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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
もう一つのサイコフットボール 始まりの彼が存在する物語 再会編
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古豪の壁に挑む

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 立見は1次トーナメント決勝を迎えると、前の試合で当たった岩城高校に続いて強敵が立ち塞がって来た。



 東京の古豪、前川高校。



 前川のFWでキャプテンの島田、中盤のテクニシャン細野、DFの要である河野と各ポジションで要の選手が揃った好チーム。



 いずれも3年で高い経験値を持つ、だがそれ以上に前川で怖い存在はGKだ。



 2年のGK岡田雅治、去年の1年から正GKを務めており、東京で1、2を争う名手と言われている。



 彼らの活躍で前川は躍進。今年は全国出場が期待される声も多く聞かれた。




「ち……!」



 勝也に対して、細野がわざわざ下がってマーク。


 攻撃参加しようと、上がりに行った所を忍び寄られていた。



「(攻撃的な細野がわざわざ下がって守るか、随分と今回は守備的だな!)」



 前川の資料や此処までの戦いを見た限り、彼らは引いてのサッカーをしてきていない。


 向こうの攻撃の要である島田と細野で、得点を荒稼ぎしたはずだ。




「それで良い!6番に攻撃させるなよ!」



 前川のキャプテン島田は手を叩き、自チームの守備を褒める。



「(立見が此処まで勝ち進んだ事、去年の大躍進を見れば神山の活躍が大きかった。こいつを勢いに乗らせなければ前川に勝機はある……)」



 勝也に攻撃をさせず立見の勢いを止める。島田だけでなく、前川全体の共通理解だった。



「(随分と勝兄貴マークされてるなぁ〜)」



 それを心の読める弥一に知られているとは、微塵も知らずに。




「こっちだこっち!」



 ボールを持つ川田。そこに勝也の声が聞こえて川田がそちらを向くと、勝也は手を上げず相手ゴールへと指差していた。



 このコーチングはフェイント。自分にマークが厳しくなっている事を利用した、勝也の策だ。


 構わず前行けと川田が読むと、成海へパスを出す。



 ミドルレンジから素早く成海の左足が振り抜かれ、前川ゴール右上へとボールは飛ぶ。



 コースを狙った良いシュートだが、岡田は既に反応しており、ダイブと共に伸ばされた両腕が成海のシュートを捉え、彼の両手にボールは収まっていた。




「あ〜、惜しいですね〜」



 負けたら終わりの一発勝負のトーナメント、緊迫した空気の中で弥一以上にマイペースな少女の声が、立見ベンチから聞こえてきた。



「相手は東京随一の名手って言われる岡田だ、簡単にゴールはくれないだろ」



 最近入って来た1年の新人マネージャー黛彩夏、その隣で同じ1年の見習い主務である杉原摩央が、彼女と試合を見ながら話していた。



「という事は〜、このまま点が入らなくてPK戦もあるかもしれないんでしょうか〜?」



「そうなったら岡田が居る分ヤバいから、1点なんとか取りたい所だよな」



 彩夏の言うPK戦、充分あり得る話だ。



 此処まで立見は早い内に得点を重ねていたが、今日の試合はまだ0−0、スコアは動いていない。




 立見は中盤で影山から成海、そこから右へ展開して上がって来た田村が右足でゴール前へクロス。



 豪山の頭に合わせようとするが、河野と互角の競り合いになってシュートを撃てず。



 エリア内に溢れて武蔵が詰めに行く、だが再び岡田が先に飛び込んでボールを体で覆い被さりキープ。


 その瞬間、岡田が立ち上がると素早くスローイング。



「!戻れ!!」



 カウンターが来ると勝也は叫び、前川が一気に攻め上がっていた。



 まだ立見の守備は整っていない、チャンスと見て島田へボールを預ける。




「(来ると思ったよー♪)」



「!?」



 そこへ島田の前に弥一がインターセプト。一気にこう来る事は心で読み、分かっていた。


 なので余裕を持ってカットする事が出来たのだ。



 前川が此処まで無失点のように立見も無失点、両チーム共に鉄壁の守備を誇り、前半は結局スコアレスのままハーフタイムへ入る。




「思ったより前川の守備がかてぇわ」



 ロッカールームに戻って来た勝也が、用意されたミネラルウォーターの入った水筒を一口飲む。



 それぞれが束の間の休息で体力回復に努める中、呟くような勝也の言葉に反応したのは京子だった。



「去年躍進の原動力となった3人とGKの岡田君を中心に、今年の前川はまたチーム力が上がっている。古豪復活と言われるのも頷ける…」



「かと言って負ける訳には行かねぇよ。ゴール前の曲者は厄介だけど…突破出来ないと全国行けないってなっちまう」



