、部としての目標はそうですが優勝も狙っています」
此処で勝也は全国に出場するだけでなく、全国制覇も狙っていると強気の発言。
言っている事に嘘はない、出るからには目指す目標は優勝のみ。
「立見にとって初の全国出場、そして優勝の鍵を握るのが秘密兵器である1年の神明寺君でしょうか?」
宮崎の目が弥一へと向いた。
「別に秘密兵器って格好つけたり気取る気はありませんけど、頼れるルーキーだと思ってますよ。柳FC時代の時と同じです」
どうせ知られている。いずれその関連の質問も来るだろうと、勝也は自ら昔所属したクラブ名を口にする。
自分からその話題を出して来た彼に、宮崎は少々意外そうにしながらも取材を続ける。
「当時お二人が揃って全国大会に出場し、神山君は最後の年で優勝。今と少し似てきてますね」
「だとすると神様は悪戯好きだなぁって思います」
当時も6年生で最後の年だった。それで勝也は弥一と共に優勝している。
宮崎から今と似て運命的な事を言われれば、勝也は苦笑しながら答えた。
「神明寺君はそこから3連覇、ですが中学サッカーでは何も名前が聞かれていない……それはイタリアのミラン、ジョヴァニッシミに在籍していたからでしょうか?」
「!」
宮崎の言葉に勝也は一瞬目を見開く。
何処で聞いたのか知らないが、向こうでは既に弥一がイタリアのミランに居た事を掴んでいるようだ。
「あ、そうですよ?日本の中学に行かずみっちりそこでカルチョやってました♪」
弥一の方は何も隠そうとせず、正直にミランに居たと陽気な笑顔で返していた。
これに宮崎は続けて弥一へと質問する。
「という事はイタリアの神童サルバトーレ・ディーンとも交流があるのでしょうか?前川戦で見せたあのキックも彼の技量をその目で見てとか」
「ディーンというかミランの皆と仲良く過ごしてましたよー、最初の頃はついて行くのがめっちゃ大変でしたけどね♪ランドとか結構ジョーク言ったりアドルフはゴール決めた時すぐユニフォーム脱いだりとかー……」
「は、はあ……」
情報を聞き出すどころか弥一は自分からペラペラと、チームメイトについて語りまくりだった。
記者としてはありがたいが、流石に情報量が多過ぎる。
それもどんな練習をしたのかは聞けず、弥一がミランに居てディーンや他のチームメイトと交流があった、というのが大きな収穫か。
「(取材というか、ただのお喋りだなこれ)」
ミランのチームメイトはこういう面白くて良い奴と、止まらない弥一の話に勝也は小さくため息をつく。
「わ、分かりました。もう大丈夫です神明寺君……!」
とうとう宮崎の方から音を上げ、弥一への話はこれで終わりとなった。
そしてこれが切っ掛けとなり、弥一がイタリアが誇るサッカー天才集団の一員だった事はすぐに知れ渡る。
勝也「喋り倒しじゃねぇか」
弥一「いやー、ついつい色々言っちゃったねー♪」
勝也「記者の人最後困ってたし、多分大抵の内容カットっぽいぞ」
弥一「えー!?全部不採用?ボツ?面白くなかったから駄目ー?」
勝也「内容全部を載せ切れねぇだろ多過ぎて、話し始めて以下略で大事な所だけ載せる記事が目に浮かぶわ」
弥一「ミランの話に興味ありそうだったから話したんだけどな〜」