彼はサイキッカーDF
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
晴れた春の青空、晴天が新たな門出を祝うように広がっていた。
「ほら、ちゃんとしなさい」
「もう大丈夫だって、完璧じゃないか?」
「些細な直しが大事なのよ、こういうのは」
両親が今日、独り立ちする子の服を正す。
「うーん、あんまこういう格好得意じゃないかも〜」
着慣れない純白の服を纏う150cm未満の少年。だが不慣れでも今日はそれを着なければならない。
そこは彼も理解している。
「さ、花嫁を待ちましょう」
準備が出来たと母に背を押され、先に向かい牧師と共に花嫁の到着を待つ。
静かに到着を待つ牧師と花婿、花婿の方はソワソワして落ち着かない。
父親と母親は大丈夫か?と思いながら多くの知り合いと共に息子を見守っていた。
そこに大きな扉が開き、父親に手を引かれて純白のウエディングドレスを身に纏う花嫁が登場する。
普段はボーイッシュで凛々しい彼女だが、この時は美しき女神を思わせた。
花婿にとってはまさに勝利の女神だ。
花婿と花嫁の目が合うと互いに笑みを浮かべる。
神明寺弥一、笹川輝咲、この2人は今日結婚して夫婦となる記念すべき時を迎えようとしていた。
Uー20ワールドカップで日本が優勝を決めた日、弥一は力を全て使い果たして深い眠りについていた。
弥一が目を覚まさないとなって、一同は最悪の結末が頭を過ぎる。場が一気に冷え込む地獄を味わうが脈がある事を確認し、眠っているだけだと医師が確認すれば心底ホッとする。
その日だけ目を覚まさないかと思えば帰国する日も目を覚まさず、室が弥一を背負って空港に登場する姿はメディアの注目を集めていた。
カメラの大量のフラッシュを浴びても彼は不思議と目を覚まさず、そのまま眠り続けている。
日本に帰国の空港でもそれは変わらず、一同は本当に目覚めるのかと不安になり、優勝して浮かれるよりも弥一が起きるのかどうかの方が気になってしまう。
弥一が次に目を覚ました時は自宅のマンション。空港に着いたその日、輝咲が診ていた時に彼は目を覚ます。
目覚めた瞬間、彼女は愛する恋人を強く抱き締め涙した。
「という訳で疲れが出てすっかり寝ちゃったんだよねぇ〜。おかげでパーティーのご馳走とかそういうの食べ損ねたりで」
「紛らわし過ぎるわこの馬鹿!ワールド級の大馬鹿野郎が!!」
「あの状況でパーティーやるどころじゃなかったんだよ!」
「お前、何か言う事は?」
「えー……心配かけてすみませんでしたー!」
立見サッカー部へ何時も通りの明るい顔で、弥一は事情を説明して謝罪。
摩央、大門、優也と皆が弥一を心配していて摩央の顔には泣いたような後があった。
「神明寺弥一……貴様は選手権予選、秋の試合出場を禁止する。ベンチ入りも許さん」
「ええー!?」
監督の薫からは選手権の予選だけでなく、秋の全試合出場を禁じられる。
腕を組む薫の表情にも怒りのような顔が見えていた。また無理をさせて、あのような眠りに陥らせる訳にはいかないという思いからだろう。
「大丈夫です!神明寺先輩が出るまでもありません!」
「留守は僕ら後輩がしっかり責任持って守りますから!」
氷神兄弟を筆頭とした、弥一を慕う後輩達が留守は絶対守ると誓う。
「京谷!お前もしっかり穴を埋めるようにするんだぞ!」
「言われなくても、むしろ帰る場所無いぐらい活躍しますよ」
「頼もしいけど生意気だー!」
弥一が居なくても立見の無失点記録は自分達がしっかり守る、京谷は強気に言い切る。
弥一だけでなく大門も怪我で欠場と、立見にとって厳しいが後輩達のモチベーションは高まるばかりで、尊敬する先輩の留守を絶対守るぞ!と一致団結していた。
弥一不在の立見。同じ東京予選を戦う学校としてはチャンスと思われたが、後輩達の勢いが凄まじく、特に氷神兄弟が止まらず彼らを中心とした攻撃は予選でほとんどを2桁得点。更に無失点で勝ち上がり、誰も立見を止める事は出来なかった。
その間は練習に参加しつつも試合は出してもらえなかった弥一。彼が再び出られるようになったのは冬の選手権からになる。
念の為、弥一は輝咲が付き添って、医師に診てもらったが体は何の異常も無く健康。問題無くサッカー出来るとお墨付きを頂いて、無事に復帰となったのだ。
弥一に加えて大門も復帰した立見は全国で手を付けられず、3度目の選手権でも大暴れ。
決勝戦で八重葉や最神を下した牙裏と戦い、五郎の守るゴールを優也が後半に1点を決めて1ー0で勝利した瞬間、弥一と立見はまた一つ伝説を作り最後の高校サッカー大会を終えた。
高校サッカー公式戦全試合無失点、総体2連覇、選手権3連覇と弥一は数々の歴史を刻み込んだ。
弥一は自分の後を継ぐキャプテンとして、明を指名。
彼らに後の立見を頼んだ、と笑顔で伝えると後輩達は皆が涙し、別れを惜しんだ。
氷神兄弟に至ってはいなくならないで留年してほしいと、無茶苦茶な願いが飛び交う程だった。
そして卒業式。それぞれが祝福され、新たな門出が祝われる中で弥一は満開の桜が咲く、木の近くで輝咲と向かい合う。
「輝咲ちゃん、これ……今日渡そうとずっと思って持ってたんだ」
「!これは……」
弥一が取り出した小さな箱。それを弥一が開けると輝咲の表情は驚きでいっぱいになる。
箱の中には指輪があり、それが何を意味するのかすぐに理解した。
「フランス遠征の時にね、買ったんだ。僕の分も入れて2つペアのを、卒業したら渡そうって思ってた」
フランス国際大会の時、優也や大門とフランスを巡っていた中で弥一は指輪を購入していたのだ。
「結婚、しよ。輝咲ちゃん」
一世一代の告白、それを言うと共に弥一の目は真剣。同時に顔はほんのりと赤くなっていた。
「……付けさせてくれないか?弥一君」
「あ、うん」
輝咲の左手薬指に弥一は指輪をはめる。それはピッタリ収まり指輪が輝く。
「君の行く先何処にでも行くよ、僕はもう一生……君から離れない!」
プロポーズを受けた輝咲。嬉しさから弥一を強く抱き締めていた。
そこから両家の挨拶に結婚式と、あっという間だった。
「新郎、弥一。汝は病める時も健やかなる時も常にこの者を愛し、守り、慈しみ、支え合う事を誓いますか」
「誓います」
牧師の言葉に弥一は1秒の迷いも無く答える。
「新婦、輝咲。汝は病める時も健やかなる時も常にこの者を愛し、守り、慈しみ、支え合う事を誓いますか」
「はい、誓います」
同じく輝咲も何の迷いも無く答えた。
そこから指輪の交換を行い、誓いの口づけの時は輝咲がしゃがみ、視線を合わせると弥一は輝咲のヴェールを取って口づけを交わす。
2人がこれから夫婦で共に歩き始める、何よりの証を見せていた。
2人が共に手を取って道を歩き、家族や友人達、多くの関係者から祝福される中で弥一はある人物と目が合う。
黒いスーツ姿でサングラスを付けて正体を隠していたディーン。彼もこの場に現れていたのだ。
「(おめでとう、弥一)」
それだけ心の中で祝うと、ディーンは教会を一足先に去って行く。
弥一には彼の祝いが伝わり、密かに彼の姿を見送ってから再び輝咲と共に歩く。
教会の外へ出て、新郎新婦が共に歩く時に段差ある階段を前に輝咲は行動に出る。
「わっ……!?」
弥一の事を輝咲が軽々と抱き上げたのだ。
お姫様抱っこ、絵になるが彼らの場合は立場が逆転していた。
「輝咲ちゃん、逆〜」
「身長差を考えればこれが自然だろう?」
「良ぇなぁと思ったらあいつ何しとんねん、嫁になっとるやないか」
「掛け声の時といい締まらない感じ、うーん……弥一らしいっちゃらしいかな?」
共に出席していた想真、番の2人はその姿を見て、共に締まらんなぁと笑い合う。
「良いぞー、輝咲姐さんお幸せにー!」
「神明寺せんぱー……あ、向こうも神明寺なるんだった!弥一さんー!」
共に戦った五郎だけでなく輝咲と交流を深め、親しくしている愛奈も招待されており、揃って2人の幸せを願った。
「こっちが結婚したと思ったら、お前も早いもんだなぁ弥一よ」
ついこの間に結婚し、新婚生活真っ只中の辰羅川は歓談の時間で弥一、輝咲夫妻と話していた。
「ご祝儀はベビー用品でお願いしまーす♪」
「はいはい……ん?」
陽気な弥一の言葉を軽く聞き流そうとしていたが、そこに何か引っかかりを辰羅川は感じた。
「からかわれる時に言われるならともかく、お前がそれを望むって……え?え?」
「彼が子供はサッカーチーム出来るぐらい欲しいと言ったもので」
「あはは〜」
「お、お前!?早いってー!マジかおい!」
照れるように笑う弥一と幸せそうに微笑む輝咲。それに対して辰羅川は大困惑。自分に続き結婚したかと思えば、もう弥一は飛び越えてしまっていた。
「神明寺先輩がお父さんに……」
「お父さんな先輩、それも……良いかも」
共に招待されていた詩音と玲音の氷神兄弟。子供の世話をする弥一の姿を想像して、共にうっとりとしている。
3年生となっても弥一信者なのは変わらずのようだ。
「皆も早く続きなよ結婚ー♪」
「るせぇ、結婚以前に相手いねぇよ」
「俺も特には」
「あれ、優也は例のアイドルの子と……」
「大門!!」
立見の同級生、摩央、大門、優也も揃って招待されており、弥一に結婚を勧められると大門が優也の恋愛事情を暴露しようとし、珍しく優也が大声を上げていた。
「おいおい、それは面白そうだな優也よ?その辺り詳しくじっくり聞かせてもらおうかぁ?」
そこに悪い顔をした冬夜が優也の肩に手を組んで来て、話を聞き出す気満々だ。
「貴方が結婚する姿、勝也が見たら驚きそうね」
「あ、京子先輩お久しぶりですー♪大きくなったねー♪」
銀髪の子供と共に京子も招待されており、弥一は京子に挨拶した後に子供の頭を優しく撫でる。
「やっとこれ、返す時が来ましたよー」
「これは……」
弥一が京子に差し出したのは古いノート。スペインに持って行った勝也のノートだ。
「……勝也」
その口から呟かれるのは愛する彼の名前。
「のーとー?」
そこに2人の子である幼き彼はノートをじぃっと見ていた。
「そう、預かってたから返すね♪フォルナもその方が良いでしょー?」
「ほあ〜」
幼い子と共に居るフォルナ。弥一が立見を卒業すると共にフォルナは京子が引き取り、今では息子の良い遊び相手となっている。
子供には大きなノート。自分の父親が書いた物だと分かっているのか、手に取ってみて興味深そうな様子だ。
「(弥一君、貴方は原石どころかダイヤモンドだった。貴方が来てくれたおかげで……)ありがとう、弥一君」
京子は弥一へと感謝への言葉を伝えると共に、満面の笑顔を見せた。
一方、勝也の墓前ではある人物が立っていた。
普通ならこのような場所にいないであろう、ミランのスターで知られるディーンが来ていたのだ。
「(神山勝也、弥一のサッカーの師であり導いた男か……)」
弥一の名が知られ、広まって行く内に勝也の事も語られるようになり、その流れによってディーンは勝也の名を知った。
立見サッカー部を0から作り、弥一をそこへ連れて来た。
この世に既に存在しない今も、弥一が強く惹かれ続ける男。
この男の存在無しに弥一のサッカー人生は無かった。それは弥一自身がそう語っているのを聞いた事がある。
「お前とも出来れば、フィールドで会いたかったな」
天才が惹かれた男はどんな人物で、どんなサッカーをするのか、ディーンもいつの間にか興味を惹かれて此処まで足を運んでいた。
もしかしたら少し人生が違ったら、彼と相対する事もあったかもしれない。
そんな事を考えながらディーンはその場を後にし、去って行く。
イタリアの会見場にて、多くのカメラが1人の少年に向けてパシャパシャというシャッター音と共に、光を浴びせ続けていた。
今回の主役なので注目を当然集める。
弥一は輝咲と共にイタリア、ミランに来ていた。
元々ミランからスカウトの話は来ており、Uー20が終了して弥一が休養の間に話を進め、契約に至ったのだ。
5年契約、日本円にして28億とミランは小さな少年に巨額の契約を惜しみなく交わす。
あの素晴らしい才能を買えるなら、これぐらい安い買い物だと躊躇無く踏み切る。
大人達と共に写り、ミランの背番号24のユニフォームを持つ弥一。
「ヤイチ、セリエAへ挑む事に対して何か意気込みはあるかい?」
「え?意気込みかぁ〜」
元々イタリア語は出来ている。通訳いらずで記者と会話する弥一は意気込みを聞かれていた。
その時、記者達の心が見える。
何かインパクトある事言わないか、そんな心が丸見えだった。
ならプロになる事だし、インパクトあるのをリクエストにお応えして言ってやろう。
弥一は悪戯っぽく笑うと宣言する。
「出るからには公式戦、全試合無失点を目指すんでよろしく♪」
心の読める天才サイキッカーDF神明寺弥一。
彼だけのサッカー、サイコフットボールはこれからも続く。
サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~
完
此処まで見ていただきありがとうございます。
サイコフットボールは最後まで走りきりました!
そしてカクヨムにもサイコフットボールが置いてありますが、向こうでしか見れない話や後書きもあったりしますので良ければ遊びに来ていただけると幸いです。
新たな作品共々よろしくお願いします。
弥一「ついに終わっちゃったぁ〜、寂しいー!」
大門「これで俺達の物語はおしまいか……長いようで短かったような、不思議な感覚だなぁ」
弥一「物語はまあ、これで終わっちゃうけどー……どっかでまた会いたいなぁ〜」
優也「それは……可能だったらそう願いたいものだ」
弥一「次に会えるのが何時になるか分からないけど、僕達を見たくなったら何時でもこの作品に居るから何度でも遊びに来てくださいー♪」
摩央「ああ、本当にもう終わっちまうんだ…」
大門「終わりは何時か来る、悲しんでばかりじゃいられない!此処まで見ていただきありがとうございました!」
優也「何時かまた……会いたいもんだ」
弥一「おっと、最後に……作品応援したいとなったらブクマに☆マークをポチッと押して応援よろしくお願いします♪ではまた、チャオー♪」