 前川について京子は改めて振り返る。



 去年より相手のチーム力は増しており、東京トップレベルの桜王や真島にも引けを取らない程かもしれない。



 だが勝也は前川に屈する気は無い、本気で全国を目指すなら此処で止まっている場合ではないだろう。



 絶対勝つ、強敵を相手に闘将は闘志を高めていく。





 後半に入ると膠着状態が続き、互いに中々チャンスを作れずにいた。



 すると後半の30分を過ぎた辺りから、前川はキャプテンの島田を含め、全員が自陣の方へと下がるリトリートの戦術を選択して来たのだ。



「相手あんな下がっちゃったの!?」



「前川は残り時間で1点は無理だと考え、PK戦に持ちこんで勝つつもりです。向こうには岡田君が居ますから」



 攻めに来ないのかと驚く幸に、京子は冷静に相手の考えを分析。


 無理に点を取るより確実に試合で勝つ、彼らはそちらを選択したらしい。



 GKに岡田が居る分、PKなら前川が有利だと。




「(やろ……!守り切る気かよ!)」



 徹底的に守備で下がる前川。これをなんとか打開したい勝也だが、彼は厳しくマークされたままだ。



 すると勝也は相手ゴール前から、突然離れるように後方へとダッシュ。



「!?」



「6番を自由にさせるな!!」



 勝也の行動に一瞬面を食らった前川の選手達、そこに島田が叫ぶ。



 フリーになった所へ影山から勝也へボールが渡り、迫って来る相手をターンで1人鮮やかに躱す。



 更に中央からゴールに迫る勝也へ、島田と細野が2人で突破を阻止。



「てっ!」



 勝也が倒されると、主審の笛が鳴り響く。



 細野の足が勝也の足を引っ掛けて転倒させた、と判断されて前川のファールとなる。



 やや右寄りのゴール正面、30mも無い良い位置でのFKだ。




「これ決めないとな!」



「ああ、何時も以上に打ち合わせを慎重に……」



 成海が勝也を引っ張り起こした後、2人はタッチを交わし、FKのチャンスを確実に決めようと打ち合わせを開始する。




「すいませーん」



 そこに弥一が駆け寄って来て2人へ話しかけていた。




「壁は神山のキックのタイミングに合わせる、あいつのキックが一番厄介だ」



 島田の言葉に皆が賛成していた。



 立見の試合は当然チェックし、勝也が力あるキックで直接決めているのを見て、成海より要注意と皆が思っている。




「(神山勝也でもなんでも来いや、全部叩き落としてやる!)」



 岡田は前を見据え、身構える。



 彼としては誰が来ようと自分の力なら勝也だろうと、止められる自信を持っている。



 ゴール前には弥一がセットされたボールの前に立っていて、勝也は後方の離れた位置に居た。



 前川の壁は勝也の蹴るタイミング、そこに集中している。



 すると勝也はボールへ向かってダッシュを開始。



「(来た!)」



 前川の選手がそう思った瞬間だ。



 その前に弥一が左足で擦り上げるように、ボールを蹴ってきた。



 完全に勝也しか集中していなかった前川の壁、ボールは壁の左側。


 上からではなく横から通過する。



「(外れか)」



 明らかにボールはゴール左に外れていた。岡田は外れると弥一のキックを見送る。



 しかしそこから、ボールは生命が宿ったと思わせる程に曲がって行き、外れると思われたコースから右へと迫った。




 次の瞬間、試合会場の観客達は総立ち。



 皆が驚愕する。




「え……?」



 岡田が振り返ると、自分の守るゴールマウスにボールが入って呆然となった。



 一瞬静まり返る試合会場、そこから場内は興奮の坩堝と化していく。




「弥一ぃ!お前何だ今のキック!?」



 スーパーゴールに揺れる会場に対して応えていく弥一。そこに後ろから勝也が抱きつき他の立見選手も続く。



「皆勝兄貴に警戒してたから上手くいったよー♪」



「イタリアでの成果出し過ぎだろ!よくやったー!」



 弥一は勝也達にもみくちゃにされながら、喜び合っていた。




「あそこから……あんな曲がって来るのかよ……!?」



 一方。弥一にゴールを許した岡田は信じられない、となりながらも先程のキックを振り返っていた。



 あんなキックは自分が知る限り受けた事は無い。あそこまでの曲がりをするキックを蹴れる選手は、プロのレベルぐらいだろう。



 もしかしたら勝也よりも注意しなければならない選手、それが新たに現れたのではと、岡田の目は仲間の祝福を受ける弥一に向けられていた。




 前川は先制され、なんとか追いつこうと反撃に出るが立見の守備が通さず。



 最後に島田か意地のミドルを放つも、大門が正面でキャッチ。


 この後に試合終了の笛が鳴った。



 1つの大きな壁を越えて立見は1次トーナメントを突破、全国へまた一歩近づいて行く。




 立見1ー0前川



 神明寺1

